沖縄・石垣島のローカルフード「おにササ」
芸人ボルサリーノ関好江さんに料理を作ってもらいながら、おいしさのポイントなどを伺う本連載。今回は沖縄県石垣島生まれのローカルフード「おにササ」。ソースやマヨネーズをたっぷり塗ったささみフライとおにぎりをぎゅっと握りつぶすようにして一体化させる、なんとも味わい深いメニューを関さん流アレンジでいただきます。
おにササ
材料(作りやすい量)
作り方
- 1. ささみ2本は縦に包丁を⼊れて開き、1本にはカレー粉とチーズ、もう1本に種を取って刻んだ梅干しと⼤葉をはさみ、つまようじでとめて3本とも塩とこしょうをふる。
- 2. バッター液の材料を混ぜて1をくぐらせ、パン粉をつけ、馴染むまで10分ほどおく。
- 3. 2を170℃くらいの油であげ、つまようじを抜いて半分に切る。
- 4. ごはんを3等分し、ゆかり、塩と粗挽きこしょうを混ぜて、それぞれで2つずつおにぎりを作る。残りの2つはのりたまをまぶす。
- 5. ビニール袋にささみフライを⼊れてお好みで調味料をかけ、お好みのおにぎりをのせてぎゅっとつぶし、ビニールをめくっていただく。
石垣島の高校生達が発明した「おにササ」
「おにササ」とは、沖縄県石垣島の個人スーパー「知念商会」で生まれたローカルフード。その名を初めて聞いたときに筆者は、鬼が笹を持っている様子を想像しましたが、まったくそういう意味ではないのだそう。名前の由来はいたってシンプルで、「おに」はおにぎり、「ササ」は鶏のささみフライを意味しています。
ビニール袋にささみフライを入れ、ソースとマヨネーズを好きなだけかけたら、その上におにぎりをのせ、おにぎりを潰しながらぎゅっと握り合わせて完成!…という、食べる人の手の中でできあがる、一風変わったごはんものです。
昭和56年ごろに地元の高校生たちが作り始めたのがきっかけで、次第に口コミで広まっていき、やがてテレビが取材に来るほど話題になって今に至るのだとか。
おにササの存在を関さんが知ったのは、数年前に仕事で沖縄を訪れたとき。沖縄の芸人仲間から「おにササっていうのがあるんですよ」と聞き、「なんだそれは?」と調べてみたところ、おいしそうだったので自作してみたのがはじまりといいます。
関さん流のおにササは、フライの内側に具材を挟み込むスタイル。ささみをまな板にのせたら、縦に包丁を入れていきます。
ささみ3本のうち2本を開いて、1本はそのまま。
開いたうちの1本には、大葉と刻んだ梅肉を挟んで…
端のほうをつまようじできゅっと留めておきます。
「食べるときに外し忘れないように注意してくださいね。」
開いたもう1本には、カレー粉をまぶし、折ったスライスチーズをのせて。
「カレー粉はいろんな用途でよく使います。ポテトサラダやきんぴらにちょこっと、わからない程度にひとつまみくらい入れてみたり。分量を間違えるとなにもかもがカレー味になっちゃうんだけど、ちょっとだけ入れると、馴染みがある味になりやすいというか、おもしろい味になるんです。」
チーズは、揚げているときに漏れ出さないように、なるべくささみの内側に収めるのがポイント。詰め終わったら、ささみ全体に塩とこしょうをまぶしておきます。
フライもおにぎりも3種類ずつ
続いては衣をまとわせる作業。卵、小麦粉、水を混ぜて、バッター液を作ります。
ささみをバッター液にくぐらせたら…
まんべんなくパン粉をつけます。
ごはんを3等分して、一つ目の山にはゆかりを混ぜ…
二つ目の山にはこしょうと塩を混ぜます。
「こしょうを混ぜたごはん、おいしいんですよ!洋食っぽくしたいときなどにもおすすめです。」
最後の一山は白いごはんのままにしておいて。1種類のごはんにつき2個ずつ、ぜんぶで6個、小さな丸いおにぎりを作っていきます。
おにぎりを作り終わったら、白いおにぎりにはのりたまをふりかけて。
「本場のおにササのおにぎりはもっと大きいのだけど、このサイズにしたら1個でおなかがいっぱいにならずに、いろいろ楽しめるかなって思って。お好みで組み合わせ方を楽しめるように、ささみフライもおにぎりも3種類ずつ用意しています。」
思い出のささみフライ
さて、最後にささみフライを揚げていきます。熱した油のなかにじゅわっ。中身が漏れ出しませんようにと祈りを込めながら、ささみを入れていきます。
ふと、「ささみフライを見ると思い出すんです」と、名古屋のNSC(よしもとのお笑い養成所)に通っていた頃のことを話してくれました。
「NSCは15歳から入れるので、いちばん若い同期は現役の高校生だったんです。当時、わが家がみんなの溜まり場のようになっていたんですが、高校生は学校に行かなくちゃいけないから、平日昼間の集まりには呼んでもらえなくて、遅い時間まで遊ぶこともできなくて。どうやらそれがさみしかったみたいで。あるとき『今日、うちのおかずがいいおかずだったから、遊びに行ってもいい?』って連絡があったんです。
『なんだろう、“いいおかず”って』と思っていたら、持ってきたのがささみフライ。実家感がすごくあるタッパーに入れて、いっぱい持ってきてくれたんです。」
「ちなみにその子はもう40代になりましたが、今もささみフライが好き(笑)。」
…と、話しているうちにささみフライが完成。1個を半分に切り分けて、計6個にして、お皿に盛り付けていただきます。
「なんだろう、この興奮は」
おにササ実食にあたり、まずは関さんに作り方のお手本を見せてもらいます。
ささみフライの上に、ソースやマヨネーズをお好みの量だけのせて、おにぎりをのっけたら…
ぎゅっ。
おにぎりをしっかりつぶして、ビニール袋の中のものたちを一体化させます。
さっそく筆者も関さんと同じ手順をふみ、ビニールをぎゅっ。
食べてみると、なんだろうこの欲望がぎゅっと詰まった味わいは…という衝撃。
炭水化物と揚げ物、たっぷりのソース、マヨネーズ。心の深いところにずっと溜め込んでいた願望を一気に叶えてもらったような組み合わせは、口に運べば運ぶほど、興奮がわっしゃーと押し寄せてきて、すごい、やばい。どんどん語彙がぶっ飛んでいきます。ビニール袋の中には幸せが詰まっていました。
この組み合わせを発明した沖縄の高校生たちは天才だと思います。そして、青春まっさかりの食べ盛りだからこそ、編み出せたメニューなのではなかろうかとも感じます。加齢が進んでくると、ソースやマヨネーズをたっぷりかけることをどうしても躊躇してしまうんだ…。でも、たまにすごく恋しくもなるんです。
以前、関さんが後輩の芸人たちにおにササを出したときの反応がとても印象的だったのだそう。
「おにぎりをつぶすって、普段大人はしてはいけない感じのことなのに、先輩が作ったおにぎりを堂々とつぶせるっていう。しかも、ソースやマヨネーズをたっぷりかけてもいい。そのせいか、後輩たちは異常なまでに興奮をしていました(笑)。」
異常なまでに興奮する気持ち、なんとなくわかります…!
年末年始はクリスマスにお正月と、とっておきのごちそうが続く時期。ですが、おにササもまた、違う形のごちそうなのではと感じます。みんなでわいわい食べても、ひとりでこそっと食べてみても、どんなシチュエーションでも、きっとおにササは受け止めてくれるはず。食べたいときに、思いのままにぜひガブリと楽しんでみてほしいです。