もっと気軽に楽しんでーー川後陽菜さん流日本酒の味わい方
「食への偏愛」をテーマにした連載【「スキ」を語る。】がスタートします。第1回は、日本酒好きが高じて、日本酒のプロデュースも手掛ける、川後陽菜さんにお話を伺いました。日本酒を好きになったきっかけや、おすすめの銘柄や嗜み方を語っていただきます。ぜひ音声とテキストの両方でお楽しみください!
日本酒沼の入り口は漫画
ーー川後さんは日本酒好きが高じて、2019年には日本酒のプロデュースもされていますよね。
滋賀県甲賀市にある瀬古酒造さんと日本酒スタートアップの未来酒店のコラボ商品として、「くノ一純米吟醸プレミアム」とカップ酒の「くのいちのたまご」をプロデュースしました。
ーー成人してすぐ、日本酒をプロデュースするところまで「日本酒沼」にハマったきっかけは、何だったんですか?
どこからハマったのかは定かではないんですけど、多分、日本酒がテーマの漫画を読んでからですかね。もちろん成人する前は飲んでないですけど、日本酒漫画の『ぽんしゅ部!』。日本酒好きの女子大学生が、実際に存在する日本酒とそれに合うごはんを紹介してくれる漫画なんです。あとは女性ひとり酒を描いた『ワカコ酒』、グルメ漫画の定番『美味しんぼ』などの作品が大好きだったので、昔からお酒自体に興味があって。
ーー入り口は漫画だったんですね。
漫画って、すごくおいしそうにお酒が描かれているじゃないですか。「どんな味なのかなぁ」、「お米もおいしいからきっと日本酒もおいしいんだろうなぁ」と興味を持って、イメージを膨らませていたんです。で、実際に飲んだら、すごくおいしかった!
ーー結構いけちゃいました?
私の年代であまり日本酒好きな人はいないんですけど、見事にハマっちゃいましたね〜。
ーー日本酒の飲み口を説明するのって難しいですけど、川後さんはどんなタイプの日本酒が好きですか?
そう、説明が難しいので、私は「おいしい」とか「好き」とかで表現しがちです(笑)。基本的には後味スッキリの辛口系の日本酒が好きなのかなとは思うんですけど、好きなラベルを挙げるとそうとも限らなくて。意外とストライクゾーンは広い気がします。
ーー日本酒デビューしたときの銘柄は、覚えています?
山口県の獺祭ですね。「有名だから飲んでみてよ」と、友人から薦められた記憶があります。獺祭で日本酒のおいしさを知ってから、他も色々チャレンジするようになって。感動したのは、青森県の田酒!柔らかな飲み口で後味がすっきりしていて、和食なら何でも合う。飲みやすいし、今でも一番好きな銘柄ですね。
ーーそこから、ずるずると日本酒沼に入っていくわけですね。
もう、一気に!和食と一緒に日本酒を嗜むって、大人気分じゃないですか(笑)。
好きな銘柄に出会うコツは「おもしろいお酒はありますか?」
ーー日本酒の知識は、どう仕入れていったんですか?
飲食店ではよく店員さんにおすすめを聞きますし、普段から日本酒に詳しい友人にいろいろ教えてもらいます。全国の日本酒が載っている本や、カップ酒のラベルを集めた本なども持っていて、知識も入れるようにしていますね。気になった銘柄を実際に飲んでみて、おいしいと思ったラベルの写真はどんどん撮って、インスタグラムの鍵アカウントにメモ代わりでアップしています。
ーーおすすめを聞くときの川後さん流のルールや聞き方があったらぜひ伺いたいです。
好みが辛口すっきりめのお酒であることを伝えつつ、「おもしろいお酒はありますか?」と聞くことが多いかなあ。東京であまり出回っていないようなレアなお酒や、期間限定・季節限定のお酒があれば、絶対チェックします。
ーー「おもしろいお酒」!どんな日本酒と出会いましたか?
チーズケーキのような風味がすると教えてもらった、WAKAZE三軒茶屋醸造所の「FONIA shiori 〜Fresh Cream & Orange〜」ですね。ヨーグルトにオレンジミント・ローズマリーを加えて発酵してあるお酒で、本当にチーズケーキの味がするんですよ。
ーー(調べながら)気になります!通販でも手に入るみたいですね。他にも、日本酒初心者でも飲みやすい、おすすめの銘柄はありますか?
ちょっと変わり種かもしれませんが、秋田酒類製造株式会社の「加温熟成解脱酒」は、あんず系の味がして、ほんのり甘いんです。とても飲みやすいので、日本酒が苦手だと思っている人にこそ、ぜひ飲んでいただきたいですね。意外なんですけど、フレンチ料理に合うんです!マリネなど酸味のあるもの、赤身肉、スパイスの効いたものとか。日本酒好きより、ワイン好きな人に刺さるかもしれません。
三重県の木屋正酒造「而今」や、超定番の「新政」も好きです。最近だと山形県内の4蔵元がコラボレーションした「山川光男」というおもしろい日本酒があるんですよ。名前からして、いかついラベルなのかと思いきや、ほんわかしたゆるキャラみたいな絵が描いてあって可愛いんです。公式サイトにはストーリーが書いてあるんですけど、2020年のお酒はフィリピンや中国などにインスパイアされたみたいです。
ーー日本酒は、エリアによって風味も異なりますよね。日本酒を通じて、各地域の歴史を学んだりすることもあるんでしょうか。
今はなかなか行けないですけど、私は旅がすごく好きで。毎月事前に仕事のスケジュールを空けておいて、国内外を旅行してたんです。旅先ではやっぱり、その土地の地酒を飲むのが好きですね。旅館によくある地酒3種飲み比べセットを試してみたり、日本酒が有名なお店をネットで検索して行ってみたり。東京で飲むのもいいんですけど、そこの土地のお酒を飲むことが楽しくなりました。
新潟駅と越後湯沢駅構内にある「ぽんしゅ館」、おすすめです。ワンコインで日本酒をちょっとずつ試飲できるスポットなんですよ。
日本酒「くノ一」と、ポップなカップ酒をプロデュース
ーー改めて。川後さんが日本酒「くノ一純米吟醸プレミアム」をプロデュースされたのは、どういった経緯だったんですか?
お酒が本当に好きだったんですけど、それまであまり周囲にアピールしてこなかったんですよ。で、何かの拍子に、私が熱量高くお酒について語っていたら、「そんなに好きならプロデュースしてみたら?」と仕事相手に言われたことがきっかけですね。
ーープロデュースを通じて、新たに知った日本酒の面白さは?
初めて瀬古酒造さんのところに行ったときに、お酒の作り方を教えてもらったんです。「こんなに手間ひまかけて作っているんだ!」と知ることができて、よりお酒がおいしくなりました。瀬古酒造さんの場合は、蔵から見える場所でお米を作っていて。あ、このお米からお酒ができるんだと知ったり、杜氏の熱い思いを聞いたりするのが楽しくて。
ーー数ある酒蔵から、なぜ瀬古酒造さんとコラボすることになったんでしょうか。
日本全国のお酒を50種類ぐらい一気に飲み比べしたことがあって(笑)。どれがおいしい、これがおいしい……と選んでいって、最後に残ったのが瀬古酒造さんの「忍者」だったんです。忍者自体は、結構クセがあって、初心者向けというより玄人向けの銘柄らしいんですけどね。
ーープロデュースされた「くノー」という名称は、瀬古酒造の「忍者」から来ているんですね。
そうですね。瀬古酒造さんが「忍者」を作っていらっしゃったし、滋賀県甲賀市は忍者が有名なんです。女性の私がプロデュースしたということで、それらに関連してシンプルに名付けました。日本酒なので、ラベルも和紙を使って、富士山と太陽をイメージした絵にして。
ーー実際に「くノー」を飲めるお店は、どこにあるんですか?
東京だと、渋谷PARCO地下にある「未来日本酒店 & SAKE BAR」で飲めます。通販もあるので、外で飲めない時期だからこそ、おうちでぜひ飲んでみてほしいですね!酒蔵の方に聞くと、私のファンの方はもちろん、私のことを全然知らないけど日本酒が好きな方が購入してくださっているようで、それはめちゃくちゃ嬉しいです。
ーーカップ酒「くのいちのたまご」をプロデュースされたのも意外でした。カップ酒って、少し渋いイメージがあったんです。
そうなんですよね。最近は日本酒を飲みたいけど、一升瓶をまるまる飲みきるのは難しい人も多いと思って。カップ酒なら飲みきりサイズだし、日本酒に苦手意識を持っている若い人、特に女の子でも手に取りやすいような、ポップなデザインと色使いにしました。
ーー「くのいちのたまご」以外にも、おすすめのカップ酒ありますか?
古伊万里酒造さんの「古伊万里カップ酒 NOMANNE」がかわいいなと思います。白磁のカップに伊万里焼・有田焼の古典的な文様を描いているんですよ。それから、新潟県 青木酒造の「雪男」はデザインがかわいいので、いつも買っちゃいますね。濃いめの食事に合うお酒で、結構ガツンと強いんですけど、好きな味です。
知識よりも、好きか、好きじゃないかでいい。
ーー日本酒はおうちで飲まれることが多いですか?飲食店が多いですか?
圧倒的に飲食店が多いですね。寿司や海鮮を食べながら飲むことがほとんどで、「この料理に合うお酒をください」とお店にペアリングをお願いしてしまいます。プロに聞くのが一番!自分の好みを伝えることはあっても、自分から率先して銘柄を選んだことはあまりないかもしれません。
ーー日本酒がおいしいお店があったらぜひ教えてください。
三軒茶屋にある、100種類以上の銘柄が楽しめる「赤鬼」や、山形県の地酒を中心に取り揃えた「月山」ですかね。あとはやっぱり「くノー」が飲める、渋谷の「未来日本酒店 & SAKE BAR」もおすすめしておきます(笑)。
ーーちなみに、おうちで飲まれるときは何をつまみにしているんですか?
未来日本酒店に置いてある鶏皮レモンチップスがめちゃくちゃおいしいので、取り寄せて食べています。それから、ハウステンボスで売っている「クリームチーズ&ターフルソースセット」という、クリームチーズと醤油があるんですけど、そこに鰹節をプラスするとさらに絶品で。
ーーいいですね。どれもおいしそうです。
あとは、アボカドにマヨネーズとカレー粉を混ぜるだけでも、永遠リピートのおつまみができます(笑)。楽だし、超おすすめです。
ーー家飲みも充実してそうですね!
そうですね(笑)。酒器を集めるのも好きで、おちょこやグラスもたくさんあります。
特に、金沢に行ったときにたまたま出会った大西雄三郎さんという作家さんの酒器が好きで。金沢でしか購入できないので、彼の酒器を買うために、金沢によく足を運んでいます。
ーー最後に、これから日本酒を楽しんでいきたいなと思っている人に向けて、楽しむコツを教えてください。
日本酒を飲むためにはいろいろ知識が必要に思われがちですけど、私は「好き」か「好きじゃない」かでいいと思っています。飲んでみておいしかったから、それと似ている銘柄を探してみたり、詳しい人に聞いてみたり。辛口好きな人は辛口ばかりでいいし、甘口好きな人は甘口縛りでもいい。幅広く攻めようと思わなくていいんですよ。ラベルやボトルのデザインなどから入ってもいいし、もっと気軽に日本酒を楽しんでいいと思います。