滋味あふれるビールで身体を満たし、音に酔う!キャンプ型フェス「麦ノ秋音楽祭」
クラフトビール―それは土地の恵みと、造り手の想いを溶かし込んだ飲み物。1杯のビールをゆっくりと味わえば、馴染みのない土地が持つ物語さえも見えてくるから不思議です。
そんなクラフトビールでとっぷりと身体を満たし、あたたかな日差しの下、UAや大木伸夫(ACIDMAN)、藤巻亮太に浜崎貴司などといった錚々たるミュージシャンのアコースティックライブを聴くことができるイベントが、埼玉県東松山市で開催されました。
その名も「麦ノ秋音楽祭(むぎのときおんがくさい)」。日本を代表するクラフトビールメーカーであるCOEDO BREWERY醸造所内で行われた、キャンプ型フェスです。
2022年11月5日・6日の2日間に渡って開かれたこのフェスに、ビールに心臓を捧げたビールライター・ルッぱらかなえとアイスム編集部が行ってきたので、その様子をお伝えします!
埼玉を五感で味わう麦ノ秋音楽祭
麦ノ秋音楽祭を開催したCOEDO BREWERYは、1996年にオーガニック青果物の専門商社が設立したブルワリー。ビールの持つ表情の豊かさや奥深さなどといった幅広い魅力と、農産物としてのビールの側面を伝えることで、地元川越を盛り上げてきました。
そんな彼らが麦ノ秋音楽祭を開催したのは、ビールを醸造された地で味わうこと、そしてそこに音楽という魔法を掛け合わせることで、土地の独自の風土や文化から生まれるテロワールを最大限に味わってほしい、という想いから。
COEDO BREWERYに加え、埼玉の生産者さんたちが集まり、土地を五感で楽しめる音楽フェスが初開催されることになったのです。
フェスのために開発!エナジードリンクのようなビール「音ト鳴」
私たちが麦ノ秋音楽祭に参加したのは、イベント2日目。東武東上線森林公園で下車し、車で10分程のCOEDO BREWERYへと向かいました。丘の上に立つ醸造所は、木々に囲まれ、その横には芝生や畑が広がります。
入場してすぐに出迎えてくれたのは大きな看板。ビール樽にディスプレイされたたくさんのススキが「ビールイベントに来たぞ」という気持ちを一気に盛り上げてくれます。
広々としたフェス会場は「CAMPエリア」「麦の種まきエリア」そして「MUSIC LIVEエリア」に分かれており、ゆるやかで心地の良い雰囲気。ビールを飲みながら芝生の上でくつろぐ人や、木陰で寝転ぶ人。芝生を駆けまわったり、牧草ロールで遊ぶ子どもたちなど、みんなが思い思いの形でリラックスして過ごしていました。
キャンプで宿泊していた人もいる2日目のフェスは、午前7時に開場。地元農家さんによる野菜販売や天然酵母パンを販売する「麦ノ秋朝市」や、ライブペインティングパフォーマンスなど、朝からイベントが盛りだくさん。
私たちが到着した午前10時には会場はだいぶあたたまっており、既にたくさんの方々がビールを楽しんでいました。
いろいろ気になるものはあれども、まずはビールで身体を満たしたい!ということで、まずは早速COEDOが飲めるテントへ。
ビールのラインナップは定番ビール6種に、限定醸造ビール「彩-SAI-」そして麦ノ秋音楽祭会場だけしか飲めない「音ト鳴(おととなり)」の計8種類。サーバーから注がれるビールはどれも美しくて目移りしてしまいますが、やはり記念すべき1杯目ということで、まずは音ト鳴をいただきます。
グラスに注がれた液体は、秋の日差しのように淡く黄金色。その色合いにうっとりしながら口をつけると、すうっと爽やかな香りが広がり、追いかけるように酵母由来の奥深さが現れます。
喉奥が柔らかく包み込まれるような存在感はあるものの、身体の中に染み込んでいくような味わい。ビール特有の苦みはまったくありません。
この透明感と複雑さが同居したような味わいは、どうやって生み出されているのだろう…?
不思議に思っていると、音ト鳴の開発者であるコエドブルワリーの目黒さんがいろいろと教えてくださいました。
ーーこのオリジナルビール音ト鳴はすごく飲みやすいですね。苦味もなくびっくりしました。
目黒さん:実はこの音ト鳴、ビールの苦味の元となるホップを一切使用せず、代わりに厳選オーガニックマカと高麗人参を使用しているんです。
音ト鳴は「フェスで楽しめるビール」がテーマ。なのでビールに馴染みがない方やビールの苦味が苦手な方でも楽しめて、さらに飲むことで元気になれるエナジードリンク的な立ち位置のビールにしているんですよ。
ーーエナジードリンク!ホップを使わないビールも、マカと高麗人参が入ったビールも初めて飲みました!でも、まったくクセがないんですね。
目黒さん:音ト鳴は日本薬科大学の漢方研究部と一緒に開発しているのですが、彼らのアドバイスで飲みやすくするためにレモンを入れています。
ーーこの爽やかさはレモン由来のものだったのですね。たしかにこれなら音楽を聴きながらゴクゴク飲めそうです。
目黒さん:このビールは次回のフェスに向け、さらにブラッシュアップをしていく予定です!
クラフトビールは、その醸造物語を聞くことでさらに味わい深くなるもの。
目黒さんの話を聞いたあとに味わう「音ト鳴」はさらに飲みやすく、身体の中からふつふつと薬膳パワーが沸き上がってくるような気がしました。
ビールと共に、地元の食材を味わう
「音ト鳴」でパワーチャージをした後は、フードテントへ。ここでは、埼玉の食材をつかったフードを楽しんだり、地元で取れた新鮮な野菜をも買うことができるようになっていました。
のんびり眺めてまわった後、私たちがチョイスしたのは地元産の一級品の里いもを使用した「芋煮」と、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの伊地知潔さんプロデュースの「豚バラとトマトの欧風カレー」。
それらのお料理と、追加で買ったビールを持ってステージが見える芝生へと腰を下します。乾杯後にまずは芋煮をぱくり。里いもはほくほくで、にんじんは口の中でほろっと崩れます。
各地のフェスでも大人気だという「豚バラとトマトの欧風カレー」は、とにかく野菜の旨味が濃厚でびっくり!豚バラはほろほろで、スパイスはしっかりと効いていて辛く、スプーンが止まらないおいしさでした。
2杯目にチョイスした長期熟成のブラックラガー「漆黒-Shikkoku-」との相性も最高。あっという間にどちらも空になってしまいました。
心震える、美しきアコースティックセット
おいしいもので体が満たされ、心地よく酔いがまわってきた頃に始まったのは、この日のライブステージ。ステージの上から響いてくる、美しきアコースティックギターの音色は光の粒のように会場に広がり、木々の間を揺らめくように駆け抜けていきます。
ブルワリーフェスだけあって、一曲終わるごとにミュージシャンに新しいビールが手渡されます。演奏しているアーティストにも、音楽を聴いている人々の体にもCOEDOが流れている不思議な一体感。
自分の体の中にあるビールは、音楽と周囲の自然にシンクロするように波立ち、気づけば初めて訪れたはずのこの地を、とても好きになっていました。
どのアーティストのライブも本当に素敵だったのですが、中でも印象的だったのは大木伸夫(ACIDMAN)さんのライブ。なぜならこの日はACIDMAN presents 「SAITAMA ROCK FESTIVAL “SAI” 2022」 x COEDOコラボレーションビールである「彩-SAI-」を会場で飲みながら聴くことができたからです。
「彩-SAI-」はACIDMANの楽曲に頻出する「空」や「星」から着想を得て、「Aurora(オーロラ)」、「Galaxy(ギャラクシー)」というきらびやかな香りのホップを使用し、発酵中にはACIDMANのアルバムを聴かせて発酵したペールエール。
キリっとした中に光のように煌くホップの香り、そして引き込まれていくような苦みが広がります。
「彩-SAI-」を飲みながら聴くライブはキラキラと美しく、なんだか「彩-SAI-」に刻まれているであろう「音」の記憶が自分の中にも流れ込んでくるようでした。
まるっと2日間遊べる!たくさんの仕掛け
アコースティックライブを聴きながら、ビールや食を楽しむ。それ以外にもこのイベントには様々な「楽しい」が用意されていました。
例えばキャンプで宿泊した人のための星空ゲーム大会や、ヴィンテージワゴンを改造した「サウナワゴン」。ビールを醸造する際に出る、麦芽の搾り粕(栄養価が高く、お肉の質がよくなったりするらしい!)を食べて育った「国分牧場」のお肉のデリバリー。
そしてビールをもっと知りたい人のためには「コエドビール学校SPECIAL」やCOEDO BREWERYの中を見学できるブルワリーツアーなどといったビールイベントも開催されていました。
とにかく1日目、2日目を通じ、わくわくするような仕掛けが各所に散りばめられていたのです。
未来に想いを馳せ、麦の種をまく
ビールやライブなどをたっぷり満喫した昼下がり。このイベントの締めとなる麦の種まきが始まりました。
このフェスの名前にある「麦ノ秋」=「麦秋(ばくしゅう)」とは、実は5月から6月の麦の収穫時期を表す季語のこと。次の麦ノ秋音楽祭は麦の穂が実る初夏予定であり、その開催に向けてイベントを育てていきたいという想いから、参加者全員で麦の種まきが企画されていたのです。
麦の種まきが行われたのは、元々は野球場だった場所。ゴツゴツと固く、作物を育てるのには不向きだった場所を、COEDO BREWERYの朝霧重治社長と、朝霧社長の同級生であり、COEDO BREWERYの農業顧問である稲葉農園の稲葉陽一さんが苦労しながら開墾していったといいます。
グラウンドだった場所で麦を育てる。この大変なチャレンジについて、朝霧社長にお話をお伺いしました。
ーー畑づくりについて、ここまでどのようなことがあったか教えてください。
朝霧社長:もともと痩せて、砂漠のような土地だったのをみんなで一生懸命畑にするところから始めました。
畑が形になり、最初に種取を始めたのは2019年。1000粒の麦をオレゴン州から取り寄せスタートしました。この種を川越の種取農場で増やして臨んだ、初年度の2020年は全然収穫をすることができませんでした。
試行錯誤しながら挑んだ2年目はようやく20キロ40万粒を収穫することができ、今年は3回目の挑戦となります。今回はだいぶ土づくりができているので、来年のフェス時には黄金の麦畑が広がり、そこから何トンもの麦が収穫できると期待しています。
ーー黄金の麦畑!ぜひ見たいです。麦がたくさん収穫できたら、それを使ってビールを醸造するのですか?
朝霧社長:そうですね!それも検討しています。あとは近隣の耕作放棄地を耕し、この畑で穫れた麦を使って大麦栽培をしていきたいと思っています。
いろいろな想いが詰まった自家栽培の麦の種。それは手に乗せると小さくも、とても力強いものに見えました。
畑に小さな穴を開けて、麦をうめる。たくさんの参加者たちによりまかれた麦の種には、いままでクラフトビール業界を牽引してきたCOEDO BREWERYの新たな一歩と、これからの夢も一緒にのっているようで、それはなんだかとても胸を打たれる光景でした。
次回麦ノ秋音楽祭は、初夏の麦秋の頃に開催
来年の麦ノ秋音楽祭は2023年5月27日・28日に決定しました。今年まいた麦の種が、豊かに実をつける麦秋の頃。畑はどのような姿を見せてくれるのか、今から楽しみで仕方ありません。
ゆるやかで心地のいい空間で味わった、ビールの麦の甘みやホップの苦味。そして滋味深い料理の余韻。それらは自然や音楽の力も相まって、今なおくっきりと記憶に残っています。
来年はどんな「おいしい」に出会うことができるのか…次のフェスに向けてのワクワクも、自分の中でゆっくりと育てていこうと思います。