「至高のボンゴレ」を鳥羽周作さんが作る
料理研究家リュウジさんとゲストがお互いのレシピをトレードし、料理をしながら語り合う本連載。今回のゲストは、 ミシュラン1つ星レストラン「sio」のオーナーシェフ、鳥羽周作さん。鳥羽さんが選んだリュウジさんのレシピは「至高のボンゴレ」。押さえるべきツボを押さえながら、アレンジを加えているところに、リュウジさんの凄みを感じると鳥羽さんは話します。
至高のボンゴレ
材料(2人分)
作り⽅
- 1. にんにくのへたを潰して芯をとったら、スライスして粗みじんにする。
- 2. フライパンを熱して油を引き、にんにくを入れて弱めの中火で炒める。
- 3. 途中で鷹の爪を入れてにんにくが色づいたら、砂抜きしたあさりを加えて炒める。
- 4. 軽く炒めたら酒を入れ、中火にしてふたをする。
- 5. あさりが開いたら火を弱め、あさりを取り出す。
- 6. あさりを取り出したフライパンに水と塩を入れて沸かす。
- 7. 沸騰したらパスタを入れ、中火で煮る。(茹で時間が経つ頃に水分がとぶように調整する)
- 8. 煮てる間にあさりの殻をとっておく。(盛り付け用に5、6個残しておく)
- 9. パスタが茹で上がり乳化してきたら弱火にし、あさりをフライパンに戻して昆布茶を加えて混ぜる。仕上げにバターも加える。
- 10. 盛り付けて、パセリを振りかけたら完成。
理にかなっている「邪道」
このレシピ、いいなと感じるポイントがたくさんあるんですけど、まず第一に、あさりの出汁でパスタを茹でるところがいいですよね。このやり方だと、フライパンひとつで作れて、ほかに鍋を用意する必要がない。
本場からすると、邪道と言われるやり方かもしれないけど、ボンゴレは本来、旨味を吸わせることが重要なパスタ。この方法は、かなり理にかなっていると感じます。
今まで食べたボンゴレのなかで一番おいしかったのが、イタリアのチビタベッキアという港町で食べたボンゴレで、その味をイメージしながら作ったのがこのレシピです。
僕、鳥羽さんがこのレシピを選んでくれたことが、すごくうれしいです。まずはにんにくを切るところからいきましょうか。鳥羽さん風にアレンジしていただいちゃって構いません!
やーできるかなー。超緊張しています。これは半分に切ったらつぶしちゃって良いんでしょうか?
いかようにでも!僕は、潰してからスライスにしています。そうすると、粗みじんっぽい感じになるので。
みじん切りの方がいいですか?
みじん切りでもスライスでも、どちらでも大丈夫です!
じゃあみじん切りにします。緊張しちゃって、手を切っちゃうんじゃないか心配なんですけど……(と言いつつも巧みな包丁づかいで、玉ねぎをみじん切りするときのような細かい切れ目を入れ、美しいみじん切りを作り出していく鳥羽さん)
すごいです……!
ぜんっぜんすごくないですよ!
切り終わったら、フライパンにオリーブオイルを大さじ2杯入れて、にんにくを入れて、弱めの中火で炒めます。しゅわしゅわと、香りをつけていく感じですね。
(フライパンににんにくを入れながら)これだけの量のにんにくを使うんですね!鷹の爪は、このまま入れる感じですか?
僕はそのまま入れちゃいますね。煮込んでいるうちに、中の成分が出てくるんです。
なるほどね!
おっ、にんにくの感じ、完璧ですね。そしたら次は、あさりを入れちゃってください!
(勢いよくあさりを入れる)
いいですね!あさりを入れ終わったら、軽く全体を混ぜて、お酒を入れて、火を少し強めてください。お酒はワインじゃなく、日本酒を使います。
(コンロを操作しながら)IH、いいですね。ガスコンロの場合、お酒を入れて、火を強くしたときに、フライパンの中に火が引火しちゃうことがあって。その様子って一見おいしそうに見えるんですけど、実際には、ガスのにおいが食材についてしまって、おいしくなくなってしまったりするんですよね。
そうなんですね!
仕上げはバター
(あさりを眺めながら)既に超おいしそうなんだけど!
この状態がもう、あさりの酒蒸しですからね。あさりが開いたら、開いたそばから取り出して、一旦別のところに置いておきます。煮すぎると、貝がゴムみたいに固くなっちゃうので。
わかるーー!
あと、少しめんどくさいんですが、今のうちに貝殻からあさりの身を外しておくと、食べるときがラクです。貝殻付きは、飾りつけ用に5〜6個だけ取っておきます。
(貝殻をてきぱきとボウルに避難させながら)お水入れちゃいましょうか!
はい!まずは500mL入れてみて、様子を見ながら足していきましょうか。リゾットの作り方に似ているんですよね。米が水を吸っていくのを確認しながら、都度つぎ足していくやり方。でも、その感覚を動画で伝えるのは難しいので、レシピには具体的な数字で分量を書いています。
塩も入れちゃって大丈夫ですか?
大丈夫です!塩を入れたらパスタも入れちゃいましょう。このレシピの場合、1.4mmの太さのパスタで作るのがちょうどよい感じです。
フライパンでパスタを茹でるの、初めてなんだよね。楽しみ!……これはどうやって入れるのがいいのかな。
僕の場合は、まず束にしたパスタを立てて……
ねじりながら、ぐーーって抑えるようにして入れていきます。(鳥羽さんの様子を見ながら)そんな感じです!
半分くらい入ったところで手を離すと、パスタがフライパンのなかに収まって、あまり飛び出さないんです。
すごっ!究極のやり方だよね。あさりのエキスたっぷりの白濁したスープを、全部吸ってますからね。
昆布茶も入れちゃいましょうか。
入れまーす!(パスタの茹で加減を味見して確認しながら)うっま!!やっばいよ!パスタの茹で加減、そろそろよさそう。
そうしたらあさりを戻していただいて。僕の場合は、ここでバターを入れます。
ボンゴレってあまりバターは入れないんですけど、少し立体的な味にしたかったので入れています。
バターを入れる)わっ!バターの香りがやばいっすね。完璧じゃないですか。(勢いよく味見しながら)うまい!!超うまいよ!レストランの味!
うれしい!盛り付けも完璧です!
細かい想像力で作られている
では改めて、乾杯!
(食べながら)さっき味見した時点でおいしかったけど、めっちゃおいしい!
……うっま!にんにく細かくするの、いいですね。
辛さもしっかり決まってて、塩加減も旨味もちょうどいい。最後のバターがポイントになってますね。ボンゴレって、つんつん角が立ったような味になりやすいんですけど、それがない。バターを入れたことで味が丸くなって、甘さも加わった。お子さんも食べやすいんじゃないかと思います。
よかったです。食べやすいほうがいいと思ったんです。オリーブオイルだけで仕上げるやり方もすごくおいしいんですけど、バターの香りや風味が好きな方も多いので……
僕はまさにこの味、大好きです。超うまい!全部食っちゃってもいいですか?
すごくうれしいです!鳥羽さんに、レシピのなかに込めた僕自身のマインドも汲み取ってもらえた気がして、すごく報われた気持ちです。
リュウジさんの料理は、なるほどという発見がある一方で、ちょっと手を伸ばしたら届きそうでもある。その絶妙なラインに位置していて、それでいておいしいのが尊いです。
これだけの力と知識を持っている人が、マスで料理を発信していることは意味があると思うんです。なにしろ「たくさんの人に料理を作って欲しい」という意思が明確で、結果を出しているって、めっちゃかっこいいんですよ。伝えるための編集力やプロデュース力も高い。想像力が細やかなんだと思います。
ありがとうございます。僕、今YouTubeが楽しいんですよね。レシピが簡単すぎても、難しすぎてもダメで、その間くらいのものが一番、喜ばれるんです。その塩梅を見極めるのが難しくて、でも難しいからこそ、ハマっています。
僕らも今、YouTubeに希望を見出しているところです。昨今の状況がまさにそうなんですけど、店舗だけを収入源にしていると、いざというときに生き残れない。それだとスタッフが安心して働き続けられないんです。もともと飲食業は全般的に待遇の良くない業界ですが、僕はそれを変えたくて、給料を増やしたり、休みを増やしたりしてきました。でも、それでもまだ一般企業に比べたら、きついんじゃないかと思うんです。
シェフの休みを増やすって、すごく良いですね。僕も少しレストランで働いていたことがあるんですが、毎日深夜まで働いて、休みもないのが本当にきつかったんです。
そうなんですよね。だから、オーバーワークにならない仕組みを作っていきたいんです。うちの場合は、僕が前に出ることで、事業の幅を拡げようとしています。
店を持っているのに店にいないと、それだけでもう「鳥羽さんはメディアでの活動が忙しいからお店にいないのでは」とマイナス評価を受けてしまうこともあるんですが、そう言われるうちはまだまだ実力不足だと思っていて。僕がいなくても「いい店だね」と言ってもらえるお店にしていきたいし、YouTubeでも、もっともっと、たくさんの人に作ってもらえるような料理を発信していきたいです。
組織を背負っているからこその言葉ですね。僕は、動画を一緒に作っている仲間に「飽きたらやめるから」って言っちゃってますもん。
でも、口ではそう言っていても、実際は優しいじゃないですか。リュウジさんの本質はアウトプットに表れていると思います。ボンゴレ、ほんとすごいよ!
すっごいうれしいです。もっと鳥羽さんに「うまい!」って思ってもらいたいなっていう気持ちで、創作意欲がマックスになりました。
またいろいろやりましょう。僕、まずは今度の土日にリュウジさんの「鶏ねぎ塩つけそば」を作りますから!
はい!