たたききゅうり/きゅうりのステーキ/きゅうりと茹で鶏のごまあえ
「五感をひらくレシピ」を、自炊料理家の山口祐加さんに教えてもらうこちらの連載。今回のテーマは、これから旬の「きゅうり」です。そのまま味わう、切り方を変えてみる、焼いてみる…。きゅうりのおいしさを改めて知ることができる、レシピ三種です。ぜひ試してみてくださいね!
海辺の近くへ引っ越してから、畑を借りて野菜の栽培をはじめた。普段作っている野菜はどんなふうにしてできているのか、どれほど手間がかかるのか、自分で作ったものとスーパーで買うものはどれくらい味が違うのか。そんなことを知りたくなってやってみることにした。
雑草が生い茂る状態から、友達に手伝ってもらって畑を耕し、うねを作って苗を植えた。
3m×3mのエリアに植えた野菜は、トマト、なす、きゅうり、ピーマン、とうもろこし、空芯菜、枝豆、オクラ、モロヘイヤ、ししとう、パセリ、レモングラス、イタリアンパセリ、ミントの14種類。
芽が出てこなかったり、やっと双葉が育ったと思いきや鳥に食べられたり、野菜を育てるって簡単なことじゃないんだなと実感する日々。立派な野菜がスーパーで売られているとすごいなぁと感心するようになった。
そんな畑で今いちばんよく採れるのが「きゅうり」だ。
他の野菜は少しずつ成長しながら、ようやく一つ実をつけ始めるくらいなのに対して、きゅうりは畑に行くたびに3〜4本収穫できる。きゅうりだけがたくさん採れることが不思議で、理由を貸主の人に聞いてみると、それぞれの野菜にとって必要な栄養素は微妙に違い、今の畑の栄養がきゅうりにぴったりでよく育っているのだと教えてくれた。
小指より細いミニきゅうりが、ほんの2日ほどで立派なサイズに成長する。光、空気、土、水があれば植物が育つのは当たり前のことだが、実際にやってみるととても感動する。
私が起きて、仕事をして、食べて、寝ている間に、自然の摂理がちゃんと機能して実がなっていると思うと、感謝して食べたい気持ちが自然と湧いてくる。
そんなきゅうりを使って、今回は三種類の料理を紹介したい。
収穫したてのきゅうりは、触るとちくっと痛いとげがついている。これが新鮮な証拠なので、スーパーで買うときも、できるだけとげが立っていて、ピンと皮に張りのあるきゅうりを選ぶと良い。
きゅうりをそのまま食べるなら、洗ってからちょんと味噌をつけて丸かじりするのが好きだ。暑さで火照った身体に、ぐんぐん水分が戻っていく感じがして気持ちがいい。
夜ごはんの一皿に悩んだら、ヘタだけとったきゅうりに、味噌やマヨネーズをつけてガリガリと食べる。手掴みで野菜を食べるのは野性味が溢れていて、なかなかに清々しいものだ。
もし「そのままのきゅうりなんて、手抜きかしら」と思うなら、こう考えてほしい。おいしく食べようとしている時点で料理だと思うし、手間をかけないからこそのまっすぐなおいしさがあると胸をはろう。
たたききゅうり
畑で大量にきゅうりが採れるので、毎日のように食べるようになった。最初は薄く切ってから塩揉みして酢の物などを作っていたのだが、何度も作るうちに採れる量に対して薄切りする気持ちが追いつかなくなった。そこで作るようになったのが、ポリ袋に入れて上から叩くだけの「たたききゅうり」。
麺棒がなくても、空瓶の底などでも叩ける。どんどん、と叩く作業が痛快なのも好きなポイント。子どもにやらせると取り合いになるほど楽しんでやってくれる。
きゅうりが叩けたら食べやすいサイズに手でポキポキ折って、1本に対して小さじ1/2ほどで塩揉みする。
塩揉みしただけでも十分おいしいので、このまま食べても良いし、ごま油やすりおろしたにんにくを和えればナムル風になる。
たたききゅうりにしかない、表面のざらっとした舌触りが癖になる。青々しいきゅうりの香りもしっかりと感じられて、この夏は何度もお世話になりそうだ。
きゅうりのステーキ
雑誌かどこかで見かけた「蛇腹きゅうりのステーキ」が目から鱗で、作ってみたくなった。蛇腹にせずに半分に切るなどして作るのでも大差ないのだろうが、蛇腹きゅうりは達成感があるので時間がある時はやってみたい。
きゅうりを割り箸ではさんで置き、斜めに細かく切り込みを入れる。180度回転させて、裏側も同様に切り込みを入れるとうねうねと動く蛇腹きゅうりになる。
フライパンにオリーブオイルと蛇腹きゅうりを入れ、蓋をして中火でじっくり焼いていく。2〜3分経ったら少し転がしてまた2〜3分と同じように焼く。8分ほど経つと全体に火が通るので、皿に乗せて塩とこしょうだけで仕上げる。
一口食べると、水分が口いっぱいに広がるジューシーな味わい。焼いて少し水分が抜けたことで、きゅうりの歯応えがしっかりと感じられる。これは大発見!にんにくなどの香りをプラスしても食が進みそう。
きゅうりと茹で鶏のごまあえ
この料理はきゅうりの味というよりも、きゅうりの食感を味わうための料理。だからしっかりときゅうりの水気を抜いてから料理する。
まずは茹で鶏を作る。鍋に400mLの湯を沸かし、酒大さじ1と塩小さじ1を加える。沸騰したところに1〜2本ささみを加えて火を止め、蓋をして10分おく。
きゅうりは千切りにしてから塩揉みして、出てきた水分は手でぐっと握りしめてしっかりときる。
10分経ったらささみを取り出し、冷ましておく(早く食べたい時は水で冷やす)。手でほぐしたささみをきゅうりに加え、ねりごま、すりごま、少しの醤油で味を調える。この時、ねりごまをちょっと多めに入れると全体がまとまり、味に深みが出る。
きゅうりの柔らかなシャキシャキ食感と、ふわっと茹でられたささみの二つの食感が口の中で混ざり合うのが楽しい。ねりごまの濃厚な香りが、きゅうりとささみの素朴な味わいと好相性。茹でた中華麺に乗せて、混ぜながら食べてもきっとおいしい。
きゅうりは庶民的な食材なので、たたききゅうりなど素朴に調理したものはあまりレストランなどで見かけない。つまり、おうちごはんでしか食べられないきゅうり料理がたくさんあるということだ。切り方をいつもと変えて、気持ちを新しくする。塩揉みして、たっぷりと食べる。時には焼いてみて新鮮な味わいに出会う。これから旬真っ盛りのきゅうりを味わい尽くそう。