夏野菜を存分に味わう「ラタトゥイユ」と「夏野菜の揚げ浸し」
「五感をひらくレシピ」を、自炊料理家の山口祐加さんに教えてもらうこちらの連載。今回のテーマはずばり、「夏野菜」です。夏野菜を存分に味わう二品。ぜひ暑い夏にこそお楽しみください。
今回の食材:夏野菜
夏野菜が大好きで、この連載でもいくつもレシピを紹介してきた。普段は食材の数を絞ってシンプルに料理することを心がけているが、たまに例外がある。それが今回紹介するラタトゥイユと、夏野菜の揚げ浸し。大人になってから夏に作らなかったことはないほど、気に入ってリピートしている料理だ。見ているだけで心が踊る、鮮やかな夏野菜を使って料理してみよう。
ラタトゥイユ
ラタトゥイユはトマト、ナス、ズッキーニなどの夏野菜の甘さと、フレッシュさが特徴の料理。使う調味料は塩とオリーブオイルだけなのに、夏野菜の旨みが重なり合うことで主役級のおいしさになる。
先日、祖母の家を訪ねた時に大量のトマトと万願寺とうがらしをもらった。「お隣さんに孫が来ると話したら、自家栽培の野菜をたくさんもらったから持っていって」とのことだ。
買ったトマトともらったトマト。同じトマトでも、顔の知っている人が作ってくれたと知るだけで、途端に特別な感じがするから不思議。ちなみにもらったもののうちの数個が熟して潰れてしまっていたのだが、ラタトゥイユにする分には問題ない。むしろ完熟の甘さが足されておいしくなる。
では作っていこう。
野菜は全て2〜3cm前後に切る。まず玉ねぎ1玉と、みじん切りにしたにんにく1かけ分を鍋に入れる。そこへオリーブオイル大さじ2を入れ、弱めの中火で5分炒める。
にんにくのいい香りがしてきて、玉ねぎが透明になってきたら塩を少々ふる。この塩がポイントで、都度塩をしていくことで野菜から水分が抜け、味の引き締まったラタトゥイユになる。
次になす、ズッキーニを入れて軽く混ぜ合わせる。なすが油を吸ってしまうのでオリーブオイルを大さじ1ほど足す。ここで躊躇せずちゃんと入れるのがおいしいラタトゥイユへの道。
軽く火が通ったら先ほどと同じく塩を少々入れる。蓋をして、たまに様子を見ながら、3分ほど蒸し煮にする。
トマトとピーマンを入れ、軽く火が通ったらもう一度塩を少々入れる。再び蓋をして3分ほど蒸し煮にする。
全体にざっと火が通ったら弱火にして、もう一度蓋をする。3分おきくらいに蓋をとり、好きな固さになったら火を止める。蒸し煮にしてから、水分を飛ばすために蓋を開けて煮詰めるのもおいしい。
最後に塩で味を整える。
夏野菜の魅力を口いっぱいに味わえる一皿ができた。お皿の下に溜まったこの濃厚な野菜エキスは、砂糖を入れたの?というほど甘く、旨みたっぷりのスープが舌に絡みつく。温かくても、常温でも、冷たくてもおいしいのがラタトゥイユ。
ちなみに今回使った野菜以外にも、パプリカ、ししとう、セロリなども合う。お好みの組み合わせを見つけてみよう。
たくさん作っておいて、温めたラタトゥイユに炒めたベーコンを入れて、ごはんと一緒に食べる「ラタトゥイユごはん」も感動的なおいしさ。カレーよりもさっぱり食べられるので、食欲の落ちやすい夏にぜひ食べてもらいたい。
夏野菜の揚げ浸し
野菜を素揚げして、めんつゆを薄めたものに入れておくだけ。揚げものは少し億劫に感じるかも知れないが、鍋か深めのフライパンに1cmほど油を入れてさっと揚げればいいので慣れてしまえば面倒でなくなる。
素揚げだと油もあまり汚れないので、使った油は炒め物などにして使い切ってしまう。何より、揚げている音が好きで無性に作りたくなる。
今回使うのはこれらの野菜。いただきものの万願寺とうがらしと、冷蔵庫にあったなす、オクラ、みょうが。夏野菜は本当に揚げ浸しがよく合う。
なすは細かく切れ目を入れるのが好きだ。どこまで細かく切ることができるか、瞑想に入った感じでひたすら切る。面倒な人は省いてしまってまったく問題ない。オクラはガクを取り、万願寺とうがらしは中で空気が膨張して破裂するのを防ぐために爪の先で少し切れ目を入れる。もしくは箸で数か所穴を開けてもOK。
揚げたてをだしにつけるとよく味を吸うので、だしは先に用意する。バットに白だし(めんつゆでもOK):水=1:3くらいで薄めたものを用意する。だしは飲んだ時に「ちょっとしょっぱいな」と感じるくらいを目安にすると良い。あまり濃すぎると食べにくいし、塩気は後からでも足せるのでここでは控えめにしておこう。
鍋に1cmほどの油を入れ、170〜180度に熱する。1〜2分ほど揚げていく。揚げている時のシュワシュワ、パチパチと鳴る音に耳を澄ませる。優しい雨が降っている時のような音がする。
色が変わった頃に引き上げる。魚焼きグリルのところに揚げ物を引き上げると便利。熱々のうちに塩をつけてつまみ食いすると、とろんとした食感となすの香りがふわっと広がる。
油を切ったらすぐにだしに浸しておく。作り終わると達成感がじわじわと感じられる。
揚げ浸しは3時間は置いた方が味が染みるので、大体お昼に作って夜食べるか、夜に作って翌日食べることが多い。揚げ浸しは明日の自分へのごほうびなのだ。明日朝起きた時、冷蔵庫を開けてキンキンのタッパーに味が染みた揚げ浸しが入っていたら「昨日の自分天才。ありがとう」と思うことは目に見えている。
ー翌朝ー
味が染み込んだ揚げ浸しが出来上がった。そのまま食べても良いが、暑い日のお昼ごはんだったのでそばを茹でて上にトッピングした。
ジュワッとだしが溢れ出すなすとそばを一緒に食べる。生姜の佃煮の辛さもピリリと心地よく、夏らしい。暑いのは正直好きじゃないが、やっぱり夏野菜は暑い夏に食べるのがおいしい。そういう意味で、夏も悪くないなと思うのだ。