りんごの巻きカツ
芸人ボルサリーノ関好江さんに料理を作ってもらいながら、おいしさのポイントなどを伺う本連載。今回は、かじるとシャリっと爽やかな音が聞こえてくる「りんごの巻きカツ」。簡単に作れるのに、一品だけでごちそう感を醸し出してくれるうれしいレシピは、高校時代にもらった料理をアレンジしたものなのだそう。思い出話を聞かせてもらいました。
材料(2人分)
作り方
- 1. りんご1/2個を⽪ごと、縦のくし切りにして6等分にする。
- 2. 塩こしょうをした豚⾁に粒マスタードを塗り、1と3等分したチーズを置いて巻いていく。
- 3. バッター液の材料を混ぜて、2をくぐらせてパン粉をつける。
- 4. 170度くらいの油で5分ほど揚げ、ケチャップとマヨネーズを添える。
同級生のお弁当に入っていた
関さんが、りんごとカツの組み合わせに出会ったのは、今から遡ること30年以上前。高校生の頃だといいます。
「あるとき、向かいの席の子がカツらしきものを食べていて、なのになぜか『シャリッ』っていう音が聞こえてきたんです。音と見た目が合ってない。それで思わず『何を食べているの?』と聞いたら、りんごとチーズが入っているカツだよって見せてくれたんです。当時は今よりもずっと、フルーツを料理に使うことが少なかった時代。本当にびっくりしました。
それで、ひとつ食べさせてもらったんですけど、初めて食べる味で、すごくおいしくて。絶賛したら、褒めたことが印象に残ったのか、お弁当に入っているといつも、私のところに持ってきてくれるようになったんです。席替えで席が離れてからも、『入ってたから』ってはるばる届けてくれて……」
自身で作るようになったのは、それからずいぶん後、大人になってからだったといいます。
「急に『あっ!』って思い出したんです。」
……というわけで、衝撃的な出会いをきっかけに、関さんのレパートリーに加わることになったこのレシピ、さっそく作っていきましょう。
まずはりんごをカットするところからスタート。
「立派なりんごですね。すごくゴロッとしてる!レシピには、半分を6等分にすると書いてありますが、大きいりんごの場合、8等分くらいでもいいかもしれません。大きさに合わせて調整するのがよいと思います。ちなみに皮は、付けたままのほうが私は好みです。」
マスタードを塗るのがポイント
続いては、豚肉に塩こしょうを振り……
広げて、粒マスタードを塗っていきます。
「粒マスタードを入れるのは、私が後から加えたアレンジです。なんとなく、加えてみたら合ったんです。」
スプーンなどの、身近にある道具でランダムに塗る感じでOKです。
塗り終わったら、3等分にちぎったチーズを置き、くるくるとりんごを包んでいきます。
「大きめの豚肉の方が巻きやすいですが、この形じゃなきゃという決まりは特にないです。小間切れのお肉をつなぎ合わせて使うのでも大丈夫!」と関さん。
「外からチーズが見えないように、お肉の内側におさまるようにしたいんだけど、あっ、はみ出ちゃいそう!豚肉をもっと丁寧に広げればよかったなぁと今、少し後悔しています……」と言いつつも、テキパキと包んでいきます。
「巻く」料理が好きで、よく作るという関さん。肉巻きのレパートリーをたくさん持っていて、これまでにも、ピーマンまるごと、菜の花、ニラ、豆腐など、それを巻くのもアリなんだ!という組み合わせでも作ってきたそう。
「最近巻いておいしかったのは、半熟の煮卵ですね。フルーツを巻くとしたら、汁気が多いものじゃなければ、意外となんでもいけると思います。柿を巻いてもおいしそう!」
「……柿といえば。これまで実家では、フルーツの料理が食卓にのぼることはほぼなかったんですが、この前久しぶりに帰ったら、柿と水菜を和えたサラダのようなものが出てきたんですよ。『おっ、どうしたんだ?』って思って聞いてみたら、『お店で食べた柿の天ぷらがおいしかったからやってみた』と言っていて。天ぷらに感激したのに、なんでサラダを作ったんだろう……って思いました。」
魚焼きグリルの網は揚げ物に便利
揚げ物を作る際の、食材に小麦粉をつけ、卵にくぐらせ、そしてパン粉をつける……といった手順は、バッター液を作ることで少し短縮させます。バッター液は、卵、水、小麦粉を混ぜれば完成。豚肉にまんべんなくつけたら……
ぎゅっと、パン粉をまとわせます。
「……手が粉だらけになっちゃいました(笑)。つい両手でやっちゃうんですよね。上手な人は、片手だけで衣をつけることができるんですよ」と吐露する関さん。
衣をつけたら、熱した油の中に入れ、揚げていきます。薄切りのお肉を使っているので、揚げ時間はあまりかかりません。
「ふだんはフライパンで揚げ焼きで作ることが多いです。天ぷら鍋も持っているんですが、手軽なのでついついフライパンでやっちゃいます。」
「あと、ふだんは揚げ物の油を切るのに魚焼きグリルの網を使ってます。すっごく便利!」
半分に切ると……
サクサクのカツの狭間からチーズがとろり。こんなにかっこいい重ね着をしているりんごを見るのは初めてかもしれません。
というか、あなた本当にりんごなんですか!新鮮すぎるお召し替えにどきどきします。
りんごなのに、りんごじゃない
食べる際に添えるのはケチャップとマヨネーズ。「好みに合わせて付ける感じです。混ぜなくても、混ぜちゃってもいいです」と関さん。
食べてみると……シャリッ。
聞いていた通り、カツらしからぬ音が聞こえてきました。なぜこの音がするのか、頭ではわかっていても、心が追いつかずににやにやしてしまいます。
しかも、ここにあるのはりんご、マヨネーズ、ケチャップ、豚肉、粒マスタード、チーズ。身近なものばかりだけど、ファッションに例えるなら、ワンピースとジャージと真珠を合わせるくらい意外な組み合わせ。でも似合ってる。シャリシャリさせながら食べていると、この組み合わせだからこそ、絶妙なバランスの「おいしい」が成り立っているのを感じます。
粒マスタードがめちゃくちゃ効いている。生のりんごだけだったら、ケチャップやマヨネーズをつけるのを躊躇するかもしれないけど、衣やお肉があるから、りんごと組み合わせることに違和感がなくなる。知っているもの同士の組み合わせの中にも、未知との遭遇ってあるんだなぁ。りんごなのに、りんごじゃない。
「お好みで、チーズをブルーチーズに替えてみてもおいしいし、その場合には、はちみつを添えても良いと思います」と関さん。
ところでりんごカツを分けてくれた高校時代の同級生は、今どうしているのでしょうか。
「……わからないんですよね。今は何をしているんだろう。」
これから先、伝えてくれた本人に会えるかどうかはわからなくても、料理はそこに残る。そして伝わる。そう考えると、料理の伝達力ってすさまじい。みなさんもぜひ、りんごとの新しい出会い、体験してみてください。