月見そばに春巻き。店の営業後に流れる、充実した二人の夕飯の時間
いろんな家庭のリアルな1週間のごはんを紹介するシリーズ「となりのおうちの『1週間ごはん』」。今回登場するのは、大阪・本町でカフェを営む斎藤健人さん・咲帆さん夫婦です。カフェでは二人で調理を担当し、夕飯は咲帆さんが担当。昼過ぎの休憩時間に店を抜け、仕込みをして作っています。忙しい毎日のなか、肉団子や月見そば、すき焼き、春巻きなど充実したメニューが並ぶ夕飯について伺いました。
斎藤咲帆さん
東京生まれ。4歳からバレエを始め、大学卒業後バレエ講師などを務める。2019年、バレエ関連の企業に勤め、大阪に移住。2021年、会社を退職し、「kokoFLAT cafe(ココフラットカフェ)本町」での勤務を始める。2022年6月、ココフラットカフェのオーナー・斎藤健人さんと結婚。前職の教室でバレエも続けている。
斎藤健人さん
兵庫県生まれ。大学卒業後、ホテルの営業職に就く。学生時代に憧れたカフェがあり、いつかは自分で店をやりたいと思い続け、新卒で入った会社を退職。開業に向けて飲食の会社で5年働き、2020年にココフラットカフェをオープン。
常連から店員、そして妻になった
——お二人は大阪で「kokoFLAT cafe(ココフラットカフェ)本町」というお店を運営されているんですね。
咲帆 はい、もともと健人くんがやっていたお店に、私が通っていて、そのまま店員になったんです。お店のグランドオープンが2020年6月で、私が初めてお店に行ったのがその1か月後くらいでした。
——咲帆さんは近所にお住まいだったんですか?
咲帆 ココフラットカフェのすぐ近くに社宅があったんです。3年ほど前にバレエの仕事で東京から大阪に移って、社宅に住んでいたんですよ。オープン当時のココフラットカフェは23時までやっていて、仕事の帰りが遅くても夕飯が食べられるのがありがたかったんです。
——それからお付き合いすることになって、働くことになった…?
健人 それだけ聞くと、わけわからないですよね(笑)。一応説明しますと、常連さんになってくれて付き合って、それから1年後くらいにお店がすごく忙しくなってきたんです。お客さんも増えて、アルバイトさんだけでなく固定で働いてくれる人がいないとまわらないなと。それで、前に咲帆ちゃんが「ココフラットカフェで雇ってくれない?」って言ってたのを思い出したんです。
咲帆 その時は、「まだ人を雇う勇気はない」って断られたんです。でもその半年後には従業員を欲するようになっていた(笑)。
健人 僕としては信頼できる人やし、子どもの頃から25年もやってたバレエの仕事に区切りをつけて入ってくれるっていうのはすごい決心やと思うし。申し出てくれたことがうれしかったんですよね。それで改めて「ぜひうちで働いてください」とお願いしました。
——咲帆さんは、飲食店で働くのは初めての経験ですか?
咲帆 大学生の時に、カフェでアルバイトをしていました。そこが食材の仕込みとかもガンガン教えてもらえる職場で、料理のノウハウを学びました。料理はもともと好きで、大学生の時に友達を誘って、10人分のお弁当を作ってピクニックに行ったりしていたんです。
——10人分!ほぼ業者ですね。
咲帆 当時はよく「咲帆ごはんの会」って名前をつけて、1日半かけて仕込みをして友人達におもてなしをするイベントもやっていました。でも、お金をいただいて料理を出すというのは、おいしいのが当たり前というプレッシャーや責任を感じます。
大学時代につくった、閲覧数50万の肉団子レシピ
——そんなお二人の1週間ごはんを見ていきましょう。
揚げない肉団子の甘あん、肉団子の茹で汁を活かしたスープ、夏野菜の揚げびたし、炊き込みおこわ
咲帆 この肉団子は、大学生の時にクックパッドにレシピを投稿したものです。レシピは50万回以上閲覧されているみたいです。
——大学生でクックパッドにレシピ投稿ってなかなかしないですよね…?
咲帆 自分でつくったレシピを見返すことがあるから、どうせならシェアできるサイトに投稿しようかなと。当時、クックパッドのレシピもよく見ていましたし。自分のレシピの「つくれぽ」が投稿されるとすごくうれしかったんですよね。
——あと「肉団子の茹で汁を生かしたスープ」。これも大学生の時に考えたレシピですか?すごい、大学生らしからぬ主婦的発想。ひき肉の出汁っておいしいですもんね。
咲帆 そう、けっこう出汁が出るので、捨てるのがもったいなくて(笑)。健人くんの横で言うのもあれなんですけど、当時の彼氏の一人暮らしの家で作ってたんですよ。だから、少ない食材で品数を増やすとか、小さなキッチンで効率良く作るとか、そういうことを踏まえて考案したレシピなんです。
——なるほど(笑)。
咲帆 おこわは、普段あまりお米を食べないんですけど、最近お茶碗を購入して、ごはんをよそいたくて作りました。ココフラットカフェの近くに雑貨屋さんがあって、そこで買ったお茶碗です。
——渋いお茶碗ですね。
咲帆 重い器が好きなんですよね。火曜日に出てくる平皿は自分で作りました。「こんな器がほしいな」と思うと、旅行先で窯に行って作ったりします。火曜日は緑と白の小皿も作ったお皿ですね。
——陶芸体験で作ったお皿を活用してるんですね。
咲帆 健人くんと作ったことはないので、今度陶芸旅行に誘いたいと思ってます。
健人 この場を借りてお誘いされてる(笑)。
咲帆 二人でやれば二倍作れますからね…!
——生産目線じゃないですか(笑)。
咲帆 健人くんは私が頼んだものを作るだけだから楽しみ半減かもしれないけど…今度行こうね!
——ではその器が出てくる火曜日のごはんを見てみましょう。
冷やし豚しゃぶ豆乳うどん、大粒納豆、昨日の残りの肉団子
——「冷やし豚しゃぶ豆乳うどん」、これは前日の揚げびたしが活用されているんですか?
咲帆 そうです。我ながらめっちゃナイスだなって思いました(笑)。野菜をのせたことで、思ったより映えたんでうれしい。
——つゆは豆乳とめんつゆを混ぜて作るんですか。
咲帆 はい。そのめんつゆも、揚げびたしのつゆです。
——事前にいただいたメモには、「豚しゃぶは和風だしで茹でる」と。
咲帆 ちょっと下味がつくんですよね。いつもは白菜も一緒にくたくたになるまで煮て具材にします。
健人 このうどん、さらっと食べやすいし、よく出てくるよね。
咲帆 冬は温かくして、年間通して食べてます。
義母からもらった「ざる」が大活躍
スペアリブの煮込み、お月見ざる蕎麦
——なんだかお店みたいですね。スペアリブとざるそば。
健人 スペアリブ、ちょこちょこ出てくるよね。
咲帆 私、骨付き肉が好きなんですよ。でも健人くんはそうでもないから、豚バラも一緒に煮ました。
健人 骨付きの鶏は好きなんですけど、豚はなんか…食べにくいなって。パクッと食べられる方がありがたい。
咲帆 でも正直、全量スペアリブにすると高いから、半分豚バラにしてコストを抑えるのはわりと「あり」です(笑)。このお肉たちは、特製ダレに昼から漬け込んで、食べる前にフライパンで煮ています。私も午前中からお店で働いていて、昼に一旦抜け出して夕飯の仕込みなどの家事をしてるんです。なので、けっこう漬け込み系の料理をやりがちですね。
——それでまたお店に戻って、閉店してから帰って夕飯、という流れなんですね。この「お月見ざる蕎麦」は?
咲帆 最近見つけた栗原はるみさんのレシピです。レシピは絹豆腐を山芋に混ぜるというものなんですけど、そこに私は鰹節を入れたりして、だんだん我流になりつつあります。
健人 豆腐が入ることで食べごたえが出るよね。
咲帆 これが余ったら別の日に丼にしたりするんですけど…あ、土曜日に出てくるな。マグロの漬けと山かけ丼にしたらすごくおいしかったです。
——ざる蕎麦のざるがあるの、すごいですね。これでお店感が出ているのかも。
咲帆 ざるはお義母さんにもらったんですよ。お義母さんは最初、健人くんの妹にあげたらしいんですけど、「いらない」って戻されていて。誰もいらないなら捨てるか、という話をしていたので私が引き取りました。
健人 僕も母に1回打診されて、その時は「いらんいらん、そんなん使わへん」って答えて断ったんですよね。そうして帰宅したら、家にあった(笑)。
咲帆 ざる、いるでしょ!これ、ほんといいですよ。この夏大活躍しました。
——麺類を多く食べる家なら大活躍しそう。お皿だと水っぽくなっちゃうし。
健人 使ってみたら、悪くないなって思いました(笑)。
外食 1軒目:焼き肉屋
2軒目:「地鶏焼肉 溶岩屋」
咲帆 木曜はお店の定休日なんです。それで、毎週外食をするようにしてます。外食の頻度が上がるとうれしさが半減するので、なるべく木曜以外は自炊するようにしてるんです。
——外食のうれしさを最大化しようとしている…!
咲帆 この日は、行きたかった焼き肉屋さんが満席で、別の焼き肉屋さんに流れました。2軒目の溶岩屋さんは、溶岩プレートで鶏を焼いて食べられる店で、2週間に1回は必ず行ってます。鶏肉の質がよくておいしいんです。この日は1軒目で食べすぎてポテトしか食べられなかった…
健人 店長さんが、ランチと夜営業の間にココフラットカフェにコーヒーを飲みに来てくれるんですよ。
——お互いの店に行っているんですね。いい関係だ。
お店で料理をテイクアウトして女子会を
ココフラットカフェのテイクアウトで女子会
コブサラダ、長田名物ぼっかけごはん、自家製キッシュ(小玉ねぎとベーコンとパプリカ)、昔ながらのナポリタン・半熟目玉焼きのせ
咲帆 この日は月に一度の、ココフラットカフェの常連さんと我が家でのお泊り会でした。私は仕事で大阪に来たので、全然地縁がなくて。常連さんがプライベートでも会う仲になってくれて嬉しいです。家に備え付けのプロジェクターがあるので、それで映画を観るというのが一応の名目なんですけど、ごはんを食べておしゃべりしてると、毎回あまり映画を観ないまま終わります(笑)。
——あるあるですね(笑)。カフェのメニューの中から、これらを選んだのは?
咲帆 食べたいものを選びました。コブサラダはよく出るうちの定番で、まかないで出てこないので食べたいなと。
健人 ぼっかけごはんは僕の地元である神戸・長田のソウルフードです。牛すじとこんにゃくを甘辛く煮込んで、そこに温玉をのっけています。うちの店、内装や雰囲気がすごくおしゃれな感じになっちゃって…。
——なっちゃって、とは(笑)。
健人 いや、そうしたくて造ったんですけどね。でももっと男性がガッツリごはんを食べられる店でもありたい、と思って、丼メニューを作りました。そうしたら、意外にも女性にも人気のメニューになったんです。
咲帆 キッシュは私が焼いています。2週間に1回、香川に住んでるお義母さんが、お野菜を送ってくれるんです。このときは小玉ねぎがたくさん届いたので入れました。お泊り会メンバーからキッシュのリクエストがあったのでキープしておいたんです。
——お店のメニューは全部テイクアウトできる、と。すごいですね。
咲帆 私から見ると、ココフラットカフェはすごくよくばりなお店なんですよね。すべてのお客さんに来てもらおうとしている感じ(笑)。
健人 誰にとっても使いやすい、都合と居心地のいい店にしたいんです。なので、ランチ、カフェ、ディナーと通して営業しています。
ひきずり鍋(鶏のすき焼き)、漬けマグロとろろ丼、キャベツ卵カニサラダ
咲帆 私がすき焼き好きなので、鶏のすき焼きは頻繁に作ります。すき焼き、牛じゃなくても十分おいしいんですよ。すき焼き、しゃぶしゃぶ、焼き肉だったら、ダントツですき焼きが好き。でも、健人くんは付き合うまですき焼きは好きじゃなかったよね?
健人 それまであんまり、おいしいすき焼きを食べたことがなかったんだと思う(笑)。
咲帆 京都に一緒に行った時にすき焼きを食べて、好きになってくれました。
健人 いつも具材をたくさん入れてくれるから、1日目は締めまでたどり着かないんです。出汁をとっておいて、次の日おうどんを入れて食べるのが定番です。
咲帆 この時は日曜日にやってないけど、月曜日にすき焼きうどん食べたね(笑)。
春巻き、とうもろこし塩昆布バターごはん、夏野菜の揚げびたし
——米はあまり食べないけど、この日は「とうもろこし塩昆布バターごはん」を炊いたんですね。
健人 これおいしかったね。
咲帆 おいしかった。リピート決定です。
——コスメのレビューみたいなコメント(笑)。
咲帆 本当においしかったんです(笑)。とうもろこしが安くて、塩昆布も家にあったから作ってみたんですよね。
——あとは春巻き。具材は?
咲帆 豚肉とえのきとにんじんと玉ねぎかな。春巻きって、中に火を通してあるから、少量の油で皮さえ揚がればオッケーなんですよね。それがいい。お肉の揚げ物とかだと、中まで火が通ってるかすごく不安になるんです。
——揚げ焼きみたいな感じなんですね。春巻きは具材まで昼に作っておいたんですか?
咲帆 土日は朝から晩まで通してお店にいるので、土日の夕飯は金曜日の中抜けの時間に作り置きするんです。だから、金曜昼に包むところまでやっておきました。土日は、なるべく簡単で、悪くならないものとなると、お鍋が多くなるんですよ。この日はがんばって春巻きを仕込んで当日揚げましたけど、やっぱり大変だなと。毎週は無理だからもっと楽しようと思いました。
カフェが併設したバレエ教室を開きたいという野望
——限られた時間で仕込んで、この充実した夕飯はすごいと思いました。いつも何時くらいに食べるんですか?
咲帆 お店が22時閉店なので、そのあたりで私は先に帰って、締めの作業をしてから健人くんが帰ってくるんです。だから、夕飯は23時くらいになります。
——わあ、大変だ。
咲帆 でも、ほっと一息ついて一緒に過ごせる時間が、夕飯くらいなんですよね。だから、この時間はなくしたくなくて。なるべく家で作って一緒に食べるようにしています。
——大事な時間ですね。健人さんは、咲帆さんの作る料理で何が一番好きですか?
健人 ぱっと思い浮かぶのは、土曜日に出てきたキャベツ卵カニサラダです。
——メニュー紹介の時には触れられなかったおかずが、ここで急に脚光を浴びた…!
健人 これむちゃくちゃおいしいんですよ。何が入ってるのかようわからんのですけど、僕が感じるのは、キャベツ、卵、マヨネーズ、ごま油かな。お酒にも合うし、ボウルいっぱい食べて晩ごはんは以上、でも満足できるくらい。永遠に食べ続けられます。
咲帆 あと、おろしにんにくとかすりごまとかも入ってるよ。前、大きいガラスの器いっぱいに作ったら、一気に食べててびっくりした。
健人 咲帆ちゃんはこれが一番って言われても、あんまりうれしくないかもしれないけど…。
咲帆 まあ、サラダにしては手間かかるんですよね。ゆで卵作って、キャベツをレンジにかけて冷まして絞って…。わりと「作るぞ」って気合い入れて作る料理なので、いいでしょう(笑)。頻度増やすね。
——今後、お店の展望などはありますか?
咲帆 大きい夢、言ってもいい?
健人 なにかあるそうです、どうぞ(笑)。
咲帆 私、カフェが併設したバレエ教室を開きたいんです。私が通っていたバレエ教室は、駐車場もなくて、送り迎えのお母さんたちは待つ場所もなくて大変そうでした。だから、バレエ教室にゆっくりできるカフェがついていて、そこで夕飯の足しになるデリが買えたりしたらいいのになって。そういうことを、社会人になったくらいの時からぽわーんと、かすかに考えていました。資金もないし、自分でお店つくるなんて無理だと思ってたけど、今カフェやってるじゃん!と。健人くんと結婚して、急にその夢が現実味を帯びてきたんです。
健人 僕自身は、そんなにチェーン展開したいとか、野望がないんですよね。経営者になるよりは、現場でお客さんと接していたい。まずはこの店がつぶれてしまわないよう強くしていきたい、くらいの気持ちなんです。だから、そのうち咲帆ちゃんに乗っ取られてるかもしれませんね(笑)。
——発展的に(笑)。それも素敵な未来ですね。お話聞かせていただいてありがとうございました!