夏のスペイン シンプルなトマト料理
自炊料理家の山口祐加さんによる「五感をひらくレシピ」。一年をかけて海外を旅している山口さんに、夏のスペインから「トマト」を使った家庭料理を紹介してもらいました。日本でも簡単に作ることができるレシピです。ぜひ作ってみてくださいね。
今年の春から、一年間海外を旅している。目的は、世界各地で暮らす人々の日々のごはんを体験し、味わうことだ。手間のかかるハレの日の食事ではなく、パパッと作ってもおいしくて、食べ飽きない、おおらかな家の料理が見てみたい。世界で暮らす市井の人たちの「日々の料理」を探すために日本を飛び出した。
台湾、韓国、ポルトガルを経てたどり着いたのはスペイン。
スペインで食事をしていて気づいたのは、トマトがおいしいことだ。
実は私はトマトが苦手なのだけれど、スペインのトマトは青臭さが少なくてフルーツを食べるようにパクパクと食べられる。トマトを使った料理の中でも、私が特に気に入って何度も食べた「パンコントマテ」と、「ガスパチョ」をご紹介したい。
パンコントマテ
パンコントマテは、「パンとトマト」という意味で、トーストしたパンにトマトをつぶしながら塗りつけた、とてもシンプルな料理。スペインでは、朝食、おやつ、レストランのおつまみなど、いろんな場面で見かける、愛されものだ。
カタルーニャのレストランでは、トーストしたパン、半割りトマト、にんにく、オリーブオイル、塩がテーブルに運ばれ、お客さんが自分で作るのも日常の風景。
作り方は言うまでもないくらい簡単だが、いくつかポイントがある。まず、パンをトーストすること。
次に、熟したトマトを使うこと。スペインではパンコントマテ用のトマトまで生産されているが、日本では手に入りづらいので、ミニトマトかミディトマトがちょうどいいと思う。
塗る前にトマトを指でマッサージすると、中でトマトがつぶれてより塗りやすくなる。
にんにくをすりつぶすのと、塩の加減は好みでOK。
最後はオリーブオイルをたっぷりとかけること。ここはオリーブオイルの使いどき。
今回はバルセロナでお世話になっていた日本人ご夫妻のおうちで作ってみた。
全粒粉のパンにトマトの味がしっかりとのって、にんにくとオリーブオイルの香りが食欲をそそる。その日に使うパンやトマトの味、オリーブオイルの味によって毎回味が異なり、シンプルだからこそ、味の探求が楽しい一皿だ。
ガスパチョ
ガスパチョは、スペインの南下にあるアンダルシア地方で生まれた料理。太陽がギラギラと照りつけ、40度越えの日もあるこの地方で生まれた料理と聞いて納得がいく。
6月末、アンダルシアの都市・セビリアにて、スペイン人のおばあちゃんにガスパチョを教えてもらった。
材料は、きゅうり、トマト、玉ねぎ、パプリカ、にんにく、オリーブオイル、塩、酢。トマトをメインにして、ほかの野菜は少しずつという配分が定番だ。
こちらもレシピにできないほど簡単。ジューサーかボウルに一口大に切った材料と水を入れ、撹拌(かくはん)する。野菜の水分量がその都度違うので、加える水は2〜3回に分けて調整するのがよい。
ここでもオリーブオイルが味の決め手になるので、たっぷりと使うことが大事。最後に塩と酢で味のバランスを調える。
好みの加減に仕上がったら、そのまま食べても良いし、こしてもよい。個人的には家で食べるわけだし、せっかくの食物繊維を捨てるのはもったいないのでそのまま食べる。
出来上がったガスパチョは、夏の干からびそうな身体にすいすいと染み込んでいくように思う。
材料を切ってそのまま和えたらサラダになるわけで、これは飲むサラダと言ってもいいのではないだろうか。食欲が落ちやすい夏の栄養補給にぴったりだ。
二日目になると、にんにくの刺激的な香りが落ち着いて、よりおいしく食べられる。たっぷり作って2〜3日に分けて食べるのも良い。
料理の腕は関係なくおいしくできてしまう、パンコントマテとガスパチョをお試しあれ。