「至高のハンバーグ」をアジカン伊地知潔さんが作る
料理研究家リュウジさんとゲストがお互いのレシピをトレードし、料理をしながら語り合う本連載。今回のゲストは、ロックバンド「ASIAN KUNG-FU GENERATION」のドラマーであり料理研究家としても活躍する伊地知潔さん。伊地知さんが選んだレシピは、リュウジさん曰く「僕のレシピの中でも特に複雑」という「至高のハンバーグ」。そこにさらに伊地知さん風にアレンジを加え、刻んだ砂肝を混ぜています。
至高のハンバーグ
材料(作りやすい量)
作り方
- 1. バターを溶かしたフライパンに、みじん切りにした玉ねぎを入れて、焼き目がつくまで炒める。途中で塩(少々)をふると、早く仕上がるのでおすすめ。
- 2. 冷蔵庫から取り出したひき肉をボウルに入れ、粗熱をとった玉ねぎ、コンソメ、パン粉、塩、黒こしょうを加える。
- 3. 袋に入ったままの牛脂を手で揉んでやわらかくし、細かくちぎって2に加える。さらに卵、水、粉ゼラチンを加え、手早くこねる。
- 4. 3のタネを2等分して、空気を抜きながら小判型に成形する。
- 5. フライパンに油をひき、4を入れて弱火で焼く。
- 6. 両面1分ずつ焼いて焦げ目をつけたら、水を加え、蓋をして4分蒸し焼きにする。
- 7. 器に盛りつけ、【ハンバーグソース】の材料を同じフライパンで煮詰めてかける。
かなり細かいレシピ

トレードするレシピに「至高のハンバーグ」を選んでくれてすごく嬉しいです。このレシピ、かなり計算しながら作っていて、思い入れのあるレシピなんです。結構めんどくさいんですけど。僕のレシピのなかでも、難易度トップ3に入ると思う。

ほんと!

まず、玉ねぎを切るんですが、みじん切りしたあと一度炒めます。玉ねぎだけ先に炒めてしんなりさせることで、やわらかい食感のハンバーグを作るんです。
あ、合い挽き肉は出番がくるまで冷蔵庫に入れておきましょうか。基本、料理で使うお肉は常温の方が良いんですが、このハンバーグは冷たいお肉で作る方がいいんですよ。温度が上がると肉汁が出てきてしまうので。

(半分に切って玉ねぎの皮をむき始める)

玉ねぎの切り方ひとつとっても、人によって結構違いますよね。

違いますよね。全然。

僕は先に玉ねぎの上下を切り落としてから皮をむいています。みじん切りはけっこう細かめに刻んじゃってください。玉ねぎを炒めるのにはバターを使います。

バターを溶かしてから玉ねぎを入れる感じ?

溶かす前に玉ねぎを入れちゃっても大丈夫です!
あと、ここでちょっと塩を振ります。浸透圧でしなっとさせるんです。…「浸透圧」という言葉を使うくらい、本気のレシピです。

(笑) いいにおい。

玉ねぎの水分は飛ばしちゃいます。そうしないとタネがゆるくなっちゃうので。軽く色づいて、玉ねぎのかさが最初と比べて約4分の1くらいになったところで炒め終える感じで大丈夫です。

で、炒めた玉ねぎは、粗熱をとっておきましょう。このレシピ、粗熱をとる必要があるんですよ。すいません。めんどくさくて。僕にしてはちゃんとやってるレシピなんです。

リュウジくんの口から「粗熱を取る」という言葉を聞くのは、なんだか新鮮です(笑)。
アレンジで砂肝を入れる

今回、潔さんに何かひとつアレンジを加えてもらうことになっているのですが、ハンバーグのタネに砂肝を入れるんですね。

崩れちゃうかな?

大丈夫だと思いますよ。たぶん、つくねのような感じでおいしいと思うな。

至高のハンバーグに入れるので、銀皮(砂肝を包んでいる外側の薄い皮)はとりましょうか。リュウジくんはふだん銀皮はとりますか?

気にする人もいるので、レシピではとるようにしてます。でも、自分で食べるのであればとらないかな……っていう。このハンバーグは銀皮とった方がおいしいかもしれません。そういえば潔さん、YouTubeのチャンネルで砂肝のおつまみ作ってましたよね。

してました!

映像きれいですよね。

そのためにあの場所でやってるんです(笑)。何もないところなんですよ。キッチンも水道も換気扇もないという……。
牛脂はちぎりながら入れる

つぎにタネをこねます。ボウルのなかに、粗熱を取った玉ねぎ、挽肉、調味料を入れていきます。砂肝も入れちゃいましょう。塩は、砂肝があるのでちょっと強めに振ってもいいかもしれない。あと、パン粉も入れます。

パン粉、結構入れますね!

はい。これがやわらかいハンバーグのもとになるんです。コンソメ、黒こしょう、牛脂も入れていきましょうか。牛脂、ビニールの上から触ってみてください。やわらかいですかね。やわらかければ、手でちぎりながら入れる感じで……

ちぎりながら!

そうなんです。ダマにならないように、なるべく細かくして入れるんです。硬い場合は包丁で刻んでから入れると良いです。

へーーー!

たまごは、もうそのまま割り入れちゃって……

(割る)

水は、通常のレシピだと大さじ3入れてるんですけれども、一旦大さじ2入れて様子をみたほうがいいかもしれない。

はい(水を入れる)

水は、コンソメと合わさってコンソメスープみたいな感じになるんです。それで、ハンバーグの内部にコンソメスープが蓄えられるんですね。

ほう〜〜なるほどね!

あとゼラチンを入れたら、冷たいうちに手早くこねていきます。牛脂がまんべんなく行き渡るよう、しっかりもみこむような感じで。もしお肉が緩いと感じたら、一旦冷凍庫で少し冷やしてからこねても良いです。

(かなりよく揉んでいる)けっこう粘り気がでてきました。

そうしたら、次は形成なんですけど、大きいと、焼いているうちに割れてしまう可能性があるので、心配なら3つに分けてもいいかもしれない。

じゃあ3つに分けましょうか。(と言いながら、パンパンという音を鳴らし、タネの空気を抜きながらハンバーグを形成する)

さまになりますね〜〜!

いやいやいや(照)。タネの真ん中にくぼみは入れる?

はい。僕は入れるタイプですね。肉の中心には熱が入りにくいので、へこませて、火を通りやすくしています。
焦げつきやすいので弱い火でじっくり焼く

続いては、両面に焦げ目をつけていきます。火加減は、弱めの中火が良いです。ゼラチンが入っているから焦げやすいんです。

そうなんだ!ゼラチン、どのくらい入れたんだっけ。

小さじ2です。

その量でも焦げつくんだ。

そうなんですよ。

(ハンバーグの焼け具合をじっと見守る)。

どうですかね、焦げ目……おっ、完璧な焦げ目ですね!

やった!

焦げ目がついたら、水を入れて、4分くらい蒸し焼きにします。

水の量はどのくらい……?

50ccくらいですね。それで、蒸し焼きにするときは弱火です。

弱火でいいんだ、意外です。焼き目つけるときは強火で、カリッてやっていたから。

最後はフォークをさして、赤い汁がでなければOKです。透明だったら大丈夫。

できました!

きれいにできましたね!美しい!そうしたらお皿に移して……最後、ソースを作ります。さっき使っていたフライパンを洗わずに、もう1回あたためて、にんにくから入れます。

じゃあ、いきまーす。

調味料を入れたら、一気に煮詰めちゃう感じで大丈夫です。少しとろみがついたら火を止めます。

これはもうかけちゃって大丈夫?

かけましょう!スプーン2杯分くらいかな。おお〜うまそうだな!僕が作ったのよりきれい。完璧だ!
噛んだときに初めて肉汁に出会う

あ、うまっ!

うまい!

砂肝いいっすね。これ。すごいマッチしています。

軟骨とはまた違った、コリコリとした感じ。

なんだろう。ミートローフじゃないですけど、パテっぽい感じがしますね。おつまみにするのなら、砂肝入りの方がいいかもしれない。主張しすぎない、コリっとした食感。いいですね。砂肝ありです。

あり、いただきました!

これはおいしい……。

そもそもハンバーグ自体がうまいよね。めっちゃジューシー。こだわりがすごい。思った以上に凝ってましたね。

はははは(笑)。

うそでしょって思いました(笑)。玉ねぎ炒めるんだ、粗熱も取るんだ……って。でも食べてみるとわかる。玉ねぎのシャキシャキした食感はいらないんだって。
ふわっふわしてて、やわらかくて、砂肝のさくさくしてる食感だけが残る。あと、切ったときに肉汁がでないんですね。

潔さん、わかってる!ゼラチンを入れることで、わざと出ないようにしているんです。
肉汁って口の中で弾けた方がおいしいんですよね。だから、切った時に肉汁がばーーっと出てしまわないように、噛んだときに初めてジューシーだと感じられる工夫をしています。
実はかなり歴史の長いレシピ

元々このハンバーグは、レストランで出すために開発したレシピなんです。料理研究家になる前……23歳か24歳の頃、料理人を目指していて。

へー!

お店の名物ハンバーグみたいになればいいなと思って考えました。

お店クオリティだもんね。

潔さんにそう言ってもらえると、救われます。僕の中では、ものすごく思い入れの深いレシピ。かなり試行錯誤を繰り返して今の形になっているので、選んでくれたことが本当にうれしかったです。

リュウジくんは、本当はめちゃくちゃ手の込んだ料理ができるんですよね。それを知ると、ふだんTwitterとかで発信している「なるべく簡単に作ることのできる」レシピが、かなり考えた上で展開されていることがわかって、すごくかっこいいなぁって思う。

いやいやいや。

実は難しいことぜんぶできるじゃん、でっかい生ハムも切れるじゃん。

潔さんはなんといいますか、人の舞台に合わせられるというか。この前、僕の家で一緒に料理をしたときも、僕の方向性に合わせてくれていると感じたんですよね。そういう感覚が、人柄にも表れていて、すごいなと思っています。

(照)。

あととにかく、話してて楽しい!

ふたりで延々と何時間も語れるよね。

この前は話し足りなかったくらいです。お互いの家がちょっと遠いから、長居できなかったんですよね。今度、潔さんのお宅にもおじゃまさせていただきたいです。

ぜひぜひぜひ。