料理もお笑いも、得意ジャンルで勝負をかける――こがけんさんのおうちごはん
お笑いユニット「おいでやすこが」として、M-1グランプリ2020で準優勝を獲得したこがけんさん。テレビ番組の企画で、アレンジ料理やスイーツ開発にも取り組んでいるこがけんさんに、子どものごはん作りの工夫や下積み時代の料理について伺いました。
最初の料理はアレンジトースト。調理実習で料理の楽しみを知る
ーーこがけんさんのご実家は、福岡で100年以上続く居酒屋さんですよね。料理は身近なものだったのではないかと思いますが、ご自身で作り始めたのはいつだったんでしょう?
中学1年生の頃、トーストをアレンジしたのが始まりでした。マヨネーズで土手を作って、バターとチーズと、上にトマトのスライスをのっけて焼いて、「ピザトーストのチーズこってり版」みたいなのを作ったんです。それにさらに卵をのっけて目玉焼きにしたりとかしてました。
友達が泊まりに来たときに、朝食として出したら「うまい!」って言ってもらえて。
ーー料理を始めてすぐに、人に食べてもらう機会があったんですね。
うれしかったですね。あとは、中学の時の家庭科。基本的なレシピはあるけど、「自分たちで調整して自由に作っていい」ということで、ハンバーグやケーキの調理実習があって。
自分なりにめちゃくちゃこだわったものを作ったら、同級生にも褒められて。家庭科の評価は、ずっと5段階中の5でした。その時、初めて「あ、料理って楽しい!」と思いましたね。
ーー子どもの頃、実家のお店を継ぐということは考えていなかったんですよね?
そうですね。高校に入って店の手伝いをしたときも、基本的にはホール。「店を継ぐ」という意識はほとんどなかったです。でも、食べることは単純にすごく好きでした。
子ども向けの料理は、塩分濃度を一定に。一品に素材のうまみを重ねる
ーーこがけんさんは昨年のM-1グランプリ準優勝後、ご結婚されていることや二人のお子さんがいらっしゃることを公表されましたね。ご家庭でも、料理はされますか?
はい。でも、妻の方が料理をする機会は多かったかもしれません。自分が他の家事を担当して、手が空いていたら二人で料理をすることもありました。
今はなかなか夕飯時に帰れないんですけど、去年は舞台の数も減っていたので。買い出しから自分が担当して、料理していましたね。もちろん、妻もおいしいごはんをたくさん作ってくれていました。
ーーお子さんに出す、「こがけん定番メニュー」はありますか?
『テレビ千鳥』で紹介した「炒めフレンチ」は、我が家の子どもたちもめちゃくちゃ好きなんです。結構作っています。でも、子ども向けの料理ってほんとに難しくて。子どもって、絶対に塩分が濃い料理のほうを食べたがるんですよ。
ーーほんとにそうですよね。我が家の4歳児も、無限ポテトフライです……。
大人向けなら、出す料理のトータルでバランスを考えられる。塩分が濃い料理も薄い料理もあってよくて、「全部食べたらちょうどいい感じになる」っていうのを目指すんですけどね。でも、子どもの場合は、濃い味のと薄味のものを出したら、やっぱり味付けが濃いものにしか手を出さなくて……。
だからこそ一番気をつけていたのは、嫌いなものもあるかもしれないけど、「とりあえず色々な料理を作ってみて、全部の塩分濃度を同じぐらいにする」ってことでしたね。
ーー味付けに緩急をつけるよりも、一定の濃さにするんですね。子どもって、一時期ブームで気に入って食べていたものでも、急に飽きちゃったりしませんか?
変遷はめちゃくちゃすごかったです。だから、「これは絶対に勝てる(食べてもらえる)!」って料理は、特になかったですね。「クリーム系好きじゃーん!」と思ってカニクリームコロッケを作っても、2ヶ月後には急に手を出さなくなったりして(笑)。料理を出す相手としては、子どもが一番むずいっす。
ーー難しい中、どうやって幼児食作りを乗り切りましたか?
一つの素材の味をシンプルに活かすのではなく、「いろんなもののうまみを出す」ことを心がけてましたかね。
例えば雑炊なら、玉ねぎなんかのお野菜を細かく切ったものと、お肉系のものを組み合わせる。スープならソーセージを入れてみる。植物性のものと動物性のもの、それぞれのうまみが出る状態で塩を加えるようにして、うまみをこれでもかとかぶせてかぶせて……って感じですね。
あとは、出汁の味はわからないかもしれないけど、早めに味を知っておいてほしいという気持ちがあったので、なるべく出汁系は真面目にとってました。
ーーずいぶんと工夫されているんですね。さすが元料理人……!
「うまみかぶせ作戦」は有効だったと思います。野菜を選り好みしてペッ!てしちゃうこともあるんですけど、スープさえ飲んでくれたら、そこにちゃんと栄養分も入ってますしね。
幼児食は、親のメンタルも大事
うちの子どもは2歳と4歳なんですが、今年はありがたいことに僕の仕事が忙しくて、妻がとんでもないワンオペになっているんです。だから、「栄養価の高いものを、栄養バランスを……と思いすぎなくて大丈夫だからね」という話はよくしています。
「子どもにいいものを」と、栄養価とかを真面目に考えすぎちゃうと、どうしても親が精神的に追い詰められてしまうと思うんです。
みんなだって子どもの頃、親にそこまできっちり栄養管理されてないと思うんですよ。うちの親も手を抜ける部分は抜いてたはずだし。
ーーふふふ(笑)。
だから、「マックやUberEATsもどんどん使おう!」というのが、うちの方針です。デリバリーサービスって高いじゃないですか……でも、親の精神衛生を考えたら、そういうサービスを活用したほうが結果的には安くつくと思うんです。
ただ不思議なことに、料理した方が精神的によいときもあるんですよね。
ーー料理をすることで、自己肯定感が上がったりとか。
そうなんですよ。だから、そのバランスを見て、「今は自分にとって料理をした方がいい時だと思ったらする」「だめだったらやめておく」という風にできたらいいなと思いますね。
例えば、手間暇かけて作った料理を子どもにひっくり返された時のショックをいかに軽減するか。自分を甘やかして、親側のケアを意識することも大切だと思います。
一旦整えたいときは納豆キムチ
ーー芸人さん、とくにこがけんさんのように歌ネタの方は、喉の管理も大切かと思います。何か体のためにとっている食事はありますか?
喉のことを考えるなら、たんぱく質もいいですよね。喉に油分をということで、結構トンカツも食べていました。あとははちみつを直接とったり。
ーーマヌカハニーのような?
そうですそうです。はちみつ入りの生姜紅茶を飲んでいます。僕はいつも秋口から体調を崩しやすいので、体を冷やさないように気をつけていますね。
今年一気に忙しくなってからは、仕事が終わると店が閉まっている状態で、なかなか温かいものも食べられなくって。朝昼晩と揚げ物入りのお弁当、という日もあったんですが、そんな時に食べるのは酵素系ですね。
ーー酵素系、というと?
納豆とか、キムチとか。僕は胃腸がそんなに強くないのもあって、納豆キムチを和えたものと、味噌汁とごはんという一食で全然いい。完璧なメニューです。「最近体にあんまりよくないものしか食べてないな」って時は、それで一旦整えてます。納豆って、めちゃくちゃ偉大っすね。
献立を決めるのは、料理のプロでも大変なこと
ーーこがけんさんは、番組の中でアレンジレシピを披露されることも多いですよね。レシピを考えるときに重視していることは何でしょう?
昔から、作る人の精神的な部分、気軽にやれるかどうかを大切にしていますね。あんまり番組で、「イノシン酸やグルタミン酸が〜」って話はしたくないんですよ。
ーー料理人として知識はあるけれども、わざわざ言わない、と。
僕のレシピは、テクニックにこだわらないというか……「フレンチの本格的なレシピです」といったところは目指さず、最初から簡単にできるものを考案するようにしています。
ーーひとつ相談です。私は何品も同時調理するのが苦手で、買い出しでも混乱しちゃうことがあって……。何かコツってあるんでしょうか?
あれは、料理人でもめちゃくちゃ意識してやってるんですよ。僕も板前修行時代、親方に「店に来る前に、段取りを頭の中でシミュレーションしろ」って、ずーっと言われてて。頭で考え続けているから、毎日その通りに体を動かせる、って感じなんです。意識していなかったら、無駄な動きは出てきちゃいますよ。
ーープロの料理人でもそうなんですか。
そして、プロはそれが仕事だから、シミュレーションに時間をかけられるわけで。一般の人は他に仕事をしたり、子どもの面倒を見たりもしているんだから、そこまでできなくても当然だと思います。
ーーたしかに。一人だったらある程度食べるものをルーティン化してしまうんですが、家族の献立を考えるとなると、やっぱり負荷がかかるなあと。
マジでわかります。僕は下北沢の「都夏(つげ)」で板前をやっていたとき、追い回し(下積み修行中の見習いのこと。雑務を任されることが多いポジション)として2年間、毎日違うまかないをずーっと作り続けてたんですよ。
その時に思ったのは、「親が毎日献立を考えて作ってくれていたのが、どれだけ偉大だったか」ということ。
ーー本当、毎日違うものを作るのって大変ですよね。
献立を考えるのはどうしても難しいことなんですが……。例えば、昼にメインと副菜を作るとします。そのときに多めに副菜を作る。そして夜も副菜を多めに一つ作るんです。
そうやって、少しずつ余った副菜をずーっと食べていく。副菜を強化していって、メインは何か焼くだけにして、手間を抑えるっていう方法はありますね。
ーーなるほど。こがけんさんは、献立を考えるときに行くような「推しスーパー」ってありますか?
絶対に「オオゼキ」です! クエを1匹仕入れたり、マグロを1本入れて解体したりする店舗もあって、鮮魚コーナーがすごい。しかも安い。それに、シャンツァイとコリアンダーとパクチーって、同じものが違うコーナーに別の名前で並んでいたりもして……きっとバイヤーも複数人いるんでしょうね。
ちゃんと選べばものすごく食材費も抑えられて、こんなに本格的なものが食べられるんだなあと思う、大好きなスーパーです。
「名前のある料理」から作った板前時代
ーー先ほど、板前修業をされていた時期のお話がありましたが、原点に立ち返るようなごはん、下積み時代によく作っていた料理などはありますか?
板前をやってた時は、家ではまったく料理してなかったですね。休日は15時ぐらいまで家事をしつつ休んだら、渋谷のブックファーストに行って料理の本をチェックして、めぼしい居酒屋に向かってごはんを食べて。そこでおいしかったものを、次の日のまかないで再現するという流れを続けてました。
まかない作りに関して、最初に先輩に言われたのは「絶対に名前があるものを作れ」ということです。まずはアレンジ料理ではなく、名前のついている料理を作って基本的なやり方を知って、あとから崩すんだと。
ーーへえー!
おかげで、「この料理ってこういう風に作るよな」「この工程では、こういう下ごしらえをするよな」っていう基本は頭に入りましたね。
あと、個人的に好きな料理は、アンチョビとニンニクと卵黄しか使わないパスタ。アンチョビはスーパーで買う高いフィレではなくて、カルディとかに売ってるチューブタイプのを使うんです。
ーーアンチョビといえば少しリッチなイメージでしたが、そんなものが。買ってみます。
まずは常温の鍋にニンニクを入れて、オリーブオイルを入れて。ちょっと火が通って香りが立ってきたら、アンチョビのチューブをぱぱぱっと入れます。そうするとまた香りが出てくるので、茹でたパスタをそこに入れて、絡めて、最後に卵黄と混ぜるだけで完成しますよ。
料理もお笑いも、得意なもので勝負する
ーー10年ほど前の『ぷっスマ』では、千原ジュニアさんのお抱えシェフとして、料理の腕前を披露されていました。芸人さんたちのホームパーティーのような場面では、どんな風に料理を?
最近はないですけど、規模としては十何人来るようなものが多いですかね。全部一人でサーブしなくちゃいけないときは、3日前ぐらいから準備してます(笑)。
例えば鍋だったら、他の具材の仕込みを先に進めて出汁は前日に仕込むんですが、十何人分の出汁ともなると、家庭用コンロでは沸かすのに1時間ぐらいかかるんですよ。そこは大変なところですかね。
ーーそうか、全部の製造工程でそういった手間がかかるんですね。
途中から人が増えることもありますし。なるべく当日火を入れる料理は少なくして、切って出せる前菜のような……「鶏肉のガランティーヌ」とかを作っています。
ーーガランティーヌって、どんな料理なんでしょう?
鶏のもも肉をファルシにしてポシェしたものなんですけど……
ーーおしゃれすぎて、ちょっと理解が追いついてません(笑)。
詰め物ですね(笑)。鶏肉の中にお野菜などいろんなものを入れて、茹でたり蒸したりするんです。くるくるくるって巻いて、棒状にして。切ったら綺麗な断面になっているという。
「鶏肉のガランティーヌ」って、ちょっとおもしろい響きじゃないですか。先輩に「何をガランティーヌ作っとんねん!」って言ってもらうために作っていたところもありますね。
ーーおいしいだけじゃなく、ツッコミどころも用意しているんですね。
だから、新しいものを作っていく時は新ネタを持っていくような感覚でした。他にも「サルティンボッカ」のような、ローマではポピュラーだけどこっちではあまり知られていない料理を準備したりして、つかみになるものは作っていましたね。「自分でもできるわ」って思われない、組み合わせがおもしろい料理とか。
その上で、どんな味を好む人が来るかはわからないので、味付けとしてはわかりやすいところに着地させるのを意識していました。お酒を飲む人が多いので、塩分もちょっとずつ増やしますね。それぐらいで、食べている側としてはずっと変わらない濃さに感じるので。
ーーなるほど。ネタの緩急も、同じように調節しているんですか?
最後のほうに盛り上がるようにはしますけど、ネタの方はうまくはいかないですよ(笑)。でも、料理とお笑いの共通項を一つ挙げるなら……「自分の得意なことで勝負する」ってところは、同じなのかなと思います。
ーーと、いうと?
ピン芸人になるときに、ハリウッドザコシショウさんとか、ものすごい人と戦わなきゃいけなくなったんです。でも、僕には強烈なキャラクターや色はない。「じゃあなんだったら勝てる可能性があるのか?」って考えたときに、得意な歌ネタに絞ったんです。
料理でも、「全ジャンルうまい人」ってなかなかいなくて、和食ではうまくいかなかったけどイタリア料理で頭角を現した、って人もいます。「人よりもおいしいもの・いいものを作ろうと思ったら、自分が一番得意としてるものでじゃないと勝てない」というのは、芸にも共通してるかもしれないですね。