料理をがんばりすぎず、肩の力を抜くコツは「家事の分担」と「メンタルケア」!ーーコウケンテツさんトークイベント メインビジュアル

料理をがんばりすぎず、肩の力を抜くコツは「家事の分担」と「メンタルケア」!ーーコウケンテツさんトークイベント

イベントレポート

PEOPLE
2023.06.26

アイスムで「つくってみよう!休日かぞくごはん」を連載している、料理研究家のコウケンテツさん。

5月にアイスム読者のための特別企画として、コウケンテツさんのトークショーを開催しました。聞き手は、アイスムで「聴くコラム」を連載しているフリーアナウンサーの枡田絵理奈さんです。

トークのテーマは「料理を楽しむためのポジティブ変換」。3人の子どもを育てながら毎日料理をするというコウケンテツさんに、料理の「めんどくさい」との向き合い方や力を抜くための工夫、家事の分担などについて語っていただきました。

今回は、大盛況だったイベントの様子をレポートします。

料理をした子どもへの声かけは「すごくラクになった。ありがとう」

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枡田

コウさんはアイスムで「つくってみよう!休日かぞくごはん」という連載をされていますよね。どんな内容でしょうか?

コウケンテツ

お子さんが小さいうちから料理に親しんでもらって、家族一緒に楽しい休日を過ごせるように…というのがコンセプトです。僕が生まれて初めて一人で料理を作ったのは、幼稚園の年長さんのとき。最初は大人の補助が必要ですが、ゆくゆくはお子さんが一人で作れるようにと考えています。

枡田

子ども向けのレシピを作るとき、工夫していることはありますか?

コウケンテツ

「混ぜるだけでできる!」みたいな簡単なものもいいんですが、料理の技術基本を学ばせてあげたいので、最低限の切ったり火を使ったりする作業も入れています。

枡田

ついつい「危ないことは親がやるから混ぜるだけやって!」と言いたくなるけど、そこは違うんですね。

コウケンテツ

そうなんですよ。5歳の娘がもっと小さい頃、一緒に料理するYouTube配信をしたんです。そうしたら「火のそばだから危ない」とか「包丁が危ない」ってコメントをたくさんもらいました。けれど、親が「危ない」と教えたら、子どもはちゃんと吸収してくれます。

枡田

たしかにそうかも。料理って、何歳くらいからできるものでしょう?

コウケンテツ

僕は全国の小学校や幼稚園・保育園で料理教室をしてきましたが、その経験で言うと、料理を始める年齢は早ければ早いほどいいですね。中学生の長男は、本当に小さいうちから、ミニカーで遊ぶのと同じようにフライパンを振っていました。うちは調理道具で遊ばせていたんですよ。そうすると、いざフライパンをガスコンロの上に置いても一丁前に振れるんです。

枡田

料理と言うと「切る」「混ぜる」などのイメージですが、その前段階として「調理道具に親しむ」ことが第一歩なんですね。その次のステップとして、一緒に料理するにあたり、気をつけたほうがいいことは?

コウケンテツ

安全確認ですね。包丁も火も、指さし確認はしつこいくらいやったほうがいい。子どもの視野って本当に狭いんですよ。指先ばかり見ていて、腕や肘を火傷してしまうなんてことも。そこを親御さんがきっちり注意してあげれば、本人も気をつけるようになりますよ。

枡田

お子さんの視野の狭さを親がカバーするんですね。せっかくなら料理好きに育ってほしいと思うんですが、料理好きな子に育てるコツはありますか?

コウケンテツ

大切なのは、満足感と達成感を味わわせてあげること。「上手にできたね」と声をかけるのもいいですが、「お料理してくれたからすごくラクになった。ありがとう」と言ってあげてください。子どもは、誰かの役に立った成功体験が明日につながるので。まぁ、実際は子どもが料理すると親も大変で、助かってはいないんですけど(笑)。

枡田

その経験は料理以外のことでもいきてきそうですね。

コウケンテツ

おっしゃる通り。子どもは料理を通して、大人が思うより多くのことを勝手に学んでくれますから。

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お惣菜を買うことへの罪悪感を捨てた

枡田

アイスムの冊子に掲載されたインタビューで、コウさんが料理について「めんどくさい」とおっしゃっていたことに驚きました。コウさんですら料理を面倒に感じるんだ!と思うと、なんだか励まされるというか…。

コウケンテツ

僕にとって料理って三つあるんです。まずは「仕事としての料理」。これは楽しい反面、大変なこともある。二つめは「趣味としての料理」。これは楽しいんです。自分のためだけに作る料理はすごく楽しい。三つめが「家族のために毎日作る料理」。これが一番大変。

枡田

なぜ一番大変なんでしょう?

コウケンテツ

料理だけをすればいいわけじゃないから、です。子どものお迎えに行って、「家にどんな食材があったかな?」と考えながら買い物して、家に帰って息つく間もなく料理にかかる。料理している間も、子どもに声をかけられたり、考えなきゃいけないことが山ほどある。本当に大変です。

枡田

うちも毎日、料理していると「ママ、音読するから聞いて!」とか言われます。料理しながら聞いて、ノートにサインして…。そうしてやっと作ったごはんを、子どもが食べてくれなかったり。

コウケンテツ

枡田さんもそうですか!僕、いろんな方に「毎日のごはん作り、楽しいですか?」って質問しているんですが、楽しいと答える方はほとんどいません。(お客さんに向かって)毎日のごはん作り、どうですか?

お客さん

苦痛です。

コウケンテツ

ストレート!(笑)いや、そうですよね。わかります。

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枡田

Instagramとかを見ていると、毎日彩り豊かなごはんを作っている方がたくさんいて、落ちこんでしまいます…。

コウケンテツ

人と比べちゃうのはSNSの功罪ですよね。だけど比べなくて大丈夫、SNSはフィクションですから(笑)。

枡田

コウさんの著書に『本当はごはんを作るのが好きなのに、しんどくなった人たちへ』という本がありますよね。やっぱり「ごはんを作るのがしんどい」という声は多いのでしょうか?

コウケンテツ

多いです。保育園のママ友からもよく聞きますし、なにより、僕自身もそう思っていました。

枡田

コウさんも!

コウケンテツ

というのも、結婚前は料理が楽しかったんですよ。自分のアイディアがメディアで紹介されて、皆さんから感想をもらったりして、楽しさしかない。だけど、結婚して子どもを授かったら、「離乳食をちゃんと作らなきゃ!」と気負ってしまって。最初の頃なんて、食材の大きさをものさしで測って切ってましたから(笑)。そうしていると、だんだん楽しくなくなっていったんです。

枡田

家族構成や環境の変化によって、料理への気持ちも変わっていくのかもしれませんね。料理を面倒だと感じることに罪悪感を抱く人も多いと思いますが、コウさんはどうお考えですか?

コウケンテツ

僕は、罪悪感を捨てた体験があります。子どもがまだ小さかった頃、一人をおんぶ紐でおんぶして、もう一人と手をつないで、翌日の撮影の買い出しに行ったんですね。混んでいるスーパーで子どもたちをなだめながら、なんとか買い出しを終えてスーパーを出た瞬間に、今日の夕食を買い忘れたことに気づいて…。またあの戦場に戻るのかと思ったら、急にメンタルが崩壊しそうになったんです。気づいたら、今まで行ったことがなかったお惣菜コーナーにいました。初めて足を踏み入れたお惣菜コーナーはパラダイスでしたね。バリエーション豊かだし、健康に気を使った商品もある。「いいやん、これ!」と買って帰ったら、子どもたちも喜んでくれました(笑)。

枡田

初めてお惣菜を買ったんですね。

コウケンテツ

その日から、何かが軽くなったんですよ。思えば、それまでの僕は自分と戦っていたんです。「料理研究家なんだから100%手作りじゃないといけない」「惣菜を買ったら失格だ」と勝手に思い込んでいた。その思い込みを捨てたら、すごくラクになりました。

img_eventreport_001-05思わず立ち上がって熱く語るコウさん

枡田

コウさんもお惣菜を買うことがあるんだ、と思ったら気がラクになります。コウさんの著書の中にも、「日本人は料理をがんばりすぎ」とありましたが…。

コウケンテツ

僕は世界の家庭に行って料理を教わる企画を15年以上やっていて、今まで30か国以上の国へ行き、1か国につき7~10くらいの家庭にお邪魔しました。だからデータがたくさんあるんですが、僕の中で、日本の家庭料理は世界で一番手が込んでいると思います。(お客さんに向かって)この中で、毎日のごはん作りを担当している方は手を上げてください。

お客さん

(ほとんどの人が手をあげる)

コウケンテツ

ほとんどですよね。じゃあ、2日連続で同じ料理を出したことある方は?

お客さん

(1/3くらいの人が挙手)

コウケンテツ

ほら、グッと減りました。じゃあ、3日連続で同じ料理を出したことがある方は?

お客さん

(3人くらいが挙手)

コウケンテツ

ほら、3日連続で同じ料理を出したことがある方はこんなに少ない。これって世界的に見れば本来、めずらしいことなんですよ。こんなにバリエーションに気を遣っているのは日本くらいで、他の国の人はもっと同じメニューばかり食べています。毎日違う料理を出すなんて本当にすごい。もっと、自分を誇りに思ってください。

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料理にまつわるモヤモヤはポジティブに言い換えるのが大事!

枡田

料理をがんばりすぎず、肩の力を抜いてうまくやっていくコツはあるのでしょうか?

コウケンテツ

料理と少し離れるんですが、僕は「家事の分担をすること」と「メンタルケアをすること」だと思います。

枡田

意外なお答えです。どういったことでしょう?

コウケンテツ

家事の分担については、まずはパートナーとの話し合いが必要。我が家では話し合いのことを「コーヒータイム」と呼んでいるんですが、日時を決めて、仕事同様にスケジュール帳に書き込んでいます。気が重い話もしなきゃいけないので、ケーキを取り寄せたりして気分を上げる。甘いものはリラックス効果があるので、けっこう穏やかに話ができますよ。

枡田

なるほど、話し合いをスケジュールに組み込んでしまうんですね。

コウケンテツ

メンタルケアは、たとえば朝起きたとき、「今日の自分の調子はどうかな?」と自分自身に目を向ける。しんどかったら休んだほうがいいです。僕自身もそうだったけど、しんどいまま無理を続けると追い込まれていきます。休養したりストレスを解消したりして、いい状態を保つ。毎日のごはん作りをしんどくなく続けるには、この二つが大切だと思います。

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枡田

メンタルといえば、コウさんは冊子のインタビューでも「料理を楽しむためにはポジティブ変換も大事」とお話されていましたが、このポジティブ変換について教えてください。

コウケンテツ

たとえば、うちの子どもが大好きな鶏料理があるんですよ。鶏もも肉に軽く切れ込みを入れて、醤油大さじ1を塗り込んで、魚焼きグリルで焼くだけなんですけど。これね、「醤油で焼いただけ」と言うと誰も興味を示さないのに、「〇〇鶏のグリル 香味醤油仕立て」と言うと、みんな「めっちゃおいしそう!」と飛びつくんです(笑)。こうやって、ポジティブに言い換えるのが大事。

枡田

たしかに、おいしそうに聞こえます!

コウケンテツ

フランスの有名なシェフにインタビューしたとき、「日本には醤油・味噌 ・出汁があるからずるい。これらがあったらなんでもおいしくできる」と言われたんです。それくらい、醤油・味噌・出汁ってすごいんですよ。「私はフランスの有名シェフも羨ましがるような調味料を使っている!」と思うとポジティブな気持ちになりません?

枡田

ありがたみが増しますよね。

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コウケンテツ

以前、スーパーでポテサラを買った女性に『ポテトサラダくらい作ったらどうだ』と言うおじさんがいた、とSNSで話題になりました。だけど、みんなが罪悪感を抱いてお惣菜を買わなくなると、スーパーのお惣菜担当の人が困るわけじゃないですか。商店街のお弁当屋さんだって、誰かが買わないとお店がつぶれる。だから、実は我々はお惣菜を買うことによって経済貢献をしているわけですよ。めちゃくちゃいいことをしている。

枡田

たしかに。たとえば「ズボラ」とか「手抜き」も、「時間の有効活用」と捉えると気持ちが健やかになる気がします。

コウケンテツ

さすが、うまいことまとめてくれました! それが言いたかったんです。

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コウさんが真摯に答えてくれる質問コーナー

枡田

今日お集まりいただいた皆様から、たくさんの質問をいただいてます。いくつかご紹介しますね。

質問:「一人暮らしを始めて1か月が経ちました。基本の調味料は揃いましたが、マイナーだけどめちゃくちゃ使える、おすすめの調味料があれば教えてください。」

コウケンテツ

辛いものが好きなら、「サンバル」というにんにくとトマトとスパイスのペーストがおすすめ。カルディにあるので、ぜひ探してください。僕、基本的には近所のスーパーで買い物するんですけど、ストレスが溜まってきたらカルディまで足を伸ばすんです。あそこは天国なので(笑)。あと、マイナーではないけど塩麹もおすすめ。塩麹とナンプラーとバルサミコは「世界三大ずるい調味料」だと思っています。

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質問:「料理人や店舗経営という道を選択しなかった理由はありますか?私は現在、学校で調理プロデュースの勉強をしています。来年に進路を決めるのですが、どんな仕事がしたいのか迷っています。」

コウケンテツ

この後、飲みに行こうか(笑)。料理研究家とシェフって似ているようで違う仕事ですよね。シェフはお客様に最高の料理を提供する仕事だけど、料理研究家は「レシピを皆さんに作っていただく」のが仕事。また、今のシェフは料理の技術だけじゃなかなか難しく、ビジネス的な能力も必要です。僕はそっちの才能がゼロなので、お店を出す方向には行きませんでした。だけど店舗経営に興味があるなら、ぜひビジネスのことも学んでください。応援しています!

質問:「日々料理する中で、一番作っている料理を教えてほしいです。」

コウケンテツ

さっきも話に出た「〇〇鶏のグリル 香味醤油仕立て」です。これは間違いない。お弁当にも入れるし、たまに生姜やみりんでアレンジしています。あと、もも、胸、手羽と部位で変化をつける。これが、子どもが一番食べてくれますね。

枡田

何分くらい焼いたらいいですか?

コウケンテツ

グリルが両面か片面かにもよりますが、両面だと、300gのもも肉で9分 くらい。片面だったら途中で返す必要があります。片面の場合は、皮を最後に焼いてくださいね。パリッとしますから。

枡田

私はグリルをめったに使わないんです。グリルを使ったことを忘れて、洗うのを忘れてしまったりするので…。

コウケンテツ

グリルはね、料理を作らなかった人に洗ってほしいですよね。僕が海外の家庭で見て素敵だなと思ったのは、料理をしないパパがママに「何作ってるの?」と聞いて、料理に合わせたお皿を並べるんです。子どもも「ママ、何飲む?」と聞いて、ママが「ワイン」と答えたら、ワイングラスを出してくれる。

枡田

それをやってくれたら、ぜんぜん違いますよね。

コウケンテツ

ごはんが終わったら、料理を作ったママとおばあちゃんはお茶していて、パパとおじいちゃんが片付けるの。「食卓をみんなで作る」と考えると、役割分担は決して料理を作るだけじゃないんですよね。お皿を出したり、洗い物をするという役割もある。

枡田

今日は貴重なお話をたくさん聞かせていただいてありがとうございました。コウさんのお話を聞いて、少し気持ちが軽くなったり、明日からまたお料理をがんばろう!と思った人も多いんじゃないかなと思います。

コウケンテツ

そうだと嬉しいですね。皆さん、どうかがんばりすぎずに!

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毎日料理をする人に寄り添いながら、茶目っ気たっぷりにお話してくれたコウケンテツさん。初めてお惣菜を買って罪悪感を手放した話や、手軽な料理が捉え方次第でごちそうになる話など、おもしろいお話をたくさん聞かせていただきました。「あのコウさんでも料理が面倒なことがあるんだ」と思うと、少し自分にやさしくなれる気がします。

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トークショーのあとは、連載で紹介した「たっぷりトマトのいためカレー」「ツナとキャベツのサラダペンネ」「きのことベーコンのパンキッシュ」をワンプレートにしたお食事を、参加者のみなさんに楽しんでいただきました。

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また、コウさんの書籍販売会とサイン会も。お子さん連れの方にもたくさん参加していただき、「小さい子がいてなかなか外出できなかったけど、思い切って来てほんとうによかったです」と言ってくださる方も。男性の応募者も多かったことも印象的で、編集部一同とてもうれしかったです!

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アイスムでは今後も料理研究家の方々とさまざまなイベントを開催していく予定です。今後の開催についてはアイスムの公式 LINEアカウントでもお知らせいたしますので、興味がある方はぜひ友だち登録してください。

今後も、一緒に「おうちごはん」を楽しんでいきましょう。

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取材・文:吉玉サキ
撮影:木村琢也