直感を研ぎ澄ませ、食べたいものを食べるーー彩乃かなみさんのおうちごはん

きのう何作った?

PEOPLE
2021.05.20

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2005年5月より宝塚歌劇団の月組でトップ娘役をつとめ、2008年の退団以降も、女優・歌手として活躍されている彩乃かなみさん。「そのときの気分を大切に、食べたいものを食べる」と語る彩乃さんに、自分の気持ちを満たす食事について伺いました。

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お話を伺った人:彩乃かなみさん

1976年生まれ。舞台を中心に活躍する女優・歌手。1997年に宝塚歌劇団に入団し、エトワールを数多く務め、月組トップ娘役で活躍。退団後も様々な舞台やLIVEと幅広く出演している。メルマガ登録はInstagramプロフィールより。

暮らしにバツをつけず、やれる範囲でやる

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ーー彩乃さんは宝塚歌劇団で娘役トップも務められましたね。当時はどんな食事を?宝塚OGとして、差し支えない範囲でお聞きしたいです。ふらっとコンビニに行くのも難しい世界なのかなという印象がありますが……。

「イメージと違う!」と思われちゃうかもしれませんが、在団時は今よりも雑な食事だったかもしれません。自炊をしても、切って和えるとか、卵がけごはんやサラダぐらい。母がよく来てくれていたときだけ、家庭的なものを食べてたくらいで(笑)。

あとは、「すみれキッチン」の料理ですかね。

ーー「すみれキッチン」?

当時は、宝塚大劇場の楽屋奥に食堂があったんです。あらかじめ注文しておけば終演後に料理を楽屋のお化粧前においといてくれるので、それを持ち帰って食べていました。優しい味でしたね。

そのときも食べることは大好きでしたけど、「自分をいたわる」という視点があまりなかったなあと思っているんです。振り返ってみれば、忙しいときほど自分のために何かするべきだったと感じるんですけど。今は、「疲れているからこそ、パッて何か買うんじゃなくて、ちょっとお野菜を茹でようか」って考えるようになりました。

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ーー考え方の変化と食事の変化がつながっているんですね。

そうですね。以前から、「オーガニック系の素材を取り入れていると幸福感があるな」とは思っていたんですけど、忙しくなると外食が多くなって、続けられないことがよくあって。

でも、無理しないようにやれることだけやろう、「またこうなっちゃった。ダメじゃん」って自分の暮らしにバツをつけないようにしよう!って考えるようになったんです。

ーー食の面での無理がない実践というと、具体的にはどんなことを?

例えば、オリーブオイルを低温圧搾の少し品質のいいものにするとか、酵素玄米を始めるとか。お米や基礎調味料など、毎日とるものを良質にするところから始めました。

通っていたオーガニックショップの店員さんが、「あれもこれも、となると大変だから、まずはこの調味料からとかでもいいんです」「ちょっとずつ、継続できるものがいい」って話してくれて、「なるほどー」と思って。

ーーたしかに、毎日使う調味料を変えるとこからなら試しやすそうです。

それも「絶対にこれだけ!」とはしないで、加熱調理のときはこれまで通りのもの、生でサラダにかけるときはちょっといいもの、って使い分けるとかして。全部を変えるというより、生活の中のこのポイントだけは贅沢するっていう取り入れ方にしたら、気持ちも楽になりました。

ーー質の高いオイルがあると、自然と食べたくなるかも。サラダは、基本オリーブオイルだけで食べますか?

そうですね、オリーブオイルと塩とか、レモンとか。ドレッシングを作るってほどじゃないですけど、それだけで食べることが多いですね。

ーーサラダにドレッシングかけるだけでも、立派な自炊ですよね。他にも何か、日々の食事で意識していることはありますか?

一人でごはんを食べるときは、あまり写真も撮らないんです。だから、「映(ば)える」とか気にせず(笑)、「色味を気にせずおいしいもの、自分が喜ぶものを!」って、考えていますかね。

ーー「映え」ないから載せていないけどおいしい、自分のためだけの料理があれば、教えてほしいです。

お味噌汁に毛が生えたぐらいの料理……って言ったら失礼かもしれませんけど。「おっきりこみうどん」っていうのがスーパーに売ってるじゃないですか。ひらたーい、ぺらぺらのうどんみたいな。

ーー(検索しながら)……きしめんみたいなものですかね?群馬の名物なんですね。

そう。以前に(群馬県の)富岡製糸場を父と二人訪れた時に近辺で食べた思い出もあり、よく作ってしまうんです。お出汁を入れて、好きな食材を入れて……ネギ、きのこ、にんじん、なんでもいいんです。そこに塩麹とかをちょっと入れて、お味噌を入れるだけ。「映え」ないけどほんっとに簡単で、すごく温まって癒される、幸せになるおすすめの郷土料理です。

直感を研ぎ澄ませ、食事は本当に食べたいものを

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ーーブログの料理写真を見ると、パスタの上にレモンを小さく切ったものをのせていたり、しそを使っていたりしますよね。

あれは、映えると思ってのせているだけかも。三つ葉とかはわざわざ買わず、あるもので……といったところでしょうか。

ーーああいう「ちょい足し」に使うものは、普段からストックされてるんですか?

全然してないです。ストックしているとお野菜なんかは悪くなっちゃうこともあるので、そのとき食べるものだけを買うようにしています。

ーーそのときの気分を重視しているんですね。

そうなんです。あくまで一説ですが、食べたくなるものは自分の体が必要としているものだから、それを食べるのが健康にいい……とも聞くし。「ほんとはあれが食べたいけど、こっちのほうが楽だから」って選ぶのは、自分の本当の願いに心が開いてないっていうか。うまく言えないけど……。

ーーいえいえ、わかります。一方、忙しい中で、食事も効率を重視する人もいる印象が。

ああ、わたしもそういうことはありますし、わかります。ただ、自分の直感を研ぎ澄ませたり、感性を育てたりという意味でも、できる範囲でそのときの気分を重視するのはいいと思いますね。わたし、生活のルーティーンって決めてないんです。

ーーへえー!「月曜日はこれ」みたいな、なんとなくの枠組みもないんですか?

ないです。だから、モーニングルーティーンを紹介している方を見ると、「わたしはできないなあー」って(笑)。舞台とか稽古があるときはさすがに決まってきますけど、お仕事がない時は趣味の時間にあてたりして、夜更かしをする事もあります。

ーー自然体で、素敵です。そのときの気分次第かとは思いますが、よく作る料理はありますか?それがなければ、品数とかは。

一人で食べるときは、2品くらいが多いかな。サラダと何か単品とか。でも、サラダもマストってわけじゃないので、「今日はサラダなしだね」「ちょっと野菜足りなかったから、明日とろうね」って自分で考えたりとか(笑)。最近は難しいですが、これまでは友人が家に来るときには、「サラダと、メインと……」って、手軽なメニューを考えて作ってましたね。

ーーご友人と集まるときは、どんな料理を?

グリーンカレーとか、炊き込みごはんとか。以前持ち寄りパーティーをしたときは、手羽元と卵の甘辛煮や、切り干し大根ときゅうりのサラダを持って行きました。友人がピザを出してくれたこともあったな。

ーーそうだ、炭水化物も結構しっかり食べていますよね!ブログ、拝見しました。

あはは、そうですね(笑)!炭水化物を控えていた時期もあったんですけど、一番は「食べたいものを食べる」という考えになったからかな。「本当はお米が食べたい」って思っているんだったら、量の加減はあるかもしれないけれど、その願いをちゃんと満たす。そういうことを、生活の中でしてあげられるよう心がけてます。

家族との思い出が詰まったお味噌

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ーー舞台出演の合間に食べるごはんのこと、ぜひもう少しお聞きしたいです。

稽古場ではあんまり食べないんですけど、舞台のときはマチソワ(※昼公演のマチネ・夜公演のソワレ)の合間に簡単なものを食べてます。イングリッシュマフィンをトーストして、アボカドとモッツァレラチーズと生ハムを挟んで、サンドイッチにして持っていくこともよくありました。

この前出演していたミュージカル『マリー・アントワネット』は、お衣装がコルセットの時代のものだったので、おにぎりとお味噌汁を持っていくぐらいでしたかね。

ーーあ、お味噌汁も持参されるんですか?

はい。お味噌には、すごく大切な思い出があって。わたし、他界した母がずっと作っていたお味噌を真似て、自分でも作っているんです。1から全部やるわけじゃないんですけど、お味噌屋さんに行って、茹でてくださった大豆を混ぜて、仕込むっていう。去年からは外出自粛もあって、行けていないんですけど。

ーーそうなんですか。

最初は、「お母さんがやっていたから」って、父が真似して作っていたんです。それを見たときに、「そういうところで父は、母の愛を感じたいんだなあ」と思って、娘ながらにキュンとして。次の年からは、父と一緒に作っていた思い出があるんですね。

その後父も他界してしまったのですが、一緒に作った数年越しの、熟成したお味噌が家に残っていて。それを食べると、なんだか……こみ上げるものがありまして……わたしにとってはお味噌って、家庭の味と、父と母の思いが込もっているものなんです。

ーー大切な思い出がこもったものを、現場にも持って行かれているんですね。

でも、現場はフリーズドライのお味噌汁のときも割とありますよ(笑)。

ーー彩乃さんのナチュラルさがわかりますし、リアルですごくいいです(笑)。他にも、思い出の料理ってありますか?

母がよく作っていたもので、すごく好きで自分でもいつかやりたいなあと思うのは、湯葉を薄味のお出汁で煮込んだもの。すっごく上品で、好きな料理でした。

ーー湯葉の煮浸しですかね。丁寧な味付けの料理が多かったんですか?

そうですね。あまり華やかな料理をする家ではなかったんですけど、品数がすごく多くて。わたしもそういうことができたらいいなあと思います。料理をしていると、母だったらどうしてたかなあって、よく思い出しますね。

ーー料理が、お母様との思い出を振り返る場というか。

ああ、そんな感じがします。「お母さん、雑だよね?」「これでいい?」って、尋ねているようなときがありますね。

作家・辻仁成さんのレシピがお気に入り

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ーー食べたいと思ったものを食べるようにすると、新しいレシピに挑戦する機会も増えそうです。レシピ選びはどんな風にしていますか?

……カンです。直感。ない材料は代用したりもするけど、作っている人が多くて「絶対これは間違いないでしょう!」と思うレシピをやることが多いかなあ。あとは、ケーキだったら「これを組み合わせたらおいしいだろうな」ってものを試すとか。おいしいものへの直感が、結構働くのかもしれないです。

ーー以前この連載で、夢眠ねむさんが「おいしい料理を作れるのは、おいしいごはんをたくさん食べてきた人だと思う」と話されていました。お母様の手料理で、味への直感が養われたところもあるんですかね?

ああー、それはあるかもしれない母の料理と宝塚で、おいしいものをいっぱい知ることができたので(笑)。じゃあ、わたしの料理がすごくおいしいかといったら、それはちょっと置いといて、ですけど。自分が「おいしい!」って感じるものは、なんとなくは作れるかな。

ーーいいですね!おすすめのレシピはありますか?

時々真似するのは、作家の辻仁成さんのレシピ。たまに、おすすめのレシピをブログにあげてくださるんですけど、あまり見たことがない料理も多くて。

ーー料理家さん以外のところにも、アンテナを張ってらっしゃるんですね。

アンテナってほどじゃないんですけど、やってみたいと思ったらやりますね。あとは、宝塚の同期がすごく料理上手で、この前は参鶏湯を食卓に出していたんですよ。そのときは作り方を教えてもらって、即やりました。やりたいと思ったら、一応レシピを聞いておくかな。でも、仕込みのいらない簡単なものが多いですよ。焼く、煮るがほとんど。

ーー「すみれキッチン」の再現料理なんかも、したことありますか?

いっときよく作ってたのは、生姜チャーハン?正確な名前は覚えていないんですけど、多分ごま油か、普通のオイルだったかな?それで生姜とネギを炒めて、ごはんを入れるという。お肉もなしで、シンプルなんですけどすごくおいしいです。メインというより、薄味のごはんとして食べる感じで。

ーー材料が少なくておいしい料理、うれしいですね。

話はちょっとずれちゃうんですけど、一人暮らしを始めたときに、あさこさん(※瀬奈じゅんさん。月組のトップスターとして、彩乃さんの相手役をつとめた)に振る舞った料理も記憶に残ってます。初めて作った料理で、大失敗してしまって(笑)。

ーー何を作ったんですか?

なんでちゃんとレシピを調べなかったんだろうって思うんですけど、想像で「グラタンもどき」みたいなのを作っちゃったんですよ。未だに「なんだかよくわかんなかった、あの料理また作ってよ」って、いじられ気味に言われます(笑)。そこから、ちゃんとレシピを見るようになりましたね。

「映え」なくても、自分の気持ちが満たされていればいい

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ーー彩乃さんの、自分の気持ちに従う食の選び方、すごく参考になりました。

ここ数年は、とくにマインド優先ですね。「それ、ほんとにしたいの?」「食べたいの?」って、自分に対してよく聞きます。「これ、目で食べたいだけじゃない?」とか。

ーーああーーー。ありますね、別に、本当は食べたいわけじゃないこと。

そういうときに食べると、結局あまり満たされた感じがしなくて「だよね」ってなる。でも、そこも含めてちょっと楽しんでいる感じです。「やっぱりそうだったじゃん?」って(笑)。

ーー「これは違ったな」というときも、あくまで罪悪感は持たずに。

そうそう。結構、自問自答している時間も多いですね。

ーーだからこそ、自分の気持ちをきちんと認識できて、それに正直な行動がとれるのかもしれないですね。

やっぱり、気持ちに正直になると我慢がなくなるので、幸せ感が増えますよ。

ーーそんなに変わったんですか。

人が見て「茶色い食材ばっかりじゃん」って思うような食事でも(笑)、自分の気持ちは満たされているから。「別に、見せるものじゃないしいいよね」って自分に許可が下りるんですよね。「見せるために華やかなものを作ろう」とかじゃない、そこにとらわれない自分でいられるのが、わたしはすごく楽です。

ーーたくさんの観客の前に立ち、イメージを背負うことになりやすいお仕事をしている方がご自身の選択を大切にしているということ、すごく素敵だと思います。

きっと、素敵なお料理の投稿をしている方も、好きでやっているからこそ、輝いて見えるんだと思うんですよね。だから、「自分はそこまでできなくてもいいじゃん!」っていう、開き直り(笑)?自己受容なのかなとも思うんですけど。

至らないところを比べて落ち込むんじゃなくて、自分の好きを追求していくほうが幸せだよ、ってところに落ち着きました。

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文:佐藤はるか
撮影:小原聡太
編集:小沢あや