歌い手S!Nの「僕とデートしませんか」 その9:大門
イケメンながらも過激な面白キャラで、若い女子を中心に大人気の、歌い手S!Nさん。そんな彼が、地元・名古屋のビミョ~な魅力をバーチャルデート目線で気ままに紹介します。
アイスム読者の皆さま、こんにちは。九回目の更新です、S!Nです。
名古屋の街を紹介しながら僕自身のことも紹介する、というテーマのもと、S!Nと名古屋の街をデートしている女子の気持ちをS!N自身が妄想しながら書く、ちょっと変わったデートコラム。今日も女子目線になりきって頑張ります。
かつての名古屋で日本一だったものって何かご存知ですか?そうですね、遊興代の高さです。という事でかつて中村遊廓として栄えた駅西の大門へ。レトロな風俗文化に思いを馳せる私(一人称は既に女子である)。そんなデートをご覧ください。
中村遊廓跡地が気になったので彼を誘ってみた
そういえば名古屋駅の西側ってあんまり行ったことないなぁ。
お風呂から上がって髪を乾かしてる時、ふとそんなことを思った。
うんちく好きの彼にじわじわと影響された私は、最近、気になったことを調べる癖がついてる。
駅の西側について調べてるうちに、更に気になるものをみつけた。
『中村遊廓』
名古屋に遊廓があったの?
歴史好き・うんちく好きの彼に連絡。話しかけるきっかけにもちょうどいい。
「中村遊廓って知ってる?」
「知ってるけど知らない」
「なにそれ(笑)」
「場所は大体わかるけど行ったことないし歴史についてもそんなに知らない」
「そうなの!じゃあ明日行ってみたい」
「いいよー何時」
「どうしよう何時がいい?」
「誘ってきたなら決めて」
「ごめんなさい、じゃあ12時」
「に?」
「に?」
「12時に、どこ」
「中村日赤駅」
「はいはい」
怒ってるのかな、怒らせたのかなって思ったけど、よく考えたらこういう人だった。うん、たぶん。
中村遊廓、ちょっとだけ跡地が残っているって書いてあったけどどんな感じなんだろ。
お昼ちょうどに中村日赤駅で待ち合わせ
名古屋駅から地下鉄東山線で約5分、中村日赤駅へ。
名駅からこんなに近いのに来るのは初めてだ。駅の近くには中村日赤という大きな病院がある。
そこから歩いて10分くらい。“大門”と書かれたアーチがあった。
「そういえば今日は遅刻しなかったね」
「遅刻なんてね、したことないんですよ。生まれてこの方一度もね」
まぁた適当な嘘ついてる(笑)
「ここら辺が中村遊廓なのかな?もう普通の住宅街だね」
「一応ちょっと調べたけど、奥にあるピアゴが遊廓の中心地だったみたいだね」
「へぇー。スーパーがかつての遊廓のまんなかってなんか不思議(笑)」
四軒道のあたりを散歩した時みたいに、昔ながらの建物がたくさん残っているのかな?と思っていたけど、どうやらここにはほとんど残っていないみたいだ。
昔は商店街だったんだろうな、と思わせる雰囲気が少し残っている。でも普通の住宅地だ。
しかしその一角、大門横丁と書かれた場所は、急に昭和を感じさせる空気をまとっていた。
「わぁ、ここはすごい急に昭和感があるね!」
「狭くて短い通路にせり出た看板、むき出しの鉄骨…まさに!って感じだ」
「円頓寺商店街にもこういうところあったよね」
「そだねー、現役でやってるとしたら、なんかこう、いいよね」
「うん、わかる」
お互いの語彙力のなさを笑いながら、大門横丁の短い通路をサッと往復した。
「確かこのあたりに中村観音って場所があったと思うんだけど」
いつも名古屋の寺社に詳しい彼が、あまり詳しくなさそうに歩いてる。珍しい。
自分から誘っておいて結局彼任せになっているけど、楽しんでくれてるみたいだし甘えておこう。
「え、なにここ」
「わーすごいね!?大門小路、ここも商店街、なのかな?」
大門小路と書かれたその通りは、アーケードと呼ぶにはあまりに天井が低くて、通路も狭い。二階建ての住居の一階部分が通路になっていて抜けられる造りだ。
「長屋ってやつかな?」
嬉しそうに狭い通路を歩く彼。
そのうち一つのお店からは、陽気にカラオケを歌うおじさんの声がずっと漏れ聞こえていた。
「昼間から行きつけのお店でカラオケ。まさに、昭和って感じね…」
「きっと遊廓よりは後の時代だと思うけど、ここがとても栄えてた時期もあるんだろうねぇ、面白い」
芸能のご利益があるという中村観音へ
「あーここか、中村観音。正式名称は白王寺っていうのか。今日は中には入れないのかな多分」
「ここはなんの場所なの?」
「遊廓にいた遊女って、身売りされて来てるから、亡くなった時は無縁仏になっちゃうらしくて、その供養。遺骨を固めて作った8mの十一面観音様が本尊、って書いてあったよ」
「結構重たい話ね…」
「遊女とか花魁って聞くとなんだか美しい女性が妖しげに手招いてるようなイメージを持っちゃうけど、やっぱそういう暗い部分もあるってことだよねぇ」
「“芸”って書かれた石もあるね」
「これはなんだろ、えーと、名古屋在住の芸人さんの行跡を称えるために作られたものらしい」
中村遊廓のなごりを探して
「あとは遊廓の跡地が残されてるところを見て回りたいんだけど…」
「どうしたの?」
「取り壊されてるね」
「えっ」
「料亭として利用されたあとデイサービスになった、都市景観重要建築物に指定された、って書いてあったけど」
「ほんとだ。老朽化しちゃったのかな」
「べんがら亭って書いてあるけど、まさにべんがら色でハイカラな感じが素敵だね」
「壊される前に来てみたかったな」
そうだね、と取り壊し中の建物を見る彼は、とても悲しそうにみえた。
「あとは、中村遊廓といえばこれ、っていう美人画が壁に書いてある建物もあったらしいんだけど」
「それも?」
「うん、取り壊されちゃってるね」
「老朽化とかかなぁ」
「一応、こっちの松岡旅館って名前の建物は今もデイサービスとして残ってるみたい!」
その建物はとても大きく、ぐるりと一周回るのも大変なほどだった。
いろいろ散策して、ちょっと足が痛くなってきた。
今日も相変わらずいい天気だし、夏の暑さは体力を奪う。
「おなかも空いたしそろそろ戻ろうか」
「そうね」
大門のあたりを歩き回って疲れた私たちは、ピアゴの向かいにある手打ち蕎麦屋の『伊とう』に寄った。
「ここも遊廓の跡地を再利用したものなのね」
「中は、結構改装されちゃってるから多分昔とは全然違うんだろうけど」
「それでも取り壊されるよりはいいのかも」
「中村遊廓は建物が“コ”の字型なのが特徴で“コ”の中に豪華な庭を造ったんだって」
伊とうの中庭を見ながら彼が言う。
「来る前にいろいろ調べてみたんだけどさ」
「うん」
「中村遊廓の一人あたりの遊興金額は日本一とも言われてて、昭和12年くらいの全盛期には日本全国の4.5%の娼妓さんがここにいたんだって。敷地面積も吉原より大きい巨大なもんだったんだってさ」
「吉原よりも!?遊廓といえば吉原ってイメージが強いから、まさか名古屋にそれよりもおっきいものがあったなんて思わなかった」
「ねぇー。それがこうやって普通の住宅街になるんだから歴史の流れって面白いな」
「そうだねぇ」
あれ、返事がない。と思ったら携帯いじってる…。
もう!
「たくさん栄えた街でも、都市景観重要建築物になった建物でも、なくなる時はやっぱりなくなってしまうんだな~って、なんか物悲しくなったな」
「確かに。いつか行こうじゃなくて思いついたらできるだけ早く行きたいね」
あれ、また、返事がない。と思ったらお蕎麦食べてる…!
会話のテンポとかないわけ!?(笑)
「今度はどこ行こうね」
「今度があるといいですね」
「えっ」
「建物すらなくなって歴史すら忘れられていくのを目の当たりにして僕なんかすぐ消えていなくなるんじゃないかなという気が」
「ちょっとちょっと!そんな簡単に消えないで!!(笑)」
「まぁ、すこしでも、そばにいれるといいですね」
そんな流れじゃなかったのに突然のデレ。何度だってこのデレには慣れない。
「 蕎 麦 だ け に 」
「ダジャレで落とすのやめて」
(彼女役・編集・読者一同)
以上です!
どうだったでしょうか?
今回は日常の中に風俗が混ざっている大門という地域に行ってきました。地域の老若男女が集うスーパー『ピアゴ』の目の前にいくつも風俗店があったり、中村映劇という成人映画限定の映画館があったり、電信柱に“遊廓”という文字が残されていたり、ほかではあまり見られない街並みを感じられます。
あいにく遊廓の遺構はどんどん取り壊されていて、その時代を直接うかがえる場所は少なくなってしまっているようですが、それでも現役で営業している『寿湯』さんや、風俗店の装飾、タイル張りの壁など、そういう場所があったんだと感じさせてくれる風景はまだ残っています。
今回訪れた蕎麦屋の『伊とう』さん以外にも、焼きとんかつの『とんかつオゼキ』さんや、ケーキ屋の『モンパル』さん、カフェオレ天井落とし(!?)で有名な喫茶店の『ツヅキ』さんなど、歴史的側面を差し置いても魅力的なお店がいくつかあります。駅西銀座と呼ばれる通りを歩いて名駅側に向かえば、また違った風景を楽しみながら、ちょっとした食べ歩きもできます。多分(まだ歩いたことない)。
サブカル系やレトロ感が好きな方は色々と歴史について調べてから大門のあたりを訪れてみてください。そしてその知識を誰かにドヤ顔で語り継いでいってほしいな、と思います。
では、また。
大門横丁
住所:愛知県名古屋市中村区太閤通5丁目
大門小路
住所:愛知県名古屋市中村区名楽町1丁目14
中村観音
住所:愛知県名古屋市中村区名楽町1-2
電話番号:052-471-2458
定休日:年中無休
蕎麦 伊とう
http://www.soba-ito.jp/
住所:愛知県名古屋市中村区大門町13
電話番号:052-471-3850
営業時間:(昼)11:30~14:30(夜)17:30~21:00
定休日:月曜日・第二火曜日
(※掲載内容は2018年7月時点のものです)