日々のごはん作りの気持ちを、軽くしてくれるもの

編集部通信

LIFE STYLE
2024.08.15

プロでも日々のごはん作りはめんどくさい!

この仕事をしていると、「このレシピだと手順が複雑すぎてなかなか作ってもらえないかも…」という話をすることがよくあります。「フライパンから一旦取り出す」の一手間は負担になるかもしれない。オイスターソースを使うべきか否か。ナンプラーは家にあるのか。そんなレシピ「あるある」を、以前この座談会でも紹介しています。

一方、「これだと簡単すぎて『レシピ』とは呼べないかも…」という話が出てくることもあります。企画としてちょっと物足りない、「映え」ない、といったところかもしれません。

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ベトナムのコンドミニアムで息子が作ったサンドイッチ。借景で「それっぽく」見えるけど、よく見るとなかなか大胆なサンドイッチです。

多かれ少なかれ、世のメディアに出ているレシピは、そういった「編集目線」が加わっています。アイスムはできるだけ、読者に寄り添ったレシピや企画を出し続けたいと思っていますが、それでも記事として掲載しているものは、プロの料理家さんが作ったレシピを、プロのスタイリストさんにセットしてもらい、プロのカメラマンさんに撮影してもらい、美しく整えられたものです。そして彼女ら彼らの仕事は、ほんとうにプロフェッショナルですばらしく、私にはまず真似できないものです。

そうしてしっかりと記事を作り込むのは、料理をできるだけ楽しんでほしい、明るいメディアでありたいという私たちの願いを反映したものでもありますが、そうは言ってもその整った美しさが、誰かのプレッシャーになることもあるかもしれないな、ということも常に考えています。

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でも、私たちがいつもプロの料理家さんたちと話していて知ったのは、プロだって「日々のごはん作りがめんどくさい」と思う日が山ほどあるのだ、ということです。「仕事の料理と家族に作る料理は気持ちが違う」とおっしゃる料理家さんもいます。日々のごはんの準備には、アシスタントさんもスタイリストさんもカメラマンさんもいないから、と。そりゃそうだよな、と、「ああ今日もごはん作るのがめんどくさい!!」としょっちゅう思っている私は思います。

毎日のごはん作りは、なんというか「現実」そのものです。料理撮影のように調味料が小さな器にそれぞれ取り分けられていることもないし、何度もチェックして念入りに材料をそろえることもありません。小島慶子さんがこのエッセイで書いてくださったように、料理は愛情!ではなく、食物!!です。愛情があっても今日は作るのは無理!という日だってあるし、毎日栄養たっぷりのものが作れるわけでもありません。

そんな時に必要なのは「毎日毎日整ったすばらしい食卓を準備する必要はないよなあ」と思えるマインドセットと、あとは少しの「知識」かもしれないな、と思っています。

アメリカホームステイ中の息子のランチ

この夏休み、中学2年生の息子がアメリカにホームステイをしています。留学団体の方針で、スマホを含む一切のデバイスが持ち込み禁止になっていて、団体のホームページの写真と、ホームステイ先のご夫妻からのメールでのみ近況を知る日々です。

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そんな中で、ホームステイ先のご夫妻が、息子が書いた手紙の写真をメールで送ってくれました。いわく、「聞いていた通り、アメリカの昼ごはんはサンドイッチ、チップス、りんご、クッキーといった感じで結構かんいてきです。でもカップヌードルもあるのでたまにサンドイッチを変えてそっちも食べます」とのこと。

「簡易的」くらい漢字で書いてくれ中2!…というのはさておき、「りんごがジップロックに入ったランチ」、たしかに海外ドラマなんかで見かけますが、本当にそんな感じのようです。アイスム編集長がアメリカの中学校に通っていたときは、「周りから浮かないように…」と、お母さんが日本式のお弁当ではなく、アメリカ式に合わせてサンドイッチとりんごをジップロックに入れて持たせてくれたそうです。

ランチくらい、これくらいでもいいよなあと思います。実際、息子は毎日そのアメリカ式ランチを楽しんでいる様子。広く世界を見渡せば、毎日凝ったお弁当を作ることがいかに「特別」な環境なのかがわかります。見た目にも楽しいお弁当が作れるのはもちろんすてきなことだし、「キャラ弁」はある種、日本のすばらしい文化だと思うのですが、それにプレッシャーを感じる必要はまったくないはず、と思います。

まずは毎日の食卓を精一杯考えていることを誇りに思ってほしい。それはプロですら「大変」だと感じる頭と体力を使う仕事だし、もうそれだけで十分、家族の「食担当」としてはすばらしい役割を果たしていると思います。

楽しく知る、ほんの少しの「知識」

そしてもう一つ、ほんの少しの「知識」があれば、毎日の食はぐんと楽になると思います。

私自身、なんでもっと効率よく食事の準備ができないのかなあとか、包丁がうまく使えないなあとか、手際がよくないなあとか、そもそも作るのが一年の半分以上はめんどくさいと思っているなあとか、世の中に私より「ちゃんとした」親ってなんて多いんだろうとか、そんなことをしょっちゅう考えていました。

でもアイスムの仕事を通じて、食の準備を楽にする方法や、楽しくする方法を、少しずつ見つけてきた気がしています。

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京都での長谷川あかりさんのイベントにて

例えば、アイスムの8月のテーマは「野菜一つで作れるレシピ」です。野菜があまったとき、冷蔵庫にこれしかない!というとき、助けられるレシピがたくさんあります。このレシピを「知っている」というだけで、ちょっと心が軽くなるんじゃないかな、という気がしています。「疲れてて何も作りたくないけれども買ってきたものよりは自分が作ったものが食べたい…」という気分の日もあります。作らなくても大丈夫、でもこれなら作れるかも!というレシピを「知っている」ことが、それだけで自分を助けてくれるかもしれません。

「知識」って、ものすごく難しい勉強で手に入れるものだけではないと思います。楽しみながら、例えばおいしそうな料理の写真にぐうっとおなかを鳴らせながら、得られる知識だってあると思います。きれいな写真は、きっとそのためにあるもの。アイスムがそういうヒントを少しでも、お届けできたらいいなと思っています。毎日の食を考えるみなさま、本当に本当におつかれさまです!!

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