自分のための「白味噌雑煮」と家族でいただく「海苔雑煮」ーー上田淳子さんが作る二つのお雑煮
「所変われば品変わる」を料理で実感するのが、お雑煮です。年明けの食卓を彩るものの一つですが、地域によってスタイルは本当に様々ですね。アイスムでは今回特集として、いろいろな方に「わが家のお雑煮」をうかがいます。人気料理研究家の上田淳子さんは関西出身ですが、毎年2種類のお雑煮を作られているそうですよ。(聞き手:フードライター 白央篤司)
お話を聞いた人:上田淳子さん
料理研究家、兵庫県生まれ。本格的な西洋料理から日本の家庭料理、スイーツやパンまで守備範囲の広さは業界でもトップクラス。自らの料理研究だけでなく、現代人の実際的な生活に根差した「日々どう食べ、どう作っていくか」といった提案にも定評がある。
「私は兵庫県神戸市の生まれで、実家のお雑煮はいわゆる白味噌雑煮です。昆布だしで、具材は丸餅と大根、里いも、金時人参。形はすべて丸く切るのがお正月の決まり。大根はね、時期になるとお雑煮専用の細いものが売られているんですよ。」
具材の切り方を説明されるとき、「まぁるく、まぁるく、切るんです」と言われた上田さん。お餅も含めてすべて丸くそろえるのは、角の立たない1年を過ごせるように、との願いがあるようです。思い出されるうち、だんだんと関西弁に戻られていきました。
まずは、作り方を教えていただきましょう。
上田さんの白味噌雑煮
材料(2人分)
下ごしらえ
大根、里いも、金時人参は、それぞれ皮をむいて7mm程度の輪切りにする。
作り方
- 1. 鍋にだし、野菜を入れて煮る。
- 2. 別鍋に丸餅を入れ、たっぷり隠れるぐらいの水(分量外)を入れて、やさしい火加減で好みの柔らかさに煮る。
- 3. 1の野菜が柔らかくなったら、白味噌をおたまなどにのせて溶き入れ全体になじませる。
- 4. 湯をしっかり切った丸餅をお椀に入れ、3を加える。
——ああ、昆布だしがきいていますね。その塩気と白味噌の甘みがいいバランスで、おいしいなあ。
「だし昆布は水出しにして、最低2時間は浸けて使っています。味の濃い利尻産がお雑煮にはおすすめですよ。白味噌は関西でおなじみのもの、年末はお雑煮用にと市場で大きく売り出されるんですよ。お正月だから、いつもよりちょっといいのを買ったりね(笑)。具の野菜は大晦日のうちに切って予めゆでておくこともあります。そうすると元旦にサッと作れて便利だから。」
——作り方はお母様に教わったんですか。
「うーん、気づいたら覚えていましたね。母は仕事もあったので忙しくて、中学生の頃から一緒にキッチンに立っていました。祖母にもいろいろ教わりましたねえ。」
——お正月というと、どんなことを思い出されますか。
「父が長男ということもあり、人のよく集まる家でした。お年賀まわりも楽しかった。昔はお正月ってお店が全部休みだったから、それぞれの家でごはんを食べる時代。親戚のおうちで食べるすき焼き、思い出しますね。お正月のお決まりのごちそうでした。」
——やっぱりすき焼きは関西風なんですよね。その作り方も聞きたい……けれど、今回はお雑煮特集だからガマンします。上田さん、夫さんの実家のお雑煮も作られると聞きました。どんなお雑煮でしょうか?
「夫は島根県松江市の出身で、具がお餅と海苔だけなんです。歯ごたえのしっかりした岩海苔で、かもじ海苔と呼んでいます。わが家はお正月は夫のほうに帰省するので、うちの子どもたちにとってお雑煮といえばこれ。義母と一緒に作って覚えました。」
——「かもじ」とは、髪の毛の昔の言い方。海苔の黒々とした様から来ているんでしょうね。作るポイントはありますか。
「京都のお雑煮もそうですけど、お餅をゆでるのが難しいんです。慌てて煮ると表面が崩れて中は硬いまま。水からやさしい火加減で煮てください。」
「餅は水からや・さ・し・く煮るんやで」と上田さんは念を押されました。はい、肝に銘じます。それでは、海苔雑煮の作り方はこちら。
島根県松江地方の海苔雑煮
材料(2人分)
作り方
- 1. 岩海苔は、少量の酒を加えほぐしておく。
- 2. 鍋に餅を入れ、たっぷり隠れるぐらいの水(分量外)を入れて、やさしい火加減で好みのやわらかさに煮る。
- 3. 鍋にだし、醤油、みりんを入れて煮立てる。
- 4. 湯をしっかり切った餅をお椀に入れ、1をのせて3を注ぐ。
——かもじ海苔、食感が本当にしっかりして、コシがありますね。磯の香りとだしの味わいがすごくいい。シンプルの極致のようなお雑煮もいいものですね。
「毎年元日は島根で海苔雑煮をいただいて、数日後にわが家で自分のために白味噌雑煮を作っていただくのが、私のお雑煮の恒例なんです。」
——あ、白味噌雑煮はご一家では食べないんですか?
「そうなの。私のためだけに作って、こっそり食べてるんです(笑)。」
——こっそりって(笑)。ちなみに島根のご実家だと、お餅から手づくりされるそうですね。
「そうなんです。義母は農家出身で、梅干し、たくあん、甘酒など何でも作ります。ゆずの種で化粧水まで作っちゃう。一緒にいろいろ作らせてもらって、毎回いい勉強になっています。」
——なじみのなかった地域の家庭料理を学ぶことも、上田さんの料理研究家としての大きな糧になっているんでしょうね。今回は本当に、ありがとうございました。