「⾄⾼のポトフ」をこがけんさんが作る

リュウジのレシピトレード #10 後編

PEOPLE
2022.07.15

料理研究家リュウジさんとゲストがお互いのレシピをトレードし、料理をしながら語り合う本連載。今回のゲストは、板前として和風居酒屋で働いた経験を持つ、お笑いユニット「おいでやすこが」のこがけんさんです。こがけんさんが作るリュウジさんのレシピは「至高のポトフ」。焼き目をつけてから煮込むのが最大のポイントです。

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至高のポトフ

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材料(4人前)

  • キャベツ…1/2⽟
  • じゃがいも…300g
  • にんじん…300g
  • ⽟ねぎ…1個
  • ベーコン…200~220gほど
  • にんにく…3個
  • オリーブ油…適量
  • コンソメ…⼤さじ1
  • ⽔…1400cc
  • 塩…⼩さじ1弱
  • お好みで
  • ⿊こしょう…適量
  • 粒マスタード…適量
  • 乾燥パセリ…適量
  • 粉チーズ…適量

作り⽅

1. キャベツは芯を切り落とし、8等分にする。
2. ⽟ねぎは頭を切り落として⽪をむき、8等分にする。お尻は茶⾊い部分だけを削ぎ落とし、芯は残しておく。
3. じゃがいもは4等分にする。表⾯をたわしで洗い、芽があったら取り除いておく。
4. にんじんは洗って先を切り落とし、8等分にする。(4等分してから縦に割る)
5. ベーコンは1cm幅に切る。
6. フライパンにオリーブオイルを熱し、キャベツを焼いて両⾯に焦げ⽬をつける。中に⽕を通すのではなく、強⽕で焦げ⽬をつける。両⾯焼けたら、キャベツを鍋に⼊れておく。
7. フライパンに再度オリーブオイルを熱し、にんじんを焼いて⽚⾯に焦げ⽬をつける。焦げ⽬がついたら、鍋に⼊れておく。
8. じゃがいもと⽟ねぎも同様に焼き、焦げ⽬をつける。じゃがいもは⽚⾯、⽟ねぎは両⾯に焦げ⽬をつける。焦げ⽬がついたものから、鍋に⼊れておく。
9. ベーコンを焼いて両⾯に焦げ⽬をつける。ベーコンの脂⾝をスープに加えたいので、最後に焼く。焦げ⽬がついたら、鍋に⼊れておく。
10. にんにくをオリーブオイルで炒め、⾹りを出す。にんにくは、お尻を切り落とし、潰しておく。⾊がついたら、鍋に⼊れておく。
11. ⽔(1400cc)をフライパンに⼊れ、鍋に移す。
12. コンソメ(⼤さじ1)、塩(⼩さじ1弱)を⼊れる。
13. ふたをせずに沸騰させる。沸騰したら弱⽕にしてふたをし、30分煮込む。
14. 味⾒して⽔分や塩を足すなど、好みに合わせて調整する。
15. お⽫に盛りつけて完成。

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にんじん切っているところを接写されるのは初めて

リュウジ

実は僕、芸能人に詳しくないんです。だけど、こがけんさん達が準優勝を獲った2020年のM1は観ていました。というかもともと「ザ・細かすぎて伝わらないモノマネ」のこがけんさんが好きで観ていたんです。

こがけん

えっ!そうなんですか!それはうれしいです!

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リュウジ

早速ポトフを作っていきましょうか。まずは…えっと僕、レシピを全然覚えてないんです。いつも「カンペがないとできないから」って言っています。

こがけん

わかります。僕もまったく覚えてない。

リュウジ

自分のレシピだし、考案している最中はちゃんと考えているんだけど、撮影になると完全に忘れてるんですよね。

こがけん

めっちゃわかるわそれ!

リュウジ

(といいつつレシピを読み)まずはキャベツですね。レシピには「芯を切り落とす」って書いてあるけど、切り落とさなくても大丈夫です。8等分します。

こがけん

はい!大胆な切り方ですね。

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リュウジ

次ににんじんですが、煮込むと皮までほろほろになるので、皮はむかないで大丈夫です。やらなくていいことはやらないようにしているんです。4等分にしていただいてから縦割りにします。

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こがけん

(カメラマンの動きを見ながら)にんじんを4等分するところをこんなに接写されたことないな!

スタッフ

テレビだとあんまりないことかもしれません(笑)。

リュウジ

じゃがいもは、新じゃがであれば皮をむかなくてOKですが、そうでない場合はむいていただいた方がいいです。

こがけん

何かコツとかあったら言ってくださいね。

リュウジ

そうですね、焼いてから煮ていくっていうのがこのレシピの最大のポイントです。ポトフって切ってそのまま煮ることが多い料理だと思うんですけど、このレシピでは食材を一旦全部、焼き目がつくまでしっかり焼いて、それから煮込んでいくんです。

こがけん

焼き目。いいですね!

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リュウジ

にんじんを縦割りにしていたのも焦げ目がつく面を増やすためなんです。

ところでこがけんさん、玉ねぎの皮を包丁でむいてますけど、これって料理人特有のやり方ですよね。僕も少し料理人をしていたことがあるんですが、厨房では全部包丁でむけって言われていました。

こがけん

包丁でむくのが早いというわけではないんですけどね。

リュウジ

でも料理人の世界だと、手でむいていると実務経験がないんだって見られちゃう感じですよね。

こがけん

必ずしも、そうじゃなくていいとも思うんですけどね。僕自身は昔からある修行の構造のなかで相当がんばりましたけど、それだけがすべてではないと思っています。

野菜に焼き目をつける方法は有賀さんに教わった

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リュウジ

ある程度野菜を切ったら、切るのと並行して焼いていっちゃいましょうか。フライパンにオリーブオイルを引いて、焼き目をしっかりつけたら鍋に移動させます。僕はいつもキャベツからやります。

こがけん

(フライパンが温かいかどうかを様子見しながら)僕、テレビ番組の中でフライパンに手をかざして温度を確かめて、それから食材を入れたのに、じゅーって音が全然しなくて恥をかくことがあります。

リュウジ

わかります!

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リュウジ

焼くとその分時間はかかっちゃうんですが、焦げ目がついたお野菜からはすごくいい出汁がでるし香りもいいんですよね。

こがけん

そうなんですね!僕、今までポトフのことをちゃんと考えてこなかったのかもしれません。真剣に向き合ってなかったんだなって思います。

リュウジ

ちなみにこの野菜を焦がして旨味を出す方法は、実はスープ作家の有賀薫さん…さっきまで一緒に飲んでいた方に教わりました。以前、この企画の第一回で「焦がしキャベツのスープ」の作り方を教わって、仲良くさせていただいているんです。

こがけん

いいですねえ。「さっきまで一緒に酒を飲んでいた」っていう話をこの場でできるって。リュウジさんはそういうジャンルを作った人ですよね。

リュウジ

そうかもしれません。ちなみにこの料理、野菜を焼いている時の音も結構楽しいんですよ。

こがけん

料理って、例えばこういう工夫についても、工程としてはシンプルに「焼く」だけではあるんです。でもその「焼くだけ」がなかなかひらめかないんですよね。

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リュウジ

ほんの一手間で旨味が出たり味が変わったりする、そこが料理のおもしろさですよね。こがけんさんは料理を作る時に気をつけていることはありますか?

こがけん

「イノシン酸」や「グルタミン酸」などの難しいキーワードはあんまり言わないようにしています。あ、でもリュウジさんが言うのはいいと思いますよ!

リュウジ

僕の場合は、お酒飲みながらやってるじゃないですか。見ている人たちはきっと「この人本当に大丈夫?」って感じると思うんです。だから何と言うか、ちゃんと考えてますよっていうことを示すために真面目な説明を盛り込むことがありますね。

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面倒くさいと思って欲しくない

こがけん

あと、僕が気をつけていることは…なんだろう。自分が人に教える場合には「より簡単に」というのは考えていますね。面倒くさいと思って欲しくないんです。

リュウジ

すばらしいですね。それは見ている方にとってありがたいことだと思います。

こがけん

あと、自分が作る立場に立った時には、鶏むね肉などの火の入れ方が難しい食材を扱う時に、できるだけ絶妙な火加減で作りたいと思っています。

リュウジ

鶏むね肉は火の入れ方を誤るとすぐ固くなっちゃいますもんね。

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こがけん

(焼き上がった野菜を見ながら)ところで焼き目の感じはこのくらいで大丈夫ですかね?

リュウジ

はい!大丈夫です。うまそうだ!

こがけん

これはもう勝ったも同然ですね。ビジュアルがいい。

リュウジ

焦げ目は料理の武器ですからね。あとは水と塩、コンソメを入れていただいて、しばらく煮れば完成です。野菜とベーコンの出汁だけでもおいしいんですけど、より大衆向けの味わいにしたいのでコンソメを入れています。沸騰したらふたをして30分。ふたをしたまま煮てそこから沸騰させるのでも大丈夫です。

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こがけん

やっぱり茶色という色からはおいしさを感じますね。

リュウジ

絵力がありますよね。実際茶色いレシピはYouTubeでも再生されやすいです。

こがけん

ちなみにリュウジさん、本当はここで月桂樹(ローリエ)を入れたりしたいですよね。

リュウジ

月桂樹…入れたいですね。プライベートで作る時だったら入れるんですよ。でもレシピとして出す時は入れずになんとかやりますね。

こがけん

僕、そういうところがめっちゃ好きなんです。共感しかないんですよ。その行動がメッセージになっているんですよね。削って、どんどんマイナスにしてくのって料理のプロの発想です。

リュウジ

わかっていただけるのがうれしい!

こがけん

例として、カレーにいろんな隠し味を入れる工程がわかりやすいと思うんですが、通常だとどんどん足そうと思っちゃうんですよね。でも、プロはどういう味にしたいのかっていう着地点をまず考えて、そこに向かって味を組み立てていくんです。

作る前に味がわかってしまう

リュウジ

こがけんさんは誰かに向けて料理を作るのが好きなのでしょうか?

こがけん

そうですね。それはあります。料理人として一度プロになった人が陥りがちなやつなんですけど、作る前からもう、ある程度出来上がりが見えてしまうんですよね。だから自分だけのために料理しようとしても、下ごしらえとかをしている時にふと、冷める瞬間があるんです。自分一人のために作るとなると、モチベーションが上がらない時があります。

リュウジ

わかります!僕もあります。レシピとして公開したら誰かが作ってくれるんだろうなって思うと一人でも作れるけど、もし自分で食べて終了だったら「もう作らなくてもよくね?」ってなってしまっていると思うんです。

こがけん

作り終わるその時まで完成形が見えなくて、作りながら「どんなふうになるんだろう〜」って想像する機会はどんどん減っていきますね。味の想像ができてしまう。

リュウジ

それは相当量の料理を作ってきた人の言葉ですね。

こがけん

でもそのぶん想像を超えた味に出会うとものすごく興奮します。このまえ「パティスリィ アサコ イワヤナギ」でパフェを食べたんです。いちごのパフェなんですけど、ゼリーの層のなかにうどや粒マスタード、葉わさびが入っていて。

リュウジ

え!パフェですよね?

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こがけん

はい、もう最高でした!めちゃめちゃしびれました。こういう意外性が大っ好きなんですよ。あと、赤坂の「リベルターブル」というお店のシェフが、食べ物の種類の垣根にとらわれない人で、トリュフやフォアグラを使ったショコラを作っているんですが、これにもかなり感激しました。

リュウジ

いいですね!こんな発想が存在するんだっていう驚きや楽しさがありますね。

こがけん

はい!うわ〜〜〜〜こんなのあるんだ〜〜〜〜〜っていう!

リュウジ

本当にもう、お料理が好きなんだっていうことが話しててすごいわかります。ぜひ料理研究家を名乗ってください!

〜30分後〜

リュウジ

そろそろ様子を見てみましょうか。

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こがけん

これは最高の色ですね。しっかり焼いてあるから形崩れもしていないし、じゃがいもの角が立っている!

リュウジ

これで味見をしてみて、塩気が十分なら完成でいいと思います。

こがけん

(味見をしながら)そうですね、ここで塩を足すとしたら、お酒を飲んでいる人の分には足して、そうでない人の分はこのままでいいかなという感じですね。僕はこれでいいと思います!

リュウジ

じゃあそれでいきましょうか!もし途中で味に飽きたら粒マスタードを入れるのでもいいと思います。カレー粉を入れてもおいしいですし。

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食レポではどうしてもボケられない

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こがけん

ああ〜うまっ!ほっこりしますね。ローストしたことで旨味が倍増していて、食欲を刺激してきます。うまっ。にんじんの味が特にわかりやすいかもしれません。

リュウジ

確かに、にんじんうまいですね!僕、結構苦手な野菜があって、にんじんもあんまり好きじゃないんですよ。でもこのにんじんはおいしい。

こがけん

形崩れしないのもうれしいですね。キャベツがスプーンできれいに切れるのも!

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こがけん

確かにお酒が入ってきたらもう少し塩を入れてもいいかもしれません。

リュウジ

粉チーズを入れるのもありです!

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こがけん

(早速入れてみる)

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こがけん

(そして食べる)うま!めちゃくちゃうまい!

リュウジ

動物性の旨味とコクが少し加わると、さっきまでとはまた違った味になりますよね。

こがけん

スープに粒マスタードを少し溶かした状態で粉チーズを入れると、マスタードの酸味とチーズの酸味、Wの酸味で後味がすっきりする上、コクも足されてものすごいおいしさです。

リュウジ

僕の料理はわりと強い味付けが多いんですけど、このポトフに関しては、わりと優しい味付けなんですよね。お子さんでも食べやすい味。

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こがけん

料理のなかには、強いインパクトを持っていて、初速で一気に走り切るものもあれば、あとからじわじわゆっくり刺してくるものもある。このポトフはどちらかというと後者だと思うんです。

味が強いものはおいしいけど、自分のテンションや健康状態を選ぶときがあります。でも、このポトフなら自分のコンディションに左右されずに疲れない。ノンストレスでずっと食べていられるし、野菜が苦手だなっていう人でもばくばく食べられると思うんです。

リュウジ

プロの料理人目線で解説してくれている!

こがけん

僕、どうしても味に関してはボケられないんですよ。芸人として呼ばれている時でも、食レポの内容ではボケないようにしているんです。できないですよ。

リュウジ

それは作る方に対するリスペクトがあるからですよね。ここまで料理を深く愛している方だとは!今日はお会いできて本当によかったです。

前編はこちら

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取材・文:ネッシーあやこ
撮影:猪原悠