今井真実さんのレシピ「蒸しブリ」を作る
料理研究家リュウジさんとゲストがお互いのレシピをトレードし、料理をしながら語り合う本連載。今回のゲストは、”作った人が嬉しくなる「あたらしい家庭料理」”をモットーに活動する料理家の今井真実さん。アイスム × TOKYO FMのラジオ番組『鈴村健一のアイスム 週末ダイニング』の「3ステップレシピ」も担当しています。
リュウジさんが選んだ今井さんのレシピは「蒸しブリ」。「焼く」でも「煮る」でもなく、ブリを「蒸す」。その斬新な調理法にリュウジさんは刺激を受けたと話します。
蒸しブリ
材料
作り⽅
- 1. ブリの切り⾝は、うろこの有無を確認し、ついていたら包丁でこそぐように取る。
(うろこがたっぷりついていて取れにくかったら、⽪の部分にお湯をかけると、うろこが綺麗に上がり、取りやすくなる。) - 2. 切り⾝を並べてお酒をかけたら、両⾯に塩をまんべんなくふり、冷蔵庫で15分ほど寝かせる。(この作業で臭みを取り、下味をつける。)
- 3. 蒸し器を強⽕で熱しておく。
- 4. レタスを洗ってよく⽔気を切り、ちぎったら、醤油、酢を混ぜ合わせる。
(追加で⿊こしょうをたっぷりかけると、味が引き締まっておいしい。) - 5. ブリは⽔気を取り(ここで塩が落ちても⼤丈夫)、重ならないように耐熱⽫に並べる。
- 6. 蒸気の上がった蒸し器で、強⽕で7〜8分蒸す。
(二切れほどの場合は、6分から様⼦を⾒る。) - 7. 盛り付けたら完成。(すだちを絞っても◎)
まずはブリのうろこをチェック
(材料を見ながら)いいブリだな!
かなり大きいですよね。リュウジさんは普段、魚のうろこを確認されますか?
普段は僕、スーパーのものは大体取れていると思ってあまり気にしていません。でも、焼くより蒸すときの方が気になりそうですね。
じゃあちょびっとだけ、うろこを取ってみますね。専用のうろこ取りを使わなくても、包丁の歯でこすれば大丈夫です。こするのがめんどくさい場合には、ジャッとお湯をかけるといいです。うろこが浮いて、すっきりした味になります。
……あ!これ、私がやっちゃって大丈夫ですか?「レシピトレード」だから、リュウジさんにやってもらった方がいいですよね。
ですね(笑)。僕がやります(笑)。
普段そんなに気にされてないなら、適当で大丈夫ですよ。うろこを取り終わったら、ブリにお酒とお塩を振ります。お塩は両面に。お酒はじゃーっと振っちゃってください。どちらからでも大丈夫です。
魚のコンディションは、住んでいる地域やスーパーの品揃えによって、どうしても差があるので、なるべく均一にするために、この手順を踏んで臭みを取るんです。
蒸したら塩の風味は落ちますか?
いえ、残ります!なのでここで塩味をつける感じです。塩で脱水と味つけ、両方をやる感じですね。
じゃあ結構たくさん振っちゃっていいですかね。
はい!もししょっぱくなりすぎたら、お酢をかけちゃえば大丈夫です。
レタスの立ち位置はタルタルソース
かけ終わったらラップをして冷蔵庫に入れて、少し置いておきます。このあいだにレタスの調理をすすめます。まず、食べたい分だけちぎってください。
食べたい分だけ!ほおお。そういう感じなんですね。このくらいはいけますかね……(と言いながらレタスをボウル満杯に入れるリュウジさん)
たくさん食べますね(笑)。ちぎり終わったら次は酢醤油を作ります。レシピには、醤油とお酢大さじ1ずつと書いてあるんですが、「醤油と酢が同量」と覚えておけば、レタスが増えても減っても大丈夫です。
このレタスは、付け合わせ的なものなのでしょうか。
付け合わせ兼「たれ」です。えびフライのタルタルソースのような立ち位置ですね。ブリは脂っぽく、ものによっては生臭さもあるので、このレタスと一緒に食べることで食べやすくする感じです。
へえー!タルタルの立ち位置!普段付け合わせってあまり作らないんですが、こういう説明を聞くと、親しみやすく感じますね。
「付け合わせ」と聞くと、急にハードルが高くなったように感じますよね。お魚の付け合わせに、何を添えたらいいのかわからないってお悩みを聞いたことがあります。
お魚は、すっぱいものを添えたらおいしく食べられると思うんです。あじの開きとかにも、レタスをたっぷりのせて、わさびを添えるとおいしいです。
へええ!
(リュウジさんが酢醤油を混ぜている様子を見ながら)あんまり混ぜすぎると水分が出てきてしまうので、このくらいで大丈夫です。
おお、もう出来た。簡単ですね!
私、夜ごはんの支度の中で試作をするようにしていて、それで無理があった場合には、そのレシピはボツにしているんです。
おー!無理がある、というのは「作るのが大変に感じる」ということですか?
そうです。すっごくくたびれている時でも、無理なくできるかどうかを見ています。リュウジさんはどのくらい試作されていますか?
ほぼ一発ですね。
そうなんだ……!
至高シリーズのレシピの場合は5〜10回くらい作ることもあるんですが、基本的には、作る前から味の構造が頭の中で組み上がっています。
蒸す時の火は強火
そうしたらブリを蒸しましょう。ブリから出てきたお水を、キッチンペーパーでしっかり拭き取ります。こんな風に……(と拭き取り始める今井さん)
あっ!
あっ!ついつい自分でやっちゃいますね(笑)。
ついつい任せちゃいます(笑)。(と言いながら選手交代)
拭き終わったら強火で、7〜8分蒸していきます。
へえええ!強火なんですね。
表面が白くなってきたら食べごろです。つやつやになるんですよ。
フライパンで蒸しても大丈夫ですか?
はい!大丈夫です。ただ、フライパンで蒸すと、蒸気の水滴がお皿に落ちやすいので、せいろがある場合はせいろを使う方がよいと思います。
一切れくらいなら電子レンジでも大丈夫です。昔、一人暮らしをしていたころは、レンジでチンして食べていました。野菜不足になりがちだから大量にピクルスを作っておいて、付け合わせにして。それがこのレシピの発端なんです。
もともとはこのレシピも、ピクルスと合わせるつもりだったんです。でもピクルスを常備しているご家庭はあまり多くない。なので代わりにレタスを添えるスタイルにしています。
レシピから料理への熱量が伝わってくる
今井さんはいつから料理の仕事をされているんですか?
10年以上前からですね。名前を出して発信するようになったのは2020年からです。それまでは、無署名で企業のレシピ監修をしながら、料理教室を開いていました。
一生このままかなと思っていたんですが、この状況になって料理教室ができなくなってしまって。こうなる前までは、レシピをネット上に公開するのは、お金を払って来てもらっている生徒さんに悪いからと控えていました。でも、生徒さん達にお話してみたら、みなさん「公開して大丈夫です」って言ってくださったんです。
今井さんのレシピからは、相当料理をやっていらっしゃる方だというのが、伝わってくるんです。レシピを見ると、どれだけ料理を好きなのかがわかるじゃないですか。
うふふふ。すごい。コナンくんみたい!
調理法が独特ですよね。ブリは、一般的には焼いたり煮たりというレシピが多くて、あまり蒸さないと思うんです。初めてレシピに触れた時、「調理法で魅せたい」という思いをかなり持ってらっしゃるんだろうと感じました。
そこを指摘されると恥ずかしいですね。内緒にしているところが、丸裸にされているみたい。
ブリを蒸したり、イカで鍋を作ったり。オリジナリティに溢れたレシピばかりで、考えるの大変じゃないかなって思います。いつも、ひねって考えていますよね。
……泣いてしまいそう。
えっ!
やっててよかったなって。一生分ほめられたような気がします。まさに、この素材に対してこういう調理法をするんだ!っていう、新しい視点や手法を見つけたいんですよ。
(蒸し器の中のブリの様子を見て)もう良さそうですね。
はい!じゃあ器に盛っちゃいましょう。
レタスはたっぷり載せちゃってください。ブリにかぶるくらい乗せても大丈夫です。
(盛り付けながら)たしかにこのレタス、ピクルスっぽい感じになりますね。
完成です〜!
「ふわっふわ!」
おお〜うまそうだな。いただきます!
私もリュウジさんが作った蒸しブリを……わ!ふわっふわですね!
皮もすごくやわらかい。うまっ!
よかったぁ。
ふわっふわ!
声、おっきくなるんですね。
(笑)。
レタスめっちゃうまいですね。お魚とすごい合う。へえええ〜!小料理屋さんとかで出てきて欲しいな。ピクルスもすごく合いそうですね。僕ピクルス好きなんです。うまいなぁ。こういう味の料理を普段全然作らないので、よりおいしく感じますよね。
うふふふふ。
僕の考え方とは違う、僕が作らないレシピ。特にこのレタスを添えるというのは考えつかない。創作意欲がわいてきます。僕、自分のレシピではわりと味を強めにつけているんですけど、こういう、素材そのままの味を生かすような料理もすごく好きなんですよね。
私はいつもリュウジさんのYouTubeを見ていますよ。更新頻度がすごく高いから、体は大丈夫なのかなって思いつつ……
肝臓は……ちょっとダメかもしれない(笑)。
すごく勉強になっています。
あれ、参考にして大丈夫ですか?
参考にしかならないですよ。自分は絶対にできないことだらけで。一品一品をすごく大切にされているとも感じます。これはなぜこうするのか、どうして必要なのかなどを、ちゃんとみんなに伝えていこうっていう作業をされているんで。
リュウジさんのレシピは、誰がつくってもブレないようにできているなって、すごく思うんです。
まずは成功体験を持ってもらうのが一番大切だと思っているので、ブレないようにはしています。素材に味が左右されないようなものを作っていますね。
安心感がありますよね。すごく手厚い。ホスピタリティがある。
どこまで調味料を「解禁」するかの葛藤
僕のチャンネルは、普段料理をしない人たちもたくさん見てくださっているので、いろいろ質問が寄せられるのですが、今井さんのところはどうですか?
「代用するならどの食材が良いですか?」という質問が結構きますね。
その質問、僕のところにもかなり来ます。でも、本当は僕、代用をすることがあまり好きじゃなくて。それを受け入れられるようになるまでがけっこう大変でした。
あと、今でも材料をどこまで解禁するかで葛藤しています。この前やっとオイスターソースと豆板醤を解禁したんですが、本音を言えば僕だってケイパーとか使いたい。でも使ったらきっと「ケイパーってどこで売ってるんですか?」って質問が来るだろうし、「リュウジさん、なんだか変わりましたね?」って言われてしまったりするだろうなと……
自分の自由度はちょっと下げているんですね。
僕、料理を広めることしか考えてないんです。広めるには、めちゃくちゃバズらないといけないから、需要があるところを目指していかないといけないんです。でも、葛藤はありますね。
ほんとはもっと凝った料理を作ったり、マニアックな素材を使ったりもしたい。ここはナンプラーを使うとうまいんだけどなぁ、でも、ナンプラー買わないかなぁと悩んだり。
「至高のナムル」というレシピには、ナンプラーが入っているんですが、ほかでももっと活用したいです。ナンプラーをスープに入れるのが好きなんですよね。味にすごく深みが出る。(ふだんの料理には)結構なんでもナンプラー入れちゃいます。
私もナンプラー好きです。昔バイトしていたカフェの厨房担当の人が、ナンプラーでしか味付けしないんじゃないかってくらい、全部の料理にナンプラーを使う人で。でも、不思議と全部違う味に仕上がっていておいしかったんです。カレーにもナンプラーを入れていましたね。
カレーもナンプラーですか!それはおもしろいな。ちなみに僕はカレーにバナナを入れます。
つぶさずにですか?
つぶして入れ込みます。まずは玉ねぎとかと一緒に色づくまで炒めて、それから入れるんです。トロピカルになる。セブンイレブンで売ってるカレーのなかに、フルーツ感を感じるやつがあるんですが、それと似たような味になるんですよ。
料理ができると自由になる
ところで、小さい目標と大きい目標ってあると思うんです。たとえば、一生の目標と一年ごとの目標ってそれぞれあったりしないでしょうか?
僕、目標に関しても「料理を広める」しか考えていないです。この指針があることで、おのずと次の道筋がわかるんです。
なるほど……!
今井さんはなにか展望は?
展望、というのは特にないかもしれません。ずっと生活の延長にいる感じです。ただ、自分にできることはすごく限られているので、その中で、みなさんにいいなと感じてもらえている料理のテイストを、大事にしていきたいとはずっと思っています。あと、旬のものを大切にしたいです。
いいですね。変えないのって大事だと思います。僕は結構変えていくタイプですけど……
私はリュウジさんに憧れます。自分が絶対できないことをしているっていう憧れ。
僕の場合は、「みんなに料理をしてほしい」「まずは始めてほしい」という目的でやっているから、それを追求すると、このやり方しかないんですよね。
料理ができるようになると、すごく自由になりますよね。思い立ったらすぐに取りかかれて、失敗しても食べてしまえば残らない。一方で自分の作品にもなる。お料理がすばらしいってことは、私も伝えていきたいです。