九州で出会った味「こねり」と「しいたけの南蛮漬け」
「五感をひらくレシピ」を、自炊料理家の山口祐加さんに教えてもらうこちらの連載。今回は番外編!山口さんが宮﨑と大分の旅で出会った、その土地ならではのお料理二つのご紹介です。
今年の夏、宮崎県と大分県をゆっくりと巡り、地元のおばあちゃんたちに料理を教えてもらった。宮崎県は「日本三大秘境」とも呼ばれる山深い椎葉村、大分県は野菜の生産が盛んな竹田市に滞在した。おばあちゃんたちに教えてもらった料理は、素朴な昔ながらの味や、この組み合わせは思いつかなかった!と膝を打つものなど、その土地ならではの味や香りで記憶に刻まれた。
今回は五感をひらくレシピの番外編として、旅で食べた料理を振り返り、実際に再現した作り方をご紹介したい。
こねり
大分県竹田市では、友人が地域おこし協力隊として食関係の仕事をしている縁で、おばあちゃんたちの料理教室を二回開催してもらった。どちらも料理上手なおばあちゃんで、二人が共通して提案してくれたのが「こねり」である。
こねりはなすとゴーヤを油で炒めて、味噌か醤油をベースに砂糖やみりんで甘辛く味付けし、水で溶いた小麦粉を入れてとろみをつける料理。小麦粉を入れて練ることから「こねり」という名が付いたといわれる。
なすとピーマンの味噌炒めは定番中の定番だが、なすとゴーヤの組み合わせは考えたことがなかった。ゴーヤもピーマンのようにほろ苦さがあり、緑色をした野菜であることを考えると、合わないわけがない。おばあちゃん曰く、「ゴーヤが採れるようになったら、なすを探すよ」とのこと。それほどこの組み合わせは地元の人にとって当たり前なのだ。
仕上げに水溶き小麦粉を入れることによって、ねっとりとした食感になる。これが好きかどうかは好みが分かれるところ。小麦粉ありバージョンを食べたので、今回は小麦粉なしバージョンを食べてみたい。(そうするとこねりではなくなってしまうのだが、そこはお許しを!)
まず、なすとゴーヤは同じくらいの分量を薄切りにする。今回はゴーヤ半分、なす1本分を使う。
フライパンに油を多めに入れ、いりこの頭をとったものをお好みの分量入れる。中火でしばらく加熱していると、いりこのいい香りが立ってくる。
このタイミングで、なすとゴーヤを投入。中火で3〜4分、具材がくたっとなるまで炒める。
味噌味にするか、醤油味にするか悩んだが、今日の気分で味噌味に決定。
「味噌:みりん=1:1」で割ったタレを仕上げに加える。今回は大さじ1ずつの味噌とみりんを入れた。パチパチと跳ねる味噌ダレと具材を、ざっざっと絡める。この「もうすぐ仕上がる感」がたまらなく好き。
熱々を食べると、油と味噌ダレを吸ったなすとゴーヤの苦さが相性バッチリ。なすとピーマンと同じくらい、いいコンビだと思う。たまにいりこのカリカリ食感が入ってくるのがいいアクセントになっている。水気が少ないのでお弁当や作り置きにも良い。作るときはどうかごはんを忘れずに。
しいたけの南蛮漬け
しいたけの南蛮漬けは、椎葉村で滞在させてもらった牛農家さんの食卓で初めて目にした。椎葉村はしいたけ栽培が盛んで、料理にもよく登場する。
私が「しいたけの南蛮漬けってめずらしいですね!」と言うと「そう?この辺の人たちはみんな食べているよ」と返ってきた。こんなふうに、代表的な郷土料理として表に出てくる料理の裏に隠れて、その地域では日常的に食べられているけれど、郷土色が強いものだと認識されていない料理がある。言うなれば、家庭料理と郷土料理の間にあるような料理。まさにそれを探すのが今回の目的だった。しいたけの南蛮漬けの話を聞いた時、こういう料理が知りたかったんです!と心が踊った。
作り方は簡単。干ししいたけを水で戻し、粉をはたいて揚げたら、南蛮酢と野菜を一緒に合わせて漬け込む。干ししいたけで作ると歯応えのよい食感になり、生しいたけで作ると柔らかくて食べやすい食感になる。どちらもよく作られているとのこと。
食べてみると、南蛮酢に漬け込んだしいたけはまるで肉のようにジューシー。山深い土地で日常的に肉が食べられなかった場所だから、しいたけは肉の代わりだったのかもしれない、と一人で納得した。
では再現してみよう。しいたけは石づきを落として、小さいものは二等分、大きめのものは四等分にして食べやすいサイズにする。
ボウルにしいたけを入れ片栗粉をまぶす。
フライパンに5mmほど油を入れて熱し、1〜2分中火できつね色の焼き目がつくまで揚げる。
揚げたてを塩で食べてみると、くにっとしたやわらかな食感と、しいたけの香りがぱっと開き、なんともおいしいこと!これを南蛮漬けにしたらおいしいに決まっていると、味の着地に確信が持てた。
南蛮漬けのもとは、「水:めんつゆ:お酢=100mL:90mL:30mL」で作った。酸味はお好みで調整しながら入れてみてほしい。
揚げて油を切ったらすぐに南蛮漬けのもとに漬ける。一緒に入れる野菜もお好みで。今回私は赤玉ねぎと、万願寺とうがらしが冷蔵庫に2本余っていたのでタネをとって細切りにして入れた。
まあなんとおいしそう。明日が楽しみ。
翌日食べると、しいたけの衣に味がしっかりと染みていて、シャキシャキの野菜が箸をすすめる。最初に食べた時と同じように、肉を食べているような満足感があるなと思った。しいたけを1パック使ってもすぐ食べてしまう。こんなにおいしいものを椎葉村だけで食べているのはもったいない。間違いないおいしさなので、ぜひ作ってみてほしい。
「こねり」と「しいたけの南蛮漬け」と出会うことができて、今回の旅の目的は果たせた。「家庭料理と郷土料理の間にあるような料理」はきっと全国各地にあって、その土地に住む人の日常の料理として今日も食べられているのだろう。そういう料理を掘り起こすべく、また旅に出かけたい。