はらぺこグリズリーさんのレシピ「極上の焼きおにぎり」をおやき風にアレンジして作る

リュウジのレシピトレード #2 前編

FOOD
2020.10.14

img_recipetrade_002_title.jpg

「料理好きな人ともっと仲良くなりたい!」という料理研究家リュウジさんが、ゲストを招いてお互いのレシピをトレードし、作り合いながら語り合う本連載。今回のゲストは手抜き料理研究家のはらぺこグリズリーさん。「手間をかけずに作れるおいしいレシピ」を得意とする2人が、レシピ開発や料理への思いを語り合います。

今回リュウジさんが作るのは、脅威のリツイート数8万超レシピ「極上の焼きおにぎり」。思わぬアクシデントがあったものの、リュウジさんの持ち前の発想力と即興力で、焼き目増し増しの新形態「おやき風」が誕生しました。

極上の焼きおにぎり


材料(2人分)

img_recipetrade_002-01.jpg

  • 【極上の焼きおにぎり】
  • ごはん…200g
  • しょうゆ…大さじ1と1/2
  • みりん…小さじ1
  • ごま油…小さじ1
  • 本だし(だしの素)…小さじ1/2
  • 【しめのだし茶漬け】
  • 塩昆布、ワサビ…適量

作り方

【極上の焼きおにぎり】
1. 器にごはん、しょうゆ、みりん、ごま油、本だしを入れて混ぜる。
2. 混ぜたものをラップで包んで、おにぎりの形に握っていく。
3. フライパンに2を入れて中火〜弱火で両面こんがり焼いて完成。
※おやき風を作る場合、2は不要。3の工程で、フライパン上でごはんを薄く伸ばし、ぺたぺたと固めながら焼く。
【しめのだし茶漬け】
1. 器に焼きおにぎり、塩昆布、ワサビを入れる。
2. 熱湯をそそいで完成。

共通点はレシピ本大賞

簡単に作れるのにおいしい。そんなレシピを得意とするリュウジさんとはらぺこグリズリーさん。ともに「料理レシピ本大賞 in Japan」の大賞受賞者という共通点も持っています。

じっくり話し合うのは今回が初めて。リュウジさんの自宅キッチンから、はらぺこグリズリーさんの自宅キッチンへZoomをつなぎ、リモートで進めていきます。

img_recipetrade_002-02.jpg

「一冊つくるのに2年かかっている」

はらぺこグリズリー

めちゃくちゃ緊張しますね。昨日からずっと緊張していたんです。

リュウジ

ぜんぜん緊張する必要ないですよ。こういうかたちでメディアに出ることは、あまりない感じですか?

はらぺこグリズリー

そうですね。初めてです。

リュウジ

僕、この焼きおにぎりのレシピをTwitterで見た時に「やられた!」と思ったんです。うわー超バズってるなぁ、僕がやったことにならないかなと(笑)。良いレシピ、まだまだあるんだなぁと思いました。

はらぺこグリズリー

とんでもないです!

リュウジ

グリズリーさんの最初の著書『世界一美味しい煮卵の作り方』も読みました。その時に「この人の本に僕、勝てないな」って思ったの。本当にすごい本だと思って。

img_recipetrade_002-03.jpg

はらぺこグリズリー

ありがとうございます。恐縮です。

リュウジ

何がすごいかって、料理できる人が作っているのに、目線が、料理できる人の目線じゃないんですよ。自分が料理好きで、料理ができると、つい「これくらいはできるだろう」って、無意識のうちに決めつけてしまうこともあるんです。僕もそうなんですけど。

 

でもこの本には「これは当たり前なのでは」というところまでもが、ちゃんと書いてある。わかるようになっているんだよね。しかも、ひとつのレシピに工程写真が6枚とか入っていて。撮影、相当大変だったんじゃないかって思うんです。

img_recipetrade_002-04.jpg

はらぺこグリズリー

大変でした。1日に3000枚とか撮影してもらって。どの角度からの写真なら、ユーザーの脳味噌にすっと入るのかも考えました。文章の改行をする際、何文字で区切るとわかりやすいのか、どういうレイアウトだと見やすいのかも試行錯誤して……

リュウジ

みんなにおいしいもん作ってもらうんだ!っていう気合いがもう段違いですよね。読めば、グリズリーさんがどんだけこの本に命かけてたのかかわかるもん。へたに自分を出していなくて、見る人のことしか考えてないんです。ここまで徹底してユーザーのことを考えている本はない。

はらぺこグリズリー

そのかわり僕、すごく遅いんですよ。作るのが。ひとつの本作るのに無茶苦茶時間かかるタイプで。一冊作るのに2年かかっています。「20代は何していたんですか?」と聞かれたら、「本作ってました!」みたいな……

リュウジ

でもねー、これだけやってたら買いますし、もう正直、料理をこれから始めるっていう人は、全員この本買った方がいい。

img_recipetrade_002-05.jpg

リュウジ

本をどう作ったのかが書かれているブログも読んだんですけど、僕、びっくりして。こんな目線をもった料理家さんがいたんだと思って。ブログの記事、貼っておいたほうがいいです。めっちゃめっちゃ勉強になるから。これから料理家を目指す人は、絶対見た方がいい。

はらぺこグリズリー

めちゃくちゃ褒められてる(照)。

焼きおにぎり、新形態に変身

リュウジ

それじゃあまず、何を用意しますかっ!?

はらぺこグリズリー

ごはんを200グラム、お願いします。余りものでも、あったかくなくても、冷たくても大丈夫です。

リュウジ

僕、今日は炊きたてを用意しといたんだよね。ふだんはサトウのごはんしか使わないんだけどね、今回は炊きたてでいきます。久々にコシヒカリ炊いたわ〜。

はらぺこグリズリー

サトウのごはんおいしいですよね。ごはんを用意したら、しょうゆとみりんを入れます。

リュウジ

みりん入れるんですね!ごはんにかける感じで入れちゃっていいですか?

img_recipetrade_002-06.jpg

はらぺこグリズリー

はい!あと、だしの素とごま油を入れます。このふたつが味付けのポイントです。

リュウジ

ごま油!このタイミングでごま油を入れるってあんまりないですね。

はらぺこグリズリー

焼く時には油を引かないんです。でも、ごま油の風味が効いていたらおいしいかなと。

リュウジ

ごま油入れたらなんでもうまくなるからね。僕もだいたいごま油入れる。(混ぜながら)いい匂い!けっこうパラパラになりますね。

img_recipetrade_002-07.jpg

はらぺこグリズリー

ラップに包みながら、固めに握っちゃってください。もし崩れそうになった場合は、もう1枚上からラップをかけて、ぎゅっと握っても。さらにやるならば、形を作ったあと、少し時間をおいて形状記憶させるのもおすすめです。

リュウジ

……僕ね、おにぎり握るのめっちゃ下手なんだよ。

スタッフ

まさかの弱点が!

はらぺこグリズリー

ちなみにもし、焼くときに崩れてしまったら、炒めてチャーハンにしちゃってもおいしいです。

リュウジ

(おにぎりを握りながら)やべえこれ、崩れたらどうしよう……。

img_recipetrade_002-08.jpg

はらぺこグリズリー

崩れたら僕のミスです!

リュウジ

いやいやいや、これグリズリーさんのせいにしたくないからね。料理家あるあるなんだけど、作ってくれた方が失敗すると、料理家が悪い……みたいなことなんですよ。僕もそう思うから。

 

だから絶対失敗させたくない。したくない。「あ、失敗しちゃいました!」ってなると「誰でも簡単にできないじゃないか!」ってなっちゃうから。

はらぺこグリズリー

わかります。

リュウジ

(フライパンを火にかけながら)フライパンに油をひかない、っていうのがポイントなんじゃないかと思うんですよね。

img_recipetrade_002-09.jpg

はらぺこグリズリー

はい。いい感じに焦げ目がつきやすくなるんです。

リュウジ

やーー……これはめっちゃ緊張するな。

img_recipetrade_002-10.jpg

リュウジ

おお、ちょっと割れてる……あーーーーわーくずれちゃった!

 

(3秒くらい悩むリュウジさん)

……ちょっと待って。これね、このまま1回やっていい?グリズリーさん、これ、アレンジしてでっかいおやきにしてもよいですか?

はらぺこグリズリー

おいしそうですね。

スタッフ

違う料理が始まった……!

img_recipetrade_002-11.jpg

リュウジ

すみません!……でもわかった。これ、米の炊き方が悪いんだ。いま一粒食べてみたんですけど固い。僕の炊き方が悪いって書いてください。

 

ふつうの柔らかさだったら絶対成功していたと思います。ここのところ、いっつもサトウのごはんだったから、ごはんの炊き方を忘れた……。たいへん申し訳ない!でも焼き目は完璧。めっちゃうまそう。

img_recipetrade_002-12.jpg

はらぺこグリズリー

何になってもおいしいので大丈夫です!

リュウジ

(画面越しに、グリズリーさんに出来上がりを見せながら)こんな感じになってしまったんですけど……失敗したから言うわけじゃないんだけど、焼く面が大きくなっているから、香ばしくなっているんじゃないかなと思います。新解釈ということで……、言い訳をさせてくれ!

はらぺこグリズリー

いえいえいえ。めっちゃおいしそうに作っていただいてありがとうございます。

img_recipetrade_002-13.jpg

香ばしいお茶漬け、なかなかない

リュウジ

それじゃあグリズリーさん、食べさせていただきます。

img_recipetrade_002-14.jpg

リュウジ

うあ、香りがめっちゃいい!この、しょうゆの焼けた香り……!(口に含み、食べる)ああ、これはバズるね!

はらぺこグリズリー

バズってる方にそう言われると恐縮です!

img_recipetrade_002-15.jpg

リュウジ

あーーうまい!フライパンで焼いただけなのに、めっちゃ香ばしいですね。ごま油の香りとおしょうゆの香りが、どっちも効いてる。米の焦げたところが、すっっごいおいしい。出汁をきかせたのもいいね。あと、締めでお茶漬けにもできるんだよね。これ、食べたかったんです。

はらぺこグリズリー

はい!ぜひ作ってください。

リュウジ

塩昆布は……どれくらいですかね?

はらぺこグリズリー

ひとつかみとかで大丈夫です。

リュウジ

わー。こーれーは、たまんないでしょ。たまらないわ。お湯を注ぐだけなのもいいですね。

img_recipetrade_002-16.jpg

はらぺこグリズリー

はい。おにぎり自体に風味がついてるんで大丈夫なんです。

リュウジ

いただきます!……わ!(思わずビールに手が伸びる)うわぁ〜〜〜〜、うまいね。むしろ、お茶漬けを食べたいかな僕。焼きおにぎりもめっちゃおいしいんだけど。

img_recipetrade_002-17.jpg

はらぺこグリズリー

(お茶漬けという)ゴールに向けて考えたレシピなので、そう言っていただけてすごくうれしいです。焼きおにぎりでもおいしくて、さらについでで、汁にしてもおいしいっていう「両立」のレシピにしたかったんです。

リュウジ

うめえ!!最高だよこれは。いくつも焼いておいて、お茶漬け用にストックしておきたいです。香ばしさのあるお茶漬けってなかなかないですからね。焼く意味があるというのがいい。これはね、本当においしい。

 

焼きおにぎりをお茶漬けにするというのは、僕も、島根県の郷土料理のレシピを持っているんですけど(著書『県民バズごはん』掲載の「焼きめし茶漬け」)、それはね、お味噌を塗って、トースターで焼いて……って結構めんどくさかったんです。これはシンプルでおいしい。料理家として学びがありますね。

はらぺこグリズリー

ついでで作るからこそ、簡単にしたいなと思ったんです。

リュウジ

グリズリーさんはゴールを見据えてレシピを作るタイプですか?

はらぺこグリズリー

目的にもよるんですが、絶対におさえたいのは「簡単でおいしい」という大前提です。そして、読者の人が「作って、手に取ったときにうれしいもの」を作りたいというのがすごくあります。

 

『世界一美味しい手抜きごはん』のまえがきにも書いたように、「冷奴を作るような手軽さ」で「手の込んだようなレシピ」が作れたらいいなあと思っています。できたとき、期待を超えたうれしさを感じられるようなものにしたいんです。

「読者の目線で作りたい」は自分の意思

img_recipetrade_002-18.jpg

リュウジ

「役に立ちたい」っていう意識が強い感じですか?

はらぺこグリズリー

そうですね。でも僕は、僕自身が「読者の目線で作りたい」と思っていて。やりたいこととやっていることが一致しているんです。喜んでもらえることが、うれしいんです。

リュウジ

その気持ちがレシピにも出ていますよね。ユーザー目線で考えられるというのは、才能だと思うんです。グリズリーさんは、今後どうなっていきたいかというビジョンはあるんですか?

はらぺこグリズリー

僕は、ずっとなにかを一生懸命作って、納得いくかたちにして、世に出していく……ということをずっとやっていたいです。料理以外にも将棋も好きで……

リュウジ

将棋!?

はらぺこグリズリー

僕、将棋が趣味なんです。それで、こんなにおもしろいのだから、もっと世に広めたいと思っていて。ここ何年か、将棋のゲームアプリを友人たちとゴリゴリ開発しています。

 

ほかにも、「TOEICで800点取る方法」という記事を書いたことがあって、その時、世の中の人に喜んでもらえたことがうれしかったんです。なので、例えば、誰でも英語がわかるようになる本を出してみたいですね。とにかく、人の役に立つものを全力で作り出しつづけたいです。

リュウジ

幅広いですね!

はらぺこグリズリー

興味がいっぱいあって、目移りしちゃうってだけで。でも、1個作るのにめちゃくちゃ時間がかかるんで、作りたいものはいっぱいあるのに、まだ全然できていない……という状態です。

リュウジ

なるほど。めちゃめちゃクリエイティブな人だっていうことが、今日わかりました!

後編につづく

この記事をシェアする

取材・文:ネッシーあやこ
撮影:洲脇理恵(MAXPHOTO)