菜の花のオイル蒸し/菜の花と干し小エビのスープ

五感をひらくレシピ #1

FOOD
2020.03.23

「料理」は、食べる時の「味覚」だけでなく、実は五感を使って楽しむことができるものです。料理をする過程には、食材を「愛でる」ポイントがたくさんある、と、自炊料理家の山口祐加さんは言います。そんな山口さんに、旬の野菜を使った「五感をひらくレシピ」を教えていただきました。


img_gokanrecipe_001-01.jpg

料理をしているとき、ふと「野菜ってきれいだなぁ」と思うことがある。そういうときは手を止めて、まじまじと観察する。近くで見ると、普段気づかない野菜の特徴に気が付く。

「見た目」だけでない。例えばオクラをさわっていると、指先にチクッとする感覚がある。よく見ると表面のうぶ毛が固くなっているのがわかる。それを指先で感じたのだ。

五感ポイント 触れて楽しむ

新鮮であればあるほど、うぶ毛はかたい。鮮度のいいうちに食べられるって、いいものだ。

同じ名前の野菜でも、時期や産地が異なれば味も異なる。厳密にいえば、一つひとつサイズも違うし、寸分たりとも同じ野菜は存在しない。人間と同じだ。

野菜を洗う時の手触り、オリーブオイルで炒めたニンニクの香り、煮物がコトコトと煮える音。料理中の音や香りは、波の音や、肌を撫でる風のように、自然と人を癒してくれる。慌ただしい気持ちを落ち着かせ、五感から入ってくる情報としっかり向き合いながら料理をすれば、レシピがなくても、今の気分にぴたっと寄り添ってくれる料理を作ることができる。

料理の楽しさは、自分の感覚を信じながら、ジャズのようにその場の流れを読み、最終的に「いい感じ」の着地を目指すところだと思う。もし、着地がうまくいかなかったとしても、料理のプロセスが楽しければ、そんなに落ち込まない。

この連載では、旬の野菜をベースに「五感をひらく」料理を提案してみたい。食材の触り心地や香り、火入れする時の音などに神経を研ぎ澄ませる、「食材を楽しむための料理」とでも言えばいいのだろうか。

スマホや部屋の音楽は一旦止めて、少しの間、夢中になって料理をしてみる。きっと作り終わる頃には、頭がすっきりして、なんだか心もしゃんとして、そして味がじんわり感じられるはずです。

***

春野菜の代名詞・菜の花。春らしい、花がついた野菜。菜の花を買ってきたら、一本だけグラスに生けてみる。すると、数日のうちに花を咲かせ、当たり前だけど「そうか、花を食べているんだな」と気づく。

五感ポイント 目で楽しむ

菜の花を咲かせてみる

今回は2つの菜の花を買った。スーパーでよく見かけるレンガのようにぎしっと束になった菜の花は、よく見ると花の部分を表に出すために葉が折られている。そのままの方が、「生き物」として自然に感じる。

野菜は買ってきたらボウルに水をはって入れておくと、シャキッとする。

シャキッ

菜の花のオイル蒸し

最初に作るのは「菜の花のオイル蒸し」。

オイル蒸しとは、厚手の鍋に野菜を適当に切って入れ、オリーブオイルをたっぷりかけて蒸し煮にするシンプルな料理。野菜の水分で蒸し煮にすることで、甘みが際立つ。単品の野菜でも、緑野菜を組み合わせても、おいしくできる魔法の調理法だ。

五感ポイント 素材を味わう 葉を食べてみる

菜の花1束を食べやすいサイズに切る。ここで一枚、葉をちぎって食べてみる。今回の菜の花は思ったより苦くなくて、ケールみたいな味だった。茎のかたさをよく覚えておく。

厚手の鍋に茎から入れ、葉っぱまで全て入ったら、オリーブオイルを3周ほどたっぷり回し入れる。蓋をして、中火で加熱。1分ほどたち、じゅわじゅわと音を立ててきたら、弱火に落とす。

五感ポイント 耳で楽しむ

2分に一度、蓋をとり、上下を混ぜ合わせる。そのときに、「ジュージュー」という音に耳をすませながら、菜の花の様子を観察する。

6分ほど炒めたところで、塩ひとつまみを入れてまぜ、もう2分炒める。まだ緑色が残るこの段階でやめてもいいし、もっとくたくたにしたければ4分くらい加熱するとよい。お好みのタイミングで皿に取り出す。

つやが出た菜の花は、見るからに「おいしいですよ」という顔をしている。

菜の花のオイル蒸し

一口食べると、ほんのりした苦さと甘みが口いっぱいに広がる。地味だけど強烈なおいしさ。固かった芯は、舌で潰せるくらいに柔らかくなった。菜の花クリームと言ってもいいくらい、なめらかでやさしい食感。菜の花のうまみを存分に味わいたいならこの料理で決まり。

菜の花と干し小エビのスープ

五感ポイント 香りを楽しむ

菜の花のさっぱりとしたほろ苦さを味わうなら、茹で汁もすべて味わえるスープはどうだろう。1杯分のスープ皿に入る水を沸かして、干し小エビをひとつまみ。沸騰したら菜の花を入れて、2分ほど茹でる。立ち上る湯気からも、菜の花の香りがする。頃合いを見て、塩で味をつける。

できるだけ菜の花の味を口にとどめておけるように、水溶き片栗粉でとろみをつけてみた。

菜の花と干し小えびのスープ

熱々のスープを口に運ぶと、「これが食べたかった!」というストレートな菜の花の味がする。鶏ガラスープの素を入れ、もう少し濃い味付けにして、素焼きそばにかけてもおいしそうだ。そんなことを考えながら、にやにやして食べてみる。

***

私たちはただお腹を満たすために食べているのではななく、移ろいゆく季節を愛でる楽しさも一緒に食べている。少し時間をとって、自分が「心地良い」と感じるままに料理してみる。「感じ方」を変えるだけで、料理は想像以上に違う顔を見せてくれるのだ。今だけの春の息吹を、ぜひ感じてみよう。

この記事をシェアする