おしえて!きゅうり農家さん!!きゅうりってタネはあるんですか?〜最新式ビニールハウス探訪編〜
食べものにまつわる、こどもたちの「なぜ?」「どうして?」。おうちの方もよく聞かれるのではないでしょうか。そこで、こどもたちからのお手紙を片手に、しゃしん絵本作家のキッチンミノルさんに、実際に工場やお店の方に疑問の答えを聞いてきていただきました!写真と動画で、楽しくリポートします。社会科見学に出かけたつもりで、ぜひお子さんといっしょに楽しんでくださいね!
今回、編集部に届いたお手紙はこちら
のうかさんへ
のうかさん なんで
きゅうりはつぶつぶがかわに
あるんですか
たねなんですか
いちごみたいにたべれるたねですか
ようより
前編ではようさんからのお手紙を持って、きゅうりの栽培方法を取材してくれたキッチンさん。
後編では、最新のビニールハウスを取材させてもらえるそうです。
キッチンさん!ビニールハウスのワクワク見学よろしくおねがいします!!
きゅうり農家さんの朝は早い。
朝7時、朝霧の中、松浦川の土手をずんずん歩いていく。昨日見たビニールハウスが見えてきた。
おはよう。
今日はスマート農業を見てもらおうと思っているよ!
スマート農業!?
データを駆使した最先端の農業のことをそう呼ぶんだ。
いいですね。最先端!
農業はいま、どんどん新しいことがはじまっているので楽しいと思うよ。
楽しみです!
そういえば、中山さんのビニールハウスって通常より大きい気が……?
よくぞ聞いてくれました。実はこれはオランダのもの。
オランダの?
そう、オランダは面積が九州よりも小さい国で、しかも土質が良くない場所なんだけど、農産物・食料品の輸出額はアメリカに次ぐ世界第二位なんだ。
九州よりも小さな国が世界第二位!?
昔から国をあげて、いま見ているビニールハウスのような施設園芸に力を入れて効率よく農業をしているんだ。
じゃあ、中山さんのビニールハウスをみると最新式の農業を見られるってわけですね!最新式!!
う、うん。おちついてキッチンさん。
最新式!!
特徴はこの軒高。柱を高くすることによって天井が高くなりハウス内が明るくなるんだ。そして屋根を三角にしてハウスの1番高い位置に換気口を付ける。いま換気口が開いているよね。
はい、開いています!
あたたかい空気は自然と上にあがっていくので換気効率がさらに良くなります!そして、ハウスの高さがあるぶん、煙突と同じ効率がうまれてより換気ができるようになるんだ。このことをドラフト効果というんだよ。
ドラフト効果!なんか名前がいいですね。
そ、そうだね。向こうにあるビニールハウスを見てごらん。
こっちのは最初に立てたもので、丸屋根のもの。みんながよく見るビニールハウスも丸屋根が多いと思うんだけど……。
あ、本当だ、こっちの丸い屋根の上には通気口がない。
暑い空気は上に上がる性質を持っているので、上に通気口があると自然に熱気が外に出て室内の空気が動いて、外気温が40℃くらいある時でもハウスの中では35℃くらいになっているんだ。
ハウスの中のほうが涼しくなっているんですね!!ハウスといえば暑いというイメージでしたが……
それでも暑いけどね。夏場は空冷ファン付きベストは必須だね。
や、やっぱり。
最新式というと、このビニールハウスはすべてデータで管理しているんだ。ほらあの屋根の上を見てごらん。
なんか計測機器がいっぱい!
外気温と雨センサー、それと日射量を計測する機器だね。それを全部データ化して集計しているんだ。
す、すごい…
これだけじゃなくて、中にもいろんな機器がいっぱいあるよ!
行きましょう!
ほらこれみて。
これは知ってますよ!「液肥」を自動で巻くやつですよね。前回見たのをちゃんと覚えてますから〜!!
そうそうえらいね。だけど今回、重要なのは実はそこじゃないんだ。
えっ!
下を見て。ココバックに切れ目があるのわかるかな?
ありますね。
上から与えた液肥は、根から吸われなかったぶんが下から流れてくる。その流れてきた液をあつめて自動で成分の解析をして、どれくらいきゅうりが液肥を吸っているかを調べているんだ。液肥はやり過ぎてもダメ。やらなすぎてもダメ。
ちょうどいいのが大事。
そう。だけどその「ちょうどいい」というのが難しい。
昔は朝に水をやればいいっていわれていたんだけど、今は、日が出ている間は光合成をして水を葉から出しているから、朝に限らずどんどん水を与えたほうがいいという研究結果が出ているんだ。
日が出ていても水が足りないと光合成できなくなってしまうんだ。
きゅうりの育てかたも日々変わっているんですね。
そう、だから今日みたいに晴れているときは水がたくさん出ているでしょ。
本当ですね!それに対応するために、外では日射量をはかっていたんですね。
そう、そのとおり!
それに室内では、室温、湿度、二酸化炭素の量も計測して、全部のデータをあわせて、水やりの量だったり、換気をどれくらするのかを調整しているんだよ。
それがすべて…
このパソコンに入っている。日射量や二酸化炭素の量などが設定した値になると、さっきの屋根の開閉や、水やりを自動でやってくれるんだ。液肥も自動で調整してくれているよ。
だから基本的な問題がなければ、ときどきちょっとチェックして収穫に集中することができるんだね。
あと、苗を置いておくココバックの位置も工夫しているんだ。
下にすきまがある?
半分正解。これは単純なことなんだけど…
土の代わりになっているココバックを地面よりも高く設置して、無理な体勢になりにくくして、作業の効率をあげているんだ。そして、地面は最新式の作業台が安定して動くように設計してあるんだ。
最新式の作業台!?
見たい?
見たい見たい!ぜひ見たい!!
行くよ〜
なめらか〜な動き!いいですね〜
見ててよ。
めちゃくちゃ高くなりますね!!
この台によって、安定して高いところの作業ができるようになったんだ。
それにかっこいいでしょ?
かっこいい!!乗ってみたいです!!
どうぞ〜
いや〜気持ちいい!快適ですね。
こんなに設備が充実していたら敵なしですね。
中山さんのひとり勝ちですね!いえ〜い!ひとり勝ち〜
キッチンさん!
は、はい。
そうじゃないんです。このデータや栽培方法も、なかまと共有して意見交換をしながら、この地域全体で盛り上がっていかないと、地方産地には未来がないんです。
未来?
そう、いま日本は人口減が問題になっているでしょ。この地域でもどんどん人口が減っているんだ。だからこそ新しい農業を取り入れて、地域で連携して、努力することで伊万里全体の収量を上げたいんだ。
収量を?
うん、全体の収量が上がることによって、この地域のブランドイメージが良くなる。
全国に名前を知ってもらえる!
そうなると、地元の子がここに残ってきゅうり農家をやりたいと思ってくれたり戻ってきてくれたりすると思っているんだ。そして若い人が戻ってきてくれれば、地域がより活性化されると僕は信じている。だからひとり勝ちはダメです。
すみません…
互いにわからないことがあったら、教えあっていくのが大切。僕もそうやって先輩からいろんなことを教わってきたしね。だからこうやって栽培の仕方も、包み隠さずみんなで勉強しているんだ。
共有、共感、共存の三つの「共」が繋がるのがいいなぁと思って活動しているよ。
自分ひとりが良ければいいだなんて浅はかな考えをして恥ずかしいです。
農業だけでなく地域や未来に危機感をもった人たちが、いまの日本の農業を新しくしていくんだと思うよ。
危機感がスマート農業を支えているんですね。
そう!
スマート農業、おもしろかった!そしてすごい勉強になりました。ありがとうございました!!
お返事のお手紙
最新の胡瓜ハウスはいかがでしたか?
ようさんが想像していた胡瓜は土の中に植えてあると思いますが、私のハウスのきゅうりは養液栽培という栽培方法で土には植えず、ココヤシの培地に胡瓜を植えます。なぜかというと、土を使って胡瓜を育て続ける事はとても手間がかかって難しいからです。養液栽培はたくさんのデータを集めることができるので大規模に胡瓜を栽培することができます。それと、そのデータを仲間や次の世代と共有できるようになり産地全体の品質や生産量を増やすことができます。
現在、地方の農業は高齢化の影響もあり残念ながらここ数年で農家さんが減ってたくさんの産地がなくなると言われています。産地がなくなるということは、きゅうりや色んな野菜が食べられなくなるということです。これまでのように新鮮でおいしい野菜を食べ続けることがもう当たり前ではなくなるかもしれません。そうならないように私たち農家は生産量を維持してみんなに新鮮でおいしい野菜をこれからも届けるためにたくさん勉強して最新の機械を使って胡瓜を栽培しています。
ようさんが大人になるころには日本の農業は大きく変わっているはずです。
私たちの技術が次の子どもたちに引き継がれて、ハウスの中にはドローンやロボットが動いていて若い人たちがたくさん働いていると思いますよ。
これからも仲間と『共有・共感・共存』していける胡瓜の産地をつくっていきますね。
中山道徳
コラム
きゅうり農家3代目
立石瑛人さん
曽祖父、祖父そして私と三代農家です。祖父の代からきゅうりと米を専門に作るようになりました。昭和35年ころからビニールハウスが普及してきたみたいですが、それまでは紙のハウスできゅうりを作っていたみたいです。父は農業高校の教員なのですが、家業は継ぎませんでした。でもこのままだと祖父が築いてきたものがなくなると思って。さびしかったので自分がやるよと言ったんです。ちょうどハウスの建て替え時期に来ていたので思い切って最新式のハウスに変えました。わからないことがあったら祖父やJA伊万里きゅうり部会のみなさんに聞くようにしています。みなさん包み隠さず教えてくれます。データは集められても、きゅうりを見る目は祖父には敵いません。朝、収穫できるきゅうりがたくさんなったときはぼっこい(すごい)うれしいです。