わたしの「ライバル」、「宝来軒」の焼めし
写真家の中川正子さんに写真と文章で綴っていただく「テイクアウトのある風景」。
第二回は、中川さんが「ライバルみたい」と言う「宝来軒」の焼めし(チャーハン)。中川さんが仕事で家を空ける時、いつも旦那さんと息子さんがテイクアウトしているそう。中川さんがついに、そのライバルに対面(!)します。
「おうち時間」が全国的に増える中、「テイクアウトのある風景」が少しでも、心をあたためてくれますように。
「ほうらいけんのチャーハン」。その名は夫と息子から何度も聞いていた。出張でわたしがいない時、二人で訪れたり、持ち帰って食べているらしい。それはそれは大量でそれはそれはおいしいと。遠く離れた場所で仕事している時に、アングルのせいかとんでもない量に見える一皿を目をつぶって貪るおもしろ動画がよく送られてくる。
ある時、「軒」という字をすらすらと読んだ三年生の息子にそれをどこで覚えたのかと聞くと「ほうらいけんのけんだから」と言う。聞くと、週に一度は行っていると。木曜の昼に夫が行き昼食を取り、そこでチャーハンをテイクアウトして、空手の習い事前の息子の夕食にしているそう。わたし不在時の彼らの暮らしにはすっかり馴染んでいるようだ、ほうらいけん。
わたしが作るものを(ありがたいことに)どれもおいしいと平らげる息子だけれど、チャーハンに関しては、「ほうらいけんのやつみたいなの作って」と言う。なんだかライバルみたいな気分になってきたぞ。これはちょっと、試しに行かないと。テイクアウトするついでにお店でもいただいて比べてみよう。
そんなわけで来ました、宝来軒。外観はいかにもいいかんじの街中華。わたしたちはお昼前に行ったのですんなり入れましたが、12時すぎると長蛇の列。今日はたまたまかもしれませんが、男性ばかりでしかも、いかにもたくさん召し上がりそうな屈強な雰囲気の方も多い。夫に聞くと、週末は家族連れも多いとのこと。ふむふむ。
メニューも見ずにチャーハンを頼む息子と夫。あとでチャーハン一人前テイクアウトするよ、と言っても聞かないのであります。この店に座るともう、自動的にチャーハンのスイッチが入ってしまうらしい。夫はビール、息子はキリンレモンも当然のように即注文。非常に慣れている。わたしは他のものを注文してチャーハンはちょっともらうことにする。店は満員。カウンター席にははらぺこ感が背中ににじむ男たちがひしめきあっている。
チャーハンは正式には「焼めし」だそう。肉とエビの2種類。うちの男子たちは揃って肉。今か今かと覗く厨房の一番奥で鍋を激しく振り、おそらく素材の水分を飛ばしまくっているご主人の動きは職人そのもの。横顔が凛々しい。お店のみなさんは男女共に揃いの黒いTシャツを来てきびきびと動き、体育会系の清々しさがある。
じゃん、来ました。聞きしに勝る量。なんだこれ。写真だとなかなか伝わりづらいのですが、茶碗三杯分くらいありそう。具は卵と肉とネギ。シンプル。一口いただくと、主張しすぎず、いくらでも食べられそうなおいしさ。パラパラではあるけれど、水分もよいかんじに残っている。なんというか、まさに焼めし、という味。見ると、夫と息子はもりもりかきこむように食べている。カウンターのみなさんも焼めし率が高く、盛大に平らげている。大盛り、の声も聞こえる。普通盛りでもわたしにとっては、十分にメガに思えるというのに。大盛りとはすごい。しかし一体このお店、一日に、何升の米を炊いていらっしゃるのだろう。
大量の焼めしをしっかり平らげ、満足そうな二人。それでも改めて「テイクアウトするよ」と言うと、息子は目を輝かせる。まだ食べたいのか。そうそう、お値段はこれでなんと500円。ご、ごひゃくえん。耳を疑う。なんということ。
自宅に持ち帰って重量を測ってみた。520g。お茶碗一膳が150gくらいだとすると、やはり三杯以上。ふたがはちきれそうに膨らんでいるのを、輪ゴムでむりやり止めている。
開けると、箱の中にあの焼めしがぎゅうぎゅうに詰まっている。息子が食べたい、と言う。君はついさっき一人前フィニッシュしたばかりじゃない、と突っ込むも、わたしも夫も食べたくなってきて、お皿に取り分けるひまもなく結局、全部消滅しました。冷えてもおいしい。
おそるべし、うわさの「ほうらいけんのチャーハン」。これは、敵う気がしないから、わたしも今後はお世話になることにしちゃいました。あれから、なんだか急に食べたくなるのです、時折。
店舗情報
宝来軒
岡山県岡山市北区表町2丁目3−51
086-231-2965
営業時間 11:30~14:30/17:30~20:30
定休日 火曜、水曜
※営業時間・定休日は変更となる場合がございますので、ご来店前に店舗にご確認ください。