最近のドライフルーツみたいに年を重ねたい

わが家の笑顔おすそわけ #20「フルーツ」〜甘木サカヱさんの場合〜

LIFE STYLE
2021.10.29

今月のお題は「フルーツ」。秋の味覚といえば定番だ。さてどのフルーツを取り上げようか…と考えて悩み始めてしまった。果物の品種ごとの旬は思いのほか短い。せっかくおすすめのおいしい品種の文章を書いて、読んでくださった皆さんが食べたいと思ってもスーパーの店頭に並んでいない、となると申し訳ないではないか。

かといって、昨年私が食べた果物の味を思い出して…というのも気が進まない。せっかくのお題なのだから、取材と称して普段なかなか買う踏ん切りのつかない、おいしいフルーツが食べたい。そんな板挟み、いや勝手に板挟まれているだけなのだが、の中、ふと思いついた。そうだ、ドライフルーツならば、季節を問わず全国の人がいつでも楽しめるではないか!

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とはいえ私は、ドライフルーツには、大人になるまであまりいい印象がなかった。レーズンや干し柿などのおいしさは、子どもにはなかなか理解しがたかったのかもしれない。

印象的だったのが、祖母の家にあった頂き物のドライフルーツの詰め合わせだ。色鮮やかな南国のフルーツが美しくカットされた状態でパックに詰まっていた。

これはさぞおいしいに違いない、と勇んで口に運んだものの…口の中に溢れるのは、ひたすらに甘い砂糖の味。果物本来の味や香りはほとんど感じられなかった。そう、私が食べたのは、果物の水分をそのまま糖蜜に置換した、ひたすら甘い砂糖漬けだったのだ。

そんなわけでドライフルーツ=瑞々しい果物から水分を奪い、やたら甘くしただけのもの、という偏った認識で育ってしまった私だが、成長するにつれ、おいしいドライフルーツに出会う機会も増えてきた。

まず私が感激したのは、中学生の頃初めて食べたフィリピンのドライマンゴーだった。
薄くて黄色いひとひらを口に含むと、それまで味わったことのない複雑で芳醇な甘みが口いっぱいに広がった。よく噛むと、さらに甘味と酸味がじゅわっと溢れてくる。

当時、生のマンゴーは今よりずっと高級品で、私が初めて口にしたマンゴーはこのドライフルーツだった。噛めばかむほどに溢れる旨味。これはもはや果物界におけるスルメである。干すことによってこんなに滋味あふれるものになるなんて、果物ってすごい。干すってすごい。

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そんな感動体験でドライフルーツへの偏見をすっかり無くした私は、目新しい品を見かけると果敢にトライするようになっていった。

折しも時代はマクロビ・健康美容食ブーム。コンビニにも小分けパッケージのナッツやドライフルーツが並び、以前よりずっと手軽に、様々な種類を試せるようになっていった。

そんな中、私のドライフルーツ人生(そんなに大袈裟なものではない)の中で、またも衝撃の出会いがあった。

忘れもしない、頂き物の高級無添加ドライパイナップルだ。その頂き物の、輪切りの大きなドライパイナップルを一目見た時は、「ちょっと色も悪いし…正直そんなにおいしそうじゃないな…」と思ったのだ。

しかし一口かじってその印象は一変した。それまでの私は、ドライフルーツといえば、甘味の強い一部の果物を除いて、砂糖を添加するのが当たり前だと思っていた。ところがそのドライパイナップルは砂糖は添加されておらず、なるほど甘味は少ないが、そのぶん噛むほどにじわりと自然なパイナップルの風味が口の中で暴れ出す。

南国の太陽の香りさえ鼻先をくすぐるような気がして、気づいたらあっという間に食べ尽くしてしまった。パイナップルを食べすぎた時にありがちな、ぴりりとした舌の痛みの存在までが感動だった。

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これはぜひ自分でも買って食べたい!とネットで検索したが、しかし、そのお値段に恐れ入ってしまった。なるほど、もともとものすごくおいしいパイナップルを、さらに干す加工をするのだ。生のフルーツと比べて割高になるのは当たり前である。

しかし、一度このおいしさを知ってしまうともう戻れない。ほかの無添加ドライフルーツもぜひ食べてみたい。

そんなわけでそれからの私は、自分へのご褒美と称して、折に触れて少しずつ無添加ドライフルーツを買っては、しみじみとそのおいしさを味わっている。隠しておいたはずのとっておきのドライパイナップルがいつの間にか息子に食べ尽くされ、「子どものおやつじゃない!!」と本気で怒ったこともある。大人げないことこの上ない。

トルコ産のいちじくはプチプチとした種の食感と濃厚な甘み、そして大地の風味を感じる。
干しアンズは口に入れて噛まずにいると、フレッシュな甘酸っぱさと柔らかな食感が蘇るのが楽しい。

ノンオイルであっさりと、しかし豊潤さはそのままのマスカットのレーズン。産地ごとにそれぞれ味わいの異なる甘酸っぱいマンゴー…。それぞれに、育った土地の気候にまで思いを馳せるような豊かな風味のドライフルーツたちだ。

今回、ドライフルーツをテーマに記事を書くため(ということを口実として)、今までチャレンジしたことのない無添加ドライフルーツにも手を出してみることにした。

輪切りのグレープフルーツやレモンといった柑橘類、日本産のふじりんご、洋ナシ、黄桃などなど。

洋ナシや黄桃は、期待通りの味で申し分なかった。ひと噛みごとに果実の持つ個性が現れてくる、その幸せを文字通り噛み締めながら、どんどん次の種類に手を伸ばす。

ドライリンゴも、薄いベージュ色の欠片をかしかしと噛むと、確かにしっかりとリンゴの風味が感じられた。

そして柑橘類、まずはグレープフルーツ。なるほど。これは大人の味ではないか。皮は取り除かれているがしっかりと苦味・渋みもあり、その奥を探っていくと、確かにフレッシュなグレープフルーツの味わいが…。これが好きな人もいるだろう。どうやって文章で表現するべきか…。

そこまで考えて、はたと気づいた。食べ物の味を一生懸命に解釈しようとしている時点で、私は素直で単純な「おいしい!」という喜びから遠ざかってしまっているのではないだろうか。砂糖無添加=至高のドライフルーツに違いない、という考えに縛られすぎていたのではないか。

そこで今度は違うメーカーの、砂糖を添加した輪切りのドライオレンジを購入してみた。噛み締めた瞬間、皮の苦味と鮮烈な柑橘の香り、そして砂糖の甘味が絶妙なバランスで口に広がる。ああおいしい!と声が出た。

昔食べた、甘いだけの砂糖漬けとは雲泥の差だ。加工技術も、ここ数十年で驚くような進歩を遂げているに違いない。

しかし何よりも、砂糖の甘味が加わることで、柑橘の苦味と酸味という持ち味がより一層引き立てられているのだ。

もちろん個人的な好みもあるだろう。無添加のドライフルーツの方が好き!という方もたくさんいらっしゃると思う。しかし私は、柑橘系、そしてリンゴに関しては、私は圧倒的に加糖のものの方がおいしくフルーティだと感じられた。

素材そのままの良さを生かすのも、少しほかの材料の手を借りて素材の良さを引き出すのも、どちらも決して正義でもなく、間違いでもない。

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目の前に並んだドライフルーツを眺めると、なんとなく不惑を迎えつつある自分に重なる。若い頃の瑞々しいはつらつさはすでに無い。しかしその代わり、生の果物にはない粘り強さ、したたかさ、風味の強さがある。

そして、生のフルーツの味を追い求めるだけでなく、ドライフルーツにしかない旨味がそこにはしっかり含まれている。さらに最新の加工技術によって、より一層多様な食感、多様な種類のフルーツが楽しめるようになっている。なんと素晴らしい時代だろうか。

甘さを加えるも、素材のままを活かすも臨機応変に…私もそんな風に年を重ねていけるといいな…とつくづく思うこの秋だ。

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