ごはん同盟のしらいのりこさんが語る、おにぎりの魅力「おにぎりは日本一のファストフード!」
おにぎりってシンプル極まりないけど奥深くて、バリエーションが実に豊富。誰しもちょっとした思い入れや、独自の好みを持っているのではないでしょうか。今回は、お米料理を専門として活動する料理研究家・しらいのりこさんをゲストにお迎えして、おにぎりについて語っていただきました。聞き手は、『にっぽんのおにぎり』などの著作があるフードライターの白央篤司さんです。
いきなりお聞きしますが、しらいさんにとっておにぎりって、どんなイメージですか。
ごはんをにぎって海苔をまけば、すぐにできてしまうのがおにぎり。油も使わないし、塩気は具材にもよりますけど、基本的に健康的でいいものだなと思います。私は日本一のファストフードだと思っているんですよ。
ああ、まさに。手早くできて、食べたときの満足度は高い。食べやすいという意味でも、そうですね。小さい頃からおにぎりはよく作っていたんですか。
はい。自分でもよく作っていたし、母も作ってくれましたね。「お腹が空いた」と言うと、味噌をぬってにぎってくれる。それがうちのおにぎりでした。味噌のしょっぱさとごはんの甘さのコントラストがね、いいんです。最高においしかったなあ。ごはんはもちろん、コシヒカリ。
しらいさんは米どころ・新潟県のご出身ですね。
そうです。そして母の実家は米農家なんですよ。新潟県人って、たどると親戚筋のどこかに米農家がいるの(笑)。
思い出に残るおにぎりって、ありますか。
うーん……高校生の頃、家の近くにコンビニができたんです。そこで海苔がパリパリのおにぎりと出会ったのが衝撃で。「おいしい!」って、驚いて。中でもツナマヨが好きでね。それからもう一生分ぐらい食べました(笑)。実家のおにぎりにツナマヨなんてなかったし、おにぎりの海苔はしっとりしてるものだったから。
おにぎりって、しっとり海苔派とパリパリ派に分かれますよね。ときにしらいさん、おにぎり専門店で働かれた経験があるとか。
お米とおにぎりの勉強がしたくて。ちょうど近所に「お米のカリスマ」と言われるお米屋さんがやっているおにぎり専門店があって、そこで働くのが一番勉強になると思ったんです。そこでごはんの炊き方、にぎり方のコツ、塩の振り方など、徹底的に極意を叩きこまれました。
その店のオーナーがにぎると、しっかりにぎっているのに、食べるとふわっと柔らかい。米粒がつぶれていなくて。私だと全部がやわらかくて、食べると崩れてしまう。私のにぎったおにぎりをお店に出してもらえるようになったのは、4か月ぐらい特訓してもらってからでしたね。
その特訓に密着して、別の記事にしたかったな。それはともかく、しらいさんが思う「理想的なおにぎり」ってどんなでしょう。
そうですねえ、「おいしく炊いたごはんと、最高においしい海苔で作ったもの」ですかね。柔らかめに炊いたごはんを熱いうちににぎって、ちょっとおいて、熱が少しとれた頃に食べるのがいい。熱いうちににぎらないと、ごはん同士が結着しないんです。冷めたごはんだと、強くにぎらないとくっつかない。そうすると食感が悪くなります。そしてごはんの甘みって、少し冷めたぐらいのほうがしっかりと感じられる。
お米は「鮮度」も大事なんですよね。それは精米されてからなるべく時間が経っていないもの、という意味で。
そうです。スーパーで買うときは、パッケージの精米年月日をチェック。なるたけ精米から2週間以内ぐらいのものが買えるといいですね。
お米の銘柄もいろいろありますが、その点はどうですか。
基本的に日本のお米はすべておにぎりに適してますけど、粘りがあって、もっちりして、冷えても硬くならないお米が特に向いています。銘柄を挙げると「コシヒカリ」「ミルキークイーン」「ゆめぴりか」「つや姫」などがいいんじゃないでしょうか。
おにぎりを作る上で、気をつけてほしいことはありますか。
お米を炊くとき、しっかり吸水させてください。そうしないと、ごはんが冷めたときに硬くなるんです。おにぎりって冷めた状態で食べることが多いから。お弁当にする場合もそうですよね。
炊飯器を使っているなら(今の炊飯器は吸水時間も含めて作動するので)考えなくていいですけど、鍋で炊くなら水につけるのは「冷蔵庫で2時間」がベスト。冷水で吸水させるほうがおいしく炊きあがります。
うーむ。「ここ、試験に出るよ!」って言いたくなるな。
あと、ごはんって触りすぎると味がどんどん悪くなるので、最小限のタッチでにぎるといいんですけど、そこは慣れですね。
作ったあとに包むのはラップじゃなくて、アルミホイルがいいです。アルミだと空気の隙間ができるので、蒸れないから。
私もずっとアルミ派です。これは理屈というより、親がずっとそうしてたからなんですけどね。お気に入りの具はありますか?
最近とみに「おいしいなあ」と思うのは、梅干し、タラコ、スジコ、鮭。ごく普通なんですけど、普通がおいしくて。白いごはんとのコントラスト、最高ですよね。彩り的にも、塩気と甘みのバランス的にも。やっぱりシンプルで基本的なものの強さってすごい。
鮭は、銀鮭派。脂の具合が絶妙ですもん。甘塩の銀鮭にお酒をふって蒸し焼きにして(もしくはレンチン)、身をほぐして自作の鮭フレークを作るんですけど、おにぎりにすごく合いますよ。もう無敵!
鮭フレーク、やってみます!ごまなんかとごはんに混ぜておにぎりにするのもよさそう。
あとポイントはやっぱり海苔ですね。特にひいきのブランドはないんですが、黒くてパリッとした有明海苔が好きです。各地の海苔をしっかりと食べ比べしたわけじゃないんですけど、これまでに「おいしい!」と思ったものは有明産が多かった。食感がいいんですよ。「海苔とお茶はいいものを知ったら戻れない」なんて言いますけど、本当にそうですね。
海苔は栄養面からみても優れた食材。日々の栄養を補う上でも、私はおすすめしたいな。そうだ、おにぎりの具を冷凍する便利テクがあるとか。
まず、おにぎり1個に対しての具の重さって、7~10g程度なんです。タラコ、スジコ、明太子、ほぐした鮭、なんでもいいんですけど、バットにラップをしいて、その上に具7~10gぐらいをひとかたまりにして置いていくんですね。さらに上からまたふんわりとラップして、冷凍庫で凍らせます。凍ったら、チャック付きの保存袋などに入れて、冷凍保存。それを熱々のおにぎりに入れてにぎると、そのまま溶けますから。常備しておけば、ごはんを炊いて、おにぎりを作り終えるまでのスピードがグンとアップ。機動力が上がりますよ。
スジコって冷凍できるんですね、知らなかったな。やってみます!
さて、最後の質問。「おにぎりって、うまくにぎれない…」と悩む人も少なくありません。やっぱり数をこなすしかないでしょうか。
そういうご質問、よくいただきます。おにぎりはシンプルな分、気になる点が多いですよね。これに関しては、「ごはんをおいしく炊く、あたたかいごはんでにぎる、力いっぱいにぎらない、にぎる回数は少なくする」と、いうのが基本。
基本的な作り方
- 1. ごはん茶碗などにラップをひき、
ごはんを適量入れて具をのせる。 - 2. 具の上に少量のごはんをのせる。
- 3. ラップごと全体を手に移しかえ、にぎる。
- 4. ほどよくまとまったら、海苔をつける。
でも、そもそも、うまく作ろうと思わなくていいんじゃないですか?形をきれいにしようと思ったら、型を使えばいいんだし。道具に頼るの、全然アリだと思いますよ。
おにぎりに限らず、ごはん作りに悩まれる方って本当に真面目な方が多い。私なんかプロとしてさんざん料理してきてますけど、いまだによーく失敗しますよ!失敗って、プロでも誰でも何度でもするもの。一度や二度失敗して落ち込まないでほしい。上手に作ろうと思わないで、気楽にやってほしいです。料理に「正解」はないんですから。