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娘の試練!母として、どうやって一緒に乗り越える?

六車奈々の子育てコラム「あいことばは、まあいっか」 #43

FAMILY
2023.10.13

「せりちゃん、また同じ服?今日は他のにしたら?」
「これでいいの!」

娘が小学校に上がり、一か月ほど経った時のこと。学校に着ていく洋服を、数パターンの繰り返しばかり選ぶようになりました。それも、保育園から着古してきたものばかりです。

なんで?おかしくない?
なぜなら娘にとって、小学校に上がる一番の楽しみは、「スカートを履いていける」ということでした。これまで保育園では安全対策として「ズボン着用」「髪の毛は一つにくくる」などの決まりがあったため、本人の好むオシャレとは無縁の毎日。オシャレ大好きな娘は、小学校でかわいい髪型で好きな洋服を着られることを、とても楽しみにしていたのです。

にもかかわらず、同じ服ばかり選ぶ娘。クローゼットには、私の母が娘のためにコツコツ働いて買ってくれた、かわいい洋服たちが悲しげに吊られています。

「せりちゃん、あんなに着るのを楽しみにしてたじゃん!おばあちゃんだって、せりちゃんが欲しいっていうから買ってくれたんだよ!なんで着ないの?」

私は、娘に対して少し腹立たしい気持ちになり、強い口調で言いました。しかし、かたくなに拒む娘。こんなことが数日続き、私はハッとしました。

「いや。ちょっと待てよ。おかしいぞ。」

私は娘が帰宅したら、話をすることにしました。

「せりちゃん、ちょっとお膝においで。」
「なに? 」
「あのさ。せりちゃんはどうして同じお洋服ばかり着ていくのかな?もし、ワケがあったらお母さんに教えてくれない?」
「・・・・・・・・・・」

せりは俯きながら、少しずつ話し始めました。

「あのね、かわいいお洋服を着ていくとね、ふざけて、わざと汚すお友達がいるの。だからせりちゃん、大事なお洋服を着ていきたくないの。」

なんと!そういうことだったのか!

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「困難を乗り越える力」をつけてほしい

「おぎゃあ」と生まれてきた赤ちゃんが「ヒト」から「人間」になるまでのお話は、以前このコラムで書きました。「ヒト」はほとんどの場合、保育園や幼稚園から社会生活がスタートし、「人の間」でさまざまなことを経験しながら「人間」として育っていきます。

ですが、社会生活は楽しいことばかりではありません。
理不尽なことや落ち込むこと、辛いことや悲しいことは、何歳になっても経験するものだと思います。

娘には、そうしたトラブルや困難を乗り越える力をつけて欲しい。
そう願って、娘に辛いことがあった時には、しっかり向き合うようにしています。
では「向き合う」って、どうすれば良いのでしょう?

正解は、人それぞれだと思います。そして私自身、子どもは娘だけですので、娘の成長に合わせて出てくる様々な問題は、「母」として初めて経験することばかり。「こうすれば良いよ!」なんてことはわかりません。そのなかで今回は、困難を抱えた娘と向き合う時、私が自分の中で大切にしていることをご紹介したいと思います。

1. まずは、娘の気持ちをしっかり受け止める

娘にとっての「イヤな出来事」は、必ずしも「娘が正しいのに、イヤな思いをした」とは限りません。もしかしたら娘にも問題があって、そのイヤなことが起きているかもしれないのです。

ですが、まずは気持ちを受け止めること。悲しい気持ち、辛い気持ちをしっかり受け止めてあげて、「どんなことがあっても、私にはきちんと話を聞いてくれる家族がいるんだ」ということを知って欲しいなと思っています。

実は、これがエリクソンの「基本的信頼感」と言われるものです。私は保育士受験時に勉強し、「なるほど!」と思ったので、共有しますね。

「基本的信頼」には二つあり、「他者への信頼」と「自己への信頼」です。
前者は、自分を育ててくれている親に対しての信頼感。例えば「おむつが気持ち悪くなったら変えてくれる」「泣いたら抱っこしてくれる」など、愛情を受けながら世話されることを通して生まれる信頼感のこと。後者は、これを積み重ねていくことで、「私は、これほど大切にしてもらえる価値のある人間だ。生きていて良いんだ!」と、「自分の存在」を肯定的に捉えることです。

この基本的信頼を持つことで、「自分には生きる意味や存在価値があり、世界は信頼するに足るものなのだ」という感覚を持ち、「希望を持つ力」を身につけられるそうです。

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この基本的信頼感は、乳児期に獲得するものと言われていますが、私は自己肯定感の根幹だと思っているので、今も大切にしています。

2. 気持ちを受け止めた上で、問題と向き合う

娘の気持ちをしっかりと受け止めたら、次に、その問題と向き合います。
娘の立ち場だけでなく、相手の立場、そして俯瞰からも見て、私が思うことを伝えます。
例えば今回なら、

【娘の立ち場】
・かわいい服を着ていきたいのに、そんなことされたらイヤだよね。
・せりちゃんも、イヤなことには「イヤだからやめて」って言えるといいね。

【相手の立ち場】
・確かに冗談が過ぎるね。でも「おもしろい」と思ってやっていて、悪気はないかもしれないよ。
・クラス全体がまだ仲良くなっていないから、照れ隠しでちょっかい出しているだけかも?

【俯瞰から見る】
・小学一年生って、もしかしたらそんな感じのやんちゃな子も多いかもしれないよ。
・学校にはいろんな人がいるから、楽しいこともイヤなこともあるものだよ。

と、一つずつ整理をしていきます。「自分には抱えきれない」と思っていた問題も、整理をすることで、落ち着いて物事を考えられるようになっています。

3. 問題の解決策を一緒に考える

整理ができたところで、「じゃあ、これからどうしよっか?」と解決策を一緒に考えます。
まず本人にどうしたいか聞き、一方的に「これがいい」と押し付けないようにしています。
今回の場合でいうと、こんな感じ。

「せりちゃんは、どうしたい?」
「もうかわいい服は、着ていきたくない。」
「そっか。でもさ、考えてみて。大好きなお洋服を着ていくことは、悪いことではないよね。なのに、学校でふざけちゃうお友達のことで、せりちゃんが我慢しなきゃいけないって、ちょっともったいなくない?まずは、やめてって言ってみたら?」
「そんなこと言ったら、余計に水たまりでパシャパシャするもん!」
「そっか。だったらさ、お母さんと作戦を練ろう!せりちゃんも好きな服を着られて、お友達にも汚されないハッピーな道は、必ずあるよ!」

こうして、私は作戦を提案しました。

「やんちゃなお友達たちは『よそゆき』を見ると、わざと汚すんだよね。だったら、まずは「よそゆきに見えないワンピース」を着ていくのはどう?」

私は娘と一緒に、カジュアルなワンピースを選びました。

「ほら!これにレギンスを履けばロングTシャツみたいだし、よそゆきのお洋服には見えないよね!そしたらお友達も何も思わないだろうし、せりちゃんも大好きなお洋服が着られるよ!ハッピーじゃない?どう?」

「うーん。」

渋る娘。

「じゃあ、せりちゃんがやってみようと思った時に、このお洋服を着ていこうよ。」

ということで落ち着きました。

数日後、勇気を出して娘はその格好で学校へ行きました。
思った通り、そのやんちゃなお友達グループは何もしてこなかったそう。

「ね?大丈夫だったでしょう?よかったね!」
「うん!」
「じゃあ、次のお洋服を選ぼう!気づかれないように少しずつ変えていけば、いつかどんな服を着ても何もしてこなくなるよ。それにそのお友達たちだって、今はまだうまくコミュニケーションが取れていないからそうやってふざけているだけで、仲良くなってきたらそんなこともしなくなるかもしれないしさ。」

こうして娘は少しずつ好きな洋服を着ていけるようになりました。
そしてお友達の「おふざけ」も、クラス全体が親しくなると同時になくなりました。

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保育士が親に代わって子どものケアをしてくれる保育園と違い、小学校では友達同士で日々いろいろなことが起こります。私は、これも良い経験だと思っています。なぜなら小学校で学ぶのは勉強だけでなく、人とのコミュニケーションや困難を乗り越える力など、「この先、社会で生きていく力」を養うことだと思っているからです。

どんな試練も、信頼する家族に相談しながら問題に立ち向かえば、必ず乗り越えていけるはず。
娘には、少しずつその力をつけて欲しいなぁと思っています。

娘は今、小学二年生。
「明日、学校行きたくないなぁ」ということも多々ありますが、娘に寄り添いながら一緒に乗り越えていきたいな。

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イラスト:あきばさやか
撮影:曽我美芽
ヘアメイク:岩川えり