大変だった日も、最高のごはんがあれば「チャラ」以上――藤あや子さんのおうちごはん

きのう何作った?

PEOPLE
2021.10.18

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「NHK紅白歌合戦」の常連演歌歌手としてだけでなく、愛猫マルくん・オレオちゃんなどのSNS投稿でも注目を集めている藤あや子さん。複数台の冷凍庫や冷蔵庫で食材を管理しているという藤さんに、日々のごはんについて伺いました。

お話を伺った人:藤あや子さん

1961年生まれ、秋田県角館出身。1985年にNHK『勝ち抜き歌謡天国』で優勝し、1987年CBSソニーよりデビュー。代表曲は「こころ酒」「むらさき雨情」「雪 深深」など。保護猫活動をライフワークとし、愛猫のフォトブック『マルとオレオと藤あや子』が好評発売中。料理好きとして知られ、日々の自炊をSNSやアメブロ「あや子日記」にアップしている。

おこづかいで食材を買い、料理した小学生時代

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ーー藤さんのブログやSNSを見ていると、自由に料理を楽しまれているんだろうなと感じます。いつ頃から料理はお好きなんですか?

料理に対する興味を持ったのは、小学校5年生くらいですかね。母にお願いして、毎週日曜日は「子どもが料理を作ってもいい日」になっていたんです。4歳下の弟と一緒に、おこづかいで食材を買って、ピザトーストを作ったりしていました。

ーー子どもにとって貴重なおこづかいを食材に使うほど、料理への熱意が!

そうそう。当時は自分の中でピザがブームだったんです。さすがにピザ生地は作れないから、トーストにトマトソースやサラミをのっけてガスオーブンで焼いて、自分の食べたいように作っていました。

ーー藤さんのご実家は、秋田のお肉屋さんなんですよね。

そうです。売っているコロッケやトンカツの作り方もずっと見てましたから、私も見よう見まねで作りました(笑)。料理が好きな母が作るものはすごく独創的で、一風変わった食材の組み合わせも多かったから、子ども心に「うちのお母さん、すごいな」って思っていました。両親のどちらもお料理をする時間が多かったので、その影響はあるでしょうね。

ーークリエイティブな料理心は、藤さんにも受け継がれているように思います。日々の献立はどんな風に決めていますか?

食材は常に冷蔵庫・冷凍庫にキープしているので、その日の体調や天候に合わせて、食べたいものを作っています。夕飯はおやつの時間ぐらいに決めてますかね。

メインはそうやって当日食べたいものを作るんですけども、副菜は作り置きもしてますよ。ひじきだとか、肉じゃがだとか。何日も食べると飽きちゃうから、それをアレンジしていくっていうのが好きで(笑)。

ーー例えば、どんなアレンジを?

ひじきなら、次は卵焼きに入れるとかね。野菜スープなら、まずコンソメスープと野菜だけで作って、味付けを変えたり具材を足してアレンジして、そのうちカレーになって、そのカレーがグラタンになるとか(笑)?飽きないように、最後までおいしくいただくっていうのは大切にしてますね。

冷凍庫6台・冷蔵庫5台で、お店のように食材管理

ーー冷蔵庫のスタメンって、どんな感じなんでしょう。

旬のものはなるべく取り入れるようにしてます。葉物はキープしておくとくたびれちゃうからその都度仕入れていますけど、日持ちする根菜は保存方法を工夫して、とにかく多めにキープしてますね。

冷凍庫もいっぱいあるので、この冷凍庫は魚だけ、この冷凍庫は肉だけ、とか分けて。

ーーえっ、冷凍庫が二つあるんですか!?冷蔵庫とは別に?

冷凍庫も冷蔵庫も、いっぱいあるんですよ私(笑)。別荘にあるものも含めると、冷凍庫は6台、冷蔵庫は5台かな?お店屋さんみたいにして楽しんでます。

ーーさらっと出てきましたが、すごくおもしろいです!さすが、スターの生活……!なぜ、複数台を活用するスタイルになったんでしょう?

もともと大量買いするタイプではなかったんですけど、仕事柄、全国各地にご縁があって、その土地のおいしいものをファンの方などからいただくことがあるんですね。

ご近所におすそ分けもするんですが、すぐに使いきれない分は冷凍保存するようにしていたら、どんどん冷凍庫の中身が増えていって。満たされた状態が安心感になり、逆にスカスカだと不安を感じるようになり……(笑)。

ーーそして冷凍庫と冷蔵庫自体もどんどん増えていくという(笑)。それだけ量があると、何を保存しているか忘れてしまうこともありそうですが、どうでしょう。

冷凍庫にストックしているものは全部ナンバリングして、今あるものとないものがわかるよう、スタッフに表にしてもらっていますね。野菜室のものは全部ボードに書き出しているので、すべての食材を管理してる状態。ふふふふ(笑)。

献立を考える時間は、自分と向き合う時間

ーー先ほど、「メイン料理はその日食べたいものを」というお話がありましたが、食べたいものを見極めるコツはありますか?個人的に、あまり得意でなくて……。

それね、結構質問されるんですよ。今日食べたいものを考えるっていうのは、大げさかもしれないですけど、自分と向き合うってこと。たしかに、自分と向き合うための時間って、考えてみたらあんまりないんですよね。

その日の体調に正直に、「今日はそんなにいっぱい作りたくないな」「暑いしさっぱりしたものにしようかな」とかでもいいと思うんですよ。それで、食材を想像しながら頭の中で組み合わせて、「これとこれをこうすれば、絶対おいしいよね」って。

ーー「今日は頑張れないなー」という日は、どんなものを作るんでしょう。

一気に、鍋一つで作っちゃうものが多いですかね。「とにかくあるもの放り込んじゃえー!卵落としてふたしちゃえー!」みたいな(笑)。

最近は、夜遅くまで海外ドラマをみるのにハマっちゃってて。ドラマ見たいし、寝不足で作るのも大変だし……って、パワーアップも兼ねてチゲ鍋を作りました。豚肉とキムチをごま油で炒めて、にんにく入れて、冷蔵庫にある野菜をとにかく土鍋でぐつぐつ煮て。

ーー北国出身ということも関係してか、煮込み料理をよくされている印象があります。ブログで拝見しましたが、豚汁に糸こんにゃくを入れるのは秋田の食文化なんですか? 

秋田だと、里いもの時期に「なべっこ遠足」っていう行事が小学校からあるんです。食材を持ち寄ってみんなで川原に行って、そこでカレーやきりたんぽ鍋、鶏肉と醤油ベースの「いものこ汁」を作って食べるんですが、それも糸こんが入るんです。小さい時からいっぱい食べているから、身近な食材ですね。

好きなものを好きなだけ食べたいからこそ、トレーニングも

ーー小さな頃からずっと食べているものがある一方で、変化した食事習慣はありますか? 自身、年齢とともに食べたいものが変わってきている実感があるのですが。

食事の変化はやっぱりありますよ。意識的に何かしているというよりは、自然と自分の求めるものが変わるんでしょうね。

朝ごはんも、お米を炊いて、お味噌汁で納豆で……というものではなく、無脂肪の牛乳で作ったカスピ海ヨーグルトに、いろんなスーパーフードを入れていただくのが最近のルーティーンです。カスピ海ヨーグルトは、10年以上続けてます(笑)。

ーー体にいいものを取り入れつつ、スイーツなどもすごく楽しまれていますよね。

スイーツ、最高ですね。毎日のように食べてますし、他にもいろいろと好きなものを食べてますけど、その代わりに、やっぱり消費するための努力はしてますよ(笑)。

食べたいものをセーブするよりは、「好きなものを食べたいから、しんどいけど頑張ってやろう」ってトレーニングをする。自分にとっては飴と鞭です。メリハリのある生活っていうんでしょうかね。

料理は、調理工程が多いほど燃える

ーー藤さんの食卓は品数が多いですよね。やはり、それなりに調理時間もかかりますよね?

そうですね、食材が多い時は1時間ぐらいかかります。一度に全部食卓に出せるように、全部逆算して下ごしらえを進めるんですけど、そうやって考えることが好きなんでしょうね、多分。工程が多ければ多いほど燃えます(笑)。

ーーマルチタスクも好きなんですね!

すごく好き。最終的な味見や盛り付けにはすごく神経を使いますけど、それまではほんとに雑なんですよ。ある程度雑じゃないと、あんな品数はできないから。

ーーたくさん品数を出すのは、昔からの習慣なんですか?

そうですね。今までは友人やスタッフさんなど、たくさんの人とおうちでごはんを食べる機会が多かったので。いっぱいおかずを作り置きしておけば、お弁当に詰めて楽屋にも持っていけますしね。

ーー以前は、十人規模でごはんを振る舞うこともあったと聞きました。ホームパーティーでのおもてなしメニューは、どんなものを?

みなさん、こういうお仕事をされている方は、楽屋のお弁当だとかを食べることが多くなりがちなんですよね。だから、私が出すものは「家庭の味」的なもの。大皿料理を、京都のおばんざいみたいにポンポンポンと作って、ビュッフェみたいに取り分けながらおもてなししていました。

ーーすごく素敵です。和洋中さまざまな料理を作られていますが、参考にしているレシピはありますか?

外食も好きなので、お店に行った時に「この組み合わせ、いいな」って考えることはありますね。これまでに食べたおいしかったお店のレシピをなんとなく思い浮かべて、それを真似したり、アレンジして作ってみたりとか。その味に近づけようと努力するのも、楽しいしおもしろいんです。

ーー本当に料理を楽しまれているんですね。

なんでも楽しむのは大事ですよね。失敗しても、それを失敗だと思わずに、他のものを混ぜてみたりしてね。なんとか無理やり完成させるのも楽しいし。

私、1ヶ月公演が続くような時には、劇場の中でもひじきを炊いて、味見しながらお芝居に出ることもあったんですよ(笑)。それくらい、料理は私にとってなくてはならないもので、体の一部みたいなものなんです。

調理器具やお皿はときめきで買う

ーー料理に関してちょっと気になったのが、以前テレビ番組で「包丁が100本ある」と話されていたことで。

包丁ね、いっぱいあります。

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マイ包丁ケースもお持ちです

ーーどういう感覚で買うんでしょうか?造形美なのか、用途で使い分けなのか……調理用品のこだわり、聞きたいです。

私ね、調理器具見るとすごく買っちゃうんですよね。料理好きってこともあるんですけども、「この調理器具を使ったら、どんな風になるんだろう?」って興味がわいて。これだけ包丁があるのに、1、2年前もどうしても買いたくなって、買い足しちゃいました(笑)。

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造形美に惚れて購入したという包丁

ーー食卓のお皿も、いつもすごく素敵です。

料理が好きってことは、やっぱり器も好きなんですよ。それで、自分でも陶芸を始めたんですけども。

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金沢で購入したという「白粒鉄仙」の器

もともと、いろんな地方に訪れた時には必ず器を買って、自分のお土産にしてたんですね。金沢なら九谷焼、モナコならモナコ陶磁器、香港なら景徳鎮を買って。器が好きすぎて、ここの食器棚に入らないぐらい。ふふふ(笑)。

ーー料理だけでなく、食に関するさまざまなものに貪欲なんですね。ときめきや直感を大切にされている。

無駄に買っちゃったものもあると思いますけど(笑)、ちょっと高いなあと思っても、その時のときめきを大事にしたいかな。他のもので我慢しようとしても、絶対に自分が納得するわけがないこともわかっているから。

ましてや、旅で出会ったものって、また出会えるとは限らないじゃないですか。その時の思い出の一つとして、残るものと考えた時の器なので。食器棚から出した時の「あ、あの時に買った器だなあ」って気持ちは、特別ですよね。

ーー本当に、なんとなく買うことはないんですね。食材もお皿も、全てが特別で……そうやって彩られる食卓は、もはや藤さんが演出するステージのような。

そう、トータルプロデュースしてるんですよ。あはは(笑)。

食事が最高なら、大変な日も「チャラ」以上になる

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ーー本日の取材でも、ハツラツと新たなことにチャレンジし続けている藤さんのまっすぐな言葉、響きます。 

人生って、自分を見つめ直しながら、自分を見つける旅だと思うので。自分に素直に、正直に生きるってことは、一番のテーマじゃないんでしょうか。「人間ってやっぱり計算なく、自分に素直に生きたほうがいいな」って、改めて思うんです。

その中で、食っていうものは……例えば仕事で嫌なことがあったり、大変なことがあったりという日も、最高のごはんが目の前にあったら、それでチャラっていうか、チャラ以上。元気になれるじゃないですか。

ブランドものも心の栄養にはなるかもしれないけど、最高のごほうびは食。何買ったって何着たって、健康で動けなかったら嬉しくない。自分の体は食べているものが作るんですから、そこに大事に向き合えば、最終的に幸せな人生になると思います。うふふ(笑)。

ーー自分に正直にという点では、藤さんのように食べたいものを食べることも大切そうですね。は「なんであのダイエットとかって唐揚げ我慢したんだろう、おいしく食べられる期間は意外と短いのに……!」って、悔しくなることがあります(笑)。

わかる、それ(笑)。トレーニングやケアをしつつ、食べたいものは食べたほうが、イキイキ生きられると思う。自分を見つめる時間を作りましょう。さあ、今日は何が食べたい?(笑)

ーーちょっと問うてみます(笑)!最後に、藤さんにとって、歌と料理の共通項は?

何も知らないところからやってみて、なんとか習得して、「やったあ!」と思うその過程は、料理も一緒。この食材はどうなるんだろう、この料理はどうやるんだろうと、いろいろ組み合わせて、失敗も何回もして。試行錯誤する中で、だんだんと自分のイメージする完成品にたどり着くんです。

演歌も料理も、奥が深いですよね。一見簡単そうに見えるポイントも、やってみるとすごく難しかったりして。この手強さが、私がいつまでも引きつけられる理由の一つなんだと思います。

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取材・編集:小沢あや
原稿構成:佐々木優樹