「⾄⾼のトマトソース」をきじまりゅうたさんが作る
料理研究家リュウジさんとゲストがお互いのレシピをトレードし、料理をしながら語り合う本連載。今回のゲストはきじまりゅうたさん。きじまさんが選んだ、リュウジさんのレシピは、にんにくたっぷりの「⾄⾼のトマトソース」。料理を作りながら、それぞれの仕事への思いについても語り合いました。
⾄⾼のトマトソース
材料(2人分)
作り⽅
- 1. トマト⽸はよくつぶしておく。⽟ねぎは薄くスライスする。にんにく半量はつぶして粗みじん切りにする。残り半量はすりおろす。
- 2. フライパンにオリーブオイルを⼊れ、にんにく(みじん切り)を⼊れて中⽕にかける。
- 3. にんにくが全体的に⾊付いたら⽟ねぎを⼊れる。すりろしたにんにくは、電⼦レンジで600wで1分加熱する。
- 4. ⽟ねぎがしんなりしてきたら、トマト⽸を⼊れる。レンチンしたおろしにんにく、コンソメ、砂糖、⿊こしょうを加える。中火で5〜8分煮込む。
- 5. 沸騰したお湯に塩分濃度1%の塩を⼊れ、パスタを茹でる。(ゆで汁は少し残しておく)
- 6. ソースに茹で上がった麺を⼊れて、弱⽕にかける。オリーブオイルを⼊れて絡める。パスタの茹で汁で、好みの濃度に調整する。
- 7. ねじりながらお⽫に盛り付ける。
玉ねぎの切り方で「ルーツ」がわかる
まずは、玉ねぎを薄くスライスします。
薄くですね!(トントントン……と薄くスピーディに切るきじまさん)
(きじまさんの包丁さばきを眺めながら)さすが!最初は斜めに切るんですね。
切り方って、「ルーツ」による違いがありますよね。
そういう違いを見るのが大好きです。
わかる!
特に玉ねぎの切り方は、人によって全然違うんです。
違いますね。この人はもともと洋食の人だったんだなぁとか、家庭料理の人だなとかわかりますよね。
わかります。ちなみに僕は、もともとはイタリアンを基礎からやっていました。料理店で働いていたこともあります。
そうなんだ!
にんにくの量の多さには理由がある
次はにんにくを切ります。
(8かけのにんにくを見ながら)すっごいな!これ1回で使う量ですか?
はい、かなり入れています。半分は粗みじん切り、半分はすりおろして使います。トマトパスタとは言っているんですが、にんにくとトマトのパスタですね。
これだけにんにくを入れるのは、何か目指す方向があるんですか?
あります。カプリチョーザの「トマトとニンニクのスパゲティ」が好きなので、僕なりにその究極系を目指したのがこのパスタです。
飲食店の味の研究は結構しているんですか?
していますね。
料理店で働いていると、そのお店でしか食べられないような本格料理を目指すようになって、チェーン店の味わいや、大衆的な料理に踏み込めなくなる人も多いと思うんです。リュウジさんが、今の方向を目指すようになったきっかけって、何かあるんでしょうか。
あります。料理研究家を始めたとき、僕には実績も何もなかったから、「一口食べてすぐにおいしいと感じてもらえないと、この先には進めない」と思ったんです。なので、世の中で今、何が売れているのかをよく見て、研究して。この味ならば多くの人に馴染みがあって、親しんでもらえるだろうと思うものを実践していった感じです。
うま味調味料は一種のエポックメイキング
一番最初にレシピを発表したのはいつ頃ですか?
7〜8年前くらいです。最初はTwitterではなく、ブログにレシピを投稿していたんですが、その頃の僕の料理はかなりめんどくさいです。
でもある時、複雑すぎる素人のレシピをいったい誰が見るんだろうと思って。それからは、料理名にぱっと目を引くような要素があって、見た目もおもしろくて、食べてすぐにおいしいと感じられるような、そんな料理を目指すようになりました。
それは、家庭料理に必要な要素だと思います。
でも僕のやり方は、裏技的な感じというか、正統派ではないなと思っていて。どうなのって感じる料理研究家さんはいるんじゃないかと思っています。少なくとも、イタリアンの基礎を学んでいたころの昔の僕だったら思ってました。「ああーこういうやり方ね」と。
若い頃ってとんがりたくなることも多いですもんね。
僕もそんな感じでした。うま味調味料を使うやつは料理人じゃねえ!みたいな。
うま味調味料!僕、その話聞きたかったんです。最初にリュウジさんのうま味調味料のレシピをTwitterで見た時に「おお、ついにこういう料理家が出たか!」と思って。一種のエポックメイキング(新時代を開くこと)だと感じたんですよね。外食ではうま味調味料の入った料理を食べて、おいしいって思っても、自分が書くレシピには取り上げなかった。禁じ手のようになっていたんです。
飲食店の料理をおいしいと感じる要素のひとつには、うま味調味料があると思っていたので、「こうすると外食の味になる」というのを押し出していった感じです。
すりおろしにんにくは加熱してから入れる
そうしたら、フライパンにオリーブオイル大さじ2杯と、にんにくのみじん切りを入れて、弱中火くらいで火にかけます。すりおろしたにんにくは、生のままだと少し刺激が強いので、ラップをかけて電子レンジで加熱します。
え!先に加熱しちゃうんだ!電子レンジにはどのくらいかけますか?
今日は、YouTubeのレシピよりも分量が多いので1分くらいです(※YouTubeのレシピは1人前なので40秒)。僕のレシピのなかでも「至高シリーズ」は、時短レシピには入れないような小技も駆使しています。
リュウジさんは、簡単なレシピを入り口にしつつも、ひと手間かけることでおいしくなるレシピも作ってもらいたいという気持ちは、希望としてあるんですか?
はい。あります。半分半分なんですよ。わかりやすい料理を作ってもらって、日々楽しく楽に過ごしてもらいたいと思っている僕と、手の込んだ料理がすごく好きで、料理人を目指していた頃の僕とが同居しているんです。
きじまさんは、どんないきさつで料理研究家になったんですか?
僕、祖母も母も料理家なんですよ。自宅が仕事場で、毎日撮影の様子を見て過ごしていたから、子どもの頃は、大人ってみんなこういう撮影に携わる仕事をしているんだと思い込んでいたんです。例えば八百屋の子が、野菜を売るのが大人の仕事だと思うみたいに。
自分も小さい頃から料理が好きで、ずっと作っていたんですが、高校生の頃「料理家になりたい」と祖母に言ったら、「男がやる仕事じゃない」って言われてしまって。
そうなんですか!
当時はまだ、ケンタロウさんとかも出てくる前で、シェフや料理学校の先生をしている人はいても、家庭料理をやっている男の人はほとんどいなかったんです。
それで、一旦はファッションの仕事を始めたんですが、24歳になった頃、これは僕にとっての一生の生業ではないと感じ始めて。ちょうどその頃に祖母が亡くなってしまって、葬儀の席で祖母の仕事の関係者の方達と久しぶりに会ったんですけど、みなさん、「いつ料理やるの?」って聞いてきてくれたんですね。それで、そうだ料理だ!と奮い立ちました。
家業を継いではいますが、ストレートに継いでいないので、これまでの料理家像をそのまま継承するというよりは、新しい可能性(方向性)を考えていきたいという気持ちがあります。
ホールトマトを手で握りつぶすのが好き
(みじん切りのにんにくを炒めながら)炒め具合、どうですかね?
いい感じです。玉ねぎを加えて炒めてください。
火加減は弱火?中火?
中火くらいですね。玉ねぎがしんなりしたら、ホールトマトを入れてください!
ホールトマト、潰してもいいですか。僕、ぐちゃぐちゃやるのが好きなんですよ。
じゃあ、ぐちゃぐちゃやりましょう!
缶のトマト、カットを使う場合と、ホールにこだわる場合とありますよね。
僕、ホールトマトのほうが甘みが強いと思っていて。なので、いつもホールトマトを使っています。つぶしたホールトマトを加えたら、調味料も入れていっちゃいます。まず、顆粒コンソメと……
これは外食的な味にするため?
はい。これを入れないとカプリチョーザにならないんです。あと、お砂糖と黒こしょうを足します。
お砂糖!
まろやかさを出すために入れています。調味料を入れ終わったら、トマトの酸味を飛ばす感じで中火で煮込んでいきます。そろそろパスタを茹でちゃってもいいかもしれません。
茹でちゃいましょう。
パスタは塩分濃度1パーセントのお湯で茹でます。
ええと、2.5Lの1パーセント……25gでいいのかな。茹で時間はどのくらいですか?
6分半くらいですかね。これはもう、好みなんですけどね。僕はあまり固くない方が好きです。
僕も!
(トマトソースを煮込みながら)そろそろどうでしょう。
味見してみましょうか。
うん。濃いっすね!でも、トマトがすごく濃くなっているように感じるのは、煮詰めているからだけじゃないと思うんですよね。
すりおろしにんにくもかなり溶け込んでます。
甘みもあるけど、酸味も飛びきってない。うまみが濃すぎたり甘みが濃すぎたりせず、ほどよい酸味によってバランスが保たれている。おいしい!
うれしいっすね。あとはパスタが茹で上がったら、麺とソースを絡めて、茹で汁で味の濃さを調整していく感じです。
はい!じゃあ麺を入れます。
最後は仕上げにエキストラバージンオリーブオイルを大さじ2杯入れます。
同じ料理研究家でも働き方が違う
盛り付けは先生にやってもらいましょうか。……って、こういうときだけ先生って呼ぶのずるいですよね。
(リュウジさんが、手をねじりながらパスタを盛り付けている様子を見ながら)おお!僕、それができないから、お皿をまわしちゃうんですよね。
お皿を回すんですね!いいやり方かもしれない。
きれいきれい!いただきましょう。
(パスタを一口食べて)うまいうまいうまいうまい!!さっき言っていたとおり、本当に一口目でがつんと、うまさが伝わるレシピですね。すりおろしとみじん切りのダブルにんにくが効いています。かなり味が立っている。麺の絡みのよさも半端じゃないですね。
渾然一体としていますよね。
これは、今日のパスタと抜群に合うワインを選んできてしまったかもしれない……(と言いながらワインが進みまくっているきじまさん)
ほんっとに合います!(同じくワインが進みまくっているリュウジさん)
このソースだけで、ワイン1本いけちゃうよね。
ところできじまさんは、テレビや雑誌、書籍などのメディアからの依頼を受けてレシピを作ってらっしゃると思うんですけど、一方、SNSは無料じゃないですか。それについてはどう思われますか。
僕ね、ずっとSNSを頑張ってこなかった理由がそこなんです。雑誌とかテレビに出て、有償でレシピを提供しているけれど、SNSでは無料というのは、僕の中ではなかなか整合性が取れなくて。
やっぱりそうなんですね。メディアから依頼を受けてレシピを作ることで生計を立てるのと、僕みたいに無料でYouTubeにレシピを公開して広告収入を得るのとでは、同じ料理研究家というカテゴリではあっても、働き方が全く違うんじゃないかなと思っていました。
そう!
だから、どう思われているのかが気になっていました。
僕も今日、その話をできたらおもしろいなと思っていました。たぶん、デビューした年で置かれている状況が違うんですよね。2010年以前と以降で大きく変わったと思うんです。
たぶん僕は、旧来のスタイル最後の世代です。うらやましいところもあるんですよ。最初からSNSでの発信を始めていたら、全然違う考え方が持てたんだろうなって思います。
でも、僕も今はこういうスタイルでやってますけど、絶対にまた違うフェーズがくるんですよね。常に時代に左右されていますし、吊り橋を渡っているようなものだと感じています。
本当にそうですよね。……あっ!ワイン空いちゃったよ!!
今日はいろいろお話できてよかったです。正直、この企画をきじまさん、受けてくれるのかな?と思っていたんですよ。恐れ多いと感じていて。
ほんとですか?逆に、僕らから見たリュウジさんは別世界で輝いているといいますか。僕のことは眼中にないと思っていました。
ぜんぜんぜんぜん!
話してみたら、思っていた以上にすごく考えてる人なんだなと思って。
ふだんあまり見せないですからね。恥ずかしいから。
熱い男だって思われるの、いや?
いやです。
わかる。
僕、料理研究家さんと関係を築いて、一緒に仕事をしたくて。横のつながりを強くして、みんなでこの仕事の社会的な地位を向上したいと思っています。
!!それ、僕もずっと言っています。料理研究家の職業としての底上げに関してはずっと考えていて、料理研究家には組合みたいなものが必要だと思っています。
それ、僕も思ってました!業界全体で盛り上がっていけたら、全員ハッピーじゃないですか。
やばいやばいやばい。熱いな。ちょっと今、手汗かいちゃった。今度ふたりでじっくり飲もう!