鳥羽周作さんのレシピ「無限パスタ2」を作る
料理研究家リュウジさんとゲストがお互いのレシピをトレードし、料理をしながら語り合う本連載。今回のゲストは、 ミシュラン1つ星レストラン「sio」のオーナーシェフ、鳥羽周作さん。今回リュウジさんが選んだのは、鳥羽さんの様々な「無限パスタ」レシピの中から、Wの目玉焼きと塩昆布が決め手の「無限パスタ2」。既にSNSなどでは交流のあったふたりですが、じっくり話し込んだのはこの日が初めて。料理を広めたいリュウジさんと、幸せの分母を増やしたい鳥羽さん。「今日は本当にうれしい!」と屈託なく笑う鳥羽さんのテンションに導かれ、お互いの目指す世界に共鳴しあい、盛り上がりました。
無限パスタ2
材料(2⼈分)
作り⽅
- 1. 鍋にお湯を沸かしておく。
- 2. フライパンを熱してサラダ油をひき、両面焼きの目玉焼きを2つ作る。
- 3. さらにサラダ油を引き、半熟の目玉焼きを2つ作る。
- 4. 沸騰したお湯に塩、パスタを入れて茹でる。
- 5. ボウルに(a)を入れ、両面焼きの目玉焼きを粗めに刻んで加え、混ぜ合わせる。
- 6. パスタが茹で上がったら、5のボウルにパスタとチーズを入れて混ぜる。
- 7. パスタをお皿に盛り、半熟の目玉焼きをのせて完成。
味に「リズム」があるパスタ
もう、めっちゃうれしい!よろしくお願いします。ふだんから会社で、リュウジさんの話ばっかりしています。
ほんとですか!
僕、リュウジさんの「至高のシーザーサラダ」がめっちゃ好きで。あれ、最っ高です。クルトンを自作する方法、いろいろ試してみたんですが、リュウジさんのやり方が本当によくて。リュウジさんの動画からは、料理が好きな人だということや、「おいしい」を知っている人なのだということが、すごく伝わってきます。
ありがとうございます!今回選んだ鳥羽さんのレシピは、塩昆布が入るのがおもしろいなと思いました。
バターとめんつゆの組み合わせは、何もしないでも味を決められるから、これだけでおいしくなっちゃう。チーズも入って、甘じょっぱい味がして。日本人が好きな味になっていると思います。
パスタに目玉焼きを混ぜ込むの、めちゃめちゃうまそうです。
フライドエッグのような状態にすると、香ばしくなって、香りの役割も担ってくれて、それがすごくいいんです。カルボナーラよりも味が均等に行き渡らない分、味にリズムがあって、それが楽しい。卵の部分は少しカルボナーラっぽい、パスタの多いところはカチョエペペ(※)っぽいっていう、リズムがあるんです。
レシピには「余白」を作っておく
まずはボウルのなかに、バター、めんつゆ、塩昆布を入れて混ぜておきます。
バターけっこうありますね。何グラムですか?
40gですね。ここらへんは好みなんで、減らしても大丈夫っす。めんつゆも入れちゃって大丈夫です。
めんつゆ、どれくらいですか?
今回は4倍濃縮のめんつゆなので、小さじ2杯ですね。(と突如、同席していた鳥羽さんの会社所属スタッフを見つめながら)……なっ、うれしくない?!リュウジさんに無限パスタ2作ってもらうの、超やばいよな!
いやいやいや(照)。卵、2つずつ焼きましょうか。(と、フライパンに油を引き、卵を焼く準備をするリュウジさん)
わっ!今、フライパンの上で油がスルスルいってるじゃないですか。これ、油の温度が高い証拠なんですよね。フライドエッグはカリカリの方がおいしいよねって話をしただけで、油の温度を狙ってきているのがもう……
そんなに意識はしてなかったんですが、カリッと焼いた方がいいのかなと。
さすがです。
いやいやいや……油、温まったみたいなので、卵を入れてもいいですか?
はい!……なんか超感動しちゃうな。めっちゃうれしい!
僕もめちゃめちゃうれしいです。これは、両面ともカリカリにする感じですか?
そうですそうです、けっこう雑にやってもらって大丈夫です。
鳥羽さんのレシピには「これは絶対にこうしてください」というような、決まりごとはない感じでしょうか。
はい。僕、レシピには常に余白を残したいんです。そうしないと、レシピ通りに出来なかったときに即「失敗」だと感じてしまったり、材料が集まらないとできなくなってしまったりするので。自由にアレンジしたり、育てていただいて、広げてもらえたらと思っています。
わかります。
あーーーっ!超うまそう!これっすこれっす!このカリカリした感じが、ベーコンの役割を果たすといいますか。
黄身の固さはどれくらいにしますか?
半熟のところと火が通ったところ、両方あるくらいでいいかもしれません。
……焼き加減、このくらいでいいですか?
いいですね!ばっちりです!刻んで、さっきのボウルの中に入れちゃってください。
僕、この調理法は思いつきませんでした。ゆでたまごを刻んでペペロンチーノに混ぜたことはあったけど、目玉焼きをカリカリにして混ぜ込むっていう発想は全然なかったです。おもしろい!
料理から「姿勢」が伝わる
次は、お湯に麺を入れながら、半面焼きの目玉焼きを作っていきます。パスタの茹で時間は8分くらいですね。ぶちこんじゃってください。
はい!(お湯にパスタを思い切り入れてくリュウジさん)
おー!ざっといきますね!
鳥羽さん、パスタの太さについて考えていることってありますか?
僕は1.7mmを推奨しています。なんでかっていうと、お家でパスタを食べるときには、1人あたり100g食べると思うんですが、100gを食べ切るまでの時間や、ソースとのバランスを考えると、1.7mmがちょうど良いんです。最後までおいしく食べられる。
1.6mmや1.4mmだと、100g食べているうちにのびちゃうんですね。1.9mmもおいしくて好きなんですけど、茹で時間が10分以上かかってしまうんで。1.7mmなら、8分くらいで茹で上がるんです。
すごい!僕、こういう「なぜこう作るのか」に触れたくて、レシピトレードをやっているところがあります。学びがある。
謙虚ですよね。僕、リュウジさんは愛の人だと思ってます。
いやいやいや。
料理から伝わる姿勢ってあると思うんです。リュウジさんのレシピは、どう届けたいかのかがすごく明確。リュウジさんがどういう人なのかが伝わってきます。
僕は、料理を作る人を増やしたい。とにかくその一点だけなんです。
僕らも、「幸せの分母を増やす」というモットーを掲げていて、近い気持ちを持っていると思います。だから、なるべく身近にあるような、コンビニの食材なども使っています。フォン・ド・ボーを使ったり、出汁をしっかりとったりとかは、毎日できることではないですから。大変になっちゃう。
鳥羽さんのレシピで、マックのハンバーガーにリンゴジャムをのせるの、ありましたよね。あれ、すっげえな!と思いました。りんごジャムとマックを組み合わせるって全然思いつかなかった。しかも超簡単。すぐできる。すごい発想だなと思いました。
目玉焼きは、白身を寄せながら焼くと丸くなる
リュウジさんは、ピンク派ですか?それとも黄色派ですか?
えっ??
目玉焼きの黄身の色のことです。好みが分かれるところだと思うんですけども。
ピンクですね!
水を入れて、蓋をしてちょっと蒸らす感じ?
そうです。
僕も一緒!うれしい!黄身のまわりの白身が、固まっているほうが好みなんです。
僕、水っぽい卵白は、寄せながら焼くようにしています(といいながら、スプーンで卵の白身を寄せていく)。こうすると、目玉焼きが丸くなるんです。
おおおーーっ!
(水を入れ、蓋をしてしばし待ち、卵の様子を見ながら)……ピンクってこういうことでしょうか?
完璧じゃないですか!あとは茹でたパスタと粉チーズを、ボウルに入れて混ぜてから、盛り付けるだけです。すごい簡単。
パスタを混ぜながら)いいにおいがする!なんで塩昆布を入れるのかが、今わかった。これが味のポイントになるんですね。
ですね、旨味になります。あと、この最後のまとめる段階で粉チーズを入れると、麺にしっかりまとわっていい感じになるし、味がまとまりやすい。味見して、もし重く感じたら、パスタの茹で汁を加えてもらえれば……
できました!
すごい!自分以外の人に作ってもらうとおいしく見えるね!
カルボナーラとも似ているけど違う
うまっ!やばいわ。まじでおいしい。
んん!うまいっすね!バターを結構がっつり使ったけど、このくらいがちょうどいい!塩昆布の味が効いていて最高です。
バターライスみたいでもあり、卵かけごはんみたいでもあり。
パリッと焼いて、崩して麺にからめるっていうやり方、本当にすごいですよね。カルボナーラとも似ているんだけど、味わいが違う。味付けがめんつゆっていうのが、またいいですよね。塩昆布とも調和してる。この味、すごく好きです。
目玉焼きの焼き加減が最っ高です。リュウジさんにsioで料理してほしい!
食べにいきたいんですよ。でも予約がとれなさそうで……
とれますよ!招待します!食べて欲しい。
「みんないい」でいい
ところでリュウジさん、この前Twitterで「味覚は人それぞれ。本当においしいものを理解している方は人の『おいしい』を否定しない」とつぶやいていたじゃないですか。それって、なかなか言えることじゃないと思うんです。
僕は、もともとは文句を言いがちだったんですよ。「このやり方は本場のじゃないからだめ」とか、しゃらくさいことを言う人間だったんです。そこを経て、一周まわって、いろんなことを許容できるようになった感じです。
僕も昔は、自分のやり方がベストで、そうじゃないのはだめ、みたいな考え方をしていた頃があったんですけど、いろんな人と出会って話を聞いていくうちに変わりました。それぞれに思いや幸せのかたちがあるなかで、自分の考えに固執してああだこうだ言うのは、小さいなぁって思うようになって。
だめじゃん、って言うのは簡単だけど、そこじゃない。まずい料理を作ろうと思って作っている人はいないはずだから、ひとつひとつの料理に「おいしいポイント」はあって、それを見つけることの方が、尊いと思うんです。
前に、料理の審査をして欲しいという依頼を受けたことがあって。でも断りました。料理にダメ出しするのを望まれている感じだったから……そういうの僕、好きじゃないんですよ。難しい顔して、「それじゃ通用しないよね」とか言うの、すごく嫌なんです。みんなそれぞれにいいところがあるから。
僕、審査員やったら全部ほめるもん!
比べたり、あれがいい悪いって言い始めたりすると、おかしくなってしまう。「みんないい」でいいと思うんです。どんな料理を作る人も、料理家も、料理人も、みんなそれぞれによくて。作ってる人同士が、お互いにリスペクトしあっていけたらいいなと思います。
そうなって欲しいですよね。
でも、僕とコラボすることによって、鳥羽さんのブランドが下がるとかあったら心配です。
全然大丈夫!そういうの、ないです!本当に考え方、似ているもんね。
似ていますね。共感できる。目指すところが一緒なんだと思います。