さつまいもがヤバい
今月のテーマが「秋の味覚」と聞いて小躍りした。
なにせ先月のテーマ「休日の過ごし方」も、先々月のテーマ「アウトドア」も、夜型の朝寝坊で超インドア派である私にはどうも荷の重いテーマだったからだ。結局、「私の休日に朝などない!」とか、「私にはアウトドアがわからない」などという強気な逃げの姿勢で原稿を仕上げ、編集部を苦笑させる結果となってしまった。
それが今月のテーマは「秋の味覚」!はいはい私そういうの得意です!この食いしん坊にドーンとお任せください!という勢いである。
秋の味覚にもいろいろあるが、ここ数年我が家で局地的なブームとなっているのが、さつまいもの食べ比べだ。涼しくなってくると毎年のように、あまりなじみのないさつまいもの新品種がスーパーに並ぶ。それを自宅で焼きいもにして、家族みんなでおやつに食べるのだ。
最近ではスーパーでも、石焼きいもがお手頃価格で手に入ったり、コンビニでは一口サイズにカットされた焼きいもがパックに入って売っていたりもする。でも、焼き立て熱々のおいもを半分に割ってハフハフいいながらかじりつく喜び、やはり自宅焼きいもに勝るものはない。
わが家のオーブンレンジには自動メニューに焼きいも専用コースがある。その昔は落ち葉を集めて焚き火をしたり、やけどを恐れながらストーブの上で焼いたりしたものだが、今ではボタン一つで安全においしい焼きいもができる、なんと有難い時代になったことだろうか。
せっかく記事を書くのだから、色々な種類のさつまいもを買ってきて食べ比べてみよう!それぞれの甘さや食感を比較して表を作るのもいいな!と思い立ち、近隣のスーパーや農産物販売所を回り、手あたり次第にさつまいもを買ってきた。
揃えることができたのは10種類。一度にオーブンでは焼けないので、数日に分けて焼きいもにし、家族6人で試食して各人の感想をまとめる心づもりだった。
しかし、手始めに3種類の焼きいもを食べ、家族の感想をまとめてみるとすぐに、これは私が考えていたほど簡単な話ではなかったと気づいたのである。
まず比べたのは、シルクスイート、紅はるか、紅優甘(べにゆうか)という3種類。食感が一番しっとりしているのが紅優甘だというのは家族全員の意見が一致したのだが、それ以外の意見がまったくバラバラなのだ。
11歳の娘は紅はるかが一番甘いと言うし、70代の義母は一番甘いのは紅優甘、でも好きなのは紅はるか。私自身は紅はるかが甘いとは思ったが、さつまいもらしい香りと味で一番おいしいと感じたのはシルクスイート。いまいち意見が統一されない。
考えてみれば、数本のさつまいもを焼いて家族で分け合っているのだから、同じ品種、同じ袋に入って売られているとはいえ、甘さや食感にいもの個体差がないとは言い切れない。味覚だって感じ方には個人差が大きいのかもしれない。
さらに焼き方についても、いもの品種や保存方法、水分量など、そのいものおいしさを最大限に引き出す焼き方ができているか?と聞かれると、自信がない。なにせオーブンレンジの焼きいもコースにお任せしているのである。たった1回の実験で、仮に私が「この品種はあまり甘くない」などと断言してしまっては、新品種開発と育成に尽力された生産者の方に失礼なのではないか?
そんな迷いの中、とにかく焼いたすべてのいもの個体を食べ比べてみよう、と試みたが、すでにお腹がいっぱいになっていることもあり、個体差については結局よくわからなかった。
完全に企画倒れである。
それでもせっかく10種も買いそろえたのだから…と、残りの7種もすべて同じ条件で焼いて比べてみた。なると金時(里むすめ)、紅天使、紅まさり、安納芋(安納もみじ)、紅あずま、そして変わり種のオレンジ色のさつまいも、ハロウィンスイートだ。
例によって家族の意見はいまいち一致しなかったが、あくまでも私の主観を柱にしてまとめてみると、
ほくほく系食感の代表選手が「紅あずま」。甘さは最近の新品種ほど感じないけれども、あっさりとした懐かしい味と、しっかり、ほっくりした食感で、天ぷらやレモン煮、大学いもなどの料理に最適だと感じた。
甘さナンバーワンは、家族全員の意見が一致して「紅天使」。ねっとりジュワジュワの食感に、スイーツのような驚くべき甘さが濃厚だった。どうしても某ガ〇スの仮面が脳裏に浮かぶのは、開発者の方の狙い通りなのだろうか…。
そして見た目の「映え」ナンバーワンは、オレンジ色の「ハロウィンスイート」である。見た目も食感もカボチャのような、やや水分が多い印象。他と比べて特筆するほどの甘さはないけれども、焼きいもはもちろんのこと、お菓子作りの材料に使ったり、薄切りにしてチップスにしたりしてもいいと思う。見た目のかわいらしさはダントツである。
しかし、ここに挙げていない品種たちも、どれも勝るとも劣らぬおいしさだった。それぞれに食感や香りが違い、きっと火の通し方や保存方法を工夫することで、もっともっとおいしくなるものもあると思う。そもそも店頭に出回っているさつまいもは、新しい品種はとくに、オーブンで焼くだけで、どれもこれも非常に甘くておいしい。
さつまいもがヤバい。
なんという身も蓋もない結論だろうか。
品種ごとの味の比較という企画は思うようにいかなかったが、私自身はとても満足である。
で、だ。
この検証を終えたとき、わが家の食卓には様々な種類の、大量の焼きいもが山積みとなった。
考えてみれば当たり前である。いくら焼きいもがおいしく、そして食いしん坊が多い家族といっても、3日で10種、合計6キロ以上のさつまいもを消費するのは非常に難しい。正直、終盤になると私自身も焼きいもに完全に飽き始めていた。
いったんラップに包んで冷蔵庫に保管された大量の焼きいもを、このまま腐らせてしまっては主婦の名折れである。
こんな時にぴったりのレシピがある。
思い立ったらすぐできる、我流・超適当スイートポテトだ。さつまいもの消費にお悩みの方はぜひ試してみていただきたい。
夜中の台所で、私は冷えた焼きいもをすべてレンジで温めなおし、ずどんと縦二つに切って皮をむき、大きなボウルに入れる。10種全部混ぜ、もはや品種ごとの違いなど完全無視の、さつまいものるつぼである。
いもが熱いうちに、すりこぎでよく潰してマッシュポテトにする。(マッシャーがあればいいのだが、以前私が怪力で曲げてしまい、直そうとしてボキっと柄が折れてしまった。)
そこに砂糖とバターを投入する。量は好みもあるし、いもの甘さにもよるので目分量でかまわない。目安は中くらいのサイズのいもに対して砂糖大さじ1、バター小さじ1くらいだろうか。そんな適当な分量で大丈夫か、とお思いかもしれないが、途中で味見ができるのがスイートポテトのいいところだ。甘さもバターのコクも、足りなければ追加できる。お好みでシナモンパウダーやバニラエッセンスを入れてもいいし、ラムレーズンなどを混ぜれば最高の大人のおやつだ。
そこに牛乳をたらし入れる。生クリームがあれば申し分ないが、我が家の冷蔵庫には常備されていない。思いついたタイミングですぐ作れることを何よりも優先している。
牛乳の量は、全体を混ぜながら、整形するのにちょうどいい硬さになるまで調整する。これもいもの個体差によるので以下略。すべてあなたの感覚にかかっている。
あとはなんとなく舟形にまとめるなり、柔らかすぎたらアルミカップに入れるなりして、表面に卵液を塗り(これも本式には卵黄だが全卵でかまわない。卵白がちょっとだけ余っても困るので)、トースターで10分ほど焦げ目をつける。焦げすぎないようにだけご注意を。
焼き立てもおいしいが、冷えてしっかり固まってからも、いもの風味を存分に味わうことができて格別だ。これぞ秋の味覚、というところである。
そんなわけで大量のさつまいもをなんとかおいしくいただいた私だが、現在、数日ぶりに体重計に乗って、叩き出した数値に驚愕している。
さつまいも、ヤバい。
おいしすぎて非常に、ヤバい。