「至高のビール煮」を稲田俊輔さんが作る

リュウジのレシピトレード #9 後編

PEOPLE
2022.05.16

料理研究家リュウジさんとゲストがお互いのレシピをトレードし、料理をしながら語り合う本連載。今回のゲストは、南インド料理店「エリックサウス」創設を始め、さまざまな飲食店のプロデュースを手がける料理人、稲田俊輔さんです。

稲田さんが選んだリュウジさんのレシピは「至高のビール煮」。選んだ理由はずばり「かっこいいから」とのこと。ビールを豪快に使って作る食べ応え抜群の肉料理、思い切り調理してもらいました。

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至高のビール煮

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材料(2人前)

  • 豚ロースかたまり⾁(バラブロックなどでも可)…400g
  • ⽟ねぎ…1個(250gほど)
  • ニンニク…2⽚
  • ビール(350ml)…1⽸
  • コンソメ…⼩さじ1半
  • オリーブオイル…⼤さじ1くらい
  • 塩こしょう(⾁の下処理⽤)…適量
  • 塩(⽟ねぎを炒める際に)…ひとつまみほど
  • 仕上げに
  • ⿊こしょう…適量
  • 乾燥パセリ…適量
  • わさび…適量

作り⽅

1. ⽟ねぎをスライスする。
2. にんにくは⽪を剥いて芯を取り除き、スライスにする。
3. 豚肩ロースは4等分(もしくは2等分)にする。
4. フライパンにオリーブオイルをひく。
5. 豚肩ロースに塩こしょうをふる。
6. フライパンが温まったら豚肩ロースを⼊れ、焼き⽬をつける。
7. 焼き⽬がついたら、⼀旦豚⾁を取り出す。
8. ⽟ねぎを炒める。(炒める前にレンジで加熱しておくと時短になる)
9. 塩(ひとつまみ)を⼊れ、飴⾊くらいになるまで炒める。
10. ⽟ねぎに⾊がついてきたら、にんにくを⼊れてさらに炒める。
11. ⽟ねぎが飴⾊くらいになったら、フライパンに豚⾁を戻し、ビールを加える。
12. コンソメを加えて沸騰させ、ふたをして弱⽕で⼩⼀時間煮込む。
13. 器に盛って、⿊こしょうとパセリをかけたらわさびを添えて完成。

削ぎ落としたからこその「かっこいい」

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リュウジ

僕、稲田さんがこのメニューを選んでくれたことがすごく嬉しいんですが、なぜ選んでくださったんでしょうか。

稲田

かっこいいからです!シンプルにするためだろうけれども、ハーブ類も入れていないし、トマトペーストを足してもいなくて。

リュウジ

確かにこのレシピは最低限の材料しか使っていないですね。そういえば、稲田さんも水と醤油、酒、ごま油、ねぎ、こしょう、味の素で作るシンプルなラーメンを作っていましたよね。潔いと思いました。

稲田

ああいうレシピを出せるようになったのは、リュウジさんが味の素について真正面から言及して、そういう空気を作ってくれたことが大きいと思いますよ。あれからですもん。味の素なしでは成立しないような料理を僕が出すようになったのは。

リュウジ

料理人の中には、味の素NGという方も結構いるんですよね。特にイタリアンでは多い印象です。

稲田

イタリアンの場合、そもそも味の素の必要性が薄いんですよね。インド料理もそうだけど。でも、必要性が薄いから使わないのと、使っちゃだめだから使わないのとでは、全然意味が違う。そこはちゃんと言っていきたいですね。

リュウジ

うれしいです!でも、その一方で使わない人を否定したくないとは思っています。使わない料理もそれはそれでおいしいって知っているから。ただ、使うことを否定しないでほしいんです。両方いいじゃん!っていう空気を作っていけたらいいと思います。

ガツッと肉を食らう感じにしたい

稲田

このレシピ、肉がぷりっと大きめというのがいいですよね。

リュウジ

「肉食ってる感」を演出したかったんですよ。

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稲田

肉をカットしたら、塩こしょうを振っていく感じですかね。(こしょうの入ったミルを見ながら)これ、どうやって使うんですか?

スタッフ

自動で動きます。

稲田

すごい!文明だ!これ欲しい!

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リュウジ

欲しくなっちゃうやつですよね……!

ちなみに僕はこういう煮込み系の料理で、片栗粉とか小麦粉をまぶすこともあるんですが、今回はあえて使わないようにしています。

稲田

肉をそのまま、こんがり焼きたい感じなんですね。

リュウジ

あと、玉ねぎで結構とろみがつくんで、そこをいただきたいなと。

稲田

その考え方はインドカレーと同じですね。

リュウジ

本当ですか!確かにインドカレーって粉を打たないですね。

稲田

そうなんですよ。(と言いつつ、手際よくお肉をフライパンにのせ、焼き始める。)

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リュウジ

おお、僕が何も言わずとも進む!

稲田

一応ほら、緊張して予習してきているので(笑)。(肉を焼きつつ玉ねぎを刻みながら)玉ねぎはこれを全部使っちゃっても良い感じですか?

リュウジ

はい。玉ねぎは多めに入れてもおいしいので大丈夫です。……段取りがいい!稲田さんはすべて理解してここに臨んでくれている……。

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稲田

まじめな小心者なんですよ。

スタッフ

稲田さんの手際がすごい……リュウジさんが見守るだけになっている(笑)。

リュウジ

ライブ感にあふれてますよね。僕の調理と、全然雰囲気が違う。僕のはたまに料理じゃない部分もあったりするし。

稲田

そこがいいんじゃないですか。

リュウジ

料理人の手さばきですよね。稲田さんの手さばきを、テロップだけついているような映像でずっと見ていたい感じです。

稲田

肉に焼き目がついたら、一旦取り出して、次は玉ねぎと塩を入れて炒める感じですかね。

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リュウジ

はい。玉ねぎには結構がっつり色をつけていきます。にんにくは玉ねぎが色づく前に入れると焦げちゃうから、後から入れるスタイルです。

稲田

(どんどん玉ねぎを炒めていく稲田さん)

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リュウジ

ちなみにこの状況を解説しますとですね、今、稲田さんはかなり強火でやっています。もう既に底の方の玉ねぎがかなり茶色くなっていますが、あまり動かさずに焼き付けていくと、こういう色が出るんです。フライパンの底に貼り付けるような感じでやっていらっしゃる。焼いて返して焼いて返して。そういう風にやっていただいていると思います。

稲田

解説されている……こういうパターン初めてだ!

リュウジ

僕も初めてですよ!

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玉ねぎを炒めている合間に、にんにくを刻み始める稲田さん

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苦味と酸味は好き嫌いが分かれやすい

稲田

入れるビールの種類にこだわりはありますか?

リュウジ

レシピを紹介する際には、発泡酒でもいいよって言っているんですけど、僕自身はキリンのビールがいいと思っています。苦味が強い黒ビールでもいい。稲田さんはどう思われますか?

稲田

僕も、そこそこ苦味がしっかりある方がいいんじゃないかと思います。でも苦過ぎても……というのもわかります。苦味や酸味は好き嫌いが分かれるから。

リュウジ

そうなんですよね。なかには「ビールっぽい味になりすぎてしまった」という感想を持つ人もいました。料理って本当に好みによるところが大きくて。玉ねぎの炒め具合によっても苦味が変わったりしますよね。

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稲田

そうそう、そうなんですよ。僕は苦いの上等、という感じで好きなんですけど、僕のような強火で炒めるやり方でやると、苦すぎると感じる人もいると思います。

……玉ねぎ炒め終わりました!この後はどうしましょう?

リュウジ

早いですね!

稲田

インド人仕草です(笑)。

リュウジ

もうちょっと時間がかかるものだと思ってました。僕だと、もっとかかるもん。さすがです。気持ちいい!

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リュウジ

そうしたら、ここでビールを入れます。一缶使い切ります。

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稲田

潔くていいですよね。すでに匂いがおいしそうだ。

リュウジ

沸騰してごぼごぼ音がしてきたら、火を少し弱めてふたをして、1時間ほど煮込んでいく感じです。

ところで稲田さんは、料理を始めた頃からインド料理をやっていたんですか?

稲田

いや全然です。最初はイタリアンをやっていたんですが、そのあとすぐ和食がメインになって。インド料理をやり始めたのは、料理人になって7、8年くらい経ってからです。

リュウジ

一通りの料理をやってきているんですね。

稲田

また別の料理にいく可能性もありますよ。飽き性なんで。

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〜40分後〜

稲田

そろそろ見てみましょうか。(ビール煮を見て)おいしそうです。でもリュウジさん的にはもう少しとろっとさせたい感じですか?

リュウジ

いや、大丈夫です!あと少し水分を飛ばしたら、ぼちぼちいい感じですね。

稲田

(味見して)いい感じですね。これで盛り付けちゃいましょう。

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優雅に見えるけど水面下で足をバタバタさせている

リュウジ稲田

いただきます。

稲田

おお、ほろっとしている。うまい!

リュウジ

ありがとうございます。

稲田

この手間でこの味が作れるっていいですね。作ろ!普通に家でも作ります。あんまり頭を使いたくない気分の休みの日などに、ぱっと煮込んで食べたいです。

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稲田

ビールを使う必然性もしっかりありますよね。ちなみにわさびをつけ添えにするのは、完成した後、食べているときに思いついたんですか?

リュウジ

そうです。これはわさびが合うだろうって思って。

稲田

飲んでいるとそういうこと、思いつく瞬間がありますよね。

リュウジ

粒マスタードを添えるという選択肢もあるにはあるんですが、わさびが圧倒的に合うんですよね。

稲田

(合わせて食べてみる)おお、わさびだと言っているのがすごくよくわかります。これ、肝だと思います。

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リュウジ

わかっていただけてよかった!酸味というよりもこう、ピリッとしたさわやかさだけが欲しいと思って、やってみたら合いましたね。お肉とわさびって合うじゃないですか。

稲田

こういう煮込み系の料理にわさびを合わせるの、いいですね。ドイツ人に教えたい。

リュウジ

おいしい!久々に食ったけどこれ、うまいっすね。

稲田

狙ったわけじゃないけど、歯ごたえあるくらいのほうが、肉を食べている感じがしっかりあってちょうどいいかも。

リュウジ

僕、動画では「1時間煮込む」って伝えていますが、40〜50分でおいしいですね。というか、個人個人の好みや火力などの環境で少しずつ違うから、微調整してもらえたら、本当はいいんですよね。でも動画や記事で、そこら辺のニュアンスまで伝えるのは難しいなと思っています。

稲田

リュウジさんの使命として、ある程度言い切らないといけないというか、シンプルに「1時間煮込みます!以上!」みたいに言うべきみたいなジレンマがありそうですね。

リュウジ

煮詰まり具合を見ながらこうやってみてくださいね、と言ってもいいんだけど、それってある程度料理を作れる人たちのステップであって。慣れていない人にとっては、難易度が高すぎてしまうと思うんですよね。難しいところですね。レシピに対するホスピタリティといいますか……。

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稲田

でも基本的にリュウジさんのレシピは、ちょっと間違えたり失敗したりしたとしても、ギリギリおいしくなるように考えられていますよね。調味料の組み合わせとかで。

リュウジ

そうですね。

稲田

でもこのビール煮は、割と例外的でシビアな料理かもしれない。

リュウジ

煮込み料理って難しいんですよね。「失敗しました」っていう声は、煮込み料理と卵を使った料理に多いです。

稲田

卵も難しいですよね。

リュウジ

カルボナーラのレシピを出した時、「ぼそぼそになりました」という声が結構あって、まだまだだなって思ったんです。細かい工程の一つ一つを、行動では示していても、明確に言語化していないと、伝わりきらないことがあって、出来上がりが変わってきてしまう。

稲田

リュウジさんの立場ゆえの難しさってありますよね。優雅に泳いでいるように見えるけど、水面下では足をばたばたさせている。大変だと思います。

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リュウジ

そう言ってもらえるだけでもすごく救われます。僕、料理がめちゃくちゃ好きなので、こんな味があるんだ!と驚いてもらえるようなレシピを作りたい気持ちもあるんです。……サブチャンネルとかやろうかな。

稲田

覆面を被ってもう一つチャンネルを運営するとかどうでしょう(笑)。

リュウジ

僕が出しているレシピって「簡単」のレッテルといいますか、そういうイメージができやすいので、あまり技巧的になりすぎても……って思うんですよね。いや、いいのかもしれないけど。

稲田

葛藤してますね。

リュウジ

葛藤ばっかりですよ。いろんな料理家さんと仲良くしていきたいし、料理界全体がよくなっていったらいいと思っているんですけど、結構勘違いされがちなんですよね。料理人の方にけっこう共演を嫌がられるんですけど……。

稲田

僕は正直、嫌がる人の気持ちもわかります(笑)。今まで自分が目を背けてきた部分に光を当てる人が出てきたという、ある種の怖さがあるんだと思うんですよ。パンドラの箱を開ける人が出てきたぞっていう。

リュウジ

声がでかいんだろうな、僕。

稲田

拡散力がすごいですよね。キャッチーな言葉選びも。

リュウジ

もしかしたら稲田さんも、あの見せ方はどうなんだとか、あのやり方はどうなのかとか思っているかもしれないんですが、今回共演していただけただけでうれしいです。

稲田

いやいやいや、いろんな人に自慢しちゃいますよ。あと、レシピを再現度高く作ることで成功体験を積んでもらいたいという気持ち、「自分、おいしい料理作れるじゃん!」って感じてほしいという気持ちは同じだと思います。

前編はこちら

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取材・文:ネッシーあやこ
撮影:猪原悠