じゃがいもと干しエビの冷菜/じゃがいもポタージュ/醤油味の粉ふきいも
旬の食材を使った「五感をひらくレシピ」を、自炊料理家の山口祐加さんに教えてもらいます。第八回のテーマは、「じゃがいも」。定番の食材ですが、じっくり向き合ってみるとまだまだ知らない魅力がありそうです。山口さんのじゃがいもへの愛がつまったレシピ三種、ぜひ楽しんでくださいね!
待ちに待った秋!と思ったら、あっという間に冬のような寒さ。体がなかなか思うようについていかない、なんて人も多いのでは?
先月の記事で「今月と来月に分けて(きのこを)ご紹介したい。」と書いたのだが、急に寒くなってきてしまったので、今回はほっこり食材の定番「じゃがいも」にフォーカスすることにしたい。
じゃがいもはドイツやフィンランド、ペルーなどでは主食の一つとされ、保存性と汎用性共に秀でているため世界中で食べられている。
世界中の料理を家庭料理に取り入れる日本でも、必ず家にある食材の一つだと思う。肉じゃがにコロッケ、ポテトサラダにグラタン。挙げればキリがないほど、じゃがいものどっしりとした懐に私たちの食卓は支えられている。
定番料理の印象が強いじゃがいもだけれど、それ以外の調理法ももっと知られていいと思う。何を隠そう、私は中学校の頃撮ったプリクラに「I LOVE POTATO」と書くほどじゃがいもを愛して止まないのだ。
火の入れ方、味付けの仕方によってどんどん顔を変え、和洋中全部いける。年中流通していて、価格も安定していて高くない。こんなに便利な食材はなかなかない。時には主役にもなり、もちろん脇役にも回ってくれるじゃがいもの魅力をお届けしたい。
じゃがいもはげんこつのような形の男爵と細長い形のメークインが二大巨頭。男爵はほくほくした食感で煮くずれしやすく、ポテトサラダ、コロッケなどくずして使う料理向き。一方メークインはしっとりとした食感で煮くずれが少なく、炒め物や揚げ物など、形をくずしたくないときに向いている。
ほかにも「インカのめざめ」や「キタアカリ」などの種類も出回っているが、今回はどのスーパーでも手に入る男爵とメークインを使って料理してみよう。
じゃがいもと干しエビの冷菜
最初は、じゃがいものほろっとした食感のイメージを覆す、シャキシャキの食感が楽しい中華風の冷菜から。
この料理、実は私が手順を失敗したところから生まれた。
数年前のある日、私は味噌汁を作ろうとしていた。いつもじゃがいもは小さめの一口大に切るけれど、今日は千切りにしてみよう!と、ノリノリで千切りにし、湯の中に放った瞬間、出汁がどろどろになった。
「そうだ、じゃがいものでんぷんは片栗粉の原料だった……」と気づき、自分の失敗に一人で笑ってしまった。
このままでは食べられないので一旦ざるに上げる。火が入った状態のシャキシャキのじゃがいもを見た時、以前食べた中華料理のじゃがいもの冷菜を思い出した。そこで、それをまねて油や塩で味をつけて食べてみたところ、これがシャキシャキでうまいこと!
その日から気分を変えてじゃがいもを料理したいときは、この冷菜を作るようになった。
メークインは皮をむき、千切りにする。スライサーを使って薄切りにし、そこから千切りにすればちょっと楽チン。神経質になる必要はないが、できるだけ細い方がこの料理らしさがでるのでおすすめ。
千切りにしたじゃがいもは水にさらし、表面のでんぷん質をしっかり落とす。お湯を沸かし、沸いたところにじゃがいもを入れて30秒〜1分茹で、じゃがいもに透明感がでたらすぐざるに上げて冷やす。
水気を切ったじゃがいもに、「ごま油:お酢:塩=3:1:少々」の具合で加えて味をつける。茹で上がったところに調味料を和えた時に、ごま油やお酢の、それぞれの香りがふわっと立ち上がってくるのが好きだ。今回は最後にうまみをプラスするため、干しエビを刻んで加えてみた。
大根サラダのようなシャキシャキ感があり、「これ、ほんとうにじゃがいも?」と疑うほど。目を閉じて、頭にまで響くシャキシャキ音を楽しんでみてほしい。
細く切ったじゃがいもは味の主張がなく、調味料を味わう料理と言っていいかもしれない。じゃがいもが主役の料理なのに、名脇役の本領を発揮してしまう。食べ飽きなくてするっとお腹に収まってしまう。
メークインじゃないとできない食感、お試しあれ。
牛乳もコンソメも使わない、じゃがいもポタージュ
じゃがいものポタージュといえば、ヴィシソワーズ(冷製スープ)が有名。けれど材料が多くて、日常的に作るのはちょっと億劫になる。そんなときは牛乳もコンソメも使わない、シンプルなスープが作りやすい。
皮をむいた男爵2個に対して、玉ねぎは1/4ほど。それぞれ食べやすいサイズに切り、ひたひたまで水を入れて弱火にかける。15分経った頃に一回混ぜ合わせ、もう15分弱火で加熱を続ける。ふつふつと煮えていく鍋の中身を眺めている時間は、平和な気持ちになれる。
ぐずぐずになった鍋の中身をハンドブレンダーで混ぜ合わせ、お好みのゆるさになるまで水を加える。味付けには塩、最後にオリーブオイルをたらせば完成。
もったりとした口当たりのスープが口の隅々まで広がっていく。じゃがいもの品のよい香り、玉ねぎの甘み、素材のおいしさに蓋をしない味わい。じゃがいもの堂々としたおいしさにくらくらする。舌の上でスープを転がしてみると、でんぷんのざらっとした食感が感じられる。
もしじゃがいもの重たさが苦手であれば、じゃがいもは少なく、玉ねぎを多くすればさらっと仕上がる。塩を入れる前に分けておけば離乳食にも使える、便利なスープだ。
醤油味の粉ふきいも
先日、仕事の打ち合わせをしていたとき「地味なおうちごはん」の話題になり、その中で「鹿児島にいるうちの母は、粉ふきいもを醤油と砂糖で味をつけるんです。味に飽きたらマヨネーズを足してアレンジ。これがまたおいしいんです」というお話を聞いた。そういえば粉ふきいもなんて小学校の家庭科実習以来、作っていない。これはぜひ作ってみたいと思ったのだ。
粉ふきいもにするなら、煮崩れしやすい男爵の出番。食べやすいサイズに切ってひたひたの水を入れて茹でる。10分ほど茹で、すっと箸が通ったら湯切りする。同じ鍋で弱火にかけ、ゆすりながらゆっくり粉をふかせる。家庭科実習を思い出し、懐かしい気持ちになった。
ほどよく角が取れたところで、醤油と砂糖をちらちらと入れる。わかっていたけれど、なんと地味な見た目。そしてそこがおいしそうだ。
一口頬張れば、ほろほろとくずれていくじゃがいもがたまらなくおいしい。自分でははじめて作ったのに、ずっと前から知っている味。「こういうのが食べたかった」と素直に思った。
3品作ってみて、まだまだじゃがいもの魅力は掘り起こせるなと実感した。定番だけにとらわれず、調理法、切り方、味付けを変えて、じゃがいものおいしさをもっと発見したい。