育児 × 介護 = “戦略的”二世帯同居!への道 Step19:カオスな二世帯同時引っ越し~後編~
長い準備期間を経て、やっと二世帯揃っての新居への引っ越しの日を迎えた甘木一家。
なんとか荷造りを済ませ、2歳の息子を託児所に預け、万全の態勢でその日を迎えたはずが、約束の時間になっても一向に引っ越し業者のトラックはやって来ず…?
時はすでに夕方。手つかずの荷物たち。どうなる二世帯同日引っ越し?
終わらない引っ越し
アパートで待てども待てども、なかなかやって来ない引っ越し業者。やっとトラックが私達のアパートまで到着したのは、約束の時間を4時間以上も過ぎ、傾き始めた夕日が窓から差し込む時間になってからでした。
息子を託児所に預け、その間に荷物の積み込み作業を終えるという計画は、この段階で大きく頓挫しておりました。こんなことなら高い託児料金をかけて預けなくても良かったよね!と腸が煮えくり返りそうな甘木でしたが、そもそも、当初の予定時間よりもなぜこんなに遅れたのかといえば、午前中に作業を済ませるはずだった義父母のマンションの積み下ろし作業が、引っ越し業者の荷物量と搬出ルートの見積もりが甘く、予想よりずっと時間がかかったせいです。アルバイトの方がほとんどであるらしい、現場スタッフの皆さまのせいではありません。当たり散らしても仕方がない…と喉元まで出かかった文句をぐっと飲みこんで、最低限の指示だけをして息子のお迎えに向かいます。
長時間預けられたにも関わらず、相変わらずケロリとした様子の息子を引き取り、帰路につきます。
私達のアパートの荷物の積み込みは、あっけないほどスムーズに進みました。実地に見積もりに来ていないのをいいことに私が買い込んだIK○Aの組み立て式家具(第17話 参照)も、葛藤していたのが馬鹿らしいほどにあっさりとトラックへ積み込まれ、新居へ運び込まれました。
アパートの最後の掃除は旦那に任せ、私は息子を連れて新居へ向かい、積み込み作業に立ち会います。新居では、先に自分たちの荷物の搬入を済ませた義父が待っていましたが、入れ違いに自分たちのマンションの後片付けへ向かいました。
二世帯で住むことになるこの家は部屋数も多く、また先に義父母のマンションからの荷物が運び入れられている状態のため、搬入作業には混乱が予想されました。大型で重い家具などは特に、適当な部屋に運ばれてしまってはあとが大変です。そのため、新居のすべての部屋に番号を振り、私たち子世帯のアパートから運びこむ荷物については、段ボール箱や家具家電に至るまですべて、どの部屋に運び込むべきかの部屋番号を書いて貼っておきました。
結果的にこの策は大正解でした。チョロチョロと動き回る小さい子供がいると、運び込まれるすべての荷物に目を光らせ指示を出すことなどできません。
いや、本来ならば、息子を預けている間にこの作業は終わっているはずだったのですが…。
ともあれ、搬入作業は大きなトラブルなく終わり、疲れ果てた表情の引っ越しスタッフの皆さんは帰っていきました。社員の適当な見積もりのせいで、予想より大幅に勤務時間が延び、体力的にも限界だったに違いありません。本当にお疲れさまです…という気持ちを込めてお見送りしました。
空は暗くなり、日暮れどき。アパートの掃除を終えた旦那も合流し、大急ぎで、今夜眠るための布団やシーツ、パジャマを荷ほどきしました。義父母もそろそろマンションの片づけを済ませて新居へやってきてもいい頃なのに…と思っているうち、旦那の携帯に電話が入ります。嫌な予感がして耳をそばだてていると、「わかった、じゃあ俺、今からカギ持ってそっちに行くよ」とのこと。なんと、義母がマンションのカギを紛失してしまい、義父もこちらの新居にカギを置き忘れてきてしまい、戸締りができないのでこちらに来れないというのです。
慌てて出ていく旦那を見送って、部屋を見回し大きなため息をつきます。
一階のリビングは、義父母のマンションから持ってきた大きな照明を取り付ける予定なので、明かりがなく真っ暗です。
二階の各部屋も、引っ越しの時間が遅れたせいで、新しく購入したシーリングライトを荷ほどきする時間もなく真っ暗。
カーテンを付ける時間も当然なかったため、暗くなると、がらんとした空き家に勝手に入り込んでいるような空恐ろしい雰囲気に包まれました。
唯一、この家の売主が残していった照明のある1階の和室の明かりをつけて、そこで家族が戻ってくるのを息子と二人で待つことになりました。
2歳になったばかりの息子は、母の不安な気持ちなどどこ吹く風、見知らぬ環境にテンション爆上げで、隙あらば荷ほどきしていない段ボール箱の山によじ登ろうとします。
それを必死で押しとどめていると、玄関のチャイムが鳴りました。
ようやく義父母と旦那が戻ってきたか、と思いきや、宅配のお寿司屋さんでした。そういえば、引っ越し当日は夕食を作る余裕なんてないからと、引っ越し祝いを兼ねて、事前に寿司の出前を予約していたのをすっかり忘れていました。
真っ暗なリビングの荷物の山のなかから、何とか折り畳みテーブルを引っ張り出して和室に据えます。好物のイクラ軍艦を目ざとく見つけた息子が、隙あらば寿司桶に手を出そうとするのを押しとどめながら。
そうこうしているうちに、再びチャイムが鳴ります。今度こそ家族が揃うかと思えば、玄関にいたのは、義父母から依頼された照明器具の取り付け工事をしに来たという職人さん。暗い部屋の中で四苦八苦しながら、義父母が持ち込んだ古くて重いガラス製の照明器具を天井に取り付けてくれました。手元が暗くて見えないとのことで懐中電灯を探しましたが、すぐには見つからず。
「暗くて全然見えねぇなぁ」「なんでこんなに暗いの?」とブツブツ文句を言われ、私の中でふつふつと湧き上がるいらだち。ようやく工事が終わり職人さんが帰った後には、
(この長い理不尽な一日は…一体いつ終わるんだ…?)という疑問で頭がいっぱいになっていました。
疲れ果てた様子の義父母と旦那が新居に戻ってきたのは、それからたっぷり一時間以上は経ってからのこと。
色々なことがあった、あり過ぎた一日ではありましたが、とにもかくにも、無事に引っ越しを終えて5人が新居に揃うことができたというのはめでたいことです。
玄関で義父母を迎えて、「おかえりなさい」と言うと、義母が「おかえりなさい…そうよねぇ、お帰りなさい、なのよねぇ」と、感慨深げな声をあげます。
荷ほどきは手つかずで、きっとこれからも様々な問題がどんどん発生するのは間違いありませんが…、とにかく今日からは、私たちは5人家族です。そして今日からこの家が、私たち5人の暮らす場所、帰るところとなったのでした。
ようやく明かりのついたリビングは荷物でぎっしり。狭い和室の隙間で、5人家族で肩を並べて食べたお寿司の味を、私はおそらくずっと忘れないことでしょう。
なんとか無事に引っ越しを終え、晴れて5人家族となった甘木一家。
次回は引っ越してから数日間の、様々な謎とドタバタをつづります。
どうぞお楽しみに…!