育児 × 介護 = “戦略的”二世帯同居!への道 Step6:ぶつかり合う生き様

2018/04/26 UPDATE

三世代同居を決定し、家探し(中古一戸建て)をはじめた我が家。
不動産会社の担当Y氏が次々と繰り出す、いずれ劣らぬ個性豊かな物件たち。売り主のこだわりと予算、そして様々な事情が交錯する、「大型」「中古」「一戸建て」の物件探し。さて今回は…?

1.三角形の一戸建て―ベランダの誘惑と、謎の数人の住人

すっかり恒例となった、休日の物件見学。今回はたまたま予定が合った義父母も一緒に、家族5人揃って、担当Y氏のおすすめ物件を訪ねました。中古大型一戸建ては、売り主のこだわりが炸裂する個性派揃いである、という傾向を、前回までで身にしみて理解した私達。今回も、事前に頂いた間取り図からして、明らかに普通の住宅ではない…と覚悟の上で現地に向かいました。


たどり着いたその住宅は、三方全てを道路に囲まれた、まるで離島のような家。なぜ四方ではないかというと、そもそも土地が三角形であり、そこに建てられた家もまた、限りなく三角形に近い造りだったからです。
そして実際に家を目にして…「デカっ」「大きい!」という声が家族から漏れ出します。
そう、この家は、我々の家探しで訪ねた様々な戸建ての中でも一番の部屋数と延べ床面積を誇る家だったのです。その間取り、なんと8LDK。見たことのない文字列なのでうっかり3LDKに空目しがちですが、驚きの8LDKです。
この家は今まで見学した空き家と違い、売り主さんが現在もお住まいの物件。チャイムを鳴らすと、やや緊張した面持ちのご夫婦が迎えてくれました。
早速ご夫婦の案内で室内を見せていただきます。とにかく広くて、一部屋一部屋が大きい。そして建物の形が特殊なせいか、室内の構造が複雑です。
四方全てに入り口がある広い和室があったかと思えば、廊下とも物置ともつかない不思議な空間があったり、瓦屋根の純和風のつくりかと思いきや、突然天井が吹き抜けの広い洋室が現れたり。しかしこれまでの個性派物件をくぐり抜けた我々の感性は、このくらいではびくともしない程度には鍛えられていました。
あまり口数の多くない売り主ご夫妻に、コミュニケーション能力の鬼こと義母がグイグイ迫ります。家族構成から職業、趣味まで…義母のおかげで聞き出せた情報を統合すると、
・売り主は大工さんで、この家は自分の技術とこだわりを注ぎ込んで自ら建てた
・同居家族は夫婦と、娘の家族と、あと数人。あと数人ってどういうことだ、と思うものの、結局謎は解明されませんでした。そういえば物件見学の時も、あちこちの部屋で何人かの関係性のわからない住人に挨拶されました。どういうことだ。
・娘夫婦が家を買って独立するので、広すぎるこの家を手放すことにした
とのこと。よくわからない住人数人の存在は気になりますが、大工の棟梁が、自分が住むために建てた家ということで、建物への信頼性がぐんと上がります。そして何よりこの広さ。これなら子供が何人増えても余裕の間取りです。
築年数はやや古めながら、お値段は破格といっていいレベルのお安さ。「広すぎて、欲しい人あんまり居ないし、自分で建てたからそんなに元手もかかってないし…」とは売り主の弁。壁紙やふすまなどの建具はかなり傷んでいますが、私達が住む前に内装を全て新しくしたとしても、何とか予算内に収まります。
そして何より、私と義母の主婦コンビを惹きつけたのは、この家のベランダでした。

二階の部屋を見せて頂いた時のこと。なんと、全ての部屋にベランダがあるのです。ベランダが建物の二階をぐるっと一周している、と言った方が正確でしょうか。更に、三方道路のためどの部屋も日当たりは抜群。
「このベランダがあれば、布団を全部いっぺんに干せるんじゃない?」「タオルケットも毛布も洗って全部干して、更に洗濯物も余裕で干せますよね??」とテンションが爆上がりの嫁姑コンビ。
色々と細かく気になる点はあるものの、このベランダは、今までマンションやアパートの狭い窓辺で四苦八苦して干し物をしていた主婦二人の気持ちを大きく傾けるのに十分でした。

個性派物件の数々をくぐり抜け、ようやく本格的に検討したい物件に出会えた喜びを味わう私達。
相変わらず謎の住人数人と、売り主夫妻に見送られ、家を出た時のことです。
大型のトラックが、スピードを緩めずにすぐ目の前を走り抜けていきました。
家の周りの道路は、交通量がかなり多いようです。目を離せばすぐにあらぬ方向へ走り去る1歳の息子のことが頭をよぎります。目を離してうっかり家から出ることが、絶対に無いとは言えません。義父母が年老いて足腰が弱った時のことも心配です。
また、幹線道路沿いのため、夜中でも交通量はかなり多いはずです。騒音や排気ガスなども気になります。
(完璧な物件なんて無いんだなぁ…)(でもあのベランダは捨てがたい…)という相反する切ない思いを抱きながら、ひとまずこの物件を第一候補とし、引き続き他の物件を探したい旨をY氏にお伝えしました。

2.その優しさと期待が痛い-Y氏の策略

三角形の家を後にした我らは、次の物件に向かいます。見学のスケジュールは基本的には担当Y氏にお任せしていたのですが、この日の二軒目は前もって間取り図も渡されず、「ちょっとご参考程度に、見るだけでも…」とのことで、値段のみ伝えられ、よくわからないまま家族5人で揃って向かった物件です。
たどり着いた家をひと目見て、疑問符が浮かびます。(…小さくない?そして古くない?その割に値段がずいぶん高くない?)
玄関で私達を出迎えたのは、いかにも人の良さそうな笑顔を浮かべた老夫婦。お待ちしていました!と大歓迎され、浮かんだ疑問を口にする間もないままに家に招き入れられました。
ご夫妻の案内で家の中を見て回りますが、築年数はおよそ40年、間取りも4LDKですが各部屋が小さく、見れば見るほど私達の希望(大型の間取り・できるだけ築浅)とは異なります。
一生懸命に説明してくれる売り主には申し訳ないものの、心の中で即却下し、そそくさと帰ろうとした時のこと。売り主の奥様が「お茶を淹れましたので、一服していらして…」と手招きします。
テーブルには綺麗なカップに湯気を立てるコーヒーと、わざわざ買ってきたと思われる評判の菓子店のお菓子。これはまずい…帰らなければ…と脳裏で警告が鳴るものの、せっかく用意していただいたお茶をむげに断る訳にもいかず、気まずい気持ちでダイニングテーブルに腰を下ろしました。
子供が独立し、この家が夫婦二人には広すぎるので、売却した資金で新しく小ぢんまりした家を建てたいのだと、にこやかに語る売り主夫妻。その背後の本棚には住宅建築関連の書籍が何冊も並べられ、「私達の家づくり」と書かれた分厚いファイルも見えます。夫妻の新しい家づくりへの期待、ひいてはこの家の買い手が早く現れることへの期待がそこかしこに溢れていて、背中を冷たい汗が伝います。
「小さいお子さんがいらっしゃると聞いたから…」と、息子のために赤ちゃん用のおやつまでわざわざ用意してくださる心遣いが辛い。というか、私達には具体的な情報はほとんど知らせなかったくせに、売主側には私達の家族構成までバッチリ伝えてるんじゃないかY氏。
この家の相場より高い値段設定は、おそらく新しい家を建てるための予算ありきに違いありません。
そしてこの築年数と間取りでは、物件情報を見た時点で、多くの人が検討もせずに却下するものと思われます。担当営業Y氏は、引き合いの少なさを売り主からせっつかれて、とりあえずのスケープゴートとして私達家族の物件見学をねじ込んだに違いない…この予想がそう的外れでもないのは、この家に入ってから決してY氏が目を合わせてくれない事からも明らかです。

人の良い老夫婦の期待に満ちた目に見送られながら気まずい思いで物件を後にし、車に乗り込んだ私達は、早速Y氏を糾弾します。
「今の家、私達の希望とはぜんぜん違うじゃないですか?」
「いえいえ、アハハ…ちょっと違う家もご参考程度に見ていただくのも決して無駄じゃないんではないかと…」
冷や汗をかきつつ、しどろもどろで弁明するY氏を、…今度いい物件見つけてこないと許さないよ…?との思いを胸に、じっとりした目で睨む私達家族なのでした。

つかさちずる

イラスト・つかさちずる

娘との日々をブログ「むすメモ!」に綴ったりLINEスタンプを作ったりしている絵描き。
回転寿司とゲームをこよなく愛するアラサー。
毎週金曜日にブログに四コマを掲載してます~遊びにきてね!

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