素揚げ、ステーキ、パスタ…舞茸が「主役」のレシピ三種!
旬の食材を使った「五感をひらくレシピ」を、自炊料理家の山口祐加さんに教えてもらいます。第七回のテーマは、舞茸。調理を「しすぎない」ことで、素材のおいしさに気づかされたという山口さん。シンプルでおいしい、舞茸が「主役」のレシピ三種です。ぜひ試してみてくださいね。
ようやく夏が終わり、ひんやりした風が通るようになってきた。夏のあいだどこかに行ってしまっていた食欲がゆっくりと戻ってきて、秋らしいおいしいものを食べたい気持ちがむくむくと沸いてくる。待っていました、食欲の秋。
秋の味覚といえば秋刀魚、いちじく、栗など枚挙にいとまがないが、手頃な価格で日常的に使えるものでいえば「きのこ」だと思う。年中スーパーで買えるのだが、やっぱり秋となるときのこをふんだんに使って料理したくなる。
しめじ、えのき、しいたけ、エリンギなどスーパーに並ぶきのこだけでもそれぞれに個性がある。「今日はどのきのこにしようかな?」と吟味するのもたのしい。きのこは複数種類混ぜ合わせて料理しても、それぞれのおいしさがいいところを出し合って、個性が喧嘩せずにまとまる。
それからきのこ類は出汁がよく出るので、肉魚代わりに使えて、ヘルシーに仕上がる。その上値段もさほど高くなく、家計に優しい食材。なんと優秀なのでしょうか。
全部まとめて「きのこ料理」として紹介してもよかったのだが、それぞれが魅力的なので今月と来月に分けてご紹介したい。
今月フォーカスするのは、きのこのなかでも芳醇な香りとしっかりした旨味が印象的な「舞茸」。その個性に惹かれ、きのこなら舞茸が一番好き!という人も多いのではないだろうか。私もその一人である。
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この日は産直に異なる3つの産地の舞茸が並んでいた。
上が9月9日に長野で収穫されたもの、右が9月10日に群馬で収穫されたもの、左が9月11日に新潟で収穫されたものだ。同じ舞茸と言えど、それぞれ手にとってみるとひだのサイズや細かさがそれぞれ異なる。
収穫してから日が浅いものは、ちょっと古いものと比べて明らかに舞茸の香りが強い。初めて生の舞茸の香りを確かめてみたが、しっかり香りがして驚いた。
さて、そんな舞茸の旨味と香り、力強さを直球で味わう3つの料理をご紹介したい。どれもとても簡単にできる。
舞茸の素揚げ、すだち塩
新潟産の舞茸は、香りの強さを活かすために素揚げにしてみた。小さめのフライパンに5mmほどの油を入れて、強火で熱する。
舞茸のふさを食べやすいサイズに分け、熱した油に入れて2分ほど揚げる。
キッチンペーパーでしっかり油を拭き取る。
皿に盛って、塩と季節の柑橘、すだちで食べてみた。
舞茸の香りがぱっと口の中でひらく。茎のくにゅっとした食感と、ひだのカリッとした食感が交互に味わえ、飽きずにずっと食べていられる。揚げた鶏皮や焼き魚のヒレのような、カリッとした部分が大好物なのだが、舞茸でそれが楽しめるとは思わなかった。
油で味が凝縮されて、甘みさえ感じる。2パックくらいペロリと食べてしまいそうだ。
舞茸のじっくりステーキ
ここ数年よく作るのが、きのこをただ焼いて醤油を垂らすだけという、簡単な上に絶対的なおいしさが約束されている料理。今回は舞茸1パックをそのまま焼いてみた。
油を小さじ1〜2ほど入れ、舞茸を入れて蓋をして中火で3分焼く。ひっくり返して弱火で3分焼き、醤油小さじ1を回しかける。焼き目が強くつくのもおいしさのうちなので、強火にさえしなければ失敗知らずの料理だ。
皿のうえにドーンと乗った豪快な舞茸。
ふわふわの食感に、舞茸のうまみが凝縮された水分が噛むたび口に流れ込む。お肉に劣らないくらいジューシーで、ステーキ級のごちそう感がある。醤油と舞茸が重なり合った香りもたまらない。
ほっておくだけで、切る手間もない。作る側に負担が少なくて優しい料理なのだ。余ったら刻んでスープの具にしても良い。
舞茸のパスタ
最後は舞茸をこれでもかと使ったパスタ。舞茸は形を残したまま料理をすることが多いので、今回は粗みじん切りにしてパスタと絡めてみた。
フライパンに、にんにくのみじん切り1/2かけとお好きなだけの舞茸のみじん切りを入れ、大さじ2の油で3分ほど炒める。別口でパスタを1%の塩水で茹でておき、茹で上がったら炒めた舞茸にパスタと茹で汁少々を入れ、塩で味をととのえるだけ。
肉魚が入っていないとは思えないほど出汁感があり、舞茸好きにはたまらないパスタだと思う。ついついベーコンやチーズを入れたくなってしまうが、このシンプルで力強い味を一度味わってしまうと、もう戻れない。
舞茸だけのパスタなんてなかなか外では出てこないので、どシンプル料理こそ家で食べるべきだな、と思う。
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アイスムで連載を持つようになってから早半年。月に一回、食材を観察し、香りを確かめ、指先で触ってみるところから料理をはじめる。
素材の魅力に近づけば近づくほど、「私、こんな顔もあるんですよ」と言われている気分になる。その魅力を活かそうと、いつもよりもシンプルに料理していて、今まで感じたことのない素材のおいしさに気づかされる。
あれこれ食材や調味料を組み合わせる楽しさやおいしさもあるが、素材の底力を知ると、いつもは料理「しすぎている」と思わざるを得ない。
シンプルな料理は工数も味付けも少なく、作る側も気張らずに作れるのだ。食材に寄り添って料理すれば、作り手にも無理がなく、続けられる。レシピが最初にあるのではなく、素材に合わせて料理をすれば、余り食材も少ない。
単に手間を省くのではなく、なにが重要なのかを見極めて削ぎ落としていけば自然とまとまりのある料理ができるのだと改めて感じた。
ただ食べるためだけじゃなく、こうしてたくさんの発見を得られるから、やっぱり料理は楽しいのだ。