おしえて魚市場の人!まぐろはなぜ食べるところで値段が違うのですか?〜裁割・加工編〜
食べものにまつわる、こどもたちの「なぜ?」「どうして?」。おうちの方もよく聞かれるのではないでしょうか。そこで、こどもたちからのお手紙を片手に、しゃしん絵本作家のキッチンミノルさんに、実際に工場やお店の方に疑問の答えを聞いてきていただきました!写真と動画で、楽しくリポートします。社会科見学に出かけたつもりで、ぜひお子さんといっしょに楽しんでくださいね!
今回は、ふうたさん(10歳)からの、「なぜまぐろは大トロ中トロがあるのに小トロがないんですか?」というお手紙をもって、神奈川県三浦市三崎町に出かけました!前編の「仕入れ・保管編」に続き、今回は「裁割・加工編」です!
編集部にふうたさんからお手紙が届きました。
魚市場の人へ
ぼくは まぐろのおすしがすきです。おすしのまぐろには、大トロ、中トロ、赤身、時々中落ちなどありますが、小トロというのはあるのですか?大トロは高きゅうですね。食べるお店で、ねだんがちがうのはなぜですか。そもそもどこが中トロで大トロで赤身なんですか?教えてください。
東京都 ふうた 10才
注)
三崎恵水産
神奈川県三浦三崎港を拠点に、まぐろ専門の卸問屋として1968年に創業。まぐろ及び水産物全般の加工販売を行い、全国の飲食店卸、海外輸出を行う。半世紀に渡る経験と目利き力で仕入れた三崎まぐろを通し、“次世代に豊かな魚食文化を繋ぐ”ことをモットーに、持続可能なまぐろ屋を目指す。外食事業(株)ネオ・エモーションでは国内外を含め16店舗を経営、オリジナルまぐろ加工品ブランド「FISHSTAND」も手がける。
https://misaki-megumi.co.jp
仕入れと冷蔵倉庫での保管を見学したキッチンさん。今回は小トロの正体を探るべく、三崎恵水産さんの裁割・加工場へ見学にいきます!
あの大きなまぐろがどのように解体されるのか!!
それではいってきま〜す!
出むかえてくれたのは三崎恵水産取締役の藤崎さん。
今回もよろしくおねがいします!
はーい!よろしくね。
今日はまぐろの解体ショーが見られると思ってワクワクしています。
アハハ、生まぐろの解体ショーとは違って、大きなバンドソーがたくさんあるから気をつけてね。ちなみにここでは解体のことを裁割(さいかつ)と呼んでいます。
バンドソー?さいかつ?
まっ、見ればわかるよ。
はい!
前も入るときに着てもらったけど、今回もマスク、帽子、白衣をおねがいします。
はーい!
こんな感じですね。
は、はい!
白衣を着たら手を洗って、エアシャワーしてなかに入ります!。
おお〜いきなりまぐろが列をなしていますね!
冷蔵倉庫で保管していたものをまずはここに並べて、一本一本裁割していきます。
ちなみに、まぐろの呼びかたは切った形状によって変わっていきます。
呼びかたが変わる!?
はい、最初のまぐろのことを、一本とも呼びますが、ここでは丸とかGGとか呼んでいます。
GG!意味わからないけど、呼んでみたい。
GGから頭を取ると…
ドレス!
ヘッドレス(無頭)の略ですね。
ヘッドレスがドレス!!おもしろい〜!
ドレスからフィレに!
背骨を中心にしてふたつにしたものを「フィレ」といいます。ふつうの魚でいえば左右の身と中骨を分けた三枚おろしになりますが冷凍まぐろは凍っているので背骨はそのまま。
大きな電動のこぎりですね。
これがバンドソーです!
これが!!
そうですね。ただ、のこぎりの歯(ソー)が、帯(バンド)になっていて、のこぎりが回転しています。
なるほど。のこぎりの歯はもしかしてまぐろ用の?
もちろん専用です。
いい響きですね〜、せ・ん・よ・う!!専用!!!
アハハ、専用がいい響き。なるほど〜。
フィレにするときは、中骨を感じながら切るようにします。これができないとすぐに歯をダメにしてしまうんです。
専用ですからね。大事にしないと。
そうです。
それにしても、あの重くてツルツルの塊をゆっくりまっすぐに切るのはすごいですね。
熟練の仕事ですね。
ずーっとみていると指がキレそうで怖いです。
本当にすごく危険です。なのでみなさん細心の注意を払って作業をしています。それだけでなく、万が一のために、安全対策として手袋のしたに鉄製の網手袋をつけて作業しているんです。
鉄製の手袋!それを聞いてすこし安心しました。
さぁ、次はフィレからロインですよ。ロインは「丁」や「節」なんて呼ばれかたもします。
お肉のサーロインとなにか関係があるんでしょうか?
それはないと思います。
ないんですね…。
そんなことより、よく見ていてくださいね。
GGをドレスにして、ふたつにしたのがフィレ。
フィレをまたふたつにしたのがロインです。つまりGGを四分割したことになります。
ロインはまぐろの背側と腹側、それぞれ2本ずつになっています。
背側と腹側があるんですね!
ちなみに、切っているときに手前にあったほうが、まぐろが泳いでいたときにおなかだったほうになります。内臓が入っていた部分がくぼんでいるでしょ。それが目印です。
職人さんが左手で持っていたほうですね。
そうです。ここの一部が大トロになります。
お〜っと!大トロ!!
まぁまぁ落ち着いて。
ここで、大トロと中トロ、赤身の部位を説明しますね。この図を見てください。
本当はもう少し細かく分かれていますが。分かりやすく書きますね。
まず、体の中心部分が赤身になります。赤身のなかには脂はありません。
そして、背中とおなかの脂がのっている部分が、トロになります。
それではまだロインの場合、大トロ・中トロ・赤身がまざっているってことですね。
そうですね。実際には獲れた場所や時期によっては、全身が赤身というまぐろもけっこうあるんです。
ええー!赤身だけ!!
それだけトロの部分は量が少ないんです。少ないぶん、赤身よりも中トロや大トロは値段が高くなるんです。
なるほど。取れる量が少ないぶん、値段が高いと。わかりやすい!!
でも冷凍技術のなかった江戸時代は、トロの部分は脂があるせいで腐りやすく、捨てていたんですよ。
ええー!
トロがこんなにもてはやされるようになったのは、冷凍技術が進化した1960年代以降なんです。
最近じゃないですか!!
そうですね。
冷凍技術の進化のおかげで赤身と大トロの立場が逆転したんです。
冷凍技術革命!!
ちなみにふうたくんのお手紙に、「なぜ小トロはないのか?」という質問がありましたが、それは部位の仕分けかたに答えがあるのです。
仕分けかたに?
はい。
脂がのっていない身のことを赤身。たくさん脂がのっている部分を大トロといいます。
赤身と大トロ。
これでふたつの部分に仕分けされました。
そして、それ以外の、少しでも脂がのっている部分をすべて中トロというのです。
ええ〜!それ以外全部中トロ!!
そうなります。
ということは中トロって脂が多いものと少ないものと、けっこうはばがあるっていうことですか!?
そうなります。大トロに近いものから、赤身っぽいけど少し脂の入っているものまで、全部中トロ。
アハハ、おもしろい。
ということは、中トロのなかでも物によって値段が違うということですか?
そうなりますね。今度、中トロを食べるときはよく観察して食べてみてください。いろんな中トロがあるはずですよ。
はい、観察してみます!
今度はロインを分割します。これはブロックと呼ばれます。
こちらは穴がないから背の部分ですね。
ということは、中トロと赤身ですね。
正解!
え〜、大トロはどこいったんですかっ!!
ほらほら、今から大トロを切りますよ。
これはおなかの方のロインです。こちらを半分にしたものを…
今まさに切ろうとしています。
そしてそれをまた半分にして…
くぼんだほうをまた…
半分!
も、もしかして……
ふっくらした方が大トロです。いま職人さんが左手で持っているほうです。こちらから見て右側ですね。
反対側はスジが多くて刺身にならないので、別の商品になります。
少な!!
一本のまぐろからこの大きさがふたつしか取れないんです。
大トロが取れないまぐろも…
たくさんあります。
これじゃあ、赤身と比べて値段が高いのも当然ですね。
次は中トロと赤身が分かれるところを見ていきましょう!
さっき中心が赤身と教わりましたよね。
そうですね。皮がついているほうが外側になりますから…
こちらから見て右側、細くなっているほうが赤身ですね!
正解です!赤身が切りはなされた残った反対側が…
中トロ!
大正解。
そして最後は柵と呼ばれる形に切っておわりです。
この形はスーパーやお魚屋さんでも見たことのある安心の形ですね。
このあとはお客さんのところで切っていただいて、寿司ネタになるのか、刺身になるのか。
最後は真空パックにつめて完成です。
はぁ、怒涛の解体、加工作業でしたね。
どんどん解体されていくまぐろにくぎづけでした。
作業するたびに呼び名が変わるのもおもしろいですよね。
最後に、家でじょうずにまぐろを切る方法を教えてください。
冷凍の場合は、半解凍したぐらいが切りやすいです。
まぐろにはスジがあるので、スジに対して垂直に包丁をいれるとおいしく食べられますよ。スジと水平に切らないように注意してくださいね。
特にスジばった部位は、火を入れるとスジがトロトロになっておいしいですよ。
ぜひ試してみてください。
三崎恵水産のまぐろを食べたい人はこちら
FISH STAND
https://www.fishstand.jp
コラム
株式会社三崎恵水産 海外営業部
石田峻一さん
もともとは関連会社の飲食店で働いていたのですが、4年前に三崎恵水産で海外事業がスタートするということで声をかけてもらいました。実は大学を卒業して1年間、英語が勉強したくなって、就職せずに英語の勉強をしていた時期があったんです。
そのおかげで中学英語もおぼつかないレベルから、TOEICで815点取れるまでになりました。いまこうして海外と関わる仕事についていることを思うと、あのときに勉強しておいてよかったなと思います。
海外営業の事務所は横浜市中央卸売市場内にあります。日本のまぐろは品質がいいので海外でも人気です。そして海外営業部ではまぐろだけでなく、品質の良い鮮魚や海苔などの海産物、ときには日本でしか手に入らないお皿など、お客さんから要望があればなんでもそろえて送ります。
朝は8時に出社して、いま市場で出まわっている魚を見てまわったり、お店の方からお話を聞いて情報を集めたりします。遠くにいるお客さんに日本のいいところを少しでも知ってもらいたいなぁと思っているので、情報収集はとても大切です。アメリカ、ベトナム、カタール、バーレーンなどを担当しています。
海外のお客さんは大トロが好きですね。現地のレストランでは日本の鮮魚でも、日本の調理法にこだわらず、その土地の味に合うようにアレンジして提供しているお店が多く、地元の方にとても愛されています。そういうパートナーさんのためにも品質の良いものを安定して届けられるように日々がんばっています。
塩づけまぐろって知っていますか?塩と砂糖を混ぜたものをマグロのさくにまぶして一時間くらいおいて水分を抜くんです。そのあと水洗いをして水気をふいて、刺身のように切って食べるんです。発色が良くなるうえにうまみが凝縮して、ごはんにも合うので、こんど食べてみてくださいね。
お返事のお手紙
ふうたくんへ
・大トロ、中トロがあって小トロは?
大トロはおなか部分の一番脂が多いところで、中トロはせなかの部分のやや脂の少ないところになります。
脂がのらないとトロとはよばず、その逆に少しでも脂があると中トロになるので小トロがないわけです。
・そもそもどこが中トロで大トロで赤身なんですか?
大トロはおなかの部分、中トロは背中の部分、赤身はまぐろの中心部分にあたります。
さかのぼるとまぐろを食べるようになったのは江戸時代。よく聞く江戸前寿司はここからきています。
当時、庶民の多くは赤身を食べており、今では重宝されるトロの部分は捨てられていました。
その理由は、まぐろの赤身は日持ちはするが、大トロ・中トロのような脂が多い部分はくさりやすく、そのためおいしく食べられるものではなかったからです。
50年ほど前にようやく漁獲されたまぐろを-60℃で冷凍する事ができる船と冷凍庫が開発され、これによって鮮度の良い、おいしいまぐろを食べられるようになりました。
これからもたくさんまぐろをたべてくださいね。
「届け!お手紙!キッチンミノルのおうちで社会科見学」では、子どもたちからのお手紙を募集しています!
キッチンミノルさんに行ってもらいたい、食を扱うお店や工場に、お手紙を書いてみませんか?
知りたいこと、前から不思議に思っていたこと、聞いてみたいこと…。どんなことでも大丈夫です!
応募は、アイスム公式LINEよりご連絡をお願いいたします。
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