育児 × 介護 = “戦略的”二世帯同居!への道 Step20:第二部完!五人家族で一夜は明けて
義父母との同居を決めてから一年半、ようやく念願の新居に引っ越し、五人家族としてのスタートを切った甘木一家。
最後までドタバタの引っ越しを終え、新居での初めての朝を迎えました。
家が決まってから引っ越しまでの一年間を綴ったこのコラム第二部の締めくくりは、引っ越しの翌日の朝のことから始まります!
新居、命の危機
目が覚めて、一瞬だけ呆然と天井を見て、某アニメの主人公ではないけれども、「知らない天井だ…」と思った自分ににやりとしてしまいました。
そう、同居を決めてから約一年半、さんざん紆余曲折あったけれども、ようやく入居にこぎつけた新居の、二階の寝室の天井です。
引っ越しが終わったのは昨夜暗くなってから。まだベッドは組み立てておらず、床に直接マットレスを置きました。布団カバーも、シーツすらかける余裕がなく、かろうじて荷物の中から引っ張り出した毛布を被って、親子三人で川の字で眠ったのでした。
カーテンもまだなく、朝のまぶしい光が顔を直撃しています。昨日の引っ越しの疲れは残っていましたが、新しい家と新しい生活に対する興奮で、普段寝起きの悪い私もすっきりと目覚めることができました。
記念すべき入居第一日目の朝。やるべき仕事は山積みです。山積みの段ボール箱の荷ほどきはもちろんのこと、新しい家具の組み立てに、カーテンや照明器具の取り付けなどなど…。
慣れない台所でお湯をわかし、パンを齧りコーヒーを飲みながら、せっせと作業に勤しみます。いい加減に疲れてきた昼下がり、事件は起こりました。
食器をキッチンの収納棚に仕舞っていた時に鳴り響いた衝撃音と光景を、今でもスローモーションのようにはっきりと覚えています。前回書きましたが、新居のリビングの照明は取り付けがワンタッチで簡単なシーリングライトではなく、義父母のこだわりにより旧居から持ち込んだ、古くて重いガラスと金属製の照明器具でした。その重い照明が、引っ越し翌日の昼下がり、何の前触れもなく落下し、「ガッシャーーーン!!」という轟音と共に床に落ち、粉々に砕け散ったのです。
「…えっ?」
「…えっ?」
「…うそ?」
呆然として目を見合わせることしかできない義父母と私。
音を聞きつけて、旦那と息子も慌てて二階から降りてきました。
「どうして?えっ、どうして?」
せっかく旧居からわざわざ持ってきた照明のあまりに無残な姿に、どうして?しか言葉の出ない義父母。
私は昨夜、この照明の取り付け工事に来た職人さんが、しきりに手元が暗い、見えない、とぼやいていた事を思い出しました。引っ越してきたばかりで家の中に照明がほとんど設置されておらず、暗いのは仕方ないのでは…しかも作業時間帯が夜なのだから、職人さん側も懐中電灯など準備するべきだったのでは…と思いましたが、後の祭り。ああ、見えないからちゃんと取り付けてくれなかったのか…と暗澹とした気持ちになりました。
幸いだれも真下にはおらず、家族に怪我はありませんでした。これは取り付けた業者さんに超絶大クレーム案件だな…と思った私ですが、当の義父母は怒り心頭に発していると思いきや、あまりのショックにすっかり意気消沈している様子。「明らかに施工不良だから、昨日の業者さんに連絡して弁償してもらいましょうよ」と言っても、古いものだから…たいした価値もないだろうし…と、はなから諦めの境地です。聞けば、壊れた照明は義父母が初めて家を購入した時に買った思い出の品だそう。粉々に割れ、無残な姿になってしまった照明を片づける義父母の背中があまりにも寂しそうで、それ以上は強く言えませんでした。
入居早々に思い出の品を失った義父母の悲しみに思いをはせていた私でしたが、これはつまり新たに、リビングの照明を買いに行くという仕事と、新しい照明の購入費用という出費が増えたということだな?と気付いたのはしばらくしてからでした。施工費用だけはその後返金してもらったらしいのですが、やっぱり納得いかないな…と思う甘木なのでした。
怪奇現象?続くトラブル
引っ越した翌日から翌々日というもの、この照明落下を皮切りに、驚くほどたくさんのトラブルに見舞われました。
・開通しているはずの固定電話が、雑音や混線しているような音がして使えない。電話会社に問い合わせても正常に開通手続きができている、と言われる。
・庭の防犯灯(センサー式で人が通ると点灯する)が、誰もいないのに頻繁に点く。
・置いておいた段ボール箱がほかの部屋に移動している。
・誰も使っていない二階の洗面台の水が出しっぱなしになっている。止めてもまたいつの間にか出ている。
などなど…枚挙にいとまがありません。しかもどれも家族には心当たりがないというのです。基本的にオカルトなことは信じておらず、「電気系統の問題かな」「息子がイタズラしたのかも…」「引っ越しでみんな疲れてるから勘違いしたのかも」と思いつく限りの原因を挙げて心の平穏を図っていた私ですが、ここまで続くとまさかなにか霊的な?いわゆるひとつの霊的な現象ってやつでは?と思ってしまいます。
そこに義母が「まさか、売主のお母さんの生霊だったりして」などと言います。この家の売主は、高齢で認知症を患う親御さんと一緒に住んでおり、売主さんのお話では、引っ越すことを説明しても理解できないような状態とのことでした。
売主さんがこの家を引き払ってしばらく経ちますが、まだ引っ越したことを理解できないお母さまの心がこの家に残っていて、私達を勝手な侵入者だと思って怒っていらしたりして…
ハハハまさかそんな…と義母の言葉を乾いた笑いで一蹴した私でしたが、後でこっそり、お母さまの居室だったという部屋で「我々はこの家を息子さんから合意の上で購入したのです…大切に住まわせていただきますからどうか認めてください…」と小声で唱えながら合掌し祈ったのはここだけの秘密です。
ちなみにこの怪しいトラブルたち、とくになんの対処もしませんでしたが入居後数日が経つころには全て解消されました。なんだったんでしょう本当に。
やっぱり義父母
そんなこんなで、荷ほどきやトラブル対応に追われ、あっという間に引っ越して二日目の夜を迎えました。
キッチンもなんとか料理ができる体制が整い、夕食を囲みながら、白菜が安くてひと玉買ってきたから、明日の夕食は鍋物にしましょうか、などと話していた時のことです。
義母が「あら、私達、明日からご飯いらないわよ」というのです。
「だって明日から旅行だから。ヨーロッパに」
……そうでした。
引っ越しのドタバタですっかり失念していました。義父母はなんと、引っ越しの三日目から、夫婦水入らずで海外旅行の予定を入れていたのでした。それにしても強い。体力気力が果てしなく強い。当時20代の私でも、連日の荷ほどきにヘロヘロになっている頃だったというのに。
「えっ、旅行の準備大丈夫なんですか?」と驚く私に、「まだだけど、最悪の場合でもお金とパスポートさえあればなんとかなるわよ」とこともなげに言ってみせる義母と、「私はもう引っ越しの前に準備して、スーツケースに詰めてあるからね」と用意周到な義父です。
しかしそうなると、明日から10日間はこの家に、旦那と息子の三人きり。
旦那は仕事で多忙なので、実質息子と二人きりです。
まだ慣れない新居に…しかも怪奇なトラブル続出で、ご近所に親しい人もなく、やることは山積みで、イヤイヤ期2歳真っ盛りの息子とふたり…?
いきなりの試練だな…と、どんよりした気持ちで、疲れも見せず元気に出国していった義父母を見送った私でした。
当然その後の10日間は、慣れない環境で落ち着かない息子と、一向に進まない荷ほどきに悩まされながら消耗する日々でした。
あと、ひと玉買った白菜の消費に大変悩んだことを覚えています。
そもそもは、ワンオペ育児の辛さに耐えかねて決意したはずの三世代同居。
いきなりの肩透かしをくらい、こんなはずでは…という思いを抱かないではありませんでしたが、こんな風に自由なのもまた義父母らしいかな…息子夫婦や孫のために!と、やりたい事を我慢して家に籠られるよりはずっといいかな…と思ったりもしました。
三世代家族の生活は、ようやく始まったばかりなのです。
いよいよ三世代同居生活のスタートを切った甘木一家。同居を思い立ってから一年半ほど、これまでの軌跡におつきあいいただきありがとうございます。
これで第二部、引っ越し準備編は終了となります。
次回からは、二世帯同居あるある、三世代同居ここが困った!など、さまざまな同居エピソードを、一話完結形式で綴っていきたいと思います。
ぜひ、甘木一家の毎日の奮闘を引き続き見守っていただけると嬉しいです。