「至高のカルボナーラ」を大西哲也さんが作る
料理研究家リュウジさんとゲストがお互いのレシピをトレードし、料理をしながら語り合う本連載。今回のゲストは、クッキングエンターテイナーの大西哲也さん。大西さんが選んだ、リュウジさんのレシピは「至高のカルボナーラ」です。
イタリアンにどっぷり浸かった過去を持ち、現在も得意としているふたり。それぞれ自身のYouTubeチャンネルでカルボナーラ動画を公開しているのですが、そのなかで、真逆ともいえる見解を示しています。リュウジさんが動画で推奨しているのは、緑のパッケージが目印のクラフトの粉チーズ。一方、大西さんが「使わないで」と伝えているのも、同じクラフトの粉チーズ。
でも、だからこそ、リュウジさんのカルボナーラを体感してみたかったという大西さんが、レクチャーを受けながら実直に、新たなるカルボナーラの扉を開きます。
至高のカルボナーラ
材料(2〜3⼈分)※1人分なら半量
作り⽅
- 1. にんにくを粗みじん切りに、ベーコンを千切りにする。
- 2. ⿊こしょうを包丁で切り刻む。
- 3. ボウルに卵を割り⼊れ、粉チーズを加えてよく混ぜる。
- 4. フライパンにオリーブオイルを⼊れ、⽕にかける前に鷹の爪とにんにくを加える。強⽕にかけ、油がふつふつとしはじめたら、ベーコンを加えて全体をなじませる。
- 5. 鍋にお湯を沸かす。
- 6. ベーコンが少し炒まってきたら中⽕にして、軽く焦げ⽬がついてきたら⽕を⽌め、フライパンを冷ましておく。
- 7. 沸かしたお湯に塩を加え、パスタをパッケージに記載の時間より1分短く茹でる。
- 8. パスタが茹で上がったら、茹で汁を残しておいてザルにあける。
- 9. フライパンにパスタを入れ、ごく弱⽕にかけて卵液を加える。鍋底から全体に絡まるように、ゴムベラで絶えず混ぜる。茹で汁を加えてソースの固さを調整する。
- 10. ソースがクリーム状になったら⽕を⽌め、オリーブオイルを加え混ぜる。
- 11. パスタを盛り付け、刻んだ⿊こしょうをかける。
あの「緑の粉チーズ」の底力
僕、リュウジさんとカルボナーラの話をしたかったんです。僕が否定した、あの粉チーズでおいしいカルボナーラが作れることを、ぜひとも思い知らせてほしいんです。
わかりました!よろしくお願いします。
ところで、この味に行き着くまでに1000回くらい作ったと言っていましたが……
はい。ほぼ毎日作っていた時期があったんです。それで結局、原点回帰したのがこのカルボナーラでした。
料理を始めた初期のころ、この粉チーズを使って作ったカルボナーラを友人たちに振る舞ったら、すごく評判が良かったんですよ。「どこの店のカルボナーラよりも、これが食べたい」とまで言ってくれる人もいて。
でも、もっと上質な食材を使ったり、ブレンドしてみたりした方がおいしいのではないかと思って、色々試してみたんです。結果、一番好きで一番おいしいと感じるのはこのカルボナーラでした。それで一石を投じました。色々言われたけど。
僕のところにも、「リュウジさんのパスタについてどう思いますか?」という質問が来たことがあります。
すべてのカルボナーラレシピにケンカを売っている感じですからね。僕のカルボナーラはにんにくを入れるんですが、これも邪道ですよね。イタリアのレシピにも、にんにくを入れるカルボナーラがあるにはあるんですが、入れないレシピの方が多いんですよね。
イタリアンを勉強してみると、意外とそんなに何にでもにんにくを入れるわけじゃないことに気がつきます。むしろ日本で食べられるイタリアンの方が、にんにくをあらゆるものに入れている。
先入観もあるんですかね。イタリアっていっても、ローマ、ミラノ、ナポリもあって……
そうそうそう!地域によって全然違いますよね。
卵はLサイズ・全卵を使用
まずはにんにくをあらみじんにします。
リュウジさんは、にんにくを一回つぶしてから切る感じですよね。(と言いながら、勢いよくにんにくを潰す大西さん。)
もうちょい細かめでしょうか?
そうですね、もう少し細かいくらいで。(大西さんの様子を見ながら)いいですね!
続いて、ベーコンを千切りにします。僕は、結構細かめに切るのが好きです。ベーコンに関しても色々試してみて、それこそ自作したベーコンを使ったこともあったんですが、スーパーなどで手に入る、ごく一般的なベーコンに辿り着きました。日本のベーコンには、旨み調味料が使われているんですよね。
僕は、旨みを高い基準値に置くことで、自分の味にしていくというスタイルでやっていて。わかりやすい味にするために、むしろこうやっています。
なるほど。既ににんにくでも旨みがあって、ベーコンにもあって。だいぶ旨みがありますね。
ベーコンを切り終わったら、Lサイズの卵をボウルに割り入れます。
卵は、小さいと問題があるんでしょうか?
小さいと、パスタに対して滑らかにまとわりつかないんです。小さい卵を使う場合には、パスタを1人前あたり80グラムぐらいに減らすとよいと思います。
卵とパスタのバランスなんですね。
はい!パスタ1人前を100グラムとした場合、Lサイズでギリです。卵に関しても、卵黄をふたつ使うなど、いろんなレシピがあると思うんですけど、試した結果、この量の全卵で、麺にまとわせていくのが一番うまいと思ったんです。
大西さん、卵をかき混ぜてもらっても良いでしょうか。
(卵をかき混ぜながら)そういえば。卵、こうやってかき混ぜると早いんですよ。 (と、箸をハサミのようにして、前後に揺らし始める大西さん)
おおっ!これは知らんかった!
卵を溶く時には、白身を切るのが重要なんですが、通常のやり方だと、なかなかよく切れないんですよね。こうすると、急いでやらなくても、しっかり切れるんです。
メイラードからの脱却
卵を溶き終わったら、次は粉チーズでしょうか。リュウジさんのレシピは、粉チーズをたくさん使っていますよね。
2人分(1人あたり30gなので計60g)を作る場合、1缶(80g)をほぼ使い切る感じなんですね。
はい!ほとんど使うんです。なので、クラフトのこの緑缶じゃなく、業務用の大容量の、似た味わいの粉チーズを使うのでも大丈夫です。……量、これくらいですね。
おお〜!(多さに興奮)
ケーキ作ってるみたいですよね。よーく混ぜて、卵と粉チーズをしっかり絡ませてソースを作っていきます。
これがベースになるんですね。
混ぜ終わったら、次はパスタを茹でちゃいましょうか。塩は、お湯に対して0.8%くらいの濃度になるように入れて欲しいです。例えるなら、薄めのお味噌汁。味見してみたときに、もうちょっと塩味が強い方が、お味噌汁としてはおいしいと感じるくらいのしょっぱさで。
自分の舌で、茹でる前にお湯の塩加減を確認するのって大事ですよね。
あ、大西さん!換気扇に頭がぶつかりそうです!
僕、大きいからよくぶつかるんですよね。
そういえば、以前大西さんと僕がYouTubeでコラボしたときにも、大西さんと僕の大きさの違いに対するコメントがたくさんついてました。
完成した動画を見てびっくりしましたよね。僕、こんなにでかく見えるんだなぁと。(お湯の塩加減を見ながら)塩加減、このくらいでどうでしょうか。
(味を見て)ちょっと濃いかもしれないです……細かくてごめんなさい。大西さんの唐揚げがすごくおいしかったから(この記事の前編参照)、その後にへたなものは食べさせられないので……お湯を足しましょう。
ちなみにペペロンチーノの場合は僕、少なめのお湯で茹でるんですけども、カルボナーラの時は、お湯の量は特に気にしないです。
リュウジさんのペペロンチーノは、少なめのお湯で茹でることで溶け出した小麦粉を乳化に使うっていうやつですよね。
はい。でも、厳密にいうとあの現象、乳化ではないんですよね。色々な言い方あるんですけど、そこまで言及してしまうと、ハードルが上がるので僕は言っていない感じです。
逆に全部言ったのが僕のペペロンチーノの動画ですね。
※大西さんは、ペペロンチーノに関する動画を何本も作っており、なかには、20分以上にわたりペペロンチーノの作り方の詳細を語り尽くしているものもある。
大西さんには、大西さんの良さがあるんですよね。僕も、どういう理屈でこうなっているのかを言いたい気持ちはあるんですが、「大変そう」と思われないようにするために、あえて言わない方向をとってます。
でも最近は僕、あえて言わないのも楽しくなってきています。今、自分のなかに「メイラード反応を起こさずに調理する」というテーマがあるんです。メイラードからの脱却。電子レンジ調理だと、メイラード反応(※)がつけられないから、それがすごいおもしろいんですよね。
※メイラード反応とは:食材の中に含まれるアミノ酸や糖が、加熱によって結びつくことで起こる反応。色が茶色を帯び、香ばしい風味が生まれる。
今までは、メイラード反応をつけられるなら絶対つけたほうがいいと思っていたんですけど。工程を少なくしてみたり、こだわりすぎずにやってみたりすることで、新たな発見があるのが楽しいですね。……あっお湯がわきました!パスタ投入します。
ベーコンを炒めたあと、フライパンをしっかり冷ますのが重要
僕のカルボナーラには、唐辛子を入れるという特徴もあります。濃厚なので、途中で味に飽きてしまうところに、唐辛子の辛味が加わることで、飽きずに最後まで食べられるようになるんです。鷹の爪の種はどちらでもいいですが、入れない方がいいかな。
(鷹の爪を切りながら、真剣に種を避ける大西さん)
少し入っちゃっても大丈夫ですよ。鷹の爪の準備が終わったら、フライパンにオリーブオイル大さじ2杯とにんにくを入れましょう。しゅわしゅわ言わせる感じで。
にんにくを入れてから、火を入れる感じですか?
はい!ここでもう唐辛子も入れちゃいましょっか!
冷たい状態から炒めて、唐辛子とにんにくの風味を出していく。イタリアンの基本を踏襲していますね。僕もこのやり方でやっています。
そうですね。僕も冷たい状態から始めるタイプです。炒めている間に、黒こしょうを刻んでおきましょうか。ホール状の黒こしょうを包丁で刻みます。
ミルを持っていたら、ミルを使った方が良いですか?
いや、ミルよりも包丁で砕いた方がうまいです。ぜんっぜん違うんですよ。びっくりしますよ。
確かに、スパイスの中にある精油成分が、外に出ることによって香りがするものだから、ただ細かくすればいいっていうものではないですよね。ミルだと、潰すというより、細かく切っている感じになるかもしれない。
(フライパンの様子を見ながら)大西さん、ベーコン入れましょうか。
にんにくがしゅわしゅわになってきたところに入れる感じですね。
ベーコンはカリカリになるまで炒めなくても大丈夫です。僕、ベーコンのやわらかさも好きなんですよね。だから、油を出すためだけでなく、具として食べてもいいんじゃないかなと思っていて。(ベーコンの火の通り具合を確認しながら)ベーコンが縮れてきたらOKです。火を止めちゃいましょう。
十分火が通っていますね。
火を止めたら、フライパンを冷まします。ふきんか何かにのせちゃいましょう。
はい!(フライパンをふきんの上にのせる)
ここが、一番重要なんです。フライパンが温かいままだと、卵にすぐ火が入ってしまって失敗してしまうので、ここで完全に冷まします。
カルボナーラの失敗でいちばん多いのが、「卵ぼそぼそ事件」ですもんね。
でも、ここの部分、動画で伝えづらいんですよね。僕の動画では、火を止めて置いたあとにパスタを茹でているんですよ。その順番で作ると、パスタを茹でている間にフライパンがしっかり冷めるんです。
けど、実際に作る時は、効率を考えて、ベーコンを炒めるのと同時にパスタを茹でている人も多いと思うんですね。そうすると、フライパンを冷ます時間を考慮しそびれて、卵に火が入ってしまうんじゃないかと。
ベーコンはむしろ、パスタを茹でるより前に炒めておいてもいいんですかね。
いいですね。全部を混ぜ合わせるタイミングまでに、ベーコンの油が固まらない程度にしっかり冷めていれば大丈夫です。
どうしても、標準化が難しい部分がある
これで、ごく弱火で、卵をあっためるようにしながら絡ませていくのが重要です。どこまでなめらかに仕上げることができるか。この部分だけね、腕が必要なんですよね。
なぜぼそぼそになるかがわかっていないとダメなんだと思います。同じことを繰り返してしまう。伝え方が難しい部分ですね。
あと、この作業にはへらが必須です。箸だとうまくいかないので、絶対ゴムべらを使ってください。下からこそげるように混ぜる感じで……
おっ、パスタのタイマーが鳴ってます。
じゃあ、茹で汁をちょっと残して、あとはざばーっとザルにあけちゃいましょうか。……いいですね!
フライパンを置いて、お湯を軽く切ったパスタを入れていくんですが、まだ火はつけないでください。
ここで、この、卵とチーズを混ぜたカルボナーラの素をたっぷりごってり入れて混ぜてください。
はい!へら、混ぜやすいですね。
(大西さんの様子を見ながら)2人分のパスタの量だったら、ある程度までは、余熱でチーズを溶かせるかもしれませんね。
たしかに。チーズが溶けて、卵も固まってクリーム状になりつつあるような……
でも、今のままだとまだ少し固めなので、ここで茹で汁を大さじ2杯くらい入れましょうか。
クリーミーさを作っていく感じでしょうか。
はい。ここら辺、口でいうのがなかなか難しいですね。もうちょっとドロッとさせたいので、ここからは、ごく弱火で温めていきます。……味見しましょっか。
いい感じですか?
もうちょっと火を入れましょうか。さっきよりも少し強い弱火にして溶かしていく感じです。
ちょっと湯気が出てきましたね。慣れていない人は、都度火を切りながらやってもらうのでもいいのかもしれない。
茹で汁、もうちょっと入れようかな。
様子を見ながら作っていく感じなんですね。チーズがだいぶ溶けてきましたね。
これが全体にまとわりつくと、どっと味が入ってきます。パスタはパッケージに記載されている時間より1分少なめに茹でているから……
麺が水分を吸ってちょうどよくなるんですね。
そうなんです。いいですね。仕上げに香りづけでオリーブオイルをかけます。で、味をみて……(味見する)完璧です!さすが大西さん。これよ!これ!キタ!もうこれ!もう完璧!盛り付けましょう。
パスタの盛り付け方、僕とリュウジさん似ていますよね。丸く高く盛る。
カルボナーラは、この盛り付け方をやったほうがいいですよね。冷めるとうまくなくなっちゃうので。賞味期限10分……もっと極端に言うと3分くらいかも。
盛り付けを手早くやるのも重要ですね。
お皿を温めておくのも大事ですね。
リュウジさんはどうやってお皿を温めていますか?
僕はレンジですね。もっと急いでいるときは、パスタのお湯を流すときに、下に置いておいちゃいます。
それでもいいですね!(盛り付けたカルボナーラを見ながら)クリーミーさが完璧ですね。
これなんです。このクリーミーさが欲しいんです。
あのくらいの火の弱さでいいんですね。やーうまそう!唐辛子の赤色もアクセントになっていいですね。
でここに、ぱらぱらっと黒こしょうを……
粗挽きの粗挽き。ちょっとまばらなのがまたいいですね。
はい!完成です!
すばらしい!!
人の世界一を学びながら、自分の世界一をつくる
いただきます!!
いやあ、卵もぼそぼそになっていなくて、チーズも溶けていてクリーミーで。いただきます!うーーーーん!(勢いよく黙々と食べる大西さん)
ごきげんうまい!!めちゃめちゃおいしい!あの緑缶の粉チーズでこんなにおいしくなるんですね。
このもったり感を作るには、緑缶が一番かなと僕は思っています。パルミジャーノやペコリーノでやると、バランスが崩れちゃうんですよね。
緑缶のチーズは、チーズに含まれる旨味成分自体は少ないんですけど、ベーコンやにんにくの旨みが合わさることで、旨みがちょうどいいバランスになってるんですね。たぶんパルミジャーノとかを使いながら、同じ量のにんにくを使うと旨みが勝ちすぎちゃうかなと思いますね。
パルミジャーノはスーパーに売っていないこともあるから、手に入れやすい食材で、おいしくできるのなら、こっちの方がいい。うん。うまい!黒こしょうの清涼感のある香りも、パスタの塩分もだいぶいいです。塩っけがゼロだと少なすぎるかも、このくらいがちょうどいい。
緑缶のチーズに旨みを足していくのは、ほかのイタリアンでも応用できるかもしれない。いやあ、ほんっとうにおいしいですね。
ありがとうございます。
人の作ったレシピっていいですよね。食べるのがうれしい。自分の作ったレシピだと、予想のつく味にしかならないから。
驚きや感動がありますよね。だから飲食店に行こうって思ったり、誰かに料理を作ってもらうことが楽しいと感じたりするのだろうと思います。
リュウジさんは自分のレシピが一番おいしいと思っているんですか?
そうですね。僕は本当にそう思っているし、そうじゃなきゃいけないと思っています。なぜなら自分の舌に合わせて作ってるから。作り方さえわかれば、自分の好きな味を、一番的確に自分が作れるというのは、当然のことなのかもしれません。
だから、人の数だけ正解があって、正解がたった一つということはない。僕が世界一といっている料理を、世界一だと思う人も思わない方もいて、それは本当に好みなんですよね。
まずはリュウジさんの料理を試して、それが世界一だったらそれはそれでいいし、そう思わないのであれば、それをアレンジしてみて、変えてみて、真の世界一を探すのでもいいですね。
誰かの「世界一」を知るのは大切だと思うんです。これがこの人にとっての世界一なんだと。その上で、もうちょっとこうした方がいいと思ったりするのは当たり前のことだから。
作る人同士が話をするのも大事ですね。僕とリュウジさんは、カルボナーラも唐揚げも作り方が全然違うけど、話すことで「なるほど」って思える。この気持ちが、更なる自分自身の味の探求に繋がっていくのだなと思います。