料理研究家だってミスもすれば苦手なこともあります!

特別企画

PEOPLE
2023.04.21

「料理する人って、完璧な人ってイメージ」「料理研究家さんのレシピって、私にはできないだろうなって思うことがよくある」アイスムの読者さんから聞かれた声です。でも、料理研究家さんにうかがうと「私たちだって失敗もすれば、うっかりもありますよ!」と多くの方がおっしゃいます。得意なことや苦手な部分は誰しもあるもの。今回はプロの料理家さんに「料理に関して苦手なことや失敗談はありますか」なんてことをお聞きしてみました。

img_inabayukie_001-01

お話を伺った人:スヌ子(稲葉ゆきえ)さん

料理研究家。東京都生まれ、日本橋小伝馬町にて料理教室を主宰する。月の半分はレストランの料理人としても活動。独創的な食材の組み合わせ方、調味料のユニークな使い方が特に魅力的で、雑誌やウェブサイトへのレシピ提供も定期的に行う。ユーモアあふれるトークの楽しさも業界内トップクラス。

ヒヤヒヤすることやうっかりなんて日常です

このテーマをうかがったとき、「よくぞ私に聞いてくれました!」と叫びそうになっちゃいました(笑)。料理家と名乗ってから十数年経ちますけれど、まあ失敗なんてオンパレード、枚挙にいとまがありませんよ。

先日も料理教室でグラタンを作ったんですけど、焼き過ぎて一部黒こげになっちゃって。あせりましたねえ。焦げたところをそっとすくって、リカバリーしました。「焦げちゃっても気にせずこうやって直しましょうね!」なんて言って(笑)。

料理に関してヒヤヒヤすることや、うっかりなんてもう日常です。スーパーで買ったものを置き忘れたり、魚焼きグリルやレンジにかけてそのままにしてしまったり…グリルの最長放置記録は10日間です。冷蔵庫や冷凍庫に食材や作ったもの入れて、入れっぱなしにしちゃうこともありますよね。もう霜が付きすぎてなんだか分からないものもありますよ…(笑)。

失敗といえばね、忘れられない事件があるんです。

昔、とある講演のお仕事をいただいたとき、流れで「参加者の皆さんと一緒におにぎりを作りましょう」となったんです。まったく予期せぬ展開で。

実は私、それまでろくにおにぎりを作ったことがなかったんですよ。でも参加者の方たちは私が料理家だから期待するわけですよね、さぞかしおいしいおにぎりを作れるんだろうなって。もうしょうがない、にぎりました。なんとなく手をぬらして、塩をつけてというのは知ってましたから。でも、炊きたてごはんを触ったら「熱ッーー!!」って(笑)。全然うまくにぎれない、あんな恥ずかしいことなかったですね。思い出しても泣けてきます。

けれど人間、作ったことがないものはうまく出来るわけないんです。だから、今思えばしょうがない!

img_inabayukie_001-02

でもね、転んでもただでは起きない性格なんです(笑)。おにぎり専門店に行って「どういうものが良いおにぎりなのか?」を食べ比べて研究するところから始めて、おいしくにぎれるようになるまで猛特訓をしました。今では自分の教室でおにぎり講座も開いています。

性格といえば、もともと私は大ざっぱで雑なほうなんですよ。何事につけても見切り発車をしてしまいがち。料理ってマルチタスクというか、同時進行しなくてはいけないことが多いわけですよね。たとえば3品を同時に作るとしたら、それぞれのスケジューリングを前もってしっかり考えておく必要がある。でもそういうの、苦手なんですよ(笑)。

だけど料理家として十何年活動するうち、「どうカバーするか」「どう帳尻を合わせるか」という力は付いたと思います。ただね、帳尻を無理に合わせる必要も、家だったらないなと思うんです。私、家族にだったらごはんの時間までに料理が間に合わないときは間に合わないと正直に言いますし、なんなら「手伝って」って言ってます。

img_inabayukie_001-03

私、料理研究家ですけど食材を切るのが苦手なんですよー!何㎝大に切りそろえるとかができないの、面倒くさくて(笑)。だから私のレシピって、きっちり切らなきゃいけないようなものはありません。自分でうまく切れなければ、ピーラーやスライサーを活用すればいい。

とはいえね、一応練習もしたんですよ。切り方の基本をしっかり学んで、やってみました。

そうしたら、もちろんきれいに仕上がるし、お店みたいな料理ができる。そのとき「あ、家の料理は別にこうじゃなくてもいいよね」って思ったんです。

プロの料理人が1年2年修行して身に着けるようなこと、さらに言えばすごくよく切れる包丁でやってるようなことを、家の料理では無理してやらなくていいよー、って私は言いたいですね。

img_inabayukie_001-04切るのが苦手だったら、助けてくれる器具に頼る。スヌ子さんを支えている便利な道具の一例、ピーラーはニトリ、スライサーは貝印「SELECT100」シリーズのもの。

うっかりや失敗から生まれるレシピもある

料理っていろんな要素があって、やらなきゃいけないこともいろいろ。その全部をうまくできるわけないんですよ。

それに、失敗やうっかりも悪いことだけじゃなくて、そこから新たなレシピが生まれることもあれば、おもしろい打開策を思いつくこともある。

たとえば…調味料がまだ残っているのに、うっかり新しいのを買っちゃうなんてことありませんか?

私こないだ冷蔵庫チェックしたら、なぜか半端な量の粒マスタードが何瓶もあって(笑)。そのとき、使い切るために思いついたのが、ポン酢と合わせて炒め物に使うというレシピ。お互いの酸や強い感じが消えて、おいしさだけが残るんです。

あと、食材があれこれ半端に余ってるとき、よくやるパーティがあるんです。

たこ焼きの生地を作って、余ってるものざくざく刻んで、好きなものを各自が入れてたこ焼き器で焼くパーティ。そこで食材の意外な相性の良さを知ることもあって。そのとき生まれた組み合わせで別のレシピを考えることもあります。

img_inabayukie_001-05

あ、そうそう。料理に関して「自分は何が一番面倒なのか、大変なのか」ということには向き合ったほうがいいと思います。

それを克服する必要はなくて、大切なのはどうしたらラクになるかの対応策を考えること。

私の場合は「切ること」なので、そこをカバーすべくスライサーやピーラーなど、自分が使いやすいものを探しました。

今は本当に便利な時代で、何かしら助けになるものがあるはずだし、あるいは苦手なことは極力やらないでもいい。

自分が作りやすいレシピや方法を選べばいいんです!

この記事をシェアする

取材・文:白央篤司
撮影:千葉愉