ごはん同盟のしらいのりこさんが語る、おにぎりの魅力「おにぎりは日本一のファストフード!」

特別企画

PEOPLE
2021.04.13

おにぎりってシンプル極まりないけど奥深くて、バリエーションが実に豊富。誰しもちょっとした思い入れや、独自の好みを持っているのではないでしょうか。今回は、お米料理を専門として活動する料理研究家・しらいのりこさんをゲストにお迎えして、おにぎりについて語っていただきました。聞き手は、『にっぽんのおにぎり』などの著作があるフードライターの白央篤司さんです。

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白央

いきなりお聞きしますが、しらいさんにとっておにぎりって、どんなイメージですか。

しらい

ごはんをにぎって海苔をまけば、すぐにできてしまうのがおにぎり。油も使わないし、塩気は具材にもよりますけど、基本的に健康的でいいものだなと思います。私は日本一のファストフードだと思っているんですよ。

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白央

ああ、まさに。手早くできて、食べたときの満足度は高い。食べやすいという意味でも、そうですね。小さい頃からおにぎりはよく作っていたんですか。

しらい

はい。自分でもよく作っていたし、母も作ってくれましたね。「お腹が空いた」と言うと、味噌をぬってにぎってくれる。それがうちのおにぎりでした。味噌のしょっぱさとごはんの甘さのコントラストがね、いいんです。最高においしかったなあ。ごはんはもちろん、コシヒカリ。

白央

しらいさんは米どころ・新潟県のご出身ですね。

しらい

そうです。そして母の実家は米農家なんですよ。新潟県人って、たどると親戚筋のどこかに米農家がいるの(笑)。

白央

思い出に残るおにぎりって、ありますか。

しらい

うーん……高校生の頃、家の近くにコンビニができたんです。そこで海苔がパリパリのおにぎりと出会ったのが衝撃で。「おいしい!」って、驚いて。中でもツナマヨが好きでね。それからもう一生分ぐらい食べました(笑)。実家のおにぎりにツナマヨなんてなかったし、おにぎりの海苔はしっとりしてるものだったから。

白央

おにぎりって、しっとり海苔派とパリパリ派に分かれますよね。ときにしらいさん、おにぎり専門店で働かれた経験があるとか。

しらい

お米とおにぎりの勉強がしたくて。ちょうど近所に「お米のカリスマ」と言われるお米屋さんがやっているおにぎり専門店があって、そこで働くのが一番勉強になると思ったんです。そこでごはんの炊き方、にぎり方のコツ、塩の振り方など、徹底的に極意を叩きこまれました。

 

その店のオーナーがにぎると、しっかりにぎっているのに、食べるとふわっと柔らかい。米粒がつぶれていなくて。私だと全部がやわらかくて、食べると崩れてしまう。私のにぎったおにぎりをお店に出してもらえるようになったのは、4か月ぐらい特訓してもらってからでしたね。

白央

その特訓に密着して、別の記事にしたかったな。それはともかく、しらいさんが思う「理想的なおにぎり」ってどんなでしょう。

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しらい

そうですねえ、「おいしく炊いたごはんと、最高においしい海苔で作ったもの」ですかね。柔らかめに炊いたごはんを熱いうちににぎって、ちょっとおいて、熱が少しとれた頃に食べるのがいい。熱いうちににぎらないと、ごはん同士が結着しないんです。冷めたごはんだと、強くにぎらないとくっつかない。そうすると食感が悪くなります。そしてごはんの甘みって、少し冷めたぐらいのほうがしっかりと感じられる。

白央

お米は「鮮度」も大事なんですよね。それは精米されてからなるべく時間が経っていないもの、という意味で。

しらい

そうです。スーパーで買うときは、パッケージの精米年月日をチェック。なるたけ精米から2週間以内ぐらいのものが買えるといいですね。

白央

お米の銘柄もいろいろありますが、その点はどうですか。

しらい

基本的に日本のお米はすべておにぎりに適してますけど、粘りがあって、もっちりして、冷えても硬くならないお米が特に向いています。銘柄を挙げると「コシヒカリ」「ミルキークイーン」「ゆめぴりか」「つや姫」などがいいんじゃないでしょうか。

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白央

おにぎりを作る上で、気をつけてほしいことはありますか。

しらい

お米を炊くとき、しっかり吸水させてください。そうしないと、ごはんが冷めたときに硬くなるんです。おにぎりって冷めた状態で食べることが多いから。お弁当にする場合もそうですよね。

 

炊飯器を使っているなら(今の炊飯器は吸水時間も含めて作動するので)考えなくていいですけど、鍋で炊くなら水につけるのは「冷蔵庫で2時間」がベスト。冷水で吸水させるほうがおいしく炊きあがります。

白央

うーむ。「ここ、試験に出るよ!」って言いたくなるな。

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しらい

あと、ごはんって触りすぎると味がどんどん悪くなるので、最小限のタッチでにぎるといいんですけど、そこは慣れですね。

 

作ったあとに包むのはラップじゃなくて、アルミホイルがいいです。アルミだと空気の隙間ができるので、蒸れないから。

白央

私もずっとアルミ派です。これは理屈というより、親がずっとそうしてたからなんですけどね。お気に入りの具はありますか?

しらい

最近とみに「おいしいなあ」と思うのは、梅干し、タラコ、スジコ、鮭。ごく普通なんですけど、普通がおいしくて。白いごはんとのコントラスト、最高ですよね。彩り的にも、塩気と甘みのバランス的にも。やっぱりシンプルで基本的なものの強さってすごい。

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(左上から時計回りに)タラコ、梅干し、鮭、スジコ

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おにぎりは一般的なもので90g~120g程度。一度スケールで測って、自分好みの重量を知っておくのもおすすめ。

しらい

鮭は、銀鮭派。脂の具合が絶妙ですもん。甘塩の銀鮭にお酒をふって蒸し焼きにして(もしくはレンチン)、身をほぐして自作の鮭フレークを作るんですけど、おにぎりにすごく合いますよ。もう無敵!

白央

鮭フレーク、やってみます!ごまなんかとごはんに混ぜておにぎりにするのもよさそう。

しらい

あとポイントはやっぱり海苔ですね。特にひいきのブランドはないんですが、黒くてパリッとした有明海苔が好きです。各地の海苔をしっかりと食べ比べしたわけじゃないんですけど、これまでに「おいしい!」と思ったものは有明産が多かった。食感がいいんですよ。「海苔とお茶はいいものを知ったら戻れない」なんて言いますけど、本当にそうですね。

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白央

海苔は栄養面からみても優れた食材。日々の栄養を補う上でも、私はおすすめしたいな。そうだ、おにぎりの具を冷凍する便利テクがあるとか。

しらい

まず、おにぎり1個に対しての具の重さって、7~10g程度なんです。タラコ、スジコ、明太子、ほぐした鮭、なんでもいいんですけど、バットにラップをしいて、その上に具7~10gぐらいをひとかたまりにして置いていくんですね。さらに上からまたふんわりとラップして、冷凍庫で凍らせます。凍ったら、チャック付きの保存袋などに入れて、冷凍保存。それを熱々のおにぎりに入れてにぎると、そのまま溶けますから。常備しておけば、ごはんを炊いて、おにぎりを作り終えるまでのスピードがグンとアップ。機動力が上がりますよ。

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白央

スジコって冷凍できるんですね、知らなかったな。やってみます!

 

さて、最後の質問。「おにぎりって、うまくにぎれない…」と悩む人も少なくありません。やっぱり数をこなすしかないでしょうか。

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しらい

そういうご質問、よくいただきます。おにぎりはシンプルな分、気になる点が多いですよね。これに関しては、「ごはんをおいしく炊く、あたたかいごはんでにぎる、力いっぱいにぎらない、にぎる回数は少なくする」と、いうのが基本。

基本的な作り方

1. ごはん茶碗などにラップをひき、ごはんを適量入れて具をのせる。
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2. 具の上に少量のごはんをのせる。
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3. ラップごと全体を手に移しかえ、にぎる。
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4. ほどよくまとまったら、海苔をつける。
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写真のものは半切り、21㎝×9.5㎝のものを使用
しらい

でも、そもそも、うまく作ろうと思わなくていいんじゃないですか?形をきれいにしようと思ったら、型を使えばいいんだし。道具に頼るの、全然アリだと思いますよ。

 

おにぎりに限らず、ごはん作りに悩まれる方って本当に真面目な方が多い。私なんかプロとしてさんざん料理してきてますけど、いまだによーく失敗しますよ!失敗って、プロでも誰でも何度でもするもの。一度や二度失敗して落ち込まないでほしい。上手に作ろうと思わないで、気楽にやってほしいです。料理に「正解」はないんですから。

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しらいのりこ

炊飯系フードユニット「ごはん同盟」の調理・レシピ考案担当。日本各地のお米料理、そして「ごはんを呼ぶおかず」の研究にいそしむ毎日。近著に『じみ弁でいいじゃないか!』(オレンジページブックス)『糖質オフでくじけたあなたへ お米を食べる!ダイエット』(KADOKAWA)がある。

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取材・文:白央篤司
撮影:キッチンミノル