井上咲楽の“食と暮らし” 「素朴でいい」と思えたら、自炊はもっと楽しくなる メインビジュアル

井上咲楽の“食と暮らし” 「素朴でいい」と思えたら、自炊はもっと楽しくなる

きのう何作った?

PEOPLE
2025.04.11

益子焼の産地として知られる栃木県益子町のご出身で、器への深いこだわりを持つ井上咲楽さん。2019年には「発酵食品ソムリエ」の資格を取得し、自家製の塩麹やぬかなどを日々の食卓に取り入れているそう。 そんな彼女に普段のおうちごはんと、発酵食品への情熱、そして益子焼の器へのこだわりについて、お話を伺いました。

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お話を伺った人:井上咲楽さん

1999年10月2日生まれ、栃木県益子町出身。2015年、『第40回ホリプロタレントスカウトキャラバン』特別賞を受賞し、芸能界デビューを果たす。レギュラー番組にテレビ朝日系『新婚さんいらっしゃい!』など。

おうちごはんの良さは素朴さにあり

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ーー井上さんは普段どれくらいの頻度で自炊されていますか?

毎日というわけではなく、だいたい週4くらいですね。冷凍しておいたごはんに具を入れて、おにぎりにして仕事現場に持っていくこともあります。

ーーお昼ごはんも工夫されているんですね。

お弁当と外食が続いたり、ロケで自宅に帰れなかったりすると、なんとなく「調整したほうがいいな」って思うんです。仕事で食に向き合うことも増えましたし、食生活は気になりますね。

ーー料理にしっかりと向き合うようになったのは、いつ頃からでしょうか。

上京してすぐの頃は「外食はお金がかかるな」と、なんとなく自炊をしていました。未成年の頃は仕事関係の方にごはんに誘われることもなかったんですよ。20代になって、お酒を飲むようになってから外食が増えました。そこからむしろ自炊を気にするようになりました。

ーー外食と比較して、おうちごはんを重要視するようになったんですね。

外食がおいしいのは、当たり前。自分にしか出せない味とか、人に提供するには素朴すぎるものとかを、自宅で食べられるのが自炊のいいところですよね。買い物も、切ったり焼いたり作る工程そのものも楽しいんです。食べてなくなるものに時間をかけられることこそが豊かさだなと思っています。

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ーー井上さんが料理に夢中になるきっかけとなった思い出のメニューは?

「なすぼけ」です。なす農家さんのおうちに伺った時に出してもらって、本当においしくって。

それまでは「料理写真や動画を載せるって、料理好きアピールに見えるかな」とかいちいち考えてしまったんですけど、派手なものではないし載せちゃえ!とアップしたんです。そしたら、ファンの方から「作り方教えてください」と言われて。レシピを載せたら、それもやっぱり反響があって。素朴な料理にも、ちゃんと需要はあるんだなと感じました。

ーーファンの方が背中を押してくれたんですね。

豪華なレシピやメニューに興味がある人が多いと思い込んでいたけれど、見ている人が興味をもってくれて、そこから「私、料理きらいじゃないかも」「むしろ好きかも」と思うようになったんです。

ーーたしかに、素朴でほっとするごはんってありますよね。

人に手料理を振る舞うのも、もともとはあまり好きじゃなかったんです。「ごちそうを作らなきゃ」と構えてしまって。

でも、自宅に人を招いたときに、実家みたいな素朴なごはんを出したら、すごくよろこんでもらえて。「意外とこういうのって一人暮らしの人によろこばれるんだ!」って、そこで思えたんです。もう、気張らなくていいやって。

土鍋で出す炊き込みごはんで食卓も笑顔に

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ーー井上さんのおうちに人が集まる時の鉄板メニューは?

時間がない時は、手羽先や手羽元のオーブン焼きです。鶏肉と、にんにくやにんじんをそのまま入れて焼いて出すだけ。よろこんでもらえるし、食べやすいです。

あとは、炊き込みごはんですね。テーブルにいくつかおかずを出してみて「ちょっと少ないかな?」と思った時に、土鍋のまま持っていくと「わーっ」て、みんなが見てくれます。鮭とかをぼんぼんっておいて、ちらして炊くだけ。包丁もいらないし手軽です。

ーー土鍋で炊くのがポイントですか。

土鍋で炊くとおいしいということよりも、食卓でふたをパカッとあける感じが楽しいんですよね。炊飯器だっておいしいし、正確。でも、テーブルに土鍋をおくと、料理がいっぱいあるような気がしませんか?

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ーーたしかに、一気に主役級になりますね。

あとは、実家がお皿をたくさんおく家だったので、テーブルを埋めたくなるのかもしれません。湯豆腐なんかも、小さな鍋に入れてそのまま出すと特別感が出るのでおすすめです。

ーー忙しい時でもパッと作れるおもてなしレシピがあれば、ぜひ教えてください。

ニラだれを作っておいて、豆腐にのせるだけのもの。あと、最近よくやるのは、小松菜やほうれん草などの青菜を茹でて、大根おろしとしらすを入れて醤油をかけるだけのもの。突き出しみたいで、ちょうどいいんです。

普段から塩代わりに塩麹を 発酵食品へのこだわり

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ーー発酵食品ソムリエの資格を持つ井上さん。発酵食品に興味を持った背景は?

実家での味噌作りです。中学か高校の頃に突然母が発酵食品にハマって、そこから毎年家族みんなで作るようになりました。

ーー井上家の家族総出のイベントなんですね。

最初は「味噌を自分で作るの?大変じゃん」という感じだったんですけど、自然と当たり前の行事になっていきました。だんだん見た目が変わっていく様子がおもしろくて。

ーー井上さんが今、日常的によく食べる発酵食品は?

味噌と、あと塩麹ですね。「なんだか味が決まらないな」ってときに塩麹を入れるんです。

ーーなんにでも入れますか?

塩の代わりに入れたり、ごはんを炊くときに小さじ1弱くらい入れたり、お味噌汁に入れたり、塩麹は普段からよく使っていますね。

ーー発酵食品というと少しハードルが高く感じる方もいるかもしれませんが、塩麹はスーパーで手軽に手に入りますよね。

醤油やみりんもそうだし、日本のごはんを食べていたら、みんな基本的には発酵食品に触れているはずなんです。腸活とかを意識していなくても、みんなにとって身近な存在なんですよ。

ーー初めて塩麹を取り入れる人におすすめの食べ方やレシピがあれば教えてください。

塩麹は万能です。オムライスのケチャップライスにもおすすめ。ケチャップと塩麹を混ぜて、軽くフライパンでぐつぐつさせてからライスとなじませるとおいしいんです。

鮭とか鶏もも肉も、塩麹とみりんを合わせて漬け込むだけで、西京焼きみたいになります。

パスタソースに塩代わりに使うこともあります。大葉としらすと、パスタの茹で汁を入れて、塩麹を入れて煮るんです。それだけでおいしいですよ。

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自宅には塩麹を常備

益子焼の町で生まれ育った井上さん お気に入りの器

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ーー井上さんは焼き物で有名な益子町ご出身です。もともと益子焼が身近な存在だったかと思いますが、器への興味を持ち始めたのはいつ頃からですか?

地元では、小学校の給食の器も益子焼でした。それに井上家では、割れないものを使うのが禁止だったんです。「壊れるものだからこそ、大切に扱おうね」という教育方針でした。

実は小さい頃はメラミンのカップとか、かわいいキャラクターが描いてある器を使いたかったんですよ。でも、上京してから陶器のありがたさを知りました。今でも益子の陶器市に行って、気に入った器をその場で購入します。

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おやつを楽しむのも益子焼の器

気負わず、自分の生活の中で折り合いをつけて料理を楽しむ

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ーー日々のおうちごはんを楽しむための秘訣は何ですか?

「すごいものを作るのがすごい」というわけではないことを知ることからですね。お湯を沸かして味噌とあおさを入れるだけでも「お味噌汁」だし、それを毎日やってたら「毎日自炊している」。これでいいと思うんです。

ーーたしかに、定食のように何品も作らなくても「自炊」だし「料理」ですよね。

「丁寧な暮らし」という言葉が流行ったから、みんな気負ってしまうのかもしれないですね。私もインスタグラムで #丁寧な暮らし のハッシュタグをつけて投稿したら「そんなの、丁寧じゃないよ」なんてコメントをいただいたこともあります。

けど、生活の中でどう折り合いをつけてごはんを食べていくかってことですから。私ももう、丁寧な暮らし、って言葉を使うのをやめたんです。

ーー丁寧って人それぞれですし、誰かの耳が痛くなってしまう部分があるのかもしれないですね。

料理って、手間も時間もかかること。だからこそ豊かだけれど、人の生活ってそれだけじゃない。仕事も目一杯やりたいし、その上で料理もしていくにはどうする?そこを追求していきたいですね。

また料理本も出したいけど、あくまでも「近くにある小さなスーパーで、忙しくてもパッと作れるもの」を紹介したいです。

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取材:小沢あや(ピース株式会社)
撮影:武石早代