料理研究家だってミスもすれば苦手なこともあります! Vol.2

特別企画

PEOPLE
2023.06.02

「料理研究家」という職業、完璧でスキのないイメージを持っていませんか?毎日をていねいに暮らし、日々きっちり料理をこなしているような。でも「そんなわけないじゃないですか!」「うっかりもすれば、いい加減な部分も多々ありますよ」と笑って語る方、案外多いもの。料理研究家さんに日々の失敗談や苦手なことをお聞きしてみる特集、第二弾です。

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お話を伺った人:阪下千恵さん

料理・家事研究家、栄養士。長野県生まれ。淑徳短期大学食物栄養学科を主席で卒業。外食産業やオーガニック系食材宅配会社勤務を経て独立。2児の子育て経験を活かしたレシピ制作や調理家電の研究などを得意とし、近著に『パスタ365』(永岡書店)がある。現在は子どもの弁当作りが朝の日課。

前もって失敗することが私の仕事なんです

「料理研究家って完璧な人が多そう」というイメージ、ちょっと分かる部分あるんです。私も15年以上、料理の仕事をやってきていますが、いまだに失敗はしょっちゅうなんです。だから、他の先生方を見ると「ああ…ちゃんとなさってそうだなあ、失敗しなさそう」なんて思っちゃったり(笑)。

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ただね、私は自分の職業って「みんなの代わりに前もってあれこれ失敗する人」だと思っているんです。そこに自分の価値があるかな、と。いろんな失敗を体験しているからこそ、多くの方にとって作りやすく、再現性の高いレシピを考えられるといいますか。失敗していればこそ、やりやすい手順、作りやすい分量も考えられるし、レシピにおける分かりやすい表現を心掛けられますね。

うっかりはもう日常茶飯事ですよ(笑)

思い出すと本当に恥ずかしい、うっかりな失敗ばかりです。慌てて料理しているときなんか特に多くて。考え事しながら料理してたら、調味料のボトルを間違えてしまったことも過去にありました。酢とみりんのボトルが似ていたんで、間違えて煮物に酢を入れちゃったんです。でもそのおかげで学びもありました。最初に酢を入れてしまった煮物って、いくら煮ても大根がしっとり仕上がらないんです。

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ハンバーグもよく焦がしましたね。当時はフライパンを熱してから焼き始めるのが基本だったんですが、それだと焦げやすいんですよ。何度も焦がすうちにさすがに学んで、フライパンに火をつける前にハンバーグを並べておこうと。今でこそ「コールドスタート」なんて言われていますけど、失敗は成功の母って本当ですね。

そうそう、アクアパッツァを作っていたら、火加減が強かったのか、水分が少なかったのか、もう原因は忘れちゃいましたが、カピカピに仕上がったこともありました。でも水を足せばまあ…食べられるかな、って(笑)。

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あ、この間たこ焼きを作ったときも失敗したんでした。水を600mL入れるところ500mLしか入れなかったんですね。なんか少ないかなとは思ったんですけど「まあいいか」と思っちゃって。もっと生地がシャバッとするはずなのに、ならない。それでも焼いちゃいましたけど(笑)。だって、そんな完璧な味じゃなくてもいいわけですし。自分の家の料理なんだから失敗したっていいや、とも思うんです。

失敗したら一応、「どうしたらそうならないか」を考えて再度チャレンジはしています。そうやって経験したあれこれが今の仕事につながって活きているとは思いますね。

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失敗を避けたいときは時間と量をきっちりはかる

「今回は絶対失敗したくない」というときはしっかり計量して、調理時間もきっちり守ります。私、料理って計量と時間が最大のポイントだと思っているんですね。これまでお話したとおり、私も全然きっちりした人間じゃないんですけど、失敗したくなければ面倒でも量と時間をはかるほうが早いです。

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ただね、加熱時間を守っているのに失敗してしまうこともあります。それはどうしてかというと、「中火」や「弱火」といってもガスコンロや調理器具、そして料理する人の感覚でずいぶん状態は変わってしまうからです。

中火で煮てるつもりでも鍋中(なべなか)がぐらぐらしていては「中火で煮ている状態」ではないんです。だから火加減によって鍋の中がどういう状態になっているのか、私がレシピを書くときは注意して、できるだけ分かりやすく伝えているつもりです。

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そして「失敗」といっても、何をもって「失敗」とするのかも人それぞれですよね。食べられないほどの失敗ってそこまで多くないかもしれないですけど、家族や食べる相手が「おいしい!」と言ってくれなくても、それは失敗じゃありませんよ!毎日用意しているだけでとても立派なこと。そして失敗の数だけ料理上手に近づくと私は思っているんです。日々のことですから、何より気楽にいきたいですね!

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取材・文:白央篤司
撮影:猪原悠