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東山広樹さんの「えび炒飯」を作る

リュウジのレシピトレード #18 前編

PEOPLE
2025.04.08

料理研究家リュウジさんとゲストがお互いのレシピをトレードし、料理をしながら語り合う本連載。今回のゲストは『マニアック家中華』(ダイヤモンド社)が好評発売中の料理研究家・東山広樹さんです。

自称「超料理マニア」の東山さんは食べ歩きが大好き。高級店から知る人ぞ知る個人店の名店、チェーン店まで、全国各地の飲食店を巡っています。同じくチェーン店好きのリュウジさんとは話が合うようで…。

今回はリュウジさんが東山さんのレシピ「えび炒飯」を作ります。マニアック中華の達人が教える、家庭で再現可能な町中華の味とは?リュウジさんのYouTubeチャンネルでは動画版を見ることができますよ!

えび炒飯

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材料(2人分)

  • ごはん…500g
  • 卵…4個
  • むきえび…200g
  • しょうがみじん切り…⼩さじ1 
  • ねぎ…1/2本
  • 塩…小さじ1
  • ラード…60g
  • 味の素…小さじ1

作り⽅

1. むきえびの⽔気をキッチンぺーパーなどでよく拭いておく(背ワタが付いている場合は、背中を包丁で開いてつまようじでワタを取る)。
2. ねぎを粗みじん切り、⽣姜をみじん切り、卵をさっくり溶いておく。
3. フライパンを強⽕で加熱し、ラードを⼊れる。
4. ラードが溶けきったらえびを⼊れ、表⾯が⽩くなるまで炒めたら⽫に取り出す。
5. フライパンに溶き卵を入れ、卵が8割程度固まってきたら温かいごはんを⼊れる。
6. ねぎ、生姜、塩、味の素を⼊れる。
7. フライパンをあおりながら、シリコンベラで全体を混ぜ合わせる。⽶の塊をつぶして適宜ほぐす。2分ほど炒めたらえびを戻し、さらに1分ほど炒める。

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「マニアック家中華」を作るため、四川で麻婆豆腐を食べ歩いた

リュウジ

東山さん、昨年末にまた本を出されたそうですね。

東山

持ってきました!『マニアック家中華』という本で、タイトル通りマニアックな内容になっています。

リュウジ

マニアックな料理本、大好き。(ページをめくりながら)うわ、この麻婆豆腐うまそう!これはどのあたりがマニアックなんですか?

東山

四川まで行って麻婆豆腐の食べ歩きをして、発祥の地の麻婆豆腐も食べて研究しました。ポイントとしてはとにかくギリギリまで煮詰めるんですよ。あと、牛脂を使うとめちゃくちゃ香りが立ちます。

リュウジ

やばい、うまそう。じゃあ、本に載っているのはかなり本場寄りのレシピなんですか?

東山

本場寄りのレシピも掲載しているんですけど、半分以上は「家庭で再現できる町中華」といった感じです。やっぱり町中華と本場の中国料理は別物なので。

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リュウジ

今日はえび炒飯を教えてもらえるということで、東山さんがたどり着いた炒飯を食べるのがめちゃくちゃ楽しみなんですよ。炒飯って人によって「炒飯論」がぜんぜん違うから、よく激論が交わされますよね。

東山

人によって作り方や材料がぜんぜん違いますからね。

リュウジ

さっそくなんですけど、今日はYouTubeも撮影するので、飲みながら作りましょう(お酒を用意する)。

リュウジ東山

乾杯!

リュウジ

前も聞いた気がするけど、東山さんっておいくつでしたっけ?

東山

実はリュウジさんと同い年なんですよ。

リュウジ

そうだっけ!?年上かと思ったら同い年なんですね。山本ゆりさんも同い年なんですよ。

東山

へぇ、そうなんですか!

リュウジ

同い年の料理研究家ってめずらしいんですよ。これからも、86年組としてよろしくお願いします。

切り方を変えることで味にグルーヴが生まれる

東山

まずはねぎを切りましょうか。

リュウジ

ねぎはみじん切りですか?

東山

お好きな切り方で。僕は半分をみじん切りにして、もう半分はめちゃくちゃ粗く切ります。そうすると、炒飯全体に行き渡るねぎと、具材として楽しめるねぎの2種類が生まれるんですよ。

リュウジ

おもしろい!

東山

やや半生のでかいねぎが入っていると、そこがピリッと辛くなっていいアクセントになるんです。

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リュウジ

大きめのねぎは乱切りですか?

東山

乱切りオブ乱切りで。このねぎがグルーヴを生みます。中国の安い飲食店に行くと、超粗く切った具材を中華鍋でガーッと炒めているんですよ。やけに生っぽい野菜や薬味があったりして、それがまたいいんです。

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東山

次は生姜をみじん切りにしてください。生姜もねぎと同じで、半分を細かいみじん切り、もう半分を粗みじんにするとおもしろいですよ。

リュウジ

そうしてみます。東山さんって本当にマニアックなんですよね。マニアックだけど、マス層もよく理解してる。チェーン店の良さも知っているし。

東山

根っからの食いしん坊なんです。常に、よりおいしいものを食べたい気持ちがあって。

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東山

あとは卵をざっくり溶いて、これで下準備はOKです。

リュウジ

卵の溶き方はどうします?

東山

あえて雑に溶いてください。白身が残っているくらいのほうが、白身と黄身で変化が出て味にグルーヴが生まれるので。

リュウジ

グルーヴが大事なんですね。

東山

そう。中華って基本的にダイナミックな料理なので。

この炒飯はラードも調味料のひとつ

東山

次はえびを炒めます。

リュウジ

カセットコンロでもいけますか?

東山

いけます、いけます。

リュウジ

中華鍋じゃなくてフライパンでも?

東山

むしろフライパンのほうがくっつきにくいのでおすすめです。中華鍋は手入れが大変ですからね。

リュウジ

本場で食べ歩いてきた人にそう言ってもらえるの、心強いな。

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フライパンにラードを入れる

東山

ラードはケチっちゃダメです。この炒飯はラードも調味料の一つなので。

リュウジ

僕も「中華を作るときは油をケチるな」といつも言っています。これくらい思い切った量を使ったほうがいいですよね。

東山

じゃあ、火をつけてフライパンを温めてください。最初は強火で、ラードが溶けてきたら中火に落として。えびは豚肉や鶏肉に比べると火が通りやすいので、あまり高温じゃないほうがいいんです。

リュウジ

なるほど。

東山

ラードが溶けたら、一旦火を消して少し待ちます。なぜかというと、フライパンがアツアツの状態でえびを入れると水分がハネるので。

リュウジ

少し落ち着いてからえびを入れるんですね。

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フライパンにえびを入れる

東山

弱火にして、油にえびを浸して絡めるように炒めてください。中華のお店だと「油通し(あぶらどおし)」といって、具材を油にさっとくぐらせる工程があるんですよ。それをフライパンの中で行うイメージです。

リュウジ

強火じゃなくて弱火のほうがいいんですか?

東山

はい。殻付きのえびを使う場合は、強火のほうが生臭さが消えるんですが、むきえびはもともと生臭さがないので。弱火でじっくり炒めたほうがプリプリになります。

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東山

えびが白くなってキュっとしてきたら火を止めて、えびを取り出します。えびはまだほとんど生なんですけど、余熱で火が通るから大丈夫。油にえびの香りが移っているので、これでごはんを炒めると全体がえびの香りになります。

リュウジ

だから先にえびを炒めるんですね。

いよいよクライマックス。プリプリのむきえびをふんだんに使った炒飯

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フライパンを火にかけ、卵を入れる

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東山

卵のふちが固まってきたらごはんを入れます。

リュウジ

冷やごはんよりも、温かいごはんのほうがいいですか?

東山

はい。ごはんは粒同士がくっついているけど、温めることで蒸気が立ちのぼり、米と米の間に隙間を作ってくれるんです。だから温かいごはんを使ったほうがパラパラになるんですよ。

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ごはんと卵を混ぜ合わせる

リュウジ

えびは入ってないけどすでにうまそう。もうえび炒飯の香りがしますね。

東山

油にえびの香りが移っているから。卵もちゃんと焼けたいい香りがしていますね。

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東山

ごはんと卵を混ぜ合わせたら、ねぎと生姜を入れてください。そしてさっと炒め合わせて、塩と味の素を入れます。

リュウジ

ずっと強火のままで大丈夫ですか?

東山

大丈夫です!

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リュウジ

きれいな色だな、これはうまいわ。めっちゃパラパラだし。

東山

やっぱり油をいっぱい入れるとパラパラになるんですよね。

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えびをフライパンに戻し、炒め合わせる

東山

さっき炒めておいたえびを入れて、何度かフライパンをあおってください。この過程で、えびにしっかりと火が通ります。

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リュウジ

めちゃめちゃおいしそう!

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東山

さっと炒めたら完成です。お皿に盛り付けましょう。

リュウジ

今日は2人前作ったので、大皿にドカンと盛りましょう。僕はこれまで2人前のレシピって出したことがなかったんですよ。だから、今回のレシピは皆さんにもすごく参考にしてもらえると思います。

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リュウジ

ビジュがやばい!美しい。えび、これくらい入っていると豪華でいいですね。

東山

やっぱりえび炒飯というからにはえびを食べたいじゃないですか。しかもむきえびは安いので、たっぷり入れることができます。

「シンプルでいい」じゃなく「シンプルがいい」

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リュウジ東山

いただきます!!

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リュウジ

(食べたあとしばし無言)…めっちゃうまい…!

東山

よかった~。

リュウジ

えびの香りが素晴らしいですね。ねぎの大きさの違いもすごくいい。そっか、切り方でこの遊び感が出るのか。いや、それにしてもえびがプリプリでうまい。こんなに贅沢に使っちゃっていいんだ。

東山

えびは一度炒めて取り出すことで、火入れの状態が最高になるんです。

リュウジ

素晴らしい。しかも、ちゃんと町中華の炒飯の味わい。

東山

嬉しい。「もしも、えび炒飯が名物の町中華があったらこんな感じ」というイメージで作ったレシピです。

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リュウジ

ラードをたっぷり入れたからこそおいしいんですね。味の決め手になってる。

東山

うん、ラードはかなり効いていますね。昔はラードがもったいないと思って、ラードとサラダ油を半々で作っていたんですけど、やっぱりラード100%のほうがおいしい。

リュウジ

これは絶対にむきえびで作るのが正解。殻付きのえびを剥いたのとでは味が違うと思う。それに、むきえびが大きめなのも良いですね。食べ応えがある。

東山

でも、小さなむきえびを使ってもそれはそれでおいしいですよ。全体的にえびが行き渡るので、どこを食べてもえびがいるじゃん、みたいな。

リュウジ

あぁ、それもいいかも。味付けなんですけど、シンプルでいいですね。「シンプルでいい」じゃなくて「シンプルがいい」か。

東山

こしょうを入れてもうまいんですけど、このレシピだと、入れないほうが生姜とえびの香りが立つんですよね。

中学で麻婆豆腐、高校でインドカレー、大学でラーメン二郎にハマる

リュウジ

東山さんはどこで料理を勉強したんですか?

東山

独学です。中2のとき、両親が共働きになったんですよ。それで夏休みにお昼代として、毎日500円を渡されるようになって。コンビニのお弁当じゃ足りなかったので、スーパーで鶏むね肉を買って茹でるところから始めました。

リュウジ

僕もそんな感じです。僕がはじめて作ったのは鶏むね肉のステーキでした。安いから。

東山

僕は自炊をするようになって、そのうち麻婆豆腐にハマったんです。横浜中華街に「景徳鎮」というお店があるんですよ。そこの麻婆豆腐がめちゃくちゃ濃厚でおいしくて、どうしてもそれを再現したくて、毎週末のように試作していました。

リュウジ

…中学生で?

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東山

中3のときですね。埼玉に住んでいたんですけど、かっぱ橋まで行ってマイ中華鍋を買いました。

リュウジ

すごい、生粋の料理マニアだ。

東山

それで、高校生のとき、学校の図書室でインドカレーのレシピ本に出会ったんです。レヌ・アロラさんというインド人の料理研究家の最古参みたいな方の本で。それを作ってみたらめちゃくちゃおいしくて、インドカレーにハマりました。

リュウジ

高校生で?こんなに料理が好きな人はなかなかいないですよ。

東山

さらに高3で衝撃的な出会いがあるんです。僕、ラーメン二郎に出会ってしまって。大学生になって、アルバイト募集の張り紙とかはなかったんですけど「働きたいです!」と志願して、2年間バイトしていました。製麺以外は全部やらせてもらえて。そこで、プロが炊くスープやラーメンにハマりましたね。

リュウジ

そうなんだ…!東山さん、汁なし担々麺のお店もやっていましたもんね。

東山

就職したものの料理の道が諦めきれなくて、脱サラして汁なし担々麺専門店を始めたんです。そんなこんなを経て、今は料理研究家になった感じですね。

食べ歩きの達人はどうやってお店を探している?

リュウジ

東山さんってすごいグルメだけど、チェーン店も好きですよね。僕、東山さんの発信を見て「やきとりの名店 秋吉」に行ったらめちゃくちゃおいしかった。

東山

チェーン店と個人店、どっちも愛してるんですよね。遠征してその土地のものを食べるのが趣味なんですよ。旅先では、1日に10軒くらいの飲食店を食べ歩きます。

リュウジ

どうやってお店を見つけるんですか?

東山

夜は予約しないと入れない店を中心に行きます。食べログで500~600軒の写真をチェックして、気になった店に行く感じですね。

リュウジ

僕と同じだ!

東山

メニュー写真を見ていると、だいたいそのお店で気合を入れているメニューってわかるじゃないですか。その中から食べたいものをチョイスします。

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リュウジ

じゃあ、食べログの点数では選ばないんですね。

東山

点数では選ばないですね。あと、高級店は時間がかかってはしごできないので、予算を3000円以下に設定して検索したりもします。あとは嗅覚ですね。ネットでの前評判を見ずに、飛び込みで入る精神を忘れちゃいけないと思っていて。行く予定の店に向かって歩いている途中で、「この店いいかも!」と感じて飛び込むこともよくあります。

リュウジ

わかる~!

東山

あと、周りの人においしいお店を聞きまくって、あえて「一人しか勧めていないお店」に行きます。一人だけが熱烈に推しているお店って、たいていおいしいんですよ。

リュウジ

それもわかる!逆に10人くらいがおすすめしているお店には行かないの。あまのじゃくだから。

東山

そうなんです!めちゃくちゃ共感します。

後編に続く

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取材・文:吉玉サキ
撮影:村上未知