月刊住むひと vol.04 東京メトロ千代田線 町屋駅 徒歩9分 賃料6.4万円 一口コンロ
この連載はほぼ実在する(ほぼです)ひとつの物件を取り上げて、この部屋に住んでいるひとの人生はどんなだろう、と勝手に妄想していくものです。
北向ハナウタが描く「住むこと」についての漫画とエッセイ、第4話。
交通:東京メトロ千代田線 町屋駅 徒歩9分
賃料:6.4万円(管理費含む)
築年数:築16年
主要採光面:南
間取り:1K / 19.5㎡
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その他:鉄骨造、3階、一口コンロ
印象的だった”狭いキッチンでの立ち振る舞い”
大学を卒業してからさらに調理学校に通った料理の上手な友人がおり、彼の家でご飯をふるまってもらったことがある。味は確かに美味しかったと思うのだけど、それ以上に印象に残っていたのが”狭いキッチンでの立ち振る舞い”だった。
野菜を切る、
溢れないようボウルに入れる、
背後の棚に置く。
さらに野菜を切る、
また別のボウルに入れる。
背後のカラーボックスに置く。
あまった野菜は即座にしまう。
肉を取り出す。
よくわからない扉から調味料を出す。
お湯の沸く音がする。
我々はウイニングイレブンをしている。
肉を切って、
もうボウルが無いので適当な皿に乗せ、
冷蔵庫の上に置く。
まな板を洗う。
余った肉をしまう。
フライパンに油をひく。
”てんやわんや”のなかに”テキパキ”が入り混じる。手際の良さに感心するとともに、当時実家暮らしだった自分は「おれにはこの”テキパキ”ができる自信が無いな」と感じ、のちに一人暮らしをはじめるとき、二口コンロ+グリルという装備の充実した物件を選ぶきっかけともなった思い出である。
料理ってパズルのようだ
というわけで今回は”狭いキッチン”がテーマだ。
一人暮らしをはじめる際に「料理するかわからないし」と特に重要視せず物件を選んだ方も多いと思う。そして意外とキッチンに立つことになり苦労した方も多いだろう。
”料理が上手な人”には、もちろん味や盛り付けが上手とか、レパートリーが豊富、とかもあるけれど、どれだけゴールが見えていてうまくタイムスケジュールを組み立てられるか、という側面もあると思う。
料理ってパズルのようだ。と、料理が決して得意ではない筆者は思う。
レシピには手順が書かれているけれど、その手順通りにへえへえとアホヅラをかいて前から進めていくと思わぬ足止めを食らうことがある。「それ先に言って!」「とうふ、今から水切り!?」まあそれはレシピの質もあるだろうし、おれがアホヅラだったのが悪いのだけれど。
ちょうど、ギタリストがCだのGだのアルファベットが並んだ譜面を見ながらスラスラとギターを弾くことができるのに似ている気がする。
料理に慣れたひとはレシピを一瞥して、頭のなかでそれぞれにかかる時間を算出し、様々な工程を同時進行で進めながら料理を完成させていく。
複数の料理が温かいまま食卓に提供される技術などほとんど職人芸だし、更には隙間の時間で洗い物なども済ませてしまったりする。ブラボーである。
狭いキッチンでの焼きうどんの作り方
今回焼きうどんを話の中で作らせようと思いレシピを調べたのだけど、どうにも一口コンロでどう作ればいいのかが見えず、かつて狭いキッチンでやりくりしていた友人に訊いてみた。
2.豚肉を切り、塩胡椒をまぶす。
3.野菜を切る。
4.フライパンに油を熱し、豚肉を炒める。順に野菜を加えて炒め、いったん取り出す。
5.フライパンに油を入れ、うどんを炒める。(もう少し手順は続く)
筆者「例えばこれを作るとして、うどんの為にコンロを使うじゃん、フライパンで炒める時どうするの」
友人「たぶん、うどんを最初に茹でないで」
筆者「うん」
友人「工程4の直後に茹でると思う。先にティファールで沸かしたお湯を鍋に入れちゃえば時間がかからないので」
ティファール!
そうなのだ、思い起こせば一口コンロのキッチンには悉くティファールが置かれていた。一人暮らし界の三種の神器ともいうべきアイテムだ。
”狭いキッチン”という最高難易度のパズルを、アイテムと持ち前の応用力で解いてきた彼らにとって、あらゆる料理はたやすいだろう。恵まれたキッチンがありながら気の向いた時にしか料理をしない筆者はいつまでたっても手際が悪いというのに。
今回の漫画を描いていたらわかりやすく焼きうどんを食べたくなってきた。今日はてんやわんやでうどんを茹でてみようかな。