育児 × 介護 = “戦略的”二世帯同居!への道 Step13: 売る神あれば買う神あり

2018/08/20 UPDATE

義父母との二世帯同居を決め、紆余曲折の末、ようやく終の棲家となる中古一戸建てを見つけた甘木一家。
契約から約1年という長い準備期間のうちに浮き彫りになる、親世帯・子世帯の同居生活ヴィジョンの微妙な食い違いや、難航する義父母のマンション売却。
新居の引き渡しまでに、果たして義父母のマンションを、無事に売ることができるのか…?

1.すばらしい かいてが あらわれた!

長い長いと思っていた、新居に入居するまでの1年間という準備期間も、気づけばその1/3となる4か月が過ぎ去ったころのことです。義父母の持ち家(マンション)の売却に、ようやく明るい兆しが現れました。
物件見学に引き合いはあるものの、およそ1年後という長い引き渡し期限のためか、見学に来る人たちは失礼な態度の冷やかしや、あまり乗り気でない買い手が多かったそうです。
楽天的だった義父母にもさすがに徐々に焦りが見え始めていましたが、そんな中突然、明るいニュースが飛び込んできたのです。
物件を見に来たとある方が、不動産会社を通じて、とても気に入ったのでぜひ前向きに検討したいと伝えてきたとのこと。懸案事項だった引き渡しまでの期間も、1年後と言わず、別にいつでも構わないと、実に寛容なお返事だったそうです。
そんな都合のいい買い手が本当にこの世に存在するのか…?少し前までは自分たちが中古物件を探す立場だったので、私にはとても信じられませんでした。
聞けば、その方は当時、義父母のマンションの近く、駅にほど近い一等地の、広い戸建てにお住まいでしたが、きょうだい間の財産分与の都合で、住んでいる物件を現金化する必要があり、長年住み慣れた家の近くに、広すぎない手頃なマンションを探していたとのこと。しかしご本人とそのきょうだいは皆、お金に困っている訳ではないから売却を急ぐ必要はないし、新しい住まいを見つけて引っ越してから、ゆっくり落ち着いて戸建てを処分したい、とのことでした。
…お、お金持ちだ!!疑う余地のないお金持ちだ!!
ここで再び、私は心の中で叫びました。

思えば、私たち家族がこれから入居する予定の中古一戸建ての売主も、まるで模様替えのように何度も気軽に家を建て替えるお金持ちでした。今回、売主が更に大きくて立派な家を建てて引っ越す予定のため、必要がなくなった家が、中古の大型一戸建てを探していた私たち家族に回ってきたのです。
また今回、義父母のマンションの買い手にしても、現在お住まいの家はどうも豪邸らしく、また、ポンと現金で購入した義父母のマンションだって、決してお手頃価格とは言い難いものです。
お金持ちの建てた家をお手頃価格で譲ってもらい、また、自分たちの持ち家を寛容なお金持ちに買ってもらう…
まるで、偉い人のおこぼれを貰う腰ぎんちゃくのような、浮世の椅子取りゲームをしているような…これ以上ない売り手と買い手に恵まれて大変にありがたい反面、妙にわびしい気持ちになった甘木一家なのでした。

2.主婦、地域ママ友コミュニティから逃げる

こうして無事に義父母のマンション売却問題も片付き、いよいよ同居へ向けての準備に本腰を入れる段階となってきました。
さて、新居に移るにあたり、私にはごく個人的な懸案事項がありました。
それは何を隠そう、ママ友派閥の問題です。
当時、息子はまだ1歳。母親である私は、根っからの根暗で友達を作るのがとても苦手だったのですが、自分の引きこもり体質のせいで息子に友達を作ってあげられないのは可哀そうだと、乏しいコミュ力にムチ打って、足しげく公園に出かけたり、子育てサークルに参加したりと涙ぐましい努力をしていたのでした。
今でこそ、子供に無理やり友達なんて作らなくても自然にできるよそんなもん、という力の抜けっぷりですが、そこは初めての子育て。何とかして息子に対して良き母にならなければと、肩にめいっぱいの力が入っていたのです。
息子が生まれて半年ほど経った頃、公園で一人のママに声をかけられました。同じ年頃の赤ちゃんがいて、私とは違いとても快活で積極的な女性でした。
私は彼女に誘われて、地域のママサークルのいくつかに参加することになりました。引っ込み思案な私にとって、子育て関連のいろいろな集まりにグイグイ引っ張っていってくれる彼女は、とてもありがたい存在でした…少なくとも最初のうちは。
サークルに参加してしばらく経つうち、妙な違和感を覚えはじめます。定例会に子連れで参加すると、ママさん達はたいてい幾つかの固定のグループに分かれてお喋りを始めます。子供がハイハイをしてほかのグループの所へ行ったりするので、そちらにお邪魔して自己紹介をしたり楽しく話をしていると、私をここへ誘った彼女や、彼女と仲の良いママさん達が、明らかに良い顔をしていないことに気付いたのです。あからさまに嫌な顔をした彼女たちからグループに呼び戻されたことも何度かありました。
固定グループのメンバーは、週に1~2日、お互いの家を順に訪ねて皆で集まるという暗黙のルールもありました。そこでの主な話題は、グループのボス格である彼女の自虐風自慢(旦那の年収が少ないとか、持ち家がもう一つあるとか)や、それでなければほかのグループのボスママの陰口、あるいは新しいママ友をどんどん連れておいで、という私たちへの圧力です。ぼんやりと流されているうち、いつの間にか私は、この狭い地域のママ覇権を巡る、熱い派閥争いに巻き込まれていたのでした。

コミュニケーション能力がもともと著しく低い私には、この微妙なパワーバランスのママ友付き合いが、例え上辺だけ調子を合わせるだけでも甚大なストレスになっていました。新しい家に引っ越したら、やっと逃げられる…!そんな解放感と同時に、ほのかな不安も感じていました。当時住んでいたアパートと、引っ越す予定の新居とは、偶然にもさほど離れてはいませんでした。今まで通りに行き来しようと思えばできる距離です。何とかしてこの息苦しい派閥から逃げなければ…どうやったら引っ越し先を伏せておけるだろう…そんな悩みに頭を痛めていたある日、事態は思わぬ解決を迎えました。
なんと、派閥のボスママが、旦那さんの仕事の都合で突然引っ越すことになったのです。当の彼女からその知らせを聞いた時には、思わずガッツポーズをするのを必死で堪え、にやける口元を引き締めて、驚きと悲しみの表情を作り上げました。一世一代の名演技だったと今でも思います。
ボスママの引っ越しについては、派閥や知り合いのママ友数十人を集めた盛大なお別れ会を開くことを彼女自身から半ば強制され、よりによって私がその幹事に任命されたため、人員集めや会場探し、運営のストレスで軽く円形脱毛症になったりという心温まるエピソードがあるのですが、この苦労もこれっきりと思えば耐えられる…ハンカチ噛みしめ、奥歯をギリギリとすり減らしながら幹事を務めあげました。
その時に知り合った数多くのママ友のうち、現在でもたまに連絡を取り合うのはほんの一握りです。
最後の滅私奉公を終え、その、気が合う少数のママにだけ引っ越すことと新しい住所を告げて、私はそっと権謀うずまく地域ママ友派閥からフェードアウトすることに成功したのでした。



引っ越すということは、土地に根差した人間関係から否応なしに引きはがされるということ。
私にとってそれは幸運でしたが、さて、長年同じ場所で暮らしてきた義父母にとっては…?
次回もどうぞお楽しみに!!

つかさちずる

イラスト・つかさちずる

娘との日々をブログ「むすメモ!」に綴ったりLINEスタンプを作ったりしている絵描き。
回転寿司とゲームをこよなく愛するアラサー。
毎週金曜日にブログに四コマを掲載してます~遊びにきてね!

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