三度おいしい「豚まぶし」
芸人ボルサリーノ関好江さんに料理を作ってもらいながら、おいしさのポイントなどを伺う本連載。今回のレシピは、ひつまぶしならぬ「豚まぶし」。甘じょっぱいタレの味わいがたまらない豚肉のどんぶりを、「そのまま食べる」「薬味をのせる」「お吸い物をかける」の三通りの食べ方でたっぷり楽しめます。
材料(2人分)
作り方
- 1. 豚肉に下味⽤の酒をまぶして10分ほどおき、小麦粉をまぶす。
- 2. 鍋にたれ用のみりんと酒を入れて火にかけ、沸騰したら砂糖と刺⾝しょうゆを加えて軽く煮詰める。
- 3. フライパンで1を焼き、⽕が通ったら2をさっと塗って、蒲焼き風に焼き、細切りにする。
- 4. 鍋に水を入れて沸かし、鶏がらスープの素と和風だしの素、しょうゆを加えて、しめじを入れる。とろろ昆布と三つ葉を入れたお椀に注ぐ。
- 5. 器にごはんを盛り、3とのりをのせる。⼩⼝ねぎとわさび、4のお吸い物をそえる。
名物と名物がタッグを組んだ
関さん曰く「名古屋のひつまぶしと、帯広の豚丼を合わせた感じです」という今回のメニューは「豚まぶし」。
まずは豚ロース肉にお酒をふりかけて、10分ほど置きます。
名古屋出身の関さん。これまでのアイスムの連載でも、何度か名古屋ならではのレシピを取り上げてきました。
「名古屋のものを取り入れようという気持ちはあるかもしれません。でも、名古屋の人たちは、ひつまぶしをしょっちゅうは食べない(笑)。好きだし食べたいけど、結構高いから、お客さんが来た時とかしか食べられない感じです。
それだったら、うなぎ以外の食材で作っても良いんじゃないかなって思ったんです。ひつまぶしって、うなぎがおいしいのはもちろんだけど、タレがおいしいから!」
豚肉にしたのは、「疲労回復のビタミン」と呼ばれるビタミンB1をたっぷり含んでいるから。
「これからの暑い時期に良いと思ったんです。でも、鶏のむね肉とかで作ってもおいしいです。」
あらゆる趣向を包み込む「お好みで」
お肉に下味をつけている間にタレを作ります。まずはお酒とみりんを鍋に入れ、沸騰させてアルコールを飛ばし、火を弱めたら、砂糖と刺身しょうゆを加え、少しとろっとするまで煮詰めていきます。
「濃いめのタレにしたいので、刺身しょうゆを使っていますが、なければ、普通のおしょうゆでも大丈夫です。九州の甘口しょうゆでもいいかも。もし辛い味が好きだったら、唐辛子を入れて煮詰めても良いと思いますし、作らずに、市販の蒲焼きのタレを使っても大丈夫です。全部、お好みで!好き好きで良いと思います。」
あらゆる趣向を包み込む、おおらかな魔法の言葉「お好みで」。
ところで関さん、タレの香りに心を刺激されまくった筆者は今、この匂いだけでごはん一杯食べられてしまいそうだなぁって思い始めているのですが、タレだけでごはんを食べることについては、どう思いますか。
「食べられるかもしれないけど、毎日はイヤかな(笑)。でも、周りにはタレだけでごはんを食べられるっていう人や、塩で(お酒を)飲むみたいな感じで、タレで飲むっていう人もいますね。
数年前、女芸人仲間とちょっとこじゃれた感じの中華料理屋さんで飲んでいたとき、テーブルになすの甘酢あんのタレだけが残っていて。店員さんがお皿を下げようとしたら、『待って待って!』って止めてた仲間もいました。
……あのとき、店員さんはどう思ったんだろう(笑)。」
安いスーパーを見つけるとテンションが上がる
さて。ここからは豚肉を焼くターン。まずは、豚肉に小麦粉をまとわせて、軽く焼き目が付くまで焼きます。
「お肉は焼いたあとに切ります。そのほうが切れやすいので」と関さん。
「ごはん二膳分でお肉200gだから、刻んで盛り付けると、たっぷりぎっちりな感じになるんですよ。」
フライパンを覆いつくした見目麗しい豚ロース肉の姿に、期待値は高まるばかり。「このお肉、良いお肉ですね。どこで買ったんですか?」という感嘆を経由して、次第に話の流れはスーパーマーケットにまつわる話題に。
「ちょっと用事があって出かけた街に安いスーパーがあると、テンションが上がっちゃって、つい色々買っちゃうことがよくあるんです。
昨日も、少し離れた街で用事があったので、帰りは運動のためにウォーキングして帰ろうと思っていたんですけど、途中で安いスーパーを見つけちゃって。お肉を1キロ買っちゃったので、『バス、乗っちゃお!』ってバスに乗りました(笑)。」
豚肉は、火が通ったら一旦バットやお皿などに移し、先ほど作ったタレを表裏に塗ります。
「わー!はけ、いいですね。はけがなくても、スプーンとかで塗っていただくので大丈夫なんですけど、はけがある人は使った方がよいですね」とにこにこしながら、しっかりタレを塗り込んでいく関さん。豚肉が着々と蒲焼の様相になっていきます。
タレをからめたあとは、再びフライパンで軽く焦げ目がつくまで焼き……
まな板の上に取り出し、細切りにしていきます。ちなみにこの時、ひつまぶしのうなぎのサイズを意識してカットすると、見た目のひつまぶし感がグンとUPするのでおすすめです。
そして最後は、お吸い物作り。味付けは、鶏がらスープの素と和風だしの合わせ技にしょうゆを加えます。
さらにしめじを投入。「しめじじゃなくても、なんでもいいです。なくてもいい」と関さん。とろろ昆布と三つ葉を入れたお椀に汁を盛ったら完成です。
ひとつのどんぶりのなかに、何種類もの体験がある
出来上がりました。盛り付けると、ひつまぶし感がグンとパワーアップ。高まります。
「おひつがあったら、そこにばーっとお肉を並べると、それだけで結構テンションがあがります。ごちそうみたいになる。作るのは楽なんですけどね」と関さん。
食べてみると、一瞬ひつまぶしだけど噛むと豚肉の味がする……という不思議な体感。思っていた以上に、錯覚する瞬間がありました。なんだかお得な気持ちです。
しかも、わさびと小口ねぎを投入すると、甘じょっぱいタレの味わいがより際立って、白飯の減りが加速していきます。おいしい。でもこわい。おいしいからこそ食べ過ぎそうでこわい。
そしてラスト、どんぶりにお吸い物をかけるの術。やさしい口当たり、かつ三つ葉の香りが際立っていて、これまた豚まぶしとよく合います。
ああもう!ひとつのメニューでいったい何種類の味を堪能しているんだろう。夏の食欲が減退する時期でも、どんぶり三杯はいけてしまいそう……。
そんな危険を感じつつも、箸を止めることなく食べ続けていたところ、わたしと関さんのごはん茶碗は、あっという間に空っぽになりました。……おそろしい!
がっつきすぎてしまったことを反省しつつも、顔の筋肉がふにゃっと緩んでしまいます。ああ、良いごちそうを食べてしまった。工程の多さとごちそう感は、必ずしも比例しないものなのだなぁ。比例しないからこそ、料理はおもしろいのだろうか。
夏の時期、食欲がなくなる傾向がある人も、そうでない人も、ぜひ豚まぶしの多彩な味わいに酔いしれてみてほしいです。豚肉のパワーを浴びて、乗り切ろう夏。