罪悪感は蜜の味!こげ茶色の甘い誘惑

わが家の笑顔おすそわけ #4 「食べものの本」〜甘木サカヱさんの場合〜

LIFE STYLE
2020.06.12

「本当は食べちゃいけないのに…」と思いながら食べるものって、どうしてあんなにおいしいのでしょうか。
ダイエット中のケーキ。お酒を飲んだあとのラーメン。お坊さんの般若湯(酒の隠語)。そして深夜のチョコレート……

今回のテーマは料理や食べ物の本ということで、我が家の絵本棚から、大好きな絵本を一冊選びました。
おいしそうな食べ物が出てくる絵本はたくさんありますが、今回お勧めするのは『こねこのチョコレート』(こぐま社)。

4歳の女の子ジェニーは、弟のクリストファーの3歳の誕生日プレゼントにと、お母さんに連れられていったお菓子屋さんで素敵なチョコレートを買いました。
リボンのかかったきれいな箱に、小さな子猫の形をしたチョコレートが8つ入っています。
明日は弟の誕生日。ジェニーは寝室のタンスの中にチョコレートの箱を隠しますが……?というあらすじです。

チョコレート

みなさま、チョコレートはお好きですか。
私は大好きです。もともと甘いものは全般好きですが、その中でもかなり上位に食い込む入れ込みっぷりです。

涼しい季節はいつもカバンに個包装のチョコレート。暑くなってくると持ち運ぶのは断念しますが、冷蔵庫には必ずといっていいほど冷え冷えのチョコレートが常備されています。

それを、ちょっと疲れたなぁというときや、お茶を淹れたついでにつまんで口に入れます。とろける濃厚な甘さに、日々の溜まったストレスも少しずつ溶けていくような気がします。

チョコレートって、数あるお菓子の中でも特別な気がします。10円で買える駄菓子的なチョコから、1粒1000円もするような高級ショコラティエのボンボンまで、身近なようでそうでもない、絶妙な存在感があります。

また、形が変幻自在で美しく、ナッツやドライフルーツ、プラリネなどとの組み合わせも無限大。子どもの頃、頂き物の平たい化粧箱を開けると、ずらりと外国製のチョコレートボンボンが並んでいた時の、はじけるような感動はいまでも鮮やかに思い出せます。

クッキーなどの焼き菓子と違って、一般家庭で作るのが非常に難しいというのも、チョコレートの特別感を高めている理由でしょうか。

真偽のほどは定かではありませんが、祖母の「色の濃いもの(チョコレート、コーラ、コーヒーなど)は子どもが食べすぎると身体に良くない、虫歯になる」という言い分には、どこか異国の黒っぽい食べ物に対する畏怖のようなものが感じられました。そのたび幼い私は、「黒いかりんとうは食べても怒られないのに……」
と理不尽な思いでいたものです。

そんな、どこかミステリアスで、繊細で、何よりもとびきりおいしいチョコレート。
ましてやそれがきれいな箱に入った、かわいらしい子猫の形だったとしたら……この絵本のタイトルである「こねこのチョコレート」が、幼い女の子、ジェニーの心をどれだけ鷲掴みにしたことか、想像に難くありません。

弟へのプレゼントのチョコレートの箱を寝室のタンスに隠し、ジェニーはベッドに入ります。
でも、なかなか寝付くことができません。こねこのチョコレートが気になってしかたがないのです。

「はこの中には、八ひきも こねこが いるのよ。あたしがひとつくらい たべたって、 クリストファーは、気にしないとおもうな」

そうしてジェニーは、こねこのチョコレートをひとつ口に入れてしまいます。
その描写の、なんと蠱惑(こわく)的で、なんておいしそうなことか!
4歳の子が、深夜にこっそり食べる子猫の形のチョコレート……まさに禁断の美味だったことでしょう。

さらにジェニーはひとつだけに飽き足らず…。続きはぜひ絵本を読んでみてください。

この絵本を小学校で子どもたちに読んだとき、チョコレートを食べてしまうシーンに差し掛かり、とても見ていられない!というふうに目や耳を手のひらでふさいだ子が何人もいました。

絵本の読み聞かせ

わかる、わかるよ!夜中に食べるお菓子のおいしさ!そして罪悪感がそのおいしさを何倍にも加速させること!そして次の日の後悔!痛いほどによくわかるよ……!

でも、この本が素晴らしいところは……チョコレートの誘惑に負けてしまったジェニーにも、そして弟のクリストファーにも、ちゃんと素晴らしい、ほっとするハッピーエンドが用意されているところです。

ふたりに訪れた素晴らしいプレゼントとは……?

それは、ぜひこの本を実際に手に取ってご確認ください。

ハラハラして、おいしそうで、共感して、胸が締め付けられて、そしてとっても心温まる絵本です。

私も我慢できなくなって、甘酸っぱいクランベリーを包んだ、ころころ丸い可愛いチョコレートを買ってきて、食べながらこの原稿を書いています。

ダイエット中だし、それに夕飯前だし、少しだけにしておこう……3つくらい、いや5つまで…
その決意が泡と消え、原稿が終わりに差し掛かった今、チョコレートの袋はすっかり空っぽになっていることは、これを読んでくださった方ならば説明するまでもないでしょう。
チョコレートの誘惑には、大人も子どももなかなか勝てるものではありません。


ご紹介した本

こねこのチョコレート

こねこのチョコレート
B.K.ウィルソン 作, 大社玲子 絵, 小林いづみ 訳(こぐま社)

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