育児 × 介護 = “戦略的”二世帯同居!への道 Step12:アラ還義母とバイクと懺悔室
義父母との同居を決め、ようやく終の棲家となる中古の二世帯住宅を見つけた甘木一家。しかし売主の都合で家の引き渡しは一年後。義父母のマンションの売却から新居のリフォーム、親世帯子世帯の新生活のヴィジョンのすれ違いなど、問題はまだまだ山積みで…?
アラ還義母・バイクデビュー?
「そういえば、買い物ってどうする?食料品は近くのスーパーでいいけど…」
そう、義母の言う通り、新居に移り住むにあたり、心配だったのが買い物についてです。私たちが引っ越す予定の新居の周りは閑静な住宅街という趣で、車通りも少なく緑の多い、環境の良い場所でした。しかしその反面、都会的な環境とは言い難く、徒歩で行ける範囲にスーパーが数軒あるものの、衣料品などの買い物は基本的には自転車か車が必要でした。
義父母は当時まだ60代で元気なこともあり、しばらくは義父の運転でも心配いらないでしょうが、年を重ねるごとに、自力での遠出は困難になっていくでしょう。
そうなれば私や旦那が車を出して連れていくことになると覚悟をしていたのですが、義母が思わぬことを言い出したのです。
「私、原付のバイクを買って、それで買い物に行こうかしら」と。
義母は60歳近くなってから一念発起して運転免許を取得しています。しかし義父の持っている車は8人乗りの大型で、義母は、新居の周りの狭い道はとても自分には運転できる気がしない、と言っていたので、私たち息子夫婦は安心していました。ペーパードライバーで、なおかつ思い切りのよい豪快な性格の義母が、住宅街の狭い道を運転することを考えると、かなり、いや大いに不安があったからです。しかしまさか、バイクに乗った経験が一度もない高齢者が、いきなり原付を買うと言い出すとは、家族の誰一人として予想できませんでした。さすが義母、としか言いようがありません。
「いや、スピードが出るから転倒したら危ないし、雨の日や寒い日は大変ですし…せめて自転車にしておいた方がよくないですか?」と私が必死で説得しても、「新居の周りは上り坂が多いから自転車は無理よ、バイクの方がラクよ!」と、さっぱり聞く耳を持たない義母。これは息子に説得してもらった方がいいな…と、事情を話して旦那を駆り出しました。
頼む旦那よ、義母を止めてくれ…祈るような思いで母と息子の会話を背後から見守っていると…
「母さん、原付って車と同じ道路を走るんだよ?わかってる?」
(あたりまえだろ!!説得が!下手かよ!)
旦那のあまりに不器用すぎる説得へ心の中でツッコミを入れた私でしたが、それに対する義母の返事はなんと、
「あら、そう言われてみればそうね。自転車と同じように考えてたけど危ないわねぇ、やめるわ」
息子の!!一言なら!!やめるのかよ!!
そして車道を走ることを考えてなかったのかよ!!
短い会話の中にツッコミどころが多すぎて脱力した私でしたが、ひとまず安堵し、義母には坂道を上るのがラクな電動自転車をお勧めしておきました。
その後、マイ電動自転車を手に入れ、愛車でどこへでも出かけていくようになった義母は、「坂道を上る時、普通の自転車が一生懸命ペダルを漕いでるのを、スイーっと楽々追い抜いていくの!なんだか申し訳ないけど優越感があるわねぇ!」とご満悦です。
義母のバイク乗り計画はこうして立ち消えとなったのでした。ひとまずは一件落着、ほっと胸をなでおろした息子夫婦でした。
義父母、冷やかしに憤慨
さて、引っ越しにあたり一番の懸案事項だった、義父母の住んでいるマンションの売却についても、すこしずつ動きがありました。
大規模マンションで駅も近く、築年数のわりに価格も高く人気のある物件でした。すぐに売却し、義父母が仮住まいの賃貸住宅に引っ越すという手もありましたが、引っ越しや家賃にかかる費用がかさむためその案は却下。結果として、私たちが新居に入居できる1年後に合わせて義父母のマンションも引き渡し、という条件がネックとなっています。
不動産の売却を不動産業者に依頼する場合、いくつかのパターンがあるのですが、義父母が選んだのは複数の不動産業者に同時に依頼をして買い手を探してもらうという方法でした。
不動産屋の店頭はもちろんのこと、新聞の折り込みチラシなどに掲載してもらったことも功を奏したのでしょう、厳しい条件にもかかわらず、ほどなくしていくつかの引き合いがありました。
何組かの買い手候補が、義父母のマンションへ物件見学に訪れたそうです。その際に私は同席していないのですが、義父母は一部の見学者たちにずいぶん憤慨していました。それというのも、義父母が言うには、
「現に私たちが住んでいるところなのに、押し入れの中まで遠慮なく開けて見るのよ」
「大して買う気もなさそうで、気のない様子でちらっと見てすぐに帰っていった人もいる」
「何を聞いても、検討します、とか参考にさせてもらいます、としか言わない、こっちは一生懸命説明しているのに」
などなど…
確かに、現住物件の売り手としてはその気持ちはわかる、わかるけど…
ごめんなさい、私たち、それ全部やったことあります。
表面上は「そうですか、それは失礼ですよねぇ」などとあいづちを打ちながらも、私は心の中で、今までの物件探しで訪ね歩いた数々の中古物件の売主に懺悔をしていました。
だって、買い手からすれば、現住物件だろうと空き家だろうと関係なく、押し入れの中は当然しっかりチェックしたいじゃないですか。私なんか更にキッチンの引き出しの奥から流し台の下の収納まで、売主が「汚いですけど…」と恥ずかしがるのも構わずに、ゆっくりじっくり見せてもらいました。
間取り図で見たときはとても素敵に思えたのに、実際に現地に行って見てみたらとても住みたいと思えるような家ではなかったこともありました。家主の言葉に上の空になってしまったこともあります。ごめんなさいごめんなさい。悪気はなかったんです、ただ納得のいく物件を探したかっただけなんです。
息子の嫁が内心冷や汗をかいているとはつゆ知らず、義父母は相変わらず無遠慮な見学者に憤慨しています。
長年住んだ思い入れのある家だからこそ、買い手にその家をぞんざいに扱われるのは我慢ならない売主。
そして一生モノの買い物だからこそ、細部まで絶対に妥協したくない買い手。
どちらの立場も体験したからこそ、中古不動産売買の難しさをつくづく感じた出来事でした。
そんなこんなでマンション売却の先は見えず、どうせいつかは売れるさとのんびり構えていた義父母にも少しずつ焦りが見え始めます。
私たちは無事に新居への入居を迎えることができるのか?
次回もどうぞお楽しみに!