心に染みたクリスマスケーキ
「大好きなイベントは?」と子どもに聞くと、かなりの確率で「誕生日」もしくは「クリスマス」と答えるのではないでしょうか。ぼくもそのうちの一人で、特にクリスマスへの期待度は相当なものでした。ソリに乗った白髭のおじいさんが寝ているうちにプレゼントを配りに来るだなんて、めちゃくちゃテンションが上がりませんか?「いつかその顔を拝むんだ!」と張り切って夜更かしをしていたの何歳の頃だったか…結局叶わぬまま大人になってしまいました。
家族で室内を装飾するのも恒例行事。「ツリーのてっぺんの星は誰がのせるか」という兄妹げんかがお決まりで発生しますが、それも踏まえてとても楽しかった。電飾を体に巻きつけて何度も怒られました。
極め付けはご馳走!普段は食卓に並ばないような大きな骨つき肉や、色鮮やかに飾られたサラダ。白いお米ではなくピラフやパエリア。食後には、むしろメインともいえる大きなホールケーキが登場するのです。
ぼくの母親は、地元でちょっぴり有名な洋菓子店に勤めていて、そのおかげで毎年おいしいケーキが食卓に並びました。
おいしいケーキの条件は人によって異なりますが、わが家は「冷凍スポンジを使用していないこと」が第一条件。(冷凍すると生地がパサつき、しっとり・ふんわりさが減ってしまう。)そんなおいしいケーキを食べて育ったからか、気がつくとぼくも妹も、地元の洋菓子店に就職していました。
4人家族のうち、3人が洋菓子店に勤務をしていると、家の冷蔵庫にケーキが常備されている状態に。食べたくて買ってきたもの、在庫過剰になったもの、接客中に欠損した(トングをケーキに刺してしまったりした)もの。ちなみにぼくもよく、一回転させて具がほぼ落ちたケーキを買って帰っていました。
クリスマス前後になると冷蔵庫の在庫もピークを迎え「こりゃ、自宅で洋菓子店が開けちゃうね」が毎年のお決まり文句になっていました。
そんなケーキに溢れ、ケーキに困らない日々も、23歳で終わりを迎えます。アニメ会社への就職に伴い、上京したからです。
念願の絵に関わる仕事!夢の都会暮らし!学びが多く、充実した日々の一方、慣れない環境で毎日深夜まで仕事をするのは心身共に堪えるものでした。はじめは張り切ってごはんもきちんと作っていましたが、そのうちに余裕がなくなり、スーパーの閉店間際で安くなったお弁当を買って食べるのが日常に。その頃から家族と連絡をとることも減っていました。
上京した年のクリスマスは、ぼくが初めて一人で過ごすクリスマスでした。お金もなかったのでご馳走はナシ。気分だけでも…と、コンビニでケーキを購入してみたものの、「母が用意してくれていたケーキはおいしかったなぁ」「今頃、家の冷蔵庫がケーキでパンパンだろうな」と、例年のクリスマスが恋しくなり、そして家族との連絡を怠っていたことを思い出しました。
どうやらぼくは、心の余裕がないと日常を疎かにしてしまう人間のようです。それからは、心の余裕を取り戻すためにも、クリスマスには家でケーキを焼くようになりました。
ぼくのスポンジケーキ(6号/18cm)
材料
作り方
- 1. 卵を割り溶かしたら、グラニュー糖と水飴を加え、湯煎にかけながら混ぜる。
- 2. シャバシャバになったらハンドミキサーで文字がかけちゃうくらいまで泡立てる。
- 3. 薄力粉を加えてさっくり混ぜたら、牛乳と溶かしたバターを加え更に混ぜる。
- 4. ケーキ型に流し、170度で40分ほど焼いて冷ます。3等分にスライスして生クリームや果物でデコレーションする。
コンビニのケーキで、思いがけず心の余裕のなさを自覚させられることになりましたが、この出来事が、上京後にお菓子作り・料理をするきっかけになったとも言えるので、とても思い出深い出来事です。
これから年末。ますます忙しくなる時期ですが、皆さんは「心の余裕」ありますか?忙しいときだからこそ、少しでも時間を作って、おいしいものを食べて、ほっと一息ついてみてはいかがでしょうか。