こがけんさんの「鶏とゴルゴンゾーラのコルドン・ブルー はちみつ柚⼦こしょうのソース」を作る
料理研究家リュウジさんとゲストがお互いのレシピをトレードし、料理をしながら語り合う本連載。今回のゲストは、板前として和食居酒屋で働いた経験を持つ、お笑いユニット「おいでやすこが」のこがけんさんです。こがけんさんがこの日のために考案した料理は、名前も長いけど、レシピもものすごく長い!
ちなみに「コルドン・ブルー」とは、伝統的なフランス料理で、叩いて薄くしたお肉でハムやチーズを包んで揚げ焼きにしたカツレツのことを指します。こがけんさんはなぜこの料理をプッシュしたのでしょうか。それには芸人ゆえの心算がありました。
鶏とゴルゴンゾーラのコルドン・ブルー はちみつ柚⼦こしょうのソース
材料(2人前)
作り⽅
- 1. はちみつ柚⼦こしょうソースの材料を全部混ぜて、ソースを作っておく。
- 2. 鶏むね⾁の⽪を取り、なるべく細かい筋も排除する。
- 3. 鶏むね⾁を二つに切り分ける。(平⾏四辺形を二つ作るイメージで。)
- 4. 鶏むね⾁を平らになるよう切り開いて、包丁で何箇所か突いておき、表裏に塩こしょうをふる。
- 5. 開いた鶏むね⾁の上に⼤きめのラップを広げ、麺棒などで叩いてのす。なるべく⻑⽅形に近くなるように。厚さ1cmを⽬指す。
- 6. 平べったくなった鶏むね肉の片側に⽣ハムを広げてのせる。
- 7. スライスチーズを4分割して重ね、ぎゅっと固める。6の⽣ハムをのせたところに、スライスチーズとゴルゴンゾーラを同量ずつのせる。その上に更に⽣ハムをのせる(⽣ハムでチーズをサンドする)。
- 8. バジルの葉をちぎって、鶏むね⾁の上に散らす。
- 9. 具材を包むように鶏むね⾁を半分に折って、揚げやすいように形を整える。⼩⻨粉、溶いた卵、パン粉の順でそれぞれしっかりつける。
- 10. 深めのフライパンなどに油を熱し、170〜180度くらいでまず⽚⾯5分揚げる。5分経ったら、トングで裏返して5分揚げる。
- 11. 最後に30秒ほど、温度を上げてできあがり。盛り付けて、はちみつ柚子こしょうソースを添える。
新しい料理を披露することを「新ネタ」と呼ぶ
わっ!本物のリュウジさんだ!
こちらこそですよ!本物のこがけんさん!今日はよろしくお願いします。めちゃめちゃ真面目なレシピでびっくりしました。
いやいやいや。僕のようなイロモノの芸人が何のコツもないレシピを持ってきたとしたら、自分ならその記事を読まないと思ったんです。それと、リュウジさんは大抵のことはもう知っているだろうから、そこそこ工程が多いレシピにしたいとも考えました。
この企画のために考えてくれたレシピだと聞いて僕、びっくりして「じゃあこれでお願いします!」って即答しました。すごいレシピです。
プロの料理家の方は、こんなにガチガチに気合いの入った料理はあえて持ってこないと思うんですよ。だけど自分は、袖まくりする勢いで持っていってもいいんじゃないかと思ったんです。
あと僕、新しい料理を先輩とかに見せるときは、その料理を「新ネタ」と呼んでいまして。料理はまず、食べる前、見た目の印象から始まってると思うんですが、「新ネタ」として考えると、さらにその前から始まるんです。
例えば先輩の家に料理を作りに行って「今日は鶏肉のガランティーヌを作ります!」って言うと、「なんだそれは!」っていう反応が生まれるんですね。
たしかにガランティーヌは、一般の方のボキャブラリーにはない言葉だと思います(笑)。
さらに「ガランティーヌって何?」って聞かれたら、「鶏肉をファルシにしてポシェしたものです」って答えると、ますます何だかわからなくなるっていう。
おもしろいですね!みんな全然わからないと思う。
全然わかりません。リュウジさんはわかりますか?
ファルシは「詰める」ですよね。ポシェは…なんだっけ。
フランス語で「茹でる」「煮る」などの意味を持つ言葉です。ちなみに水で茹でるときにもブイヨンのような味付きのスープで煮る時にも使うそうです。
…ですって!
でも全然知らなくて大丈夫ですよ。
ソースは柚子こしょうとはちみつを混ぜて作る
ではまず、最初に「柚子こしょうソース」を作っちゃいましょうか!柚子こしょう、はちみつ、塩、醤油、レモン汁を合わせて作ります。
柚子こしょうとはちみつの組み合わせってあんまりないですよね。(はちみつを加えながら)はちみつ、結構入れるんですね!かなりフレンチっていう感じがする。
柚子こしょうは味が強いから、何と合わせてもだいたい勝っちゃうんですよね。なのでこれはもう、柚子こしょうの味をメインにする前提のソースです。ちなみに柚子こしょうは製品ごとに塩加減が異なるんですが、瓶詰めのタイプを使うのがベストです。
瓶はチューブのものよりも塩っけがありますよね。
そうなんです!使っていると塩が結晶化してくるようなやつを使いたいんです。
柚子こしょうは最初はあんまり入れずに味を見ながら足していく感じで、レモンも味を見ながら調整します。
そのさじ加減、料理人っぽいですね。(味見して)僕はもうちょっと柚子こしょうを入れた方がいいかな。(味見して)…この時点でソースが超うまい!このソースだけでもういろんなことができそうですよね。想像が膨らむ!
じゃあ次は鶏むね肉いきましょう。皮と筋を取ります。
わかりました!ちなみにふだんは僕、筋を取りません。筋、放任主義ですね。
(丁寧に鶏肉の筋を取っているリュウジさんを見ながら)やっぱり料理をわかっている人と共演できるのって楽しいですね。僕、料理研究家の方と一緒に仕事したことがなかったんです。料理大好き芸人のロバート馬場とは共演していますが。
料理をする人は通常、番組に何人も必要ではないんですよね。だから共演する機会が少ない。
そうなんですよ。食べる人はたくさんいた方がいいんですけどね。料理の味はリアクションでしか伝わらないから。
僕、料理をする方と共演する機会がなかなかなかったから、この企画を始めたんですよ。料理家の方や料理人の方と一緒に仕事をして、どんなスタンスでやっていらっしゃるのか、勉強をさせていただきたいなと思ったんです。
えっ…!まだ向上します?
まだまだですね。
向上しすぎでは!
鶏むね肉を「平行四辺形」に切る
筋を取り終わったら鶏肉を二つに切り分けます。平行四辺形を二つ作るようなイメージで切るんです。
平行四辺形!
そう、そういう感じ…うーんいいかなぁ、あっ!ちょっとだけ、もうちょい角度をつけて…(とリュウジさんの包丁の角度を見ながらレクチャー)あ!いいですね。ここで内側に切り込みを入れます。
はい!
平行四辺形を二つ作ったら、それぞれの内側に切り込みを入れて観音開きにします。あー素晴らしいですね!
こんな切り方したことなかった!
コルドン・ブルーは内側にいろいろ詰め込む料理なので、家庭で作る際に鶏肉1個まるごと使うと大きすぎるです。なので半分に切ろうと考えたんですね。
で、次は塩こしょうを振るんですが…
おおー。白こしょう!僕のレシピでも、白こしょうと黒こしょうを使い分ける時があるんですよ。白こしょう大好きです!
コルドン・ブルーには白が合うと思っているんです。最終的には衣をかぶせちゃうんですけどね。塩こしょうをしたあとは、鶏肉の上にラップを置いて、その上から麺棒で叩いて薄い長方形にします。断面が1センチ弱になるくらい。
(麺棒で叩きながら)自分のYouTubeチャンネルだとウイスキーの瓶でガシガシ叩くやつ。
鶏肉が平べったくなったら生ハムを片側にのせます。2枚くらい。
それでこの上にチーズをのせていくんですが、まずはモッツァレラのスライスを3枚全部開けちゃいます。
一気に全部開けちゃっていいんですね。
はい!本当は長方形のブロック状のものを使いたいんですけど、わざわざカルディとかに行かないとないんですよね。でもスライス状のモッツァレラであれば、大きめのスーパーなどに置いてあるんです。だから重ねてぎゅっと固めて、ブロックを自分で作っちゃうんです。3枚のチーズを重ねてから4等分したら、それを全部ひとまとめにします。
ほー!これを!
はい。さらにゴルゴンゾーラチーズものっけます。生ハムのふちの部分をのりしろのように残しつつ、二つのチーズをのせてほしいです。
両方入れるんですね!こんなのもう、どう考えてもうまいじゃん!僕、ゴルゴンゾーラが大っ好きなんです。
あら!
自分のレシピでは滅多にゴルゴンゾーラは使わないんですけど…でもめちゃくちゃ好き。
ちなみにゴルゴンゾーラを使うから、ソースにはちみつを入れているんですよ。
それは…!もう絶対においしいですね。
チーズをのせたら生ハムで包むんですけど、包んだ時にチーズが全部隠れるといい感じです。隠れるといいんですけど、難しいんですよね。生ハムのふちを折っちゃうと失敗が少ないです。
こんな感じ?
はい!これでチーズ生ハム基地が出来上がりました!
ほおお!包むのっていいですね。すごい勉強になる!
「丁寧にパン粉をつけてるリュウジさん、初めて見た!」
包み終わったらバジルの葉っぱをちぎって、お肉に散らします。
ああ〜これは絶対好きな味!僕、こういう手間をかけて作る料理が実はすごく好きなんです。
良かった!あとは中身が流出しないようにしっかりめに小麦粉と溶いた卵、パン粉をつけて揚げていくだけです。…わあ!こんなにしっかり丁寧にパン粉をつけているリュウジさんを初めて見た!
久々にがっつり料理を作ってる感触がありますね。僕、今日が人生初コルドン・ブルーです。レストランでも食べたことないもん。仕込みが大変だから、なかなかレストランでも作らないですよね。クラシックな感じがします。
そうですね。クラシックだからモダンフレンチの人は作らないと思います。というか自分も、普段からコルドン・ブルーを作るかと聞かれたら、まず作らない(笑)。
でも実はそこまで難しくない料理ではあるんです。「コルドン・ブルー作った!」って言いたい人はきっとたくさんいるはず。だからそんなに難しくないんだよってことは伝えたい。
料理につい話しかけてしまう
ちなみにこれは揚げるとき、半身浴(揚げるものが半分浸るくらいの油で揚げる)でいいんですか?
はい!家庭でやる時はこのほうが爆発が防げるんです。
僕もこのやり方でよく揚げ物をしています。家庭だと油がもったいないと感じる方も多いですし、このやり方はすごくいいですよね。
こがけんさんは、さっきのスライスチーズの活用法もそうだけど、揚げ方一つとっても、家庭でやりやすい方法に落とし込んでくれていますよね。すごくありがたいです。
ところでリュウジさんは、料理が好きな人たちに、自分がどういうふうに見られているかを知ってますか?
えっ?急にどういうことですか!
あのね。僕の周りの人みんな、「こんなに信用できるヤツはいない」って言っています。
それはめちゃめちゃうれしいですね!
リュウジさんは、料理の基本を熟知した上で思い切ったアレンジを加えていますよね。僕の周りの板前さん達は、「基礎ができていなかったらあんなふうには崩せない」って言っています。プロの料理人達からめちゃくちゃ好かれてると思うんです。見ていて気持ちがいいレシピですから。
ええっ。すごいうれしいな!あえての崩しでも、適当にやっているんだと思われてしまうことはあって、わかってくれる人が数人いればいいやって気持ちでやっているんですよ。
あの、これは本当に媚びとかじゃなくて、みんなが一緒に飲みたいって思っていますよ。レシピには人柄が出ますから。これは言いたい。本当に出る。
僕もレシピを見ればわかります!(…と言いつつ揚げている途中のコルドン・ブルーを見ながら)うわ!お〜〜〜!こんなきれいに揚がる!?相当でかいっすね!
わーきれいに揚がったなぁ〜〜。料理人あるあるで、ふと料理にしゃべりかけていることってあるんですよね。変な人だと思われているかもしれません。「いいね〜!」「あ〜いいじゃん!つやつやじゃん!」「最高!」ってつい話かけてしまうから。
僕もあります!料理だけど作品でもありますからね。それにしてもやっぱりこの料理はやってやったぞ感がすごくありますね。
おし!僕があのリュウジさんにコルドン・ブルーを作らせた男!それから、たぶん初めてリュウジさんに生ハムを折らせた男!
僕、まだまだ勉強不足なんですよ。だってコルドン・ブルーを作ったことがなかったんですから。
コルドン・ブルーを作ったリュウジの世界線に今。
やっとたどりつけました(笑)。ああ、いいわあ。本当はこういうのを紹介したかったの!でも時代には合わないっていう…。
(できあがったコルドン・ブルーを見ながら)やっぱりそもそもがお上手ですよね。うわ!うまそうだなぁ。うわあ〜〜〜
(コルドン・ブルーがカットされている様子を見ながら)うわあ〜〜〜
これはやばい!
かわいらしいですね…!
こうきたか!っていう意外性がある料理
乾杯!
チーズなんですけどね、食べる場所によってゴルゴンゾーラが多いところとモッツァレラが多いところがあるのがまたいいんですよ。
食べるところによって味が違うんですね!
(と言ったあとにコルドン・ブルーを口にして、その後しばらく沈黙)
うま!!!!
これは…初めて見るリュウジさんの反応ですね。
(カメラマン)
確かに、こんなに沈黙が長かったのは初めてな気がします。
しみじみ噛み締めてますね。
ああ〜〜!めちゃくちゃうまいな!これはしばらく触れていなかった味ですね。チキンの柔らかさもすごくいい。生ハムの塩気もいい出汁になっていて、ソースとも合いますね。
というか、もうとにかくソースがすっごい。コルドン・ブルー自体は比較的味の想像がしやすい食べ物だと思うんですけど、このはちみつ柚子こしょうソースがあることで、予想できない味になっているというか。こうきたか!っていう意外性があるんですね。技ですよ。こがけんさん、なんでこんな技を持っているんですか!
おっしゃる通り、オーソドックスなコルドン・ブルーだと味の想像がついてしまうから、もうワンパンチ欲しいなと考えました。
いや、もう本当にこれはめちゃくちゃうまいですよ…。レモンの酸味もすごくいいし。完全に「こがけんさんの料理」になっているんですよね。
めちゃくちゃうれしいことを言ってくれますね。気持ちいいな!今日は気持ちよく酔えそうです。
僕、このソースを早速真似すると思います。チーズと相性がいいから、モッツァレラにつけたらおいしそうだし、トマトをマリネしても絶対うまいもん!
「酒飲みは料理上手」を立証した
ところで僕、リュウジさんは、料理を作り始めた頃に感じていたようなわくわくをずっと発信しつづけている人だと思っているんです。作ってみたら一体どうなるんだろうっていうわくわく感。お笑い要素のない真面目な話になってしまうんですけど、それってすごく素敵なことだと思うんです。
あと僕、映画が好きだから映画に例えて言いたいんですが、映画にめちゃくちゃ詳しい人たちが集まって「何の映画が好き?」っていう話を始めた時、「何周も回って、僕はやっぱバック・トゥー・ザ・フューチャーが好きですかねー」って言うと信用されるんですよ。なんていうか、リュウジさんはそういうポジションにいる感じです。
たとえ料理を思うように作れなくて自責の念にかられていたとしても、酔っ払いながらパフォーマンスするリュウジさんの姿を見て、それで救われたって感じている人はたくさんいると思うんですよね。
…こんなに僕について語ってくれる人がいるなんて。
それから、リュウジさんはTwitterでよくバズってますけど、リュウジさんが真剣なツイートをしている時は8割方お酒が入っている時だと僕は思っているんです。
そうですね(笑)。あーやっちゃったって思います。やっちゃったなぁ、でもバズっているな…みたいな。
そういうところが信用できるんです。好感しか持てないじゃないですか。それに、酒飲みはうまい料理を作るっていうことを立証してくれましたし。
…(笑)。