離れていても一緒に楽しめる「新しいお月見」渥美まいこさん×今井真実さん対談
食べ物の語源やルーツを伝えるコラム「食べ物ABC」を執筆する食トレンド研究家の渥美まいこさんと、料理レシピが大人気の今井真実さん。アイスムでも縁の深いお二人が、昨年から仲間とともに新しい試みを始めたそう。その名も『#新しいお月見プロジェクト』!
古くから伝わる年中行事「お月見」を現代に合う形にアップデートすることで、子どもから大人まで世代を問わず、離れた場所でも共通体験ができる楽しみ方を提案しているのだとか。
十五夜(今年は9月21日)を前に、『新しいお月見』についてお二人にお話を伺いました。
また、お月見団子に見立てた「ひと口おにぎり」の作り方を今井さんに教えていただきます。簡単なのでお子さんと一緒に作れますよ。
今の暮らしになじむ、『#新しいお月見プロジェクト』
ーーまずは『#新しいお月見プロジェクト』について教えてください。
『#新しいお月見プロジェクト』は、日本古来の伝統行事である「お月見」を、今の暮らしに合わせて楽しもうという取り組みです。あまり知られていないお月見の文化について調べたり発信したり。「お月見ってこんな楽しみ方もあるんだよ」っていうおもしろさをたくさんの人に伝えられたらいいなと始めました。今年は十五夜に合わせ、オンラインのお月見会も開催します。一緒に月を見ながら乾杯したり、お月見の由来や、楽しみ方を語り合う予定です。
ーーそもそも、渥美さんが「お月見」について注目したきっかけは何でしたか?
昨年の6月頃、夏のお祭りが次々中止になっていくのを見て、「もう気軽に人と集まれなくなっちゃったんだな」ってすごく悲しい気持ちになっていたんです。そんな時、当時2歳の息子が「読んで」って持ってきたのが、せなけいこさんの絵本『おつきみおばけ』(ポプラ社)。そこで初めて「そういえば日本にはお月見文化があったな」と。
離れた場所にいても月は同じように見られる。人と距離を保たなきゃいけない今の状況でも、人々が一緒に楽しめるんじゃないか」と、Twitterで何気なく呟いたら結構反響があって。
今井さんもそのツイートに反応してくれたひとりでしたよね?
そうそう!渥美さんが「お月見料理ってどんなのがあるかな、今の時代に作りやすいものがいいな」って書かれていたので「おもしろそうですね!」って返信したのが始まりで。そこから色々やり取りさせてもらって。
今井さんを始め、色々な方から反応をいただけたことで手応えを感じたんですね。ただ、その時は私もまだ「お月見の時はススキを飾ってお団子を食べる」くらいの認識しかなくて。でもそれって準備が大変じゃないですか。だから誰でも無理せず取り組めるように、お月見を現代風にすることを考え始めました。
この企画に賛同してくれた主要メンバーを「お月見仲間」と名付けて、TwitterのDMで毎日のように意見を出し合って。その一環として、昨年の十五夜には参加者を募って「お月見会」(※)も開催したんです。
※「新しいお月見会2020」 レポートはこちら
楽しかったですね。私もお月見料理として輪切りさつまいもの蜜煮や、お月見に見立てて小さく丸めた新米のおにぎりなどを作らせていただいて。お月見は秋の実りをお祝いする行事だから、旬の食材をふんだんに使いました。
素朴な中にも特別さが感じられて、おいしかったですよね。
お正月が“ハレ”なら、「新しいお月見」は“ケ”の行事とも言えると思います。窓辺に椅子を置いて月を眺めるだけでもいいと思うんですよ。カルチャーとして残しながらも、日常の延長として無理せず楽しむ。お月見はそうやって繋げていける文化なんじゃないかなと思います。
「お月見」は東アジア共通の文化
当日のディスプレイもとっても素敵でしたよね。和の要素の中にアジア感があって。お月見はしっとりした雰囲気で、ハロウィンのようにポップになりすぎないのがいいなと思いました。
もともとお月見は中国から伝わった文化で、韓国や台湾、ベトナムのような東アジアでもそれぞれ文化があるんですよね。中国ではお月見の時に家族そろって月餅を食べるそうですし、台湾ではちょっと独特で焼肉を食べる風習があるとか。国が違っても、今同じ月を見て楽しんでいるんだなと思うと面白いですよね。
親子で、家族で一緒に。お二人が考える「お月見」の楽しみ方
ーーお二人ともお子さんがいらっしゃいますが、親子や家族でのお月見の楽しみ方についてはどう考えていますか?
うちには3歳の息子がいるんですが、子どもが生まれてからはお食い初めやお宮参りなど伝統行事を意識する機会が増えましたね。保育園でも七夕で短冊を書いていますし。ただ、お月見についてはあまり気にしてこなかったなあ。今井さんはどうですか?
夫の実家が農業を営んでいることもあって、行事食を大切にしていて。家族みんなで田植えの手伝いもするので、お月見に限らず年中行事を自然と意識するようになりました。ただお団子は年中作っているかな(笑)。
うちは13歳の女の子と6歳の男の子のきょうだいですが、学校帰りの習い事や遊びの前に「よく噛んで食べてね!」ってお団子を口にポンと放り込んで。
えーっ、それいいなあ!普段から身近だったんですね。
でも、お月見の時はお団子を15個作るじゃないですか。核家族だとその量はなかなか食べきれないですよね。
そうそう。それにお団子はすぐにかたくなっちゃうし。だから今井さんがイベントで作ってくれた「お月見おにぎり」のアイデアがすごく良いなと思ったんですよね。
日本でも一部の地域で「お月見どろぼう」という風習があるんです。
月の使者である子どもたちは、お月見の夜だけお供え物を盗んでいいとされていて。今は家を訪ねてお菓子をもらう形に変わっているようですが、ハロウィンの「トリックオアトリート!」とすごく似てますよね。でも「お月見どろぼう」を家族だけでやるにはちょっと寂しいかな(笑)。他にどんな楽しみ方ができるかなあ。
目玉焼きやお皿とか、おうちにあるまるい物、まるく仕上がる料理から“家にある月”を探すのも楽しそう。
それにお月見は新米がおいしい季節だから、この日だけは鍋炊きしてみるとか。食卓の真ん中にごはんを置いて、旬の秋鮭やいくらを並べて家族みんなでセルフおにぎり。お月見おにぎりはひと口ずつラップに包んで作るので、子どもと一緒に作業することでグラムの概念を教えるのにも役立つんです。
それにさつまいもを入れたお味噌汁があれば十分ごちそうですよ。
いいですね!
うちの子、料理に興味が出てきたのか、卵を割ったり野菜を切ったりしたがるようになってきたので喜びそうです。
料理以外だと、「お月見プレイリスト」とか「お月見に観る映画」とか個々にセレクトするのもいいですよね!Twitterやnoteで誰かが発信してくれたらいいな(笑)。
それおもしろい!
お月見行事を通じて、子どもが歴史や文化について考えるきっかけが生まれるといいですよね。
ーー「新しいお月見」で「今後こんなふうにしていきたいな」という想いはありますか?
私は、お月見がバレンタインくらいメジャーなイベントになったらいいなと思ったりしてます。注目する人が増えれば活気づきますし、ゆくゆくはお月見文化をきっかけに、伝統工芸品や和菓子、日本酒など、日本ならではの文化にも光が当たると嬉しいです。
どんなに離れた場所にいても、空を見上げればみんな同じ月が見られるのがお月見の良いところですよね。都心では明るすぎて星が見えないこともあるけれど、月ならその心配もないですし(笑)。
東京オリンピック開催の時、ブルーインパルスをみんながいっせいに見上げたように、十五夜の夜、どこにいても体験を共有できる「お月見」が現代に合う新しいカルチャーになっていったらいいですよね。
本当にそうですね。みんなで集まるだけがイベントじゃない。
年中行事のうち、「それぞれの場所でみんな盛り上がろう」っていうイベントがひとつくらいあってもいいかなって思うんです。
お月見団子に見立てた「ひと口おにぎり」
お月見と言えばお団子。だけど作るのは意外と手間がかかりますよね。そこで今井さんが提案するのが、ラップでくるくるねじって作る「ひと口おにぎり」。今回は6歳になる今井さんの息子さんが一緒に作ってくれました。
材料(作りやすい分量)
作り方
- 1. ごはんにほんのり塩味をつけるため、1合に対し塩小さじ1弱を入れて炊飯する。
- 2. 炊き上がったごはんをおひつかボウルに移し、切るようにほぐす。
- 3. はかりの上にラップを敷き、梅酢に浸しておいたスプーンを使って、ごはんを大さじ2(30g)のせる。
- 4. ラップのふちを持ち上げて上の部分を合わせねじり、形を整える。